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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第3章 Nähern─強さの裏側に─

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36話 巨大悪魔(ゴーレム)



 ハーツヴンデでの戦法を選択した四人は、できるだけ融合悪魔の胸の宝石を砕くことを意識して攻撃を続けた。


「射貫く! 泡沫覆う惣闇(ホフノン・)星芒射す(リヒトシャイネン)!」

「グ#∂≮ァ……!」

「切裂く! 朽ちぬ一念(シュナイデン・)玉屑の闇(エントシュルス)!」

「&ェ∃φッ!」

「貫き拓く! 冀う縁の残心(エントゥウィクレン・)皓々拓く(ゼルプスト)!」

「δオ∅¥ゥ……!」

「切裂く! 来たれ黎明(アウスシュテアブン・)祝禱の截断(ゲベート)!」

「ガ@µォ¿……!」


 思い切った戦法に切り替えたおかげで着実に個体を減らせてはいるが、ユダ以外は少しずつ表情に苦痛を滲ませてきている。

 それに気付き始めたユダは、ペトロの顔色を見て尋ねる。


「ペトロ。この祓魔で何か感じてる?」

「ずっと深層潜入してる感覚に近い状態で、ちょっと不快感があるな」

「確かに。そんな負荷を感じ続けてるよね」


 シモンもヨハネも、同様の負荷を感じていた。


「ユダは、気分が悪かったりしないんですか?」

「私は、今のところ大丈夫」


 ユダは、深層潜入をしたことがないからその感覚がわからないのではなく、相互干渉による負荷自体をさほど感じていなかった。


(これらの個体は悪魔が主導権を握ってるんだと思ってたけど、亡霊と深奥まで融合状態なのか? それとも、狙って攻撃しているのが亡霊が憑依する核となる宝石だから? ……どちらにしても、やはりハーツヴンデを使っていることが影響してるのか。祓魔する瞬間に亡霊と相互干渉状態となって、亡霊が抱懐している感情が流れ込んで来ているのは間違いない)

「ペトロ。まだ不快感には堪えられそう?」

「まだそんなに気分は悪くないから、大丈夫」


 その言葉に嘘はなく、ペトロの顔色はさほど悪く見えない。しかしヨハネとシモンは、二〜三段階上の苦痛を感じていそうだった。


(私とペトロはバンデだから、精神的負荷を配分して軽減できている。シモンくんにはヤコブくんがいるけど、今は棺の中だから負荷を配分できていない。そしてバンデがいないヨハネくんは、全て一人で受け止めていることになる)

「それはキツイな……」


 とにかく、この戦闘に時間は掛けられない。

 一方。戦闘を観察していたビフロンスは、風向きが変わりかけている戦況を見て、懐から新たに宝石を取り出した。


「少し、私奴(わたくしめ)の方が圧されてしまっていますかねぇ。其れでは、其の分をお返しして差し上げましょう」


 ビフロンスが持つ二つの宝石が輝くと、融合悪魔の一部に異変が起きる。

 まるで吸い付くように、数十体が一つに合体する。するとそれは、五メートルはあろう巨大悪魔(ゴーレム)となった。


「デカッ!」


 しかも一体だけではなく三体現れ、合体したぶん核の宝石も大きくなり、頭部には陰影ができて顔が認識できる。

「≮オ¥µェ&∅アッ!」巨大悪魔(ゴーレム)は“口”を開き、紫色の煙を大量に吐き出した。


防御(フェアヴァイガン)!」


 ペトロとヨハネが防御した。辺りは紫色の煙で充満する。


「何!? この毒々しい煙!」

「成分はわからないけど、絶対に吸い込んだらいけないやつだね」

「面倒臭いやつが増えたけど、どうする?」

「ヨハネくん、シモンくん。気分的にどう?」

「あまりいいとは言えませんね」

「ボクも。ヤコブと離れてるせいかな」


 顔色からも窺える不調を、二人は正直に自己申告した。


「私とペトロはさほど負荷を感じていないから、そういうバンデ理論ということにしておこう」

「つまり。調子がいいのは、オレとユダだけってことか」

「だから。私とペトロが頑張って戦況を打破しようかな、って感じなんだけど」

「そうですね……。悔しいですけど、それがいいと思います」

「ボクも賛成」


 無理をするのは得策ではないと心得ているヨハネとシモンも、悔しくもその案に同意した。

 紫色の煙が次第に晴れていく。視界が完全に良好になる前に、ヨハネとシモンが攻撃を放つ。


「貫き拓く! 冀う縁の残心(エントゥウィクレン)皓々拓く(ゼルプスト)!」

「射貫く! 泡沫覆う惣闇(ホフノン・)星芒射す(リヒトシャイネン)!」


 二人の攻撃で、巨大悪魔(ゴーレム)以外の前方にいた融合悪魔たちが祓われる。その瞬間に、ユダとペトロが同時に飛び出した。




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