11話 パフォーマンス
「穿つ! 闇世への帰標!」
光の玉を二つずつ出現させ、リアルシューティングゲームさながら飛んで来る車を光線で射貫いていく。
「これ、結構地道だね」
「あいつ、ここら辺にある車全部使うつもりじゃねぇよな」
「もしも領域内に停まってるの全部だとしたら……三〜四十台くらいかな」
「提案しておきながらなんだけど、クッソ面倒くせぇ! やっぱペトロに負けたの悔しいわ。きっと、超絶ウエルカムで褒めちぎられてるんだろうな!」
悔しさを思い出すヤコブは、強めの光線を放って高級車を破壊した。
「ヤコブってプライド高めな上に、承認欲求も強めだった?」
「そういうわけじゃねぇけど、褒められた方がパフォーマンスも上がるだろ」
「確かに。モチベーション上げるの上手いカメラマンさんとかいると、ノリノリになるもんね」
「ここにも、そういう上げ上手がいればなぁ。面倒臭いゲージ50%オーバーでも、パフォーマンス上がるんだけどなぁ」
「じゃあ、ボクが言ってあげようか? ヤコブのいいところいっぱい知ってるし、パフォーマンス上げられるかも」
「マジで? よろしく頼むわ」
車は前からでなく、横からも投げられて来る。しかし、この程度なら片手間に対処できるので、シモンは車を破壊しつつヤコブのいいところを挙げていく。
「言葉遣いがたまに乱暴だけど、本当は優しくして仲間思い」
「うんうん」
「男気があって付いて行きたくなる」
「遠慮なく付いて来いよ」
「黒髪が結構好き」
「いいよ、いいよ!」
「私服がおしゃれ」
「そこ大事な!」
「ダメージジーンズがめちゃくちゃ似合う」
「あとは?」
「バイト先の制服も似合い過ぎ」
「普段とのギャップがないとな!」
「何より、ボクを大切にしてくれるところが一番好き!」
結構序盤からシモンが好きなところを並べただけになったが、十分にヤコブのモチベーションが上がった。
「よっしゃあ! 俺に任せろ!」
やる気スイッチが入ったヤコブは、投げられた車を一台破壊した直後に悪魔に突っ込んで行く。接近するあいだも車は弾丸のように飛んで来るが、素早い回避で物ともしない。
「¥§ア#µ!」
ヤコブが目障りに思った悪魔は、一気に四台まとめて操った。前方と左右から一斉に投げられるが、シモンが闇世への帰標で全て破壊した。
そのどさくさでヤコブが一瞬見えなくなり、悪魔は姿を探すが、消えたヤコブは悪魔のすぐ右側の草木から飛び出して来た。
「爆ぜろ! 御使いの抱擁!」
「ギ∂¢≮ッ!」悪魔は光の爆発をまともに食らい、ヤコブはガッツポーズする。
「どうだ! 俺のパフォーマンスが上がれば、こんなもんだぜ!」
「ただの惚気だと思うけどな」
ガッツポーズするヤコブの後ろから、気力を減退させているヨハネが言った。
「ヨハネ。深層潜入からいつ戻って来たの?」
「さっき。シモンがヤコブのパフォーマンスを上げてる時には」
「だったら見てないで加勢しろよ」
「お前のパフォーマンスが上がったおかげで、あとは仕上げるだけみたいだな。あとはお二人に任せるよ」
ヤコブとシモンのイチャイチャを見たおかげで、ヨハネのパフォーマンスが落ちていた。
戦闘は、ヤコブとシモンの祓魔でつつがなく終了した。
「戦闘に余裕が出るのはいいけど、イチャつくのは遠慮してもらえるか? ぼっちの現実を思い出すから」
「ごめんね、ヨハネ」
ヤコブは休みでシモンも学校帰りだったので、三人は一緒に帰った。
誰もいない事務所に戻ったヨハネは、溜め息をつきながらデスクに座る。
「僕はもう、使徒と仕事にこの身を捧げるべきなのかな。色恋にうつつを抜かす前に、自分のやるべきことに真剣に向き合えってことなのかな……」
ヨハネはまだユダへの気持ちを断ち切れず、片思いに悩み続けているようだ。
「でもさ。恋愛うんぬんは置いといて、ヨハネのバンデになる相手はどうなるんだろうね。一人だけあぶれることになるけど」
「これから僕は、誰にも頼れず孤独に戦っていくのか……」
恋も実らず、大事なバンデも現れずで、ヨハネはこのままでは、公私でおひとりさままっしぐらとなってしまう。ヤコブとシモンも、それはちょっと心配だ。
「女々しいの上等とは言ったけどよ、どっちを選ぶにしろ、きっちり気持ちは決めろよ……。で。今日こそ、俺指名でオファーは来てないのかよ」
「ヤコブのそのメリハリは、充実してる余裕なんだろうな」
傷心中なのに全然相手にしてくれないので、ヨハネはちょっと嫌味ったらしく言ってみたが、ヤコブは気にも止めていない。
ヨハネはメールを開いた。いくつか新着メールが来ていたが、その中に一通、今までになかった件名のメールが来ていた。開いて一読すると、初めてのパターンの仕事オファーだった。
「あった。ヤコブを指名したオファー」
「マジで!?」
「どんな仕事なの?」
「インディーズバンドのMV出演だ」




