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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第3章 Nähern─強さの裏側に─

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11話 パフォーマンス



「穿つ! 闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」


 光の玉を二つずつ出現させ、リアルシューティングゲームさながら飛んで来る車を光線で射貫いていく。


「これ、結構地道だね」

「あいつ、ここら辺にある車全部使うつもりじゃねぇよな」

「もしも領域内に停まってるの全部だとしたら……三〜四十台くらいかな」

「提案しておきながらなんだけど、クッソ面倒くせぇ! やっぱペトロに負けたの悔しいわ。きっと、超絶ウエルカムで褒めちぎられてるんだろうな!」


 悔しさを思い出すヤコブは、強めの光線を放って高級車を破壊した。


「ヤコブってプライド高めな上に、承認欲求も強めだった?」

「そういうわけじゃねぇけど、褒められた方がパフォーマンスも上がるだろ」

「確かに。モチベーション上げるの上手いカメラマンさんとかいると、ノリノリになるもんね」

「ここにも、そういう上げ上手がいればなぁ。面倒臭いゲージ50%オーバーでも、パフォーマンス上がるんだけどなぁ」

「じゃあ、ボクが言ってあげようか? ヤコブのいいところいっぱい知ってるし、パフォーマンス上げられるかも」

「マジで? よろしく頼むわ」


 車は前からでなく、横からも投げられて来る。しかし、この程度なら片手間に対処できるので、シモンは車を破壊しつつヤコブのいいところを挙げていく。


「言葉遣いがたまに乱暴だけど、本当は優しくして仲間思い」

「うんうん」

「男気があって付いて行きたくなる」

「遠慮なく付いて来いよ」

「黒髪が結構好き」

「いいよ、いいよ!」

「私服がおしゃれ」

「そこ大事な!」

「ダメージジーンズがめちゃくちゃ似合う」

「あとは?」

「バイト先の制服も似合い過ぎ」

「普段とのギャップがないとな!」

「何より、ボクを大切にしてくれるところが一番好き!」


 結構序盤からシモンが好きなところを並べただけになったが、十分にヤコブのモチベーションが上がった。


「よっしゃあ! 俺に任せろ!」


 やる気スイッチが入ったヤコブは、投げられた車を一台破壊した直後に悪魔に突っ込んで行く。接近するあいだも車は弾丸のように飛んで来るが、素早い回避で物ともしない。


「¥§ア#µ!」


 ヤコブが目障りに思った悪魔は、一気に四台まとめて操った。前方と左右から一斉に投げられるが、シモンが闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)で全て破壊した。

 そのどさくさでヤコブが一瞬見えなくなり、悪魔は姿を探すが、消えたヤコブは悪魔のすぐ右側の草木から飛び出して来た。


「爆ぜろ! 御使いの抱擁ウムアームン・エンゲル!」


「ギ∂¢≮ッ!」悪魔は光の爆発をまともに食らい、ヤコブはガッツポーズする。


「どうだ! 俺のパフォーマンスが上がれば、こんなもんだぜ!」

「ただの惚気だと思うけどな」


 ガッツポーズするヤコブの後ろから、気力を減退させているヨハネが言った。


「ヨハネ。深層潜入からいつ戻って来たの?」

「さっき。シモンがヤコブのパフォーマンスを上げてる時には」

「だったら見てないで加勢しろよ」

「お前のパフォーマンスが上がったおかげで、あとは仕上げるだけみたいだな。あとはお二人に任せるよ」


 ヤコブとシモンのイチャイチャを見たおかげで、ヨハネのパフォーマンスが落ちていた。

 戦闘は、ヤコブとシモンの祓魔でつつがなく終了した。


「戦闘に余裕が出るのはいいけど、イチャつくのは遠慮してもらえるか? ぼっちの現実を思い出すから」

「ごめんね、ヨハネ」


 ヤコブは休みでシモンも学校帰りだったので、三人は一緒に帰った。

 誰もいない事務所に戻ったヨハネは、溜め息をつきながらデスクに座る。


「僕はもう、使徒と仕事にこの身を捧げるべきなのかな。色恋にうつつを抜かす前に、自分のやるべきことに真剣に向き合えってことなのかな……」


 ヨハネはまだユダへの気持ちを断ち切れず、片思いに悩み続けているようだ。


「でもさ。恋愛うんぬんは置いといて、ヨハネのバンデになる相手はどうなるんだろうね。一人だけあぶれることになるけど」

「これから僕は、誰にも頼れず孤独に戦っていくのか……」


 恋も実らず、大事なバンデも現れずで、ヨハネはこのままでは、公私でおひとりさままっしぐらとなってしまう。ヤコブとシモンも、それはちょっと心配だ。


「女々しいの上等とは言ったけどよ、どっちを選ぶにしろ、きっちり気持ちは決めろよ……。で。今日こそ、俺指名でオファーは来てないのかよ」

「ヤコブのそのメリハリは、充実してる余裕なんだろうな」


 傷心中なのに全然相手にしてくれないので、ヨハネはちょっと嫌味ったらしく言ってみたが、ヤコブは気にも止めていない。

 ヨハネはメールを開いた。いくつか新着メールが来ていたが、その中に一通、今までになかった件名のメールが来ていた。開いて一読すると、初めてのパターンの仕事オファーだった。


「あった。ヤコブを指名したオファー」

「マジで!?」

「どんな仕事なの?」

「インディーズバンドのMV出演だ」




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