恐怖の宇宙人マル秘生態観察映像
「ボクもやってみたいなぁ!」
学校を出て三つほど林を抜けたあたりで、突然弓角がそう言ったので、俺たちはギョッとして立ち止まった。
「目の前でヒーローと怪人が戦うんでしょ?いいなぁ!見たいなぁ!」
「まぁそうだけどさ……」
心持ち引いてるらしい公太郎が、すぐに苦言を呈する。
「本人たちが言ってたけど、そんな派手なモンじゃないってさ。いくらヒーローって言っても、まだ中学生だから、火薬とかは使えないらしいし……」
「あぁ、そういう細かい決まりとかあるんだ……」
子ども向け番組の人形の中には人が入っているのを初めて知ったときみたいなガッカリ感を覚えて、俺は少し肩を落とした。
山都が何十メートルもぶっ飛ばされて爆発四散するような戦いを、なんとなく想像していたからだ。
「でも、十分に離れて見る分には大歓迎だってさ」
すっかりテンションの下がってしまった弓角を元気づけるように、公太郎は大げさな身振りであれこれと話している。
「二人ともバク転とか色々できるみたいだし、必殺技とかも繰り出して戦うらしいし……そうだ、ビデオに撮っておくってのはどうだい?」
「なんで?」
「なんで、って……ほら、ねぇ、何かあるでしょ……あるよね?」
「ない」
返答に詰まって助けを求めた公太郎の手を、一言の下に叩き落とすと、芽河は弓角をキッと睨みつけた。
「だいたいね、そろそろ文化祭も近づいてるって言うのに、部活と関係ないものを撮ってどうすんのよ!」
「あら、随分と部活動に熱心なのね」
緋色院が少女漫画みたいに「ウフフ」と声を上げて笑うと、弓角に向けたものより数十倍も鋭く言葉を吐く。
「あたしは適当に時間を過ごしたくないだけよ!」
突き刺すような勢いで喰ってかかっても、緋色院の鉄面皮には効果がないと分かると、芽河は怒りの矛先を公太郎に向けた。
「あんたも部長なら、何かネタでも掴んできなさいよね!」
「宇宙人なんてそんな簡単に見つかんないよ……」
「最近は、オカルティックな話も聞かなくなりましたしねぇ……」
葵木サンがポツリと呟くと、スカートをなびかせながら緋色院が先頭に立って、
「大丈夫よ。主人君と私が二人連れで歩いていれば、エイリアンなんて向こうからやって来るわ」
だって私は、と言ってポーズをとる緋色院を、苦り切った顔で見つめてから、公太郎は芽河の方に向き直った。
「とにかく、文化祭までには何か見つけてみるよ……」
「何か心当たりでも……」
不安げに尋ねる葵木サンに、公太郎は気弱そうに手を腰にあてて、
「全くないけど……いざとなったら院部君の一日でも撮るさ」
「ふぅん、主人君にしてはいい考えかしら、タイトルは……そうね、『実録!美人レポーターは見た!恐怖の宇宙人マル秘生態観察映像!』ってとこかしら」
「胡散くせぇ……」
「B級っぽい……」
「低予算だなぁ……」
やがて緋色院の家が見えるあたりまで来ると、一人抜け、二人抜け、いつの間にか俺と芽河だけが同じ道を歩いていた。
駅の近くの住宅地に、俺たちそれぞれの家があるからだ。
なんとなく黙って歩いていると、唐突に芽河の方から話しかけてきた。
「ねぇ、詩織はさ、日曜に主人のところへ行くかしら?」
いきなり声をかけられて少しばかり面食らったが、しかし平気なふりをして、
「さぁな……まぁ、行くには行くんじゃあないか」
「……そうね」
それだけ言うと、芽河は急に早歩きになって、俺を置いて駅の方まで行ってしまった。
取り残された俺は、いつもと違う不安そうな芽河の態度の意図が分からず、なんだか面白くなくて、足元の小石を蹴っ飛ばした。




