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「友情万歳!」

こんな騒ぎが起こっていたのです。


緋色院さんが去ると、私はふっと気が楽になって、晩空君と色々な事をお話しました。

二人っきりになった直後は、なんだか急に緊張してしまって上手くしゃべることができず、きつい物言いになってしまって、そのことを晩空君に謝ると、彼は素敵な笑顔で、

「いいよ、全然気にしてなかったから」と私の行いを水に流してくださいました。良い方です。

そうやって二人で話していると、ふいにやぐらの方が騒がしくなって、見ると、クラスの人たちが空を見上げて、必死に何かを叫んでいます。

何事かとやぐらに駆け寄ると、人ごみの中にいた水素さんが私を見つけて、慌ただしく声をかけました。

「どうしよう、あの、安藤さんが、花火」

うろたえる水素さんを落ち着かせて、なんとか以下のような話を聞き出しました。


神社に奉納する踊りも終わり、さぁ告白だと息巻いたクラスの皆さんでしたが、さて神社で待つこと数十分。約束の場所に、院部君はおろか夏河岸さんすら現れず、拍子抜けしていたところに、浦内さんのお母様が、ねぎらいの意を込めてコップ一杯の甘酒を振舞ったのだそうです。

今でこそ冬に飲むイメージのある甘酒ですが、本来は冷やしたりしたものを、暑気払いに飲んだりする、れっきとした夏の飲み物だそうで、その冷やし甘酒を、クラスの皆さんは美味しく頂いたそうです。

ところで、酒の字が付いてはいますが、甘酒は基本的にソフトドリンクの扱いで、お酒に弱い方でも、よほど大量に飲まない限りは滅多に酔うことはないのです。

けれども、何事にも例外はあるもので、今回の場合、安藤さんの想像を絶する下戸っぷりがそうでした。

半分程飲んだあたりで、みるみる顔が朱に染まり、危険を感じた男子が杯を取り上げようとするのを「エッチ!」の一言でいなし、安藤さんは残りを一息に流し込むと、泣きながら神社の周りにある林に駆け込みました。

こりゃあいかんとその場にいた全員で手分けして林の中を捜索しましたが、一向に見つからず、とにかく一旦皆で集まって対策をたてようと、一人の男子がやぐらまで戻って来た時、そのやぐらにすがりついて大泣きする安藤さんを発見したのです。

慌てて取り押さえようとする彼を「スケッチ!」の一言で払い除け、安藤さんはするするとやぐらを登って行きます。

一人では対処できぬと彼が仲間を呼び集めた時には、すでにやぐらのてっぺんまで上り詰めていた安藤さん。

彼女は脇に抱えていた花火の袋を破り、冒険小説に影響されて理科室からくすねておいたマッチ箱を取り出すと、下に集まった人々に見えるよう、それを振り回しながら「ワンタッチ!」と叫びました。


「あの花火の中には、打ち上げ花火とかもセットになってるみたい」

水素さんは心配のあまり、既に涙目になっています。

「もし酔った勢いで火を点けたのを振り回して、誰かに怪我でもさしたら、安藤さんが退学になっちゃう」

「まぁ、反省文だけじゃあ済まないだろうな」

晩空君が宥めるようにそう言うと、彼女は顔を覆って泣き出してしまいました。

やぐらでは、第一発見者である男子の、安藤さんへの説得が続けられています。

「馬鹿なことはやめて、さっさと降りてこい!」

「孤独だよ。安藤はさみしい」

「何言ってんだ、ここにいる全員が、お前を探してたんだ」

「つまり、降りたら安藤は人気者になれるのか」

「そうだとも、やぐらから降りてくりゃあ、皆がお前に群がるぜ」

確かにウソではありません。皆さんは、彼女を探すために、林の中を散々歩き回されたようですから、下に降りたら全員に囲まれて、こっぴどく叱られるでしょう。

どうやら彼は、安藤さんの心の隙間を埋めて、やぐらから降りてもらおうとしているようです。

効果はてきめんで、安藤さんは早くもやぐらの下にいる皆さんに手を振っています。

「ありがとう、安藤のために、ありがとうみんな!」

「うるせぇ」「早く降りろ」「時間返せ」などの罵声も、今の彼女には心地よい賛美の声に聞こえている様子で、

「ああ、安藤は幸せ者だなあ。とっても気分がいい。そうだ、一発どかんと祝砲でもあげてみるとするか」

そう言うと、安藤さんは目にも止まらぬ早業で、、手持ちの花火に次々と点火しました。

「わぁっ、打ち上げ花火に火ィ点けやがった」

「酔ってるくせに、器用なヤツ」

そうして火の点いた花火を片手に握り締めると、安藤さんは腕を高々と夜空に突き上げて、大きく息を吸い込みました。

「安藤さん、まさか、撃つ気なの」

水素さんが不安げに顔を上げると、安藤さんはちらりとこちらの方を見て、にっこりと私たちに笑いかけました。

「友情万歳!」

そう叫ぶと、笛のような音を立て、蒸気を鼻から吹き出しながら、彼女は腕を天高く発射しました。

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