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アクエリウム

四月になり、今年度最初の投稿です!


「それじゃあみんな~」

「昨日はありがと~」


「「しんこん旅行を楽しんでね~」」


ホール・ヴァイスと水竜たちに見送られ、リュートたち三人は地下空間の奥へと進む。


奥に行くとホールたちの言っていた通り、上へと続く階段があった。なかなか長い階段で、あまり運動に向いていなさそうに見えるユスティが少し表情を曇らせた。


「まあ、無理に上る必要もないし。二人とも、ちょっとごめんね」

「きゃッ」

「……ッ」


クスリと笑うと、リュートは二人の腰に手を添え引き寄せる。密着したところで、フワリと空に浮かび上がった。


ゆっくりと、彼女らに負担を与えないように配慮しながら上へあがると、階段の終わり出口へと到着する。


「もうッ、リュート様!何をするかくらいは言って欲しかったですわ。急に腰を触られると、その……びっくりしちゃいます」

「……ユスティ、顔真っ赤。カワイイ」

「アハハッ。ホントだ、可愛いね」

「~~~」


2人に言われ、一層赤くなるユスティ。湯気でも見えそうな勢いである。


「それじゃあ行こうか」


リュートは古い木製のドアをゆっくりと開ける。外にヒトの気配を感じないとはいえ、警戒は必要だ。


扉を出た先は、古い建造物の跡地だった。残っている建造物のなれの果ては老朽化が進み、植物が根を張っている。どうやら人通りは全くと言っていいほど無いようである。


リュートたちが出てきた入り口は、唯一全体が残っている建造物で、上には錆びた大きな鐘の様なものが見える。昔は、アレが心地いい音色を響かせていたのだろう。


三人が出たところで、ユスティが当然の疑問を口にする。


「何故、こんなに警戒しながら出なければいけないのですの?」

「それはもちろん、僕らは正規のルートで入国してないからね。関所も何もかもをすっ飛ばしてるから、バレたら不法入国になっちゃうよ」


一応ここは教国の領地であり同盟国でもない為、国をまたぐにはそれなりの手続きが必要である。それを思い出し、ユスティは目をむいた。


「そ、それは由々しき事態なのでは!?」

「……私たちにとって、不法入国はいつもの事。バレなきゃいい」

「そうそう。それに、僕らって身分ばらしちゃ少し面倒になるし。万が一の時は僕が転移魔法使うからへーきだよ」


朗らかに言う二人を前に、ユスティは改めて理解した。この二人はやっぱり規格外なのだと。そして、それを受け入れてしまうあたり、自分もだんだん染まってきたんだな、と。


今更である。


「よーし、それじゃあ観光しゅっぱーつ!」

「……おー」

「ぉ、おー、ですわ!」


リュートに合わせ、2人も拳を突き上げる。ユスティは少し恥ずかしそうだが。


ともあれ、三人のアクエリウム観光が始まったのだった。







 ***


アクエリウムは、“水の都”と言われたとおり、街の中が水で溢れていた。


至る所に噴水広場があり、子供たちが遊んだり、若いカップルが相瀬の場に用いていたりする。リュートたちも店で買った甘味ものを、噴水の縁に三人で座ってイチャついてみる。



リュートは仮面だが、銀髪はやはり周囲の目を惹いた。もちろんそれだけではなく、むしろ彼の両側に座る二人の美しい女性に目が釘付けになる男性が多数存在した。


そして、そんな二人を侍らせ周囲の目を気にせずいちゃつくリュートに対して、男たちの嫉妬の念が集中する。


(あ~~……この感じ、久しぶりだなぁ。王都じゃどっちかというと微笑ましいものを見るような目が多くなってきたからなぁ)


男たちの嫉妬の視線は、龍神であっても冷や汗をかかせるものだった。


一部では、


「くそぅ、あの仮面野郎、なんて羨ましいんだ……!俺と変われってんだ」

「ちょっと!今の、どーいうことよ!」

「えッ、いや、あの、ち、違うんだよ!これは……」

「何が違うっていうのよ!」


等と、ユスティ、メアリーに見惚れてつい口から零れてしまった言葉に大きく反応す彼女といったやり取りが見られる。


余談ではあるが、彼らはこの後のデートでもギスギスした雰囲気は元には戻せず、結局別れることになったという。


彼らの知らぬところで、意外な被害が発生していたのだった……。


分かれたカップル、ざまぁみろ。




“噴水”と言ったが、何もそれだけではない。街の隅々に小さな水路が張り巡らされ、野菜や果物を冷やしていたり、街の端で水田による農業も行われているという。


お陰でこの街で売られている野菜などはどれも瑞々しく、冷たく甘い。シュベリア王国と交易をおこなえば、それなりの利益を得られるのではと思えるほどだった。


因みに、この水路の水は雨などで汚染されない限りは、そのままでも飲めるとのこと。


「それじゃあ僕が毒味を……」


リュートが試しに水をすくい、口に近づける。そして、カッと目を見開いた。


「これは……口の中に広がる冷たさと、舌の上で踊る柔らかさ喉越しは爽やかでスッと通り、不快な感触は一切なく、むしろもっと飲みたいと思えるほど良い甘さ。そして――――」

「……一言でいうと?」

「最高です」


等と軽く遊びつつ、リュートは二人にも勧める。


「あら、本当ですわ。スゴく飲みやすいです」

「……ん。ナイスな味」


各々の感想を言う二人。メアリーの感想は少しわからない。


そんな三人に声をかける者がいた。


「よぉ兄ちゃんたち、水を飲んで驚いてるってことは、街の外から来た奴らだろ。【アクエリウム】は初めてかい?」


恰幅の良い、無精ひげが目立つおじさんだ。頭の鉢巻きが妙に似合っており、ニカッと笑う表情は“気前のいいおっちゃん”そのものである。


「ええ、実はそうなんです。この二人と結婚しまして、祝い旅行の様なものをしています」

「おおッ、とんだ別嬪さんを二人も連れてると思ったら、奥さんかい?そりゃスゲェ、あんた、貴族サマかね」


驚くおっさんに、リュートは首を横に振る。すると、明らかに安堵した表情になる。流石に貴族に対しての無礼は怖いらしい。当然といえば当然だが。


「なんだ、別嬪2人を嫁さんにしてるし、祝い旅行なんて貴族でもなかなかしねぇぞ。兄ちゃん、相当金持ちなんだなぁ」

「ええ、まぁ」


間違ってはないので首肯しておく。後ろで別嬪と言われ小さく喜ぶ二人に苦笑しつつ、リュートは彼に聞きたかった疑問をぶつけてみた。


「そう言えばお聞きしたいんですけど、ここ【アクエリウム】は唯一神を崇める信仰都市とも聞きました。神官の方々はいらっしゃらないんですか?」


そう尋ねると、彼は明らかに眉を潜める。


「ああ、神官共は今頃お祈りの最中さ。もう少ししたら街に出てくるだろうよ」

「そうなんですか。…………今、神官“共”って言いました?」

「ん?おっと、つい口が滑っちまった。へへ、あんたら外の奴らだから、これは秘密にしておいてくれや」


片手でお願いポーズをするおっさんに興味が湧き、もっと聴いてみることに。


「誰にも言いませんから、良ければ教えてくれませんか?大丈夫です、僕ら神官とは一切繋がりないので」

「ん~~~……そうだな、言っちまったもんは仕方ねぇしなぁ。うっし、これは内緒だぜ?」


彼は顔を寄せ、声を潜める。三人は興味津々に、耳を傾けた。


「実はよ、この街はずーッと昔、水のドラゴンを崇めるやつらが集まって造ったらしいんだ。この街の水も、そのドラゴンの恩恵によって整備され、綺麗になったらしいんだがよぉ。そのドラゴンの姿が消えたと同時に奴らがやってきて、街を治めやがったんだ」


初耳である。白皇竜の話からは先代蒼皇竜は一切関係しなかったという風に聞いていたが、こっちでは少し違って伝わっているらしい。


だが、この街の異様にきれいな水と、その出現場所の謎も蒼皇竜が関係しているとなれば納得してしまう。


「まッ、これは若い奴等は知らねぇがな。年寄りはともかく、俺等みたいな年齢層の中でも知ってる奴はそんなにいねぇんだ」


どうやら彼はあまり神官に対していい感情を持ってはおらず、昔のことを知らない若者たちにもどこか歯がゆく思っているようだ。


「っとまぁ、こんなもんだな。そうだ、兄ちゃんら外から来たってことは、“風呂”ってのを知らねえんじゃねえのかい?」


話を変えようと、唐突に切り出した新たな話題。それには、三人も大きな反応を示した。


「……風呂?今、風呂って言った?」

「言いましたわ。確かに言いましたわね」

「風呂があるんですか?あるんですよね!」


怒涛の勢いに、おっちゃんタジタジ。


「な、なんだ。兄ちゃんたち風呂を知ってたのかよ。外からくる奴は結構知らない奴が多いんだがな」


彼が言う事には、水が豊富なこの街では、一かに一つ風呂場があるといってもいいほど風呂設備が整っているらしい。水が貴重なシュベリア王国では考えられないことであり、首都でも貴族の屋敷にあったりなかったりするくらいだ。


流石は水の都、おそるべし。


「この街にも一応宿はあるけどよ、夫婦で入るってんなら一番高い宿をお勧めするぜ。金は張るが、当然風呂設備は一番いいしな。混浴風呂があるから俺も行ってみてぇんだが、生憎俺の懐じゃ到底無理ってもんだ」

「混浴かぁ~……入ってみたいけど、2人の素肌を他の男に見せるのは嫌だしなぁ……」

「……わたくしも、リュート様以外の殿方に素肌をさらすのはちょっと……」

「……絶対、ヤ」


抵抗を見せる三人に、おっちゃんはさらに続ける。


「でーじょうぶよ。その宿なら、小さいが個室に風呂はある。注文すりゃ、別料金は取られるが用意してくれるぜ」

「その宿教えてください!」


速攻で食い付くリュートであった。


おっちゃんにその場所と名前を教えてもらい。感謝を述べる。いい人に出会えたものだと、感謝の念を抱いていると、妙に力の入った手が肩に置かれていることに気づく。


「ところで兄ちゃんよぉ。俺ァ、そこでイ~イ感じに冷えた果汁の飲み物売ってんだけどよ、一杯どうだい?」

「あッ、ハイ。買わせていただきます……」


そこには客を逃すまいとする商売人の顔、というよりも、獲物を逃すまいとする獣の顔があった。


「……どーりで、優しい」

「商魂逞しいですわね……」







 ***


宿はとれた。確かに高級な宿だと一見して分かるが、他の建物に比べて少し浮いているようにも思えた。景観を壊している気がしないでもないが、ただまぁ、存在感たっぷりだったことは間違いない。


料金も、言われて一瞬目を見張ったくらいだ。一部屋取り、夕食付、個室風呂付きでシュベリア王国の騎士一か月分の給料である。


明らかに“そういった層”を狙っての宿であることは間違いない。


門前払いされるかもしれないと考えたが、そんなことはなかった。当然といえば当然だろう、ユスティは王家としての気品を、メアリーは神秘的な雰囲気を醸し出しており、三人とも服装からして一般的ではないのだから。


宿の者たちも、それらを見極める眼ぐらいは当然持っていた。


そして彼らは今、さっそく入浴していた。


ちゃんとした浴槽であり、石灰石のような白く滑々した岩で作られている。このスベスベ感がなんとも言えぬ手触りであり、これ一つで相当金をかけていると思わせる品物であった。


個室なだけありかなり小さいが、むしろ彼らとしてはこれくらい小さい方がいい。何故なら――――



「いや~、この密着感、得も言われぬ心地よさだねぇ」



生まれたままの姿の三人が、超密着しているからである。


リュートのそれぞれの足にユスティ、メアリーが座り、頭をリュートの肩に乗せてしな垂れかかっている体勢。


2人の赤く上気する頬も、ツゥッと流れる雫が鎖骨を、そして胸の谷間を流れていく様子も、足や背中に直に伝わる二人の柔らかい肉肌の感触も、全てが全て天国のようだった。



「キャッ、ちょ、リュート様、そこは……やんッ!」

「……そこ、ダメ……ッ!」

「ムフフ~、良いではないか~良いではないか~」

「あぁッ」

「……言動、エロ親父っぽい。……んッ」


お湯の中で何が行われているは、ご想像にお任せしよう。リュートも男だ、仕方がない。



ひとしきり堪能した後、改めてゆっくり肩までお湯につかる三人。


「あ~~~……どうにかして、シュベリア王国でも風呂文化を広められないかなぁ」

「……ソレ、是非やるべき。手伝う」

「そうですわねぇ……お父様にもお話して、どうにか国の資金を使えないでしょうか……」

「メルクリウスにお願いして、水脈でも見つけてもらおうかなぁ……。そうすれば、後は僕が引っ張ってくるんだけどな……」


等と雑談する。ほんわかした口調ではあるが、三人とも結構本気で考えていたりする。




リュートは二人の肩を抱き寄せつつ、視線は虚空に向いていた。



思い返しているのは、ここに来る途中で遠目に見えた複数の怪しげな連中。皆紫色のローブを身に纏い、その身のこなしは一般人のソレではなかった。


そして何よりも、彼らは右肩に、紋様の様なものをつけていた。それは、首のない竜の絵だった。



確証はない、予想でしかない。だが、絶対の自信がある。アレは――――



(あいつらは間違いなく――――【ウロボロス】だ……)



いかがでしたか?

只の新婚旅行で終わらせるつもりはありません。ここらで少しはシリアスっぽいモノも入れとかないと……


感想・ご指摘などございましたら、よろしくお願いします。

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