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出発前に

久しぶりの更新です。成績も上がってきて少し余裕ができたので書いてみました!

「それじゃあ行ってくるよ」


ようやく新婚旅行に出発する日が来た。


リュート、メアリー、ユスティの三人はそれぞれの準備を済ませ、屋敷の玄関の前で皆に告げる。玉妃が羨ましそうにむくれていたが、それでも送りには出てきてくれた。


そんな態度もまた可愛らしくて、リュートは苦笑しながら頭を撫でる。


「ごめんね玉妃。今回ばっかりは、三人だけなんだ。お留守番頼んだよ?」

「むぅ……お土産、いっぱいいっぱい頼むのじゃ」


口を尖らす彼女に、リュートは口元に笑みを浮かべて約束する。


「もちろん。みんなに一杯お土産持って帰ってくるよ」


そう言うと、ようやく玉妃も満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに「ウム!」と頷いた。


「それじゃあユスティ、メアリーも僕に捕まって。跳ぶよ」

「ハイ!」

「……ん」


2人が両側からリュートの袖をそっとつかむ。これで準備は終わりだ。三人は改めて、送りに来てくれたみんなの顔を見て言う。


「「「行ってきます」」」


そして、輝きと共に三人の足元に線が走る。それは円陣を描き、彼らの身体を光で包んだ。身体が粒子となって消えていく際、三人の耳に声が聞こえた。



――――“行ってらっしゃい”



家に誰かがいて、自分たちを見送ってくれるヒトがいる。それが嬉しくて、リュートだけもう一度、「行ってきます!」と大きく告げた。








 ***


ウンディーネの聖域である湖。その畔に跳んだ三人がまず最初に驚いたこと、それは、あれだけ酒臭かったはずなのに、今はもう完全に元の美しい爽やかな湖へと戻っていたこと。


「これは……」

「あらリュート。それに二人もいらっしゃい」


後ろからウンディーネが声をかけてきた。彼女は一仕事終えたかのような達成感に満ち溢れた表情だった。


「ウンディーネ、どうやってあの……もはや異臭だったここら一帯を元に戻したの?」

「ここは私の定めた聖域だからね。精霊王としての力をフルに使って、マナを調節したのよ」


元々、精霊はこの世界の各地でマナの異常による天変地異や環境の崩壊を押さえ、整えるのが役目である。その王たる精霊王は、自身の聖域においては様々な力が発揮できる。


そんな彼女にとって、酒の匂いを消臭することなど造作もないことだった。


「まぁ、この力を使ったのは久しぶりだけどね。あなたが魔法の練習って言って森を破壊した時以来よ。……そう考えると、この森が乱れるのってあなたがいるときだけなのよね」

「アハハ……ご、ゴメンナサイ……」


冷や汗が背中に流れるのがわかるリュート。ウンディーネは思い返しながら、リュートに対してジト目を向けていたからだ。本人もいろいろと自覚がある為か、乾いた笑みしか出てこない。


「それより、ホールとヴァイスは?ここで待ち合わせの約束だったんだけど」

「ああ、もう来るわよ。さっきまでキツネの尻尾を好き勝手していたから、夢中になりすぎて少し遅れちゃってるの」

「分かるなぁ……動物の尻尾のあのモフモフは、もはや魔性のそれと同じなんだよね。触りたいという欲求が抑えられなくなるというか」


ウンウンと納得顔のリュートに苦笑するウンディーネ。昔、動物に囲まれ毛玉のようになっていながら幸せそうな表情をするリュートを思い出したためだ。


「キツネ……凄くかわいかった」

「わたくしはリスが一番かわいいと思いました。ちょこちょこと腕を上ってくるのがとても愛くるしくてたまりませんでしたわ」


彼女らも動物に懐かれるようになってから、その魅力にやられてしまったらしい。


三者三様に動物との触れ合いを思い返して幸せに浸ってる中、森の奥から元気な声達が聞こえた。


「王様~」

「ごめんなさ~い」


「「ホルトヴァイスただいま参上~」」


駆け足で来たらしく、飛び出るように現れた二人。その後ろからメルクリウスがゆっくりと現れる。その肩に鳥が乗っていた。


「申し訳ありません、王よ。我も一緒に戯れておりましたゆえ、約束の時刻に気づきませんでした」

「ああ、いいよいいよ。可愛い動物と一緒だと、それも仕方がないよね」

「寛大なお言葉、感謝いたします」


深々と腰を折るメルクリウス。容姿が優れているために、その姿勢は非常に様になっている。相変わらず竜王たちは忠節ぶりがすごいなぁ感心しつつ、気にしないでと手を軽く振るリュート。


その後ろでは、ホール・ヴァイスの二人がメアリーたちに動物の可愛らしさについて熱く語っており、それを二人も瞳を輝かして聞いていた。


「それじゃあホール、ヴァイス、そろそろお願いしてもいいかな?」

「あ、そうだった~」

「王様ゴメンね~」


「「今すぐ戻るからね~」」


2人はみんなの元から少し離れ、互いの手を握る。その手を高く上げて、抜けた様な調子で叫んだ。


「「【解除(リレ~イズ)】!」」


真っ白な光が二人の身体から発せられる。それは、今まで見たどんな光よりも強烈な輝きを放っていた。


光は粒子へと変化し、その数を、大きさをどんどん増していく。波のように唸りながら、強烈なマナをリュートたちにぶつける。


徐々にその輪郭が確かなものになり、翼が、手足が、尻尾が形づけられていった。そして、首がぐんと伸び、頭が現れる。――――その数やはり2つ。


まばゆい光の放出が止まり、ソレが姿を現した。


純白の鱗に覆われた、細くも巨大な体躯。なだらかな曲線により、どこか落ち着いた“聖なる者”を思い起こす。


二つの頭部はそれぞれ柔らかそうな体毛が、首元にかけて鬣のように生えている。それぞれ右側と左側に長くのびていて、ホール・ヴァイスの特徴をそのまま引き継いでいた。いや、本来は逆で、ホールとヴァイスがこの竜の特徴を引き継いでいるのだが。


「これが、二人の竜の姿か……。こっちの姿だと落ち着きもあって知的な雰囲気なんだね」

「ホント、見た目だけはしっかりしてるんですがね……」


メルクリウスが嘆息しながら残念そうに言う。それを聞いて?マークが頭上に浮かぶが、理由はすぐにわかった。


『どうどう王様~?』

『王様どうどう~?』


『『これがホルトヴァイスの姿だよ~』』


これは当然というべきなのだが、やはり仲間は変わっていなかった。とはいえ、これだけ理知的な姿なのにその声は子供っぽさ全開という落差に思わずガクリと足の力が抜けてしまう。


だが、二つの長い首が交互に上下にフリフリと揺れているところ見ると、やっぱり2人なんだなぁと妙な関心をいだいてしまうリュートであった。



「……ん、なんか面白い」

「どうなってるんでしょうか……2人で一つの身体を共有するというのは」


それは誰もが疑問に思うのだろうが、言葉にされても分かることはできないだろう。結局本人にしかわからない感覚なのだ。


「えーっと……すごくカッコいいよ、ホルトヴァイス。触ってみてもいいかな?」


『もちろんだよ~』

『御好きにどうぞ~』


『『個人的には首回りが好きかな~』』


さりげなく撫でて欲しいポイントを告げてきたので、遠慮なくその長い首元を撫でる。鱗は硬くがっしりしているが、下に行くにつれて柔らかい弾力を持つようになってくる。もはや鱗というより肌に近い感触で、サラサラと非常に触り心地が良かった。


『あ~そこそこ~』

『できればもっと上~』


途中からメアリーが加わっており、ユスティも遠慮がちにではあるが、ゆっくりと触れていた。


ひとしきり堪能した後、リュートはメアリーとユスティを伴ってホルトヴァイスの背に上がる。


翼の付け根辺りもフワフワの毛が生えており、最高級のクッションに包まれている感覚に陥るほどに心地いい。これこそまさに人をダメにするクッションかもしれない。


「……コレ、すごく気持ちいい」

「ふわ~……お城にもこれ程のクッションはありませんよ」


既にダメになりかけが二人出来てしまった。それを見て苦笑した後、リュートは地に残る二人に声をかける。


「またね、ウンディーネ。今回の式はホントにありがとう。最ッ高の思い出になったよ。またくるね」

「ええ、私もいい経験ができたわ。こっちこそありがとう、いつでもいらっしゃいね」


柔らかく微笑む義姉(ウンディーネ)


「メルクリス、残ったみんなのことお願いね。屋敷内は好きにしていいけど、あまり大きな騒ぎだけはおこさないで……って、これは言わなくても大丈夫か」

「お任せください、我らが王よ。我がみっちりと、あの者らを鍛えこんでやりましょう」


仰々しく頭を下げ、変わらぬ出来る男の雰囲気を出している新たな友。



『それでは~』

『まもなく~』


『『出発いたしま~す!』』



2人に別れを告げて、三人を乗せた白く美しい竜が飛び立った。羽を大きく羽ばたかし、優雅に空へと上昇していく。


青空の中に白の点が消えるまで、残った2人は見送り続けた。









 ***


リュートたちが飛び去ってしばらく。ウンディーネはチラリと横を見た。


「もう行ったんだから、そろそろいいんじゃない?」


どういうことか、それは、彼女の横で蒼い髪よりも顔色を青くした男が立っていたことだ。


「ぐ、うぷ……んッ」


口元を押さえ、喉元を逆流しかける何かを根性で押し戻す。しかし、我慢できないのか、ついに膝をついた。


やれやれと言わんばかりに首を振りながら、ウンディーネがその背中をさする。


「まったく、いくらドラゴンでもあれだけ飲めばそりゃ気分も悪くなるわ」


そう、メルクリスはいまさらながらに二日酔いなのである。先ほどまでは王の手前、気合で我慢していたに過ぎない。


「くゥッ……何故だ、我はこれまでいくら酒を飲もうとも、こんなことには……!」


「あなたたちが飲んでた酒、ヒト種の間でも最高にキツイ酒として有名なのよ?一本で5,6人は潰れるくらいのね。それを数日間も、何本も飲み干せばいくらあなたたちだってそうなるわ」


「し、しかし、ホルトヴァイスは我以上に飲んでいたというのに、平気そうだったぞ?」


「あの子は光の属性だから治癒・回復系統の魔法に長けてるし、リュートを送ってくれるんだからよぱらったり二日酔いのままにさせておくわけにはいかないでしょう?私が聖域の力を使って治してあげたのよ」



“ずるい”


そう言いたげな目で見てくるが、ウンディーネは素知らぬこととばかりに無視を決めこむ。



「全く、見た目に反して弱い男ねぇ」

「我も初めての経験なのだ……ゥプッ……この不愉快な感覚は、二度と経験せんぞ……」


ふらふらとしながらも硬い決意をするメルクリウス。しかし、あのホルトヴァイスと親しい以上、それが守られることはないだろう。


大きく体を震わせた彼を見て、慌ててウンディーネが声をかける。


「ちょ、ちょっと!これ以上私の聖域を汚さないで頂戴!いい、気合と根性で我慢するのよ!」


メルクリウスの出す汚物でこれ以上汚すな、そう辛らつに告げる彼女の鬼迫に、メルクリウスは思わず何度も頭を縦に振る。


それが余計に二日酔いを悪くし、吐き気を強くした。


「グ、ぐ、ぅ……」

「あ~もう!屋敷に行く前に、少しここで休んでいきなさい。ホラ、湖に浸かって、少し浮いてなさい。水中はマナ濃度が高いから、体内魔力の調節だけを考えるの。いいわね?」


言った通りに動くメルクリウス。イイ男も顔色が悪いと色々台無しだった。


湖の上を歩き、それなりの場所までいくと水中に浮かぶメルクリウス。マナに揺らぎを感じたウンディーネは、ため息を継ぎながら同じく湖に向かう。


「私と同じ水の蒼皇竜だって聞いてたから楽しみにしてたのに……なんだか残念な感じだったわ。手のかかる子が増えたって感じね」


そう言いながらも、ウンディーネはメルクリウスの介抱をしに向かう。


第一印象は『いろいろ残念な男』で終わるのだった。



書いていて意外な展開になってしまいました。個人的に、ホルトヴァイスはお気に入りです。

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