結婚式
今回は二話投稿です。まだの方は、是非一話前からご覧ください。
「おい、今日があの日だぜ」
「あの日?ああ、ユスティ姫様とメアリー様が、あのリュートって冒険者とご結婚なさる日だろ」
「それにしてもリュートの奴、まさか王族や黒皇竜と結婚するとはなぁ。玉の輿ってレベルじゃねえぞ。羨ましすぎる!」
「本当なら今すぐリュートの野郎をぶっ飛ばしに行きてえとこだが……そんなことすると姫様たちが悲しまれるしなぁ」
「てか、俺たちじゃリュートには勝てねえよ。あいつの強さ、闘技大会でも見ただろ」
「そういやぁ、今回結婚式は国内じゃしないんだってねぇ」
「なんでも、闘技大会でも使われた映像魔導具で国内一挙放送なんですって。どういうことかしらね」
「さあな。まぁ、人間と皇竜での結婚なんて歴史上初だ。間違いなく、何かがあるんだろうぜ」
国内ではこの話題で持ちきりだ。そこかしこで酒を飲みながら、人々が話に花を咲かす。
一国の姫と、黒皇竜、そして、闘技大会でも目覚ましい活躍を果たしたリュートの結婚式。そんな日に仕事なんかやってられるかということで、ほとんどの人間が仕事に向かわず、店や家付近で酒を飲み、既に宴のようになっていた。もはや祭りである。
可憐で美しく、人望もあるユスティ。
強く、気高く、美しい。国を何度も救ってくれているメアリー。
そんな二人なだけに、同時に、同じ相手との結婚という話は国中を騒がせた。男たちは血の涙を流し、女たちはどういういきさつなのかと妄想に忙しい。
そして今日、その三人の祝いの式が行われる。皆、その瞬間を待ちに待っていた。
巨大な鐘の音が二回、国中に鳴り響く。城に取り付けられた鐘で、二回は王族の結婚式の始まりを示すもの。
国の至る所に、立体映像が投影され始めた。そこに映っていたのは、国王ガルド。
『我が愛する民たちよ、今日は、我が娘ユスティと、偉大なる守護竜メアリー殿が、帝国との戦争でも大きな功績をあげた国の英雄、冒険者リュートとの結婚の儀を挙げる日である。我は父として、王として、今日この日がシュベリア国の歴史に残ることを、ここに宣言しよう。皆の者、その歴史を見届けるという役目を、それを後世の者たちに伝えていくであろうことを、心から感謝する』
王としての威厳を醸し出しつつ、父としての優しさを含んだ声で、ガルドはゆっくりと話し出す。先ほどまで騒ぎ合っていた者たちも、今はただじっと、その声に耳を傾けていた。
『さて、今回の結婚の儀を挙げるにあたり、このような事をするのは初めてである。我も未だに戸惑っているのでな。それというのも、今回の事は全てが異例、全てが初だ。だからこそ、皆にはこれから起こる全てを、その胸に、その心に刻み込んでほしい』
それを最後に王の姿は消えた。映像が切り替わったようだ。映し出されたのは、大きな美しい湖。平和で穏やかな、美しい湖。
しかし、このタイミングで何故この場所が映し出されるのか。疑問に思う国民たちは、その湖の中心に、ヒト型の誰かが浮かんでいるのを見た。
その者は白い聖衣を纏ってはいるが、裾やか出ている肌は空のように青く、澄んでいる。だが、にっこりと聖女のように絶やさない頬笑みは、本当に美しかった。
その蒼い女性が右手をまっすぐに振り上げると、背後の湖が動き出し、大きな水柱となって天へと昇る。
それはまるで意志を持ったかのように動き、分かれ、形を成していく。次第に氷で覆われ、整っていった。
それは、小さな城と、世界樹と言ってもいいほどの大きな氷の大樹。『聖樹』と名付けられたそれを、さらにアレンジしたもの。根元付近には大きな空洞があり、クリスタルが美しく輝く下で、祭壇が設けられていた。
今度は真っ直ぐに腕を突き出す蒼い女性。すると、祭壇から岸まで一直線に氷の道ができ、そこに国の兵士2人がレッドカーペットを敷く。それを追う様にしてやって来たのは、王宮音楽隊。
ここまでそろえば、誰でもわかる。ここが、結婚式場なのだと。唖然とし、言葉も出ない中、再び王様へと映像が切り替わる。
『驚いただろう?我も驚いている最中なのだが……まあいい。それよりも紹介しよう。今回、式の祭司を請け負ってくださったのは、とある湖を聖域と定められた御方、水の精霊王ウンディーネ殿である』
「ええええええええええッ!?」
まさかの紹介に、国民一同驚きの叫び声が上がった。そんなのお構いなしに音楽が流れ始める。いつの間にか祭壇にはリュートが立っていた。汚れ一つない純白のタキシードを着たリュートは、仮面をつけておらず、まさに、素のままである。
穏やかな声が届く。
「これより、ユスティ・R・シュベリア、メアリー・レイド、リュート・カンザキ。この三名の、結婚の儀を始めます」
***
音楽が鳴り響き、ウンディーネが開始を宣言する。リュートは笑顔でヴァージンロードを眺めているが、内心では心臓がバクバクと言い、緊張して仕方がない。
前世でもテレビのドラマでしか見たことがない結婚式。それを自分が、それも二人と同時に行うなどだれが予想できようものか。
ヴァージンロードの向かって右側には王族に連なる方々。向かって右側にはカレンたち、リュートの関係者が並んでいる。皆、ドレスで着飾っており、今回の婚式を非常に興奮気味に見ている。
主役二人の姿が見えた。
右側にはユスティ。礼装に着替えているガルドの腕に腕を絡ませ、ゆっくりと歩を進める。
左側にはメアリー。彼女には父親が存在していたいため、代役としてユスティの兄、リーベウスがともに歩いている。彼も少し緊張しているようだ。
2人とも、純白のウェディングドレスとベールに身を包み、頭には一輪の紅い花を飾っている。
祭壇の前にある数段の階段につくと、ガルドとリーベウスは二人の下を離れ、横の王族の列に並んだ。
そして、ユスティとメアリーが、一歩、また一歩と段を上る。
リュートは二人の目と視線が重なったのを感じる。二人とも、やや頬を赤くしながら、幸せそうに微笑んでいる。それを見て、リュートも落ち着きを取り戻し、同じように笑みで返した。
音楽が鳴りやみ、それと同時に祭壇の前まで来ると、リュートの両横に並ぶ。それを見たウンディーネが、再び言葉を紡ぐ。
「汝、リュート・カンザキは、これら、ユスティ・R・シュベリア、メアリー・レイドを妻とし、良き時も悪き時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、死が汝らを分かつその時まで、妻を愛し、妻を想い、守り続けることを誓いますか」
リュートはハッキリと、力強く答える。
「誓います」
その意思のこもった言葉に頷き、次はユスティへと向く。
「汝、ユスティ・R・シュベリアは、この男、リュート・カンザキを夫とし、良き時も悪き時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、死が汝らを分かつその時まで、夫を愛し、夫を想い、寄り添うことを誓いますか」
ユスティはやや震える声で、はっきりと答える。
「誓います!」
最後にメアリーへと向く。自分の番が来たことにピクリと肩を震わすが、それでもウンディーネの目をまっすぐに見つめ返すメアリー。
「汝、メアリー・レイドは、この男、リュート・カンザキを夫とし、良き時も悪き時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、死が汝らを分かつその時まで、夫を愛し、夫を想い、寄り添うことを誓いますか」
メアリーはいつも通り表情を変えず、だが、やや上ずった声で答えた。
「……誓う」
その答えで満足げに頷いたウンディーネは、両手を大きく空へと広げ、天に向かって告げた。
「皆さま、三人の上に偉大なる神の祝福を願い、結婚の儀によって結ばれた、この三人を神が慈しみ深く守り、助けてくださるよう祈りましょう!」
皆が神に祈りの言葉を紡ぎ、次へと移行する。
「それでは、聖飾の交換、並びに誓いのキスを」
そう告げると、祭壇の脇から、一人の聖衣に身を包んだ老人が現れた。彼が国で冠婚葬祭を取り仕切る身分のものだが、今回は助手的な役目らしい。それでも誇らしげに胸を張っている。
彼が持ってきたのは、台の上に乗せられた4つのイヤリング。ルビーのイヤリングが二つと、エメラルドのイヤリングが二つ。それぞれリュートとメアリー、ユスティが準備したものだ。
リュートはユスティの前に立ち、ゆっくりと、そのベールを上げていく。現れたのは、ほんのりと化粧を施し、いつも以上に美しいユスティが。
「……凄く、綺麗だよ……ユスティ」
「リュート様も……とても、素敵ですわよ」
2人ともくすぐったそうにはにかみながら、リュートがまずイヤリングをとる。以前プロポーズで上げたときにつけたルビーのイヤリング。それとは別に新たに造ったものだ。両耳につけられたことで、既婚者を示すイヤリング。
ユスティはそっとそれに触ると、破顔した。今になっても慣れない、キレイな笑顔だった。
「それでは、わたくしからも」
今度はユスティがエメラルドのイヤリングをとり、リュートの右耳へと取り付ける。そして――
2人はそっと、キスをした。短く、触れるだけの優しいキス。
ゆっくりと離すと、額をこつんとあわせてリュートはもう一度誓う。
「絶対に、絶対に君を守ってみせる。だから、これからは、ずっと一緒に居よう」
「……ハイ!」
可憐な笑顔を見届け、リュートは次に、メアリーへと振り向く。彼女は顔が真っ赤で、それでもまだ無表情。そこがなんとも愛おしいと感じられた。
「メアリー、君もだ。どんな状況でも、どんな相手と戦おうとも、常に僕が君の隣にいると思って。君を護るのは神じゃなくて、この僕だよ」
「……ん。期待してる、ね?」
2人もまた、それぞれの耳にイヤリングを取り付ける。これで三人ともが、両耳に聖飾をつけ、結婚したことを証明した。
そして、交わされるのは誓いのキス。身長差から少し背伸びするメアリーと、それに合わせるようにやや腰を落とすリュート。優しいキスに、場違いにもメアリーは目がとろんと酔ったようになっていた。
三人だけの世界が生まれてしまいそうだったので、ウンディーネが慌てて式の進行をする。
「これにて、全ての誓いは交わされました。皆様、今日をもって幸せな家庭を築いていくであろう三人に、祝福の手をお願いします」
1人、2人と鳴らし始める拍手は、最終的には盛大なものとなった。それは国の街でも同じであり、まるで国中が一体となって、三人の祝い事に拍手を捧げている。
儀式はここまで。これで、結婚式が終わるよう手筈を整えていた。だが、ここから先はリュートも知らない、儀式の続きだった。
突然空から降り注ぐ、光の雨。さらに、炎の鳥が、尾を引きながら飛び回る。風が吹き、どこからか、甘い匂いと共に色とりどりの花びらを運んでくる。
「これは……」
その場にいる全員が、国中の者たちが何事かお轟きを隠せない中、それ以上に驚いているのはリュートとメアリー。
感じられる巨大で温かみを含んだ魔力が3つ。その正体が、聖樹を囲むようにして現れた。
全身が赤の美女。碧の少女。白の青年。3人が3人とも、人間ではない絶対的な存在感を出しながら、雨を、鳥を、花びらを絶やさずに降りてくる。
「……炎と風、それに光の精霊王……!」
メアリーが呟いたそれが聞こえた者たちは、これでもかと言わんばかりに目を見開いた。そして、それだけではなかった。
森のはるか遠くから、何かが飛んでくる。1つや2つではなく、気配はかなり多い。今度はなんだとその方角を見てみると、現れたのは、ドラゴンの群れだった。
「…………はぁッ!?」
こんな時にドラゴンが現れたことに動揺する国の人間たちだが、疑問に思って首を傾げる。ドラゴンの群れからは敵意を感じないし、こちらを、正確にはメアリーたちを見ている眼は暖かい。そこで納得する。黒皇竜であるメアリーを祝っているのだと。
そこで疑問に思うのは、誰がそのことを知らせたのかだが……
リュートはドラゴンの群れが3つに分かれ、それぞれを率いている一際大きく美しいドラゴンに目を奪われる。
紅いドラゴンは、赤皇竜アイギス。残りの二頭はあったことがないが、分かってしまう。白皇竜と、蒼皇竜なのだと。
三つのドラゴンの群れはそれぞれ聖樹の周りを飛び回ると、その枝にとまり、一斉に鳴きだした。それは、まるで祝福の歌を贈っているかのようだった。
「これは一体……」
そこでハッと気づく。リュートが視線を見た先では、得意げに笑うウンディーネの姿が。
「ウンディーネがこれを……?」
「大事な弟の結婚式だもの。声をかけてみたのだけど、思った以上に集まってくれてよかったわ。これくらいのサプライズは許されるわよね?」
「これくらいだなんて……すごく嬉しいよ。ありがとう、ウンディーネ……ッ!」
嬉しすぎて思わず涙が出そうになるのを必死にこらえるリュート。だが、一筋流れてしまった。慌てて拭うが、他の者たちは目の前の光景に意識が持っていかれていて誰も見ていないようだ。ホッとするリュート。
龍神、黒皇竜、人間の姫のために、精霊王が4体と皇竜が3体。そして精霊たちとドラゴンの群れが集まってくれた。嬉しいと言わずに何というのか。
これほどの光景、生きている内に見られることなど不可能に近い。神話の1ページとも思えるその光景を、多くの人間が見ていた。言葉も出ずに、中には涙を流して膝まづく者もいながら、皆がその光景を、深く胸の内に刻み込んでいた。
リュートは思わず握りしめていた。ユスティとメアリー、二人の手を。その手は少し、震えていた。
「リュート様……?」
どうかしたのかと思い顔を覗き込むと、穏やかに笑い、二人はリュートにそっと寄り添った。その後ろ姿はどこまでも幸せそうで、不安は一切なかった。
「以上を持って、三人の結婚の儀とさせて頂きます。みなさん、もう一度、盛大な拍手を!」
流石にくどいかな?とも思いましたが、リュートの設定上こんな感じになりました。やっぱり恋愛系は難しいですね。ですが、ようやく結ばれてよかったです。
それと申し訳ないのですが、二月まで更新停止しようと思っています。詳しくは活動報告をご覧ください。
感想等、待ってます!




