龍神VS赤皇竜&(?)
久しぶりの二日連続投稿となりました。自分でびっくりしております!
サラマンディアの開始が告げられる。先に動いたのは――アイギスだった。
「はあああああっ!!」
アイギスは気合と共に魔力を開放、身体強化をすることで一瞬で移動する。移動した先はリュートの後ろ。そのまま右の肘鉄を放ってきた。
「甘いね」
しかし、それをリュートも身体強化をすることで、軽々と受け止めてしまう。そのことにアイギスは驚くと同時に、嬉しそうな表情を浮かべる。
(うわ~、容赦ない初撃……これ、やっぱり僕が龍神だって気づいてるよね?)
普通のヒトが喰らえば今ので消し飛んだであろうその威力。それをいきなり放ってくるということは、すなわちそういうことなのだろう。
「なら、遠慮はいらないねっ!!」
今度はリュートが蹴りを放つ。ブォォォン!という風を切る音と共に、鋭い蹴りが繰り出される。しかし、それはアイギスが上へと躱すことで空振りする。
アイギスはそのままリュートから距離を取り、今度は両者同時に距離を詰める。
「あああああっ!!」
「はあああああ!!」
引き絞った拳を繰り出し、お互いの拳がぶつかる。それは巨大な衝撃波となり、木々を大きく揺らす程である。
そのままでは終わらず、その距離で今度は近接格闘が始まる。
殴る、蹴る、躱す――。それだけではなく、肘や膝、掌底など、体のあらゆる箇所を用いた様々な体術を繰り出す。単純な行為の繰り返しであるにもかかわらず、それは見るものを“魅了”するのだった。
1mにも満たないほどの近距離であるにもかかわらず、両者は一歩も後退することなく、また、相手の攻撃が当たることもなかった。超ハイレベルの近接戦闘に、ユスティたちは息を呑んで見ている。
いつまでも続かに思えたその闘いの均衡を破ったのは、やはりリュートである。
リュートは次に繰り出されるパンチ予測し、掴む。そして、そのまま投げ飛ばしたのだ。さらに、空中を蹴ってアイギスへと肉薄する。
異常なまでに高められた筋力で投げ飛ばされたアイギスは、体制を整えて停止する。そしてリュートの方を見る。だが、そこには既にリュートはおらず、自分の真上に気配を感じることに気づく。
しかし、気づいたときにはもう遅いのだ。
リュートは両手で拳を作り、振りかぶる。そしてまるでハンマーを振り下ろすかのように、思いっきり拳を振り下ろした。
「ぐああああッ!?」
大きな衝突音と共に、アイギスは落下する。真下は例の火山の火口であり、アイギスは真っ赤なマグマの中へと落ちた。その瞬間、マグマの柱がリュートのいる所まで届く。
「うわ、アッツ!?」
その熱さに、思わずさらに上へと昇るリュート。服が燃えていないことを確認すると、火口を見る。
「……さっきは普通に入っていたし、大丈夫だよね?溶けてないよね?」
今更な心配をするリュートだが、それは心配無用というものである。
アイギスは火傷どころか、服に焦げ目一つつけず、一気に飛び上がってきたのだ。その顔には、戦闘に魅せられたものの笑み、すなわち戦闘狂の顔が張り付いていた。
アイギスは上昇しながら手をリュートの方へと向け、魔法を放つ。
「くらえ!フレアバースト!」
炎を圧縮し、バズーカのようにして放つというシンプルな魔法。それも、赤皇竜の魔力で放てば超一級魔法となる。極太のレーザー砲と化したフレアバーストは、とんでもない速さでリュートへと迫る。
それに対してリュートは避けるのではなく、立ち向かうという選択を取った。
空中を蹴り、真下へと、すなわちアイギスの方へと飛ぶ。そして身体強化として体全体にまわしていた魔力を右腕一本に集中させ、十分に引き絞る。そのあまりの魔力に、右腕が青白く光っている。
「はああッ!!!」
気合と共に、目の前まで迫ってきたフレアバーストの中心へと振り下ろす。
一瞬の均衡の後、リュートの拳がフレアバーストを裂きながら、中心を突き進む。本来なら熱で既に溶けてなくなっていてもおかしくはないのだが、リュートの拳は関係ないとばかりにアイギスの魔法を裂いていく。
「おいおい、冗談だろ!?」
信じられないとばかりに叫ぶアイギスだが、その顔はやはり笑っている。
やがて、リュートはフレアバーストを突き抜け、アイギスと接触する。
リュートの拳は魔法を放っていたアイギスの手のひらへとぶつかり、そのままアイギスの手を弾け飛ばした。それに釣られ、彼の体も下方へとバランスを崩す。
「ぐあッ」
「もういっちょ、入ってきなよ!!」
その隙を見逃さず、リュートは後ろ回し蹴りを放つ。それは見事にアイギスの腹に当たり、アイギスはまたもやマグマの中へと落ちることとなった。
少し待つと、アイギスはマグマの中から出てくる。今度は先ほどと違い、ゆっくりと上昇してくる。そのままリュートのと同じ高さまで来ると、動きを止めた。
「――?」
リュートが首をかしげると、アイギスは顔を上げ、そして――笑い始めた。
「クハハハハッ!!楽しい、楽しいぞ!まさか、俺の魔法をあんなやり方で対処するとは!クフ、クハハハハ!これだ、これこそが戦いなんだ!そなたもそう思うだろう!?」
狂ったように笑い始めるアイギス。これが、メアリーが言っていた、戦闘中に変わる性格なのだろう。そして、彼の言い分はリュートとしても共感できるところもあったために、リュートは笑みを浮かべることで答えを示した。
「やはりそうなのだな!では、続きといくぞ!!」
***
「う~ん……予想していたとはいえ、やっぱり半端ねえな、ご主人たちの戦いって」
「そうですわね。相変わらず、おかしいですわ」
「お兄ちゃん、なんだかいつもと違うね。すごく楽しそう……」
「ご主人様も、やはりドラゴンだということだな」
これまでの戦いを見て、各々が感想を述べる。これまでリュートの異常っぷりを見てきた彼女たちなので、この戦いに対してもあまり驚かなくなってきていた。感覚が麻痺してきているのである。
アイギスも戦闘狂らしく笑い声を上げているのだが、リュートもまた、笑っている。仮面のせいで見えないが、おそらく彼の目もギラギラと輝いていることだろう。
「メアリー様は、どう思われ……」
「――?どうしたんです……ああ、なるほど」
ユスティがメアリーに感想を聞こうとした瞬間、固まってしまった。イレーナがそれに気づいてユスティの視線の先を見たところ、納得してしまうのだ。
メアリーもまた、ギラギラと目を光らせていたのだ。こちらは竜の状態であるため、かなりの迫力がある。彼女はユスティたちの声など聞こえていないというように、真剣な表情(?)で二人の闘いを見ていた。
「これは、何を言っても聞こえないですね……」
「ですわね……」
彼女も同じくドラゴンであり、戦闘狂の気が混じっていることを改めて思い知ったユスティたちであった。
「こっちにも戦闘狂っぽい奴が一人いるぜ……」
ウルが示す先には、二人の闘いを見てウズウズしているサラマンディア。強者=戦闘狂なのだろうかと本気で考えてしまうのである。
メアリーの見る先には、リュートとアイギスの闘いが再開されようとしていた――。
***
アイギスは手を頭上にあげ、好戦的な笑みと共に次の魔法の名を唱える。
「太溶球」
彼の真下にあるマグマが手のひらに集まってくると同時に、彼が創り出した炎と合わさる。そうしてできたのが、太陽を思わせる極大の熱球である。これにより、周囲の気温が一気に上昇した。
「さすがにこれを喰らえば、そなたも無事では済むまい」
彼が手を下ろすと、太溶球がリュートへと迫ってくる。速さはそれほどでもないが、ここで躱すという選択はリューとにはない。真っ向から受け止めるのが彼の性分なのである。
「うわ~……かなり迫力あるよなあ……。本当に太陽みたいだ。でも――」
凄みのある笑みを浮かべるリュート。
「――僕の魔法が勝つよ!!炎には水or氷、これ常識!」
炎と対の属性である、水の魔法を発動するリュート。発動させたのは――“水牢壁
水が生成されると同時に、太溶球を囲み、ブロック状となる。
炎は酸素によって燃焼している。水に囲まれた状態では酸素が回らず、火は消えてしまうのが常識だ。しかし、太溶球は灼熱のマグマも混ぜている。そう簡単に熱は消えないし、このままではその熱でリュートの魔法の方が蒸発してしまうだろう。
それを理解しているリュートは、続いて氷のオリジナル魔法・“絶対零度”発動させる。
これにより、水の牢やは一瞬で凍りついた。ゆっくりではなく、はじめから氷であったかのように一瞬だった。この魔法も、また破格と言えるだろう。
リュートは冷水→冷凍、この工程を二回繰り返し、過剰冷凍した上で巨大な氷の箱と化したそれに突きを放つ。そこから徐々にヒビが入り、最後にはバラバラとなって砕け散った。
砕け散った氷の破片が日光に反射してキラキラと輝き、それらが二人の男達に降りかかる。銀に煌めく髪と、鮮やかな真紅の髪と相まって、その光景は幻想の一言に尽きる。しかし、その男たちは凄惨な笑みを浮かべているため、若干残念と言えるだろう。
「まさか、これでもダメとはな!今のは流石にショックだったぞ?」
「嘘でしょ?全然そう見えないよ?」
軽口を交わしつつ、二人は互いの隙を探る。緊張が二人の間を走る、その時、乱入者があらわれた。その者はアイギスの横に立つと、ニッコリと笑って口を開く。
「ちょっといいかしら?」
その者は、アイギスの妻にして炎の精霊王、サラマンディアであった。
「どうした、サラマンディア」
「あなたばっかり楽しんでて、見ているだけじゃ我慢できなくなったの。私も混ぜてくれるかしら?」
彼女はどうやら参戦を希望しているらしい。好戦的な笑みでリュートを見ながら、夫へと頼みこむ。
「あなたが本気でやりあってもビクともしない相手なんて、滅多にいないじゃない。私も久しぶりに暴れたいのよ。ね、お願い♪」
「僕は構わないよ。それはそれで面白そうだしね」
「……だそうだ。サラマンディア、あそこまで余裕を見せられているからには、必ず勝つぞ」
「当然。やるからには勝つ、デショ?」
話は付いた。
これにより、龍神VS赤皇竜の闘いから、龍神VS赤皇竜&精霊王(炎)へと移り変わったのである。
『……羨ましい。私も、あそこに混ざりたい』
「め、メアリー様!?」
「いや、ちょ、メアリー様まで参戦しちゃったら、この辺本気でやばくなるんで勘弁してください!!」
『わかってる……言ってみただけ、だもん……』
そうは言うが、どこかふてくされた子供のような印象を与える声音だった。龍神と赤皇竜に加え、精霊王までが闘うというのだ。この辺への被害を考えると、メアリーが混ざるというのは考えたくない事態を起こすことは間違いない。今回メアリーは、何がなんでも周囲の自然に気を巡らさなければいけないのである。
――頬を膨らませて拗ねるメアリー(ヒト)の姿が、全員の頭の中で簡単に思い浮かんだのだった……。
どうだったでしょうか?長くなったので、2話に分けて投稿します。
感想、お待ちしております!




