謎の騎士、その正体
とある場所に、突然青い光を放つ魔法陣が現れた。その中心に現れたのは、やはりリュートである。
「ここは……地下?」
周囲は大きな岩ともよべるもので囲まれており、灯りは壁に付けられた松明のみだ。言うなれば地下牢や貯蔵室のような部屋である。かなりの広さであり、おそらく先ほどの騎士たちもここに転移してきたのだろう。
先には石造りの階段があり、扉が見えないことから、ここは深い場所にあると思われる。
「とりあえず、ここを登ってみるとしよう。何があるか、本当に楽しみだなあ」
気分は子供の探検だ。ワクワクする気持ちを抑えきれず、早足となってしまう。しかし、かすかな足音もたてないところは、さすがと言えるだろう。
やがて、ひとつの大きな扉の前にたどり着く。魔力感知をしてみるが、扉の向こう側には人はいないようだ。
「ここからは、常に魔力感知はしておいたほうがいいかもね。どこに何があるかはわからないけど、出たとこ勝負で行ってみよう」
音を立てないように扉を開け、さっと出る。その先には薄暗い階段が螺旋状に続いている。やはりここは地下らしい。
警戒しながら階段を上るリュート。人の気配はしないため、どんどん進んでいく。
半本ほど上がったところで、上の方で人声がした。
「急げ!何者かが転移魔法具を使った可能性があるらしい。侵入者かもしれん」
兵士が数人、隊長格の男に率いられて降りてくる。どうやら、リュートが転移してきたことが気づかれたらしい。ここには魔力の感知に長けた者がいるのだろう。
「あらま、気づかれたかな?まあいいや、とりあえず……気絶させよう」
リュートは異空間に入れていた、大会中にも使用していたローブを羽織る。フードも目深く着込む。
階段は大人が二人通れるかどうかという幅しかなく、隠れる場所がない。鉢合わせすれば、間違いなくバレるだろう。そして、リュートは確実に不審者と特定される。今のリュートの格好は、怪しさ満点なのだから。
しかし、リュートには秘策がある。
まず、体の細胞、一つ一つに魔力を流すイメージをする。闇属性へと変換したものをだ。次いで、身に着けているものにも魔力を流していく。
これは、最近習得した魔法。
身体、服の全てが漆黒へと変わり、魔力体そのものとなる。
属性変幻・闇
この魔法の有用性は、メアリーとの闘いで身に沁みている。これで、バレることはないだろう。
「じゃあ、行きますか!」
ここは地下。光は松明だけであるため、影の中に潜むことなど造作もない。
影の中を移動し、やがて、降りてくる兵士たちの横へとたどり着く。
「……ん?なんだ?」
(おっと、気配に敏感な人がいたのか)
キョロキョロと周囲を見回すひとりの兵士。しかし、真横で影となっているリュートに気づくことはできなかったようだ。
(それじゃあ、行動開始!)
リュートの影から、触手のようにして影が出てくる。
「う、うわ!なんだ!?」
「敵か!?」
「キモッ!」
横から急に黒い触手が出てきて、自分たちに触れきたのだ。兵士たちは一気にパニックとなる。
(ははっ。ナニコレ、面白い!)
彼らの慌てぶりを見て可笑しくなり、つい笑ってしまうリュート。しかし、いつまでも遊んでいるわけにはいかない。すぐさま捕縛に入る。
逃げる暇も、助けを呼ぶ暇もなく、兵士全員が影の触手たちによって壁に縫い付けられる。
「ムグゥッ!?」
「ではみなさん、おやすみなさい。眠り雲」
リュートが魔法を放ち、兵士たちを眠りへと誘う。やがて、兵士たち全員は壁にくっついたまま、眠るというおかしな状況となった。
「よし、これでオーケー。それじゃあ行ってみよう!」
再び階段を上り出すリュート。「属性変幻・闇」は既に解除しているため、自分の足で進む。
やがて、またもや大きな扉の前へとたどり着く。ここで再確認を行う。
「……よし、向こうには人はいないようだね。あ、そうだ。もしかしたら魔力を感知できるような凄腕がいるかもしれないし、気をつけていこう。……まあ、バレてもそれはそれで面白そうなんだけどね」
非常に楽観的な考えを持ったまま、扉を開けて出るリュート。
そこは多くの武器、鎧などが置かれている。おそらく武器庫だろう。しかし、なんとも数が多いことである。おそらく、千人分ほどはあるだろう。
「これだけの数だと、そうとう大きな組織なのかな?」
とりあえず武器庫内を見て回るが、リュートの琴線に触れるような武器はなかったため、さっさとこの場を離れることにする。
外は武器庫があるとは思えないほど美しい庭園だった。一瞬、その美しさに目を奪われるリュート。
そして、その美しい庭園の先に見えるのは、シュベリア王国で見た王城よりも大きな城だった。ただし、所々に大砲にも似た鉄のかたまりが置いてあるため、要塞ともいえるかもしれない。
「ここは一体……」
呆然とするリュート。城の様々な場所に兵士がいる。見回りなのだろう。彼らに気づいたリュートは、急いで物影に隠れる。
「とりあえず、この辺全体を見たいな。となると、なるべく高い所がいいんだけど……」
そう言って城を見てみるが、警備が厳重であるため、どこにも行けそうもない。しかし、一つだけ、良い場所を見つけた。
「やっぱり高い所なら、あそこが一番だよね」
そう言うなり、すぐに浮遊魔法を使い、全速力で城の屋根へと飛び移る。普通なら見つかるだろう。しかし、リュートの全速力は尋常じゃないくらい速い。たかが見回りの兵士程度なら、目の前を通っても突風が吹いたくらいにしか思わないだろう。
「うわ~~。すごい景色だなあ。王都と同じくらいかも?」
リュートの視界に広がるもの。それは、非常に活気のある街の風景だった。
街の大きさなら、シュベリア王国よりも上かもしれない。人々の数がとにかく多い。
「これだけの数の人口と街の大きさ、それにこの城の形からして……もしかしてここって、ウェスペリア帝国?」
先ほど見た騎士風の男たちの見事な連携も、帝国の兵士というなら納得できる。ウェスペリア帝国は、実力主義なため軍事力だけなら間違いなく大陸一と言われているのだから。
しかし、不思議である。何故、帝国の者がシュベリア王国近辺をうろついていたのか?
それを探ってみることにしたリュート。
「さてと……ん?あれは……訓練かな?それにしても、本当に真面目に取り組んでいるんだなあ」
視力のいいリュートは、ここからでも下の様子がはっきりと見える。兵士たちは鬼気迫るほどの様子で訓練に取り組んでいる。彼らの表情に少しひっかかりを感じつつも、リュートは城の内部に探りを入れる。
「……うわあ。さすが、軍事力ナンバー1の国。かなりの実力者ばっかりだ」
魔力で探ってみると、常人ではありえないほどの魔力を持ったものが15人ほどもいる。気配も今まで見てきた人間に比べ、圧倒的に高いため、この国は普通ではないことがはっきりわかる。
しかし、力の権化とも言えるリュートだ。驚きはするものの、驚異には感じない。まあ、リュートのように普段から力を隠している者もいるのかもしれないが。
感知してみて一つ気になることがある。
リュートが現在いる城のてっぺん。そこから少し離れたところにある塔のような建物の最上階にあたる部分から、不思議な魔力を感じるのだ。
魔力は間違いなく人間。しかし、どこかリュートやメアリーのような、竜の持つ魔力にも似ている。それでいて、とても清らかな魔力であるのだ。
初めて感じる魔力に非常に興味を持ったリュート。もちろん、調べることにした。
現在、リュートの立っている場所から目当ての塔までの距離は、目測で40mほど。
それをリュートは……。
「ほいっと」
いとも簡単に跳んでいった。浮遊魔法は使っておらず、100%身体能力のみである。人の姿をとった龍神は、誰にも気づかれることなく、城から登へと移った。
「さて……。変わった魔力の正体はっと」
塔の最上階には大きな窓が取り付けられており、そこから中を覗くリュート。もちろん、気づかれないよう、最大限の注意を払ってである。
中は、広い、しかしひどく殺風景な部屋があり、隅に椅子が置いてある。灯りはついておらず、一つしかない窓と日の位置は真逆であるため、部屋の中は薄暗い。
そんな部屋の中にあるたった一つの椅子に、まるで輝くような存在を放つひとりの少女が座っていた。
おそらく、歳はカレンと同じか、少し下というくらいだろう。ウェーブのかかった紅葉のような紅い髪から、おそらく火属性。小さな顔は幼く、可愛らしい。躰つきも大人になりかけだが、まだ幼さを残すところが多いようだ。将来、とんでもない美人になるであろうことを予想するのは容易である。
しかし、リュートは別のあるものに目を惹かれた。
少女には、九つの毛並みの綺麗な尻尾と、狐の耳があったのだ。
(あ、あれはまさか、ゲームとかで有名な九尾の獣人!?)
テンションが上がるリュート。九尾の妖狐は、物語では強キャラとしてよく扱われている。そんな存在が、目の前の部屋の中にいるのだ。ゲーム大好きなリュートからすれば、テンションが上がらないわけがない。
しかし、腑に落ちないことがある。部屋の中には彼女しかいなため、不思議な魔力は彼女から感じることになる。
しかし、何故そんな彼女が、こんなさみしい部屋に一人でいるのか。
何故、竜の魔力に似ているのか。
何故、そんなにも悲しそうな顔をしているのか。
不思議と胸が痛くなったリュートは、事情を聞こうと決意する。
「さすがにこのカッコはマズイかな?せめてフードだけでもとっておこう」
目深くかぶったフードを取り、美しいなめらかな銀の髪が露になる。今までのリュートは非常に怪しい格好だっため、これでかなり落ち着いただろう。
塔の中には部屋の中に少女が一人と、部屋の外に二人。おそらく、少女の護衛もしくは監視を任されている者たちだろう。
見つかってはゆっくり話すことはできないため、先に部屋の外の二人を片付けることにするリュート。
右手に銀に輝く魔力、すなわち、龍神のみが扱える混沌属性を纏い、屋根に触れる。
『消滅』
この魔法によって、兵士二人の頭上に音もなく穴があく。まるでそこには元々穴が開いていたのかと思えるほど自然に穴ができたため、下の兵士たちは気づいていないようだ。
(悪いけど、眠ってもらうよ)
心中で呟き、たった今できた穴から下に降りるリュート。
兵士たちのちょうど間の位置へと降りたリュートは、素早く片手づつ兵士の口を塞ぎ、声を出させないようにする。彼らも侵入者にやっと気づいたが、今ではもう遅い。すぐさまリュートが『眠り雲』を発動、二人を眠らせてしまった。
この間、わずか2秒。兵士たちは抵抗することも、声を出すことさえもできず、何も分からぬうちに終わってしまった。
「我ながら、見事な手際だなあ。僕って実は、スパイとか向いてたりして」
リュートならば、本気を出せば誰にも気づかれることなく、完全な暗殺が可能である。しかし、その考えまではたどり着かないリュート。
「よし、それじゃあ行ってみよう。これでやっと、あの子と話せるや」
またもや右手に銀の魔力を纏い、扉へと触れるリュート。今度は穴ではなく、扉をまるごと『消滅』させた。
部屋の中には、彼女がいた。
外の異変を感じていたのだろう、席を立ち、窓側まで寄っている。その顔には怯えと不安が浮かんでいる。
「な、何者じゃ……?わら、妾に何か用かの……?」
まさかの年寄り口調に若干反応するが、今は気にせず、彼女に近づく。
しかし、それではさらに怯えてしまったため、部屋の中心で立ち止まる。
塔の中に監禁された、幼い少女。
そこへ侵入する、ひとりの男。
部屋の中は薄暗く、あるのはベッドと椅子のみ。
こんなシチュエーションでは、言うことは一つだろう。
怯える少女を安心させるため、そして、自分の一つの目的のために、リュートは精一杯の明るい声と茶目っ気で、彼女の問いに答える。
「泥棒です♪」
なんとか書き終わりました。
騎士たちの正体がはっきりしました。何故、王国周辺にいたのか、少女は何者なのか。これから何が起こるのか。
それらは次回かそのさらに次の回くらいで明らかになります。
感想等、よろしくお願いします_(._.)_




