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大会3日目・準決勝

今日は大会3日目。いよいよ準決勝が始まる。


現在リュートは、他の準決勝出場者3人と一緒に選手の控え室にいる。今から準決勝の対戦カードをくじで決めるのだ。リュートは映像魔法具を見ながら、誰と最初に戦うのかとワクワクしている。もちろん正体は隠しているため、周りには知られてはいないが。


『さあ、皆さんお待ちかね!ついに準決勝の対戦カードが決まります!方法は簡単』

『方法は簡単です。司会のシューベントさんが選手の名前が書かれた紙を箱から取り出し、その順番で試合相手と試合順が決まります。もちろん、不正は一切ありません』

『それでは!そろそろ始めたいと思います!』


観客も選手たち4人も声を出さずにじっと待っている。皆、進行役二人の決定が気になっているのだ。


『……出ました!第一試合の一人は、Bグループ勝者、バルト選手です!』


  ワアアアア!!


その瞬間、観客たちは一斉に湧いた。控え室では、「私が最初か……」と、にやりとした笑みを浮かべて喜んでいる。彼は戦闘好きなのか、それとも勝つ自信があるのかはわからないが、この決定に不満はないらしい。


そうしてクジは続けられ、全ての対戦カードが決定した。



第一試合・バルトVSディアント・A・スレイン

第二試合・エスケープVSリュート・カンザキ



くしくも、1日目の勝者どうし、2日目の勝者どうしの対戦となった。


『これは面白い組み合わせかもしれませんね。一試合目は【水炎vs氷炎】、精霊魔術士同士の戦いです』

『楽しみですね!では、第一試合は15分後に開始います!バルト選手、ディアント選手は準備をしてください!』


その頃、控え室では選手たちが激しいにらみ合いをしていた。まるで、優勝するのはこの俺だ!と言わんばかりに。


ただし、リュート以外は、であるが。


(あのでかい獣人が相手か。力はありそうだけど……楽しめるかな?)


まさか、怪しさと冷たさを感じるその格好の中で、そんな呑気なことを考えていたとは、他の3人にはわかるまい。


やがて第一試合の出場選手二人は扉を出て行き、闘技場へと向かった。2m越えの巨大な体格の男と二人きりになったリュートは、少し嫌そうな雰囲気が体中からにじみ出ている。


まあ、狭い部屋に大柄の筋肉ムキムキのおっさんと二人きり。誰でも嫌だろう。リュートは部屋の隅へいき、なるべくエスケープと距離を取ることにした。







 ***


『では、始めたいと思います!準決勝第一試合、選手のお二人、それから観客の皆さん!準備はよろしいですか!それでは、スタ――トォォォォ!!』


そして、ついに試合が始まった。


「まさか、私以外にも精霊と契約を結んだものがいるとはね。だが、私に勝つことはできないのだよッ!」

「それはどうかな?」


二人はまずは小手調べといわんばかりに、魔法を放った。ディアントは通常の魔法、彼の本来の属性である水の魔法を。バルトは氷の槍を作り出して放つ。


そして二つの魔法はぶつかり、お互いに相殺した。


「さすがだね。でもこれはどうかな?」


ディアントは相殺されたのを見るや、すぐさま次の魔法の詠唱に入る。


「水よ集いて形を成せ。その身は敵を打ち尽くす怪物なり。“水神顕現(ザ・クラーケン)”」


その魔法が発動し、ディアントの周囲に大量の水が発生、8本の大きなムチのようなカタチになる。その光景はまさしく大蛸の足であり、クラーケンと呼ぶにふさわしいだろう。


ディアントは8本のムチを自在に操り、バルトを狙う。バルトはなんとか避けてはいるが、流石に8本もあると、全部を躱すのは無理だったのだろう。一撃もらってしまった。


「ぐっ!?……なるほど、やるな……」


この魔法は大技ということもあり、それほど長持ちはしないのだろう。バルトに一撃与えたあと、魔法を消してしまった。


「意外と逃げるのも上手いようだね……」

「魔法使いは足が止まるから、狙われ易い。これくらいはできて当たり前だ」

「……君は貴族に対しての口の聞き方を教わったほうがいいよッ!!」


どうやら、ディアントはバルトの口の利き方に不満だったようだ。怒ったディアントは、ついに火の精霊魔法を発動させる。


「炎精召喚!“大炎界”!」


以前も出た赤い人形のような子供が現れ、膨大な魔力と共に発動された。彼の右の手の平から生まれた炎は、やがて大きさを増し、巨大な炎の渦となってバルトを襲う。


「ッ!?……“氷炎地獄”!」


さすがにまずいと思ったのだろう。バルトも大魔法を発動させる。しかし、発動させるのが遅かった。既に目の前まで迫っていた巨大な炎の渦と氷炎が、バルトの目の前でぶつかり合った。炎同士が相殺し、氷で地面が凍った。巨大な魔力のぶつかり合いによる余波はバルトを襲い、壁に激突させた。



もともと魔法使いというのは後衛として剣士たちのサポートをするのが一般的だ。そのため、体はそれほど強靭ではない。それはAランクの冒険者であるバルトも同じこと。


したがって、バルトは既に片膝を付き、息を切らせてリタイア寸前なのである。これを勝機とみたディアントは、トドメをさしにかかる。


「この試合、私の勝ちだ!君は礼儀を学んで来るんだな!」


そういってディアントは精霊魔法で火球を両手につくり、バルトへと近づく。高笑いしながらゆっくりと近づくディアントは、余裕を見せている。


「終わりだ……あ?」


バルトに止めをさそうとしたその瞬間、ディアントの体が止まった。見てみると、ディアントの体を大きな氷の槍が貫いていた。その氷は、先ほどの魔法で凍った地面から出ていた。


「な……この私が……!?」


その言葉を最後に、ディアントは脱落、控え室に強制送還された。その顔は、信じられないという表情を浮かべていた。次いで、全ての魔力を使いきったのだろう、バルトも倒れ、控え室に送還された。


『しゅ、終了!ゆいに決着がつきました!なんと勝者は絶体絶命と思われたバルト選手!壮絶な逆転劇だ――――ッ!!』

『二人の高度な魔法戦には目を見張るものがありました。しかし、自分の代名詞ともいえる魔法でさえ捨て石に、体を張って次の魔法を仕掛けたバルド選手には、恐れ入りますね。ディアント選手もあそこで油断して近づくのではなく、離れた位置で魔法を放てば勝てたものを。まさしく油断大敵ですね』

『そうですね!しかし、フィールドには誰もいないというこの状況が、二人の戦いの壮絶さを物語っております!皆さん、二人に盛大な拍手を!!』


こうして、盛大な拍手と共に、第一試合は終了した。







 ***


貴族席にて、一人の男が怒りに震えていた。ディアントの父である、ディール・A・スレインだ。


「あのバカ息子が!!大勢の前で恥を晒しおって……!」


周囲の者たちは、彼のあまりの雰囲気に声をかけることができない。ディールの顔が怒りで真っ赤になっている上に、全身からどす黒いオーラが見えそうだ。


一方、送還されたバルトとディアントは、現在医務室にいる。といっても、全てのダメージが精神ダメージへと変換されるので、最低でも夜までは目覚めないだろう。


二人の違いは、バルトがどこか満足げな顔を、ディアントが苦しんだ顔をしていることだろう。


ディアントは何か悪夢でも見ているのかもしれない。








 ***


『次は、準決勝第二試合目です!選手は、巨漢の獣人・エスケープ選手と、正体不明の怪しげな出で立ち、しかし、強大な魔力の持ち主であるリュート選手です!』


『リュート選手は予選では強大な魔法を放ち、圧倒的な勝利を収めました。対して、エスケープ選手は巨大な剣で相手をなぎ倒していました。この試合、魔法VS力の勝負になるでしょうね』


『なるほど!ありがとうございます!それでは、始めたいと思います。準決勝第二試合、開始ッ!!』


シューベントの合図と観客の歓声と共に、試合は開始された。


「がっはっは!!お前、運がないなぁ!この俺と当たっちまうとは!お前のような細い体のチビが俺に勝てるわけねえからな!」


そんなことを喚いているがリュートは全く聞いていない。うるさすぎて早くも聞くのを止めたというのもあるし、今回はどうやって戦おうか、などと考えているからだ。


(昨日の試合は魔法だったし、今日は刀、かな?)


考えのまとまったリュートは、フードで隠しつつ、アイテムリングから買ってまだ使ったことのない大剣を取り出した。装飾は一切なく、ただ、斬ることと耐久性の二つにのみ着眼して造られたこの剣は、不恰好ながらも不思議な魅力を持っていた。


その魅力に引き込まれたエスケープは、一瞬呆然としていたが、すぐに獰猛な笑へと変えた。


「お前、魔術師なんだろう?なら、そんなでかくて変な形の剣を、その細っこい体で扱えんのかぁ?」


そうは言うが、先ほどとは違い、少しリュートを警戒している。さすがに、104人の中の頂点にたっただけはある。


エスケープはその巨体に似合わず、素早い踏み込みをしてきた。そのまま大きな気合と共に、その大剣を渾身の力で振り下ろす。


(とった!)


エスケープはこれはいける!と確信した。リュートは腕をダランと下げ、自然体のままで立っている。不意打ちのような攻撃に、その体では受けることはできないだろう、と。


しかし、その確信の笑みは、一瞬で驚嘆の顔へと変化することになる。


ガキィィン――――


剣と剣がぶつかり合う音が鳴り、それは闘技場内に響き渡った。やがて静寂となり、エスケープの「嘘だろ……!?」という呟きのみが聞こえた。


リュートは大剣を止めていた。自分の全力で振り下ろした剣を受け止めていることも驚きだが、それ以上に巨大な剣を持つのが右手のみということが、一番の驚きである。


『と、止めた――――!?リュート選手、その細い体でエスケープ選手の渾身の一撃を、あっさり受け止めました――!!』


リュートは身長は175cmあるかないかというくらいであり、成人男性の平均が180cmほどのこの世界では、どちらかと言えば低い方にあたる。対して、エスケープは2m越えであり、体格も大柄VS小柄である。


本来そんな二人において、力勝負では話にならないはずのリュートが平然と受け止めた。この光景を見ていた全ての人々が仰天したことだろう。


(な、なんだこいつは!?俺の全力を簡単に受け止めやがった……。こいつは化物か!?)


その通りである。いや、リュートなら化け物でも生易しいかもしれない。


エスケープは何も言ってこないリュートに、徐々に恐怖を抱き始めた。そして、がむしゃらに大剣をふりまわすようにして攻撃を仕掛ける。


そのひと振りひと振りが力強く、それなりに速い。ブォォン、ブォォンという風切り音がなっている。


しかし……


「くそ!?なんで当たらねえ!?」


リュートは避ける。大剣は肩に乗せ、足捌きのみで躱しているのだ。その姿は優雅で、まるで舞を舞っているかのようである。必死に大剣を振っているエスケープにはわかるまいが、観客たちは、またもや魅了されている。


「じゃあそろそろ、終わらせるよ」


その終了宣言を告げたリュートに、エスケープの顔は憤りで歪み、つい大振りをしてしまう。避けるのは容易く、躱してしまえば大きな隙が生じる。


もちろんリュートはその隙を見逃さず、左足を軸にして右足で見事な足刀蹴りをお見舞いした。


ドゴォォ!という音とともに、エスケープの巨体が水平に吹っ飛んだ。なんとか踏みとどまるも、足は震えており、今度は苦痛で顔が歪んでいる。目を上げたその先にはリュートはいなかった。


「ど、どこに消……え……」


その言葉の先を言えずに、エスケープはフィールドから消えた。脱落となり、強制送還されたのだ。エスケープが最後に見た視線の反対の位置に、リュートはいた。


リュートはエスケープを蹴り飛ばしたあと、即座に詰め寄り、大剣を一閃、銀の剣筋と共に、エスケープを真っ二つにした。もちろん真っ二つというのは表現であり、実際はそのまま精神ダメージとなっただけである。


エスケープは斬られたことにも気づいていなかった。それだけ、、リュートの腕が見事だったのだろう。


リュートは大剣をを一振りし、アイテムリングの中にしまう。そして一言。


「ふう、難しいと思ったけど、大剣って意外と簡単に使えるね」


普通はできないのだ。それをなんともないかのようにできてしまうのが、リュートの本当に恐ろしいところである。


そして、大きな歓声とともに、静寂は破られる。


『決まった――!!決勝進出は、リュート選手に決定でぇすッ!!』


『驚きましたね……彼は完全に魔術師タイプだと思っていましたが、まさか前衛もこなす万能タイプだったとは……』

『素晴らしいステップに、(わたくし)、つい見惚れてしまいましたッ!』

『仕方がないと思いますよ。しかし、リュート選手があれでFランクとは……実に信じがたいですね』

『そんなの今はどうでもいい!!これで明日の決勝はバルト選手VSリュート選手に決定だ――ッ!!みんな、明日は必ず見に来いよな!生で見ないと絶対損すんぞ!!』

『落ち着いてください!キャラが壊れていますよ!?』


珍しく焦った様子のカルニアとテンションが上がりすぎて壊れたシューベント。そんな二人の様子に観客席から笑いが起こる。そして、3日目の試合が終了した。







 ***



リュートはご機嫌であった。3日目が終了し、あとは翌日の最終戦のみだからである。


「あのバルトって人の魔法、面白そうだなぁ。戦ってみたかったんだよね。それに、明日勝てば賞金として白金貨10枚がもらえる。明日が楽しみだ!」


屋台を物色しながら、宿へと向かうリュート。現在フードと仮面はとっている。そのため、リュートの満面の笑みの犠牲者が続出しているとも知らずに。



やっと書き終わりました。


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