大会2日目C・D
今日は大会2日目。本日午後からリュートの試合である。リュートは期待と興奮で胸を膨らませ、闘技場までの道を進む。
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『さあ~いよいよ始まります!剣闘大会2日目、午前の試合はCグループです!昨日はとても白熱した試合を見せてもらえましたが、今日はどうでしょう?解説のカルニアさん』
『皆さん、おはようございます。それでシューベントさん、質問の答えですが、もちろん、と言えます。まだ残り208人もの出場者がいるんです。昨日とは違った、熱い戦いを見せてくれるでしょう』
『なるほど、ありがとうございます。――おおっと、選手が入場してきたようです!おや?Bグループの試合とは逆に、Cグループは戦士が多いようだ!まあいい!皆さん、準備はよろしいですか?それでは、予選Cグループバトルロイヤル、かいしぃぃぃぃいいいッ!!!』
大会三度目の、始まりを告げるゴングが鳴った。それと同時に、選手たちが各々の戦闘スタイルを惜しみなくさらしていく。
「うおおおおおお!!」
「チェストォオオ!!」
「こんのやろォオ!」
『さ~て始まりました!早くも脱落者続出!しかし、なんと迫力のある闘いなのでしょう!そして、むさくるしい男どもの闘いの中、唯一の救い、女剣士(匿名)が奮闘中!頑張れぇぇぇ!!女剣士ちゃぁぁああんっ!!』
『贔屓はやめてください。司会は公平に、ですよ。まあ確かに、応援したい気持ちもわかりますが……』
やはり、激しい剣撃に耐えるのはきついのか、少数の魔法使いや遠距離の攻撃を基本とする者たちは、数に押されて既に脱落している。
一人奮闘している女剣士(匿名)は、顔をフルフェイスの鎧で隠してはいるが、そのスタイルから女性とわかる。彼女はスピード重視の闘いらしく、猫のような身軽さで相手を翻弄し、一瞬で隙をついて剣で斬る。
そんな闘いを繰り返し、10人、20人と倒していく。しかし、徐々に動きが鈍くなっていき、やがて倒した数が30人をを超えたところで男二人ががりでやられ、脱落してしまう。
『ああ!唯一の華が……』
『落ち込みすぎです。これはバトルロイヤルなんですから、別に卑怯なわけではありませんよ?』
観客からも残念がる声が聞こえてくる。彼らも女剣士を応援していたようだ。中には二人を罵倒するものまでいる。
ちなみにその二人は罵倒が聞こえていたらしく、心が折れたのだろう、簡単に脱落してしまった。
徐々に選手が減っていく。だが、ハッキリ言おう。この試合は、前二試合に比べると明らかにレベルが低い。女剣士も脱落したため、観客たちも若干冷めているようだ。
しかしそんなことは選手たちには関係なく、皆必死で戦っている。やがて、勝者が決まったようだ。勝者は大猿の獣人らしく、2mを超える巨漢であり、大きな大剣を持っている。
本人は「ウホォォォウ!!」とか、「やったぜぇぇぇええ!」などと叫んでいる。
『おおっと、勝者が決まったぁぁ!Cグループの勝者は大猿の獣人、エスケープ!彼の大剣は岩をも粉砕する、らしい?』
『私に聞かないでください。それよりも、A・B・Cグループの勝者が決まり、残すはあとDグループのみとなりました』
『その通りです!お昼の休憩を挟み、午後からDグループの試合があります!皆さん、気を取り直して行きましょう!』
***
今は試合後の昼休み。控え室から一人の選手が出て来た。例の女剣士である。
彼女は人通りの少ない場所へ行き、フルフェイスをとった。仮面の奥から現れたのは、なんとミーナであった。
「ふう……負けてしまいましたか。やはり腕が鈍っていますね」
実は彼女、もとBランクの冒険者だったりする。冒険者時代からカナとは親友であり、とある理由から冒険者をやめた時にカナに誘われて受付嬢をやっているのだ。
今回はリュートが試合に出ると聞き、カナから半ば無理やり出場させられたのである。
「まあいいです。残りは観戦を『ミーナさん!』……はい?」
いつの間にか、ミーナの目の前にはリュートがいた。仮面やフードはとった状態でだ。
(いつのまに?いくら元とはいえ、私はBランクの冒険者だったんですよ……?)
「えと、あの、どうしてリュートさんがここに?」
「ミーナさんを探してたんだ。さっきの試合、惜しかったね」
「ッ!?私がさっきの試合に出場していたこと、知ってたんですか!?」
「いや、試合中に気づいたんだ。気配とか魔力とかで。今日は観客席で観ていたからね」
「……やっぱり、リュートさんって何者なんですか?」
つい聞いてしまうミーナ。それに対して答えるリュート。
「今は秘密です♪」
その顔は悪戯っぽい笑みを浮かべており、実に蠱惑的な笑みである。その笑みを直接目の前でみせられたミーナは顔を赤くし、顔を背けてしまう。
(相変わらず、とてつもない破壊力ですね……)
なんとか落ち着き、再び質問する。
「今は、ということは、いつか教えていただけるんでしょうか?」
「もちろん。いつか必ず」
「ならいいです。私は負けたので、もう試合はありません。観客席で観戦します。以前も言ったとおり、リュートさんを応援しますね。頑張ってください!」
今度はミーナが魅力的な微笑を浮かべ、リュートが頬を赤く染める。先ほどとは逆である。
「はい!」と力強い返事をし、再び仮面とフードをつけて控え室に向かう。その背中がどこか頼もしく感じたミーナは、リュートの姿が見えなくなるまでその場で見守っていた。
***
昼の休憩が終わり、Dグループの選手が入場してきた。その中にはリュートもいる。もちろん、例のおかしな格好をしている。
『さあ、いよいよ始まりますよ!ついに、最後の勝者が決まります。皆さん準備はよろしいでしょうか?それでは、いきたいと思います!予選Dグループバトルロイヤル、開始ですッッ!!』
「よし、まずは様子見だな」
リュートは相手を倒すことはせず、フィールド内を歩き回る。時折、人がとんできたり、魔法がとんできたりもするが、危なげなく避けている。
「へ~これがフィールド内の光景か。映像で見るのとは違うなぁ」
やはり、リュートの格好は目立つ。狙われ易いらしく、何人もの選手がリュートに襲いかかるが、本人はぬらりくらりと躱していく。
「なんだこのやろぉッ!?」
「当たらねえぞッ!?なんだこいつ!!」
「ならば魔法だ!」
そう言って、今度は魔法を放ってきた。炎が、風が、リュートを襲う。しかし、まるで踊っているかのような鮮やかなステップでやはり躱されてしまう。
『怪しげな格好の選手が何人もの選手に襲われるが、全部躱している!すごいぞ、避ける技術は一流だぁぁーーーッ!!』
『なんで攻撃しないんだろうね……?』
どうやらリュートを狙うのは無駄だと判断したらしい。そうなると当然、今度はお互いを狙い出す。
「なんだ、もう終わりか……せっかく面白かったのに……」
リュートは狙われる状況を楽しんでいた。わざと攻撃しなかったのも、長く楽しみたかったからだろう。
リュートの目の前では激しい闘いが繰り広げられているが、リュートは見ているだけだ。
あちこちで「オラァ!」や、「ブフォァッ!」などの声が聞こえてくる。脱落者は意外と少なく、粘りに粘っている選手が多いようだ。
「まあ、結構楽しめたし、そろそろ――終わらせよう」
そして、リュートはフィールドの中心へと向かう。
その瞬間、リュートの全身から大きな魔力が溢れてきた。その魔力はBグループのバルトより大きい。
「な、なんだこの魔力は!?」
「あの仮面野郎からぞ!?」
「と、止めろぉぉ!!」
どうやら気づいたらしい。魔法が発動する前に止めようと、一斉にリュートへ飛びかかる。しかし――
「“円陣爆炎”」
一言。そのたった一言をつぶやいた瞬間、リュートの周囲が爆発した。まずリュートを止めようとした者たちがまともにくらい、脱落する。しかし、そのままでは終わらず、爆炎はフィールド一体に広がり、全ての選手を巻き込んだ。
煙が徐々にはれ、フィールド内の様子が見えてくる。フィールド上に立っていたのはわずかに一人。リュートのみである。全員、今の一撃で脱落したようだ。
『『・・・・・・』』
「「「「「「・・・・・・・」」」」」」
進行二人も観客も、呆然として固まっている。この瞬間、国中から音が途絶えた。リュートはシューベントの方を見上げる。
銀の仮面の赤い目がこちらを向いていることに気づいたシューベントは、なんとか声を搾り出す。
『え、えっと……しょ、勝者、Fランクの冒険者、リュート・カンザキ!!って、ええッ!?Fランク!?』
選手名簿で確認し、名前を見つけたシューベント。しかし、そこに書かれていたリュートのランクに、驚きを隠せないようだ。
その驚きの声を機に、他の人たちも再起動し始めたようだ。国中からも、再び音が戻った。
「な、なんだったんだ一体……?」
「あれでFランク?何かの間違いじゃ……」
あちこちでざわめきが起こる。今の光景は、それほど強烈だったのだろう。
「リュートさん……まさか、これほどとは……」
ミーナも驚愕していた。リュートはそれなりに強いことは分かっていたが、まさかこれ程までに強く、大きな魔力を持っていたとは思わなかったのだ。
『お、驚きを隠せないのはわかりますが、とにかく、これでトーナメント出場者が4人、決定しました!明日はいよいよ準決勝が始まります!今日の驚きは、明日へとっておきましょう!』
『それでは皆さん、また明日会いましょう』
進行二人がの挨拶と共に、大会二日目が終わった。
Ⅽグループ勝者:エスケープ(大剣使い)
Dグループ勝者:リュート・カンザキ(魔法使い)
ついにリュートが出てきました。
次回は少し、ユスティ姫sideを入れてみたいと思います。彼女は一応、祭りの主役ですからね!




