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第十六話 侵略武装

「はあ……! はあ……! はあ……!!」


 シン・ガルーニャは、無我夢中で砂漠を走っていた。

 脳裏に浮かぶのは、マギア―という戦闘人形の姿。

 

「くそ! なんな武器を使われたら、さすがのカルラも……!! 早く……早く伝えねぇと!!!」


 シンは、情報を集めるためにモルドフのところへ潜入していた。

 わざわざ肩まで長かった金色の髪の毛を、赤く染め、短く切った。潜入は成功し、仲間達のために情報を得ようとした矢先だ。


「邪魔だ!!」


 進行方向に現れた体中に針を生やした魔物―――ザボンを曲刃剣で一閃。

 そのまま駆け抜ける。

 

「こんな剣じゃ……!」


 シンが使う剣は、かなりの業物だ。

 しかし、その業物でも、マギア―がモルドフ達へと与えた武器と比べれば天と地の差。今でも、脳裏で再生される。

 魔力が少なく、ほとんど魔法が使えない者が身の丈ほどある筒状の武器を使ったことで、青白い光を放ち、大地を抉った。

 

「シン!!」

「カルラ!?」


 目的地へ行く途中で、カルラと遭遇する。

 傍には、妹のシェラもおり、駆け寄ってくる。


「どうしたんだ、お前達?」

「俺は、周囲の警戒だ。最近は、魔物達も活発化しているからな」

「シェラは、手伝いか?」

「う、うん。私だって、魔法を使えるんだから。カルラさんの支援ぐらいはできるから」


 偶然とはいえ、早々に出会えたのはシンにとって好都合。

 

「カルラ。聞いてくれ。実は」

「―――シン!!!」


 自分がここに居ることを説明しようとした刹那。

 カルラが、剣を抜き放ちシンを押し退ける。


「ぐっ!?」

「カルラさん!!」

「へっへっへ!」

「なんだ、この武器は……?」


 モルドフの部下の一人だった。刀身が青白く輝いている。まるで、魔力が刃となっているかのようだ。


「魔剣?」


 シェラは身構えながら呟く。

 だが、シンはそれに対して違うと首を横に振る。


「気をつけろ、二人とも! あれは、侵略者の武器だ!!」

「侵略者?」


 シンの焦りのある言葉に、カルラは魔力により身体能力を向上させる。そして、水属性の魔法を唱え、四本の水の剣を生成した。

 本来なら、カルラに圧倒される。

 いくら強い武器を装備しようと、それは変わらない。

 ……ただの武器ならば。


「そこを退けぇ!!!」


 また違う男の声が砂漠中に響き渡る。

 

「まずい!?」

「え?」


 光の剣を構えていた男が、横に跳ぶと背後に筒状の武器を構えたもう一人の男が居た。

 筒の先端には、青白い光―――魔力が収束していた。

 魔法か? カルラは即座に判断し、水の防御壁で防ごうと魔力を練り上げる。


「防ぐな!!」

「シン!?」


 がしかし、事情を知っているシンがカルラとシェラの手を引き、大きく横に跳ぶ。


「くらいやがれぇ!!!」


 同時に、筒状の武器から一筋の光が放たれる。

 それは、カルラ達が先ほどまで居た場所に着弾し。


「ぐっ!?」

「きゃあっ!?」

「ぐおお!?」


 爆発した。

 余波により、近くにあった岩は砕け、破片が砂塵に交じりカルラ達へ襲い掛かる。

 服は破け、体は傷つき、血が流れる。


「なん、だ……今のは」

「魔法? でも、あの人から感じる魔力は……うっ!」


 攻撃をしてきた男から感じる魔力を見て、シェラはこれほどの威力がある魔法を放てるはずがないと理解している。

 それはカルラも同じだ。

 収束していた魔力を見て、その威力を容易に防げる魔法壁を生成しようとした。


 だが、放たれたものは収束した魔力量からは考えられない威力だった。

 男が収束させた魔力量から考えて、放たれる魔法は大きく見積もっても中級。いや、中級とはいえ初級に近い。

 カルラは、二人を護るように剣を再び構え、男達を睨む。

 

「この威力……あの、武器のせいか?」

「そう、だ。モルドフの野郎。侵略者とかいうイカれた女と手を組みやがったんだ……!」

「侵略者?」

「ああ。世界を支配しようとしてるらしい……ぐっ!?」

「お、お兄ちゃん! 血が……!」


 立ち上がろうとしたシンだったが、腹部から多量の血が流れ、服が赤く染まっていた。


「さっきの攻撃が当たったのか?」

「いや……逃げる時、連中の攻撃を食らったんだ……!」

「まさかスパイが居たとははな」

「あの女が気づかなかったら、どうなっていたことか」


 自分達が有利な立場にあると確信しているかのように、男達は余裕の笑みを浮かべながら語り出す。

 が、その隙をカルラは見逃さなかった。

 

「ぐあっ!?」

「なにっ!?」


 男達の手から武器を弾くように、水の剣が飛んでくる。先ほど生成していたものを、吹き飛ばされた時に、相手から悟られないように配置していたのだ。

 武器を失った男の一人を水の刃を空中で突き付け、もう一人はカルラが直接剣を突き付けることで動きを止める。

 少しでも、変な動きをしたら仕留められるようにカルラは神経を研ぎ澄ませながら、口を開く。


「お前達。まさか、ザベラだけじゃなく世界も」

『―――そこまでですわ』

 

 第三者の声に、カルラは反応する。 

 決して、周囲への警戒を怠ったわけではない。だが、そいつは、まったく気取られることなく近づいてきたのだ。

 

 ―――空中から。


「ぐっ!?」


 襲ってくる光を、ギリギリのところで回避し、シンとシェラのところへ戻るカルラ。

 

『はあ……困りますわね。せっかく強い武器を与えたのに、さっそくやられるだなんて』

「シン。まさか」


 全身を白銀の鎧を纏い、鋼鉄の翼から青白い粒子を放出させながら、空中で留まっている仮面の女性―――マギア―を見て、カルラはシンに問いかける。

 

「あ、ああ。あいつだ。あいつが、モルドフ達に……」

『初めまして。わたしくし、マギア―と申します。この世界を侵略しようとしていますが、今は、一時の戯れとして、この方々の協力者をしておりますの』


 空中で、足組みをしながら挨拶をするマギア―。

 丁寧且つ上品。

 しかし、カルラはその陰に隠れて居るどす黒いものを感じ取り、冷や汗を流す。今までに感じたことのない感覚に、呼吸も乱れる。


「―――逃げるぞ、二人とも」

「カルラ、さん?」

「それが、いい。あいつは、やばい……」


 言ったはいいものの本当に逃げられるのか? カルラは、マギア―から目を放さず思考させる。相手は、自分の常識の範囲外の異星人。

 見たことのない武器を扱う侵略者。

 先ほどの攻撃もギリギリ回避したというよりも、相手がギリギリ当たらない位置に攻撃をした、とのだと思ってしまう。それほど、マギア―を強大な存在だと感じているのだ。


(けど、それでもやるしかない……!)


 砂埃に紛れて逃げようと、マギアーに見えないよう手のひらに魔力を集める。


『あら? 逃げますの?』

(気づかれた……?)


 いや、それでもやるしかない。


「行くぞ! シン! シェラ!!」

「ま、待てやぁ!!」


 遠くへ飛ばされた武器をようやく拾ったモルドフの部下達が叫ぶも、三人の姿はすでに小さくなっていた。


「お、おい! なんであいつらを攻撃しねぇんだ!?」


 剣を持った男は、空中に留まったまま何もしないマギア―に怖がりながらも訴える。


『なぜ、わたくしが? あの方々を倒すのは、あなた達じゃありませんの。さあ、早く追いかけないと逃げられてしまいますわよ』


 くすくすと仮面の奥で笑うマギアー。

 楽しんでいる。完全に楽しんでいる。男達の脳裏に浮かぶのは、マギア―が言い放った人形遊びという言葉。


「くそっ! 行くぞ!!」

「お、おう!!」

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