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第四十二話 繋ぎし絆

 宴を終え、太陽が天へと昇り、俺達はザベラ砂漠から去ろうとしていた。

 

「すまない。ほとんどの者達が、気持ちよさそうに酔い潰れていて起きてこないんだ」

「ふあぁ……まあ、俺達はほとほどにしてたから、お前達を見送ることができるわけだが」

「それにしても、もうお別れなんだね」


 オアシスから少し離れた場所には、カルラ、シン、シェラ、リオの四人が見送りとしていた。ちなみに、勇者一行は、すでに新たな地へと旅立っている。

 

「なぁに、別れと言っても一生ではない。いつでも遊びに来るがいい! そのために、渡したじゃろ?」


 カルラが手にしているのは、空間転移の術式を組み込んだ魔道具。ただ使う本人が一度行った場所でないと転移できないため、宴の最中にカルラ達とエンフィリノスの基地へと転移しておいたのだ。

 

「こいつで、いつでもお前らの基地にいけるんだよな」

「私、森なんて初めて見た……凄かったなぁ」


 ザベラ砂漠で生まれ育ち、一度も他の地へと言ったことがない彼らにとっては森は本当に珍しい光景だった。それは、反応を見れば明らかだ。


「いつでも歓迎します!」

「まあ、あたし達が居るかどうかちゃーんと連絡をしてね?」

「ああ。シェラが遠話魔法を使えるからな。ちゃーんと連絡してから行くとするぜ」


 遠話魔法は、会話する相手の魔力の波長を知っていなくてはならない。すでに、俺達の魔力の波長をシェラは知っているため、いつでも連絡することができる。

 そうそう。たくさん喋ろうぜくんもひとつ彼らに渡しておいた。これで、複数人と同時に会話をすることができるだろう。

 さらに。


「次に会う時までに、この赤き炎を扱えるようにしている。今度は、お前達の助けになれるように」

「わしの炎じゃ! しかと扱えるようになるのじゃぞ!! 言っておくが、生半可な鍛え方は許さんからの?」

「は、はい! もちろん、です」

「うむ! よい返事じゃ!! お前達もじゃぞ!!」

「う、うっす!!」

「は、はいっ!!」


 彼らの要望で永炎の絆によりフレッカの赤炎を灯した。まずは、俺がカルラに。彼とは少ない時間だが、確かな絆が生まれたと確信していた。

 だからこそ、炎は灯ったのだ。そして、カルラからシンへ。シンからシェラへと炎は灯っていき、ここに赤炎の使い手が三人となった。


「……」


 別れ前の会話もそろそろ終え、エンフィリノスの基地へ帰ろうとした時だった。ふと、リオがずっと俯いたまま会話の参加してこないことに気づく。

 

「フレッカ」

「わかっておるわ」


 ここは、フレッカに任せよう。


「ねえ、リオ。どうしたの? なんだか元気ないよ」


 リオの元へフレッカが歩み寄っていく中、ルビアが俺の右手を握り締めながら問いかけてくる。


「……フレッカと別れるのが、つらいんだ」

「お別れ……」

 

 俺達が見守る中、フレッカはリオの前で立ち止まる。


「リオよ」

「え? あ、フレッカ、ちゃん……えっと」


 ぎゅっと絵本を抱き締めながらリオは、何かを言おうとする素振りを見せるも、中々言葉が出ずにいる。カルラ達も、彼女の異変には気づいていたようで、心配そうに見詰めていた。


「ここでひとつ提案がある」

「て、提案?」


 フレッカの唐突の提案にリオは困惑している。


「うむ。これから、わしはお前に炎を灯そうと思う」

「そ、それって」


 リオも永炎の絆のことは知っている。実際、カルラ達が炎を灯した時に居たからだ。ゆえに、フレッカの言葉の意味も当然。


「もし、お前に炎が灯った場合。わしらの間には確かな絆があると証明される」

「……」

「しかし、炎が灯らなかった場合は」

「絆が、ない」

「そうじゃ。……さて、ここからが本題じゃ」


 フレッカは、リオの両肩に手を置き、真っすぐ目を見る。


「もし、お前にわしの炎が灯った場合」

「と、灯った場合?」

「お前を、わしの妹とする!!!」

「…………へ?」


 これには、リオだけでなく俺達も驚いてしまう。リムエスに至っては、やれやれと呆れていた。


「ちなみに灯らなかった場合は、友達のままじゃ」

「え? あ、あの。ちょっ」

「よーし!! いくぞ、リオ!!」

「ま、まっ!?」


 もはやフレッカは止まらない。ずっと驚いてばかりのリオを置いてけぼりにしたまま、フレッカは炎を灯さんと彼女に力を与える。


「ま、待ってー! フレッカちゃーん!!」

「待たぬわぁ!!」

「ぴゃああああっ!?」


 もはや強引である。こんな強引なやり方は初めてだ。本人の同意なく無理矢理にやっている……普通なら、こんなことじゃ炎は灯らないだろう。

 

「―――うむ」

「……こ、これって」


 しかし、結果は。


「灯ったようじゃの。わしの赤き炎が」


 彼女が落としてしまった絵本を拾いながらフレッカは、にかっと笑みを浮かべる。そう、リオの手の平には、小さいながらも赤き炎が灯っていた。


「温かい……」

「お、おぉ。まさか成功するとは」

「で、でも! これって、二人の間には確かな絆があるって証拠、なんだよね?」

「あ、ああ。そういう、ことになるな」


 ほっと胸を撫で下ろしながら、カルラ達は四人目の赤炎の使い手が誕生したことを喜んでいた。


「いやぁ、フレッカは相変わらずだーね」

「でも……フレッカにとってあの子は特別、なんだと思う」

「そのようですね」


 特別、か。そういえば、俺達と会うまではリオと一緒に行動していたって話してくれたっけ。


「くっははは!! わしは、全然心配などしておらんかったぞ!! 絶対、リオにはわしの赤き炎が灯ると確信しておったからの!!」

「え、えへへ」


 フレッカから絵本を受け取ったリオは、本当に嬉しそうな笑みを浮かべる。


「リオよ。お前は、今日からわしの妹じゃ! 家族じゃ!!」

「家族……」

「そうじゃ。家族となったからには、わしと共に自宅に帰らなくてはならない」

「それって」

「帰るぞ、リオ」


 リオのことを妹にすると言った時点で、なんとなく予想していたけど……強引だな、フレッカは。


「で、でも」


 ずっとフレッカと一緒に居られる。別れずに済む。家族を失った彼女にとっては、これほど嬉しい提案はないだろう。

 だが、それならば同じザベラの民であり、仲が良いカルラ達が居る。

 なによりも、フレッカと共に行くということは、自分だけこの過酷な環境から離れて、ここよりも豊かな生活をしてしまうことになる。


「……リオ」

「カルラお兄ちゃん?」


 迷っているリオを見かねて、カルラが声をかける。


「行っておいで」

「で、でも」

「もちろん、ただ行くんじゃない。君は……俺達ザベラの民の代表として、エンフィリノスの基地に行くんだ」

「わ、私が代表!?」


 どういうことなんだろう? とリオはカルラを見詰める。


「君が、ザベラ砂漠の外で見たもの、聞いたこと、経験したことを、俺達に教えるんだ。それが、これからのザベラ砂漠の未来に必ず役立つ」

「リオちゃん」

「シェラお姉ちゃん」


 続いてシェラが、リオの両肩に手を置き、視線を合わせて話しかける。


「本当は、リオちゃんと別れるのは寂しいけど……自分の気持ちに素直になって。ね?」

「そうだぜ」

「シンお兄ちゃん」

「こっちはこっちでなんとかしていくからよ。お前は、お姉ちゃんと一緒に外の世界を楽しんでこい」


 カルラ達の言葉を聞いたリオは、少し考える素振りを見せた後に、俺のことを見る。その意図を理解し、俺は静かに首を縦に振った。

 その確認を最後に、リオは再びフレッカと向き合い。


「さあ、手を取るのじゃ」

「……うんっ!」


 太陽のように眩しい笑顔でフレッカの手を握り締めた。

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