第二十八話 始まる砂漠大戦
三月最初の更新となります。
「いつでもいいぞ、カルラ」
俺は、ザベラの民であるカルラと対峙している。
決して、いざこざがあったわけじゃない。
これから行われるザベラ砂漠全土を巻き込んだ戦いに向けての準備。それは、いつもの日課である素振りをしていた時のことだった。
カルラが、真剣な表情で「一戦手合わせをしてほしい」と言ってきたんだ。
大事な戦いの前だからこそ、なのだろう。
彼は、ザベラの民で最強と言われている。
だが、それでも侵略者の武器には敵わなかった。たった一つの武器で、一気に戦況が変わる。それは、歴史が物語っている。
聖剣、魔剣……特殊な力を持った武器に選ばれた者達は、必ず世界に名を轟かせているのだ。
そして、侵略者の武器も同じ。
たった一つで、たった一撃で、カルラ達を追い込んだ。たったひとつで、最強が追い込まれたというのに、それがこれから戦う敵全員が所持している。
本来なら、絶望と言った状況だろう。
「行くぞ」
だが、それでもカルラは屈することなく挑もうとしている。
「ふっ!」
砂漠は足場が不安定だ。
岩や固まった土と違い、柔らかく、風で簡単に吹き飛ぶ。そんな砂漠で滑ることなく蹴るには、一歩一歩しっかり踏むか……魔力を纏わせるしかない。
カルラはザベラの民。
さすが流れるように足に魔力を纏わせている。まるで呼吸をするかのように当たり前に。
彼の戦闘スタイルは曲刃の剣と攻撃魔法の混合。
初手。素早い動きで、俺と正面から打ち合うカルラだったが、その間に空中で水の剣を生成していた。あれは水属性攻撃魔法の【水蓮剣】か……。
俺は、すぐに炎魔武装ヤミノ―に魔力を纏わせる。
「はっ!」
「くっ。やはり、そううまくはいかないか」
左右から襲い掛かってくる水の剣を切り裂き、一度距離を取るとカルラは小さく笑みを浮かべる。
「俺も簡単にやられるわけにはいかないからな」
「だろうな。俺も、同じだ」
いつもの訓練じゃない。真剣で、魔法もありの戦い。これから命を落とすかもしれない戦いへ赴くというのに、こんなことをやっている場合ではない。
わかっているんだけど……だからこそ、ということもある。
「さあ、続けるぞ。ヤミノ」
「ああ。どこからでもかかってこい、カルラ」
カルラは思っていた以上に熱い心を持った男だった。出会って間もないが、こうやって打ち合っているとそう感じるんだ。
確か、母さんが言っていたな。
戦いの中でわかることがある。得るものがあるって。
当時の俺は何を言っているんだ? と思っていたけど……今ならわかる。カルラは、ザベラの砂漠を民を命をかけて護ろうとしている。
一撃、一撃。剣と剣がぶつかり合う度に、その強い意思がヒシヒシと伝わってくる。
……ような気がする。
「その剣。普通じゃないな」
「ああ」
「魔剣か?」
「ま、まあそう、かな?」
それからしばらく打ち合った俺達は、心の距離が縮まったかのように並んで話し合っていた。
「名はあるのか?」
「あ、えーっと……」
魔剣と言えば魔剣だ。そして名前もある。一応は。
だけど、正直……言いたくない。
「どうしたんだ?」
突然言葉を詰まらせた俺を不思議そうに見詰めるカルラ。この剣をカルラが使えば、侵略者の武装にも対抗できるだろう。
なにせ、簡易とはいえ本物に近いほどの魔剣だ。
先日、唯一手に入れられた侵略者の武装に炎魔武装ヤミノ―で攻撃したところ……傷をつけることができた。通常の武器では傷がつかなかったところから、あれはイア・アーゴントと同じ素材だということだろう。
「炎魔武装」
「炎魔武装?」
その後の名前を言おうとするが、また言葉が詰まる。どうしてだろう……俺は砂漠の暑さが平気なはずなのに、汗が流れてきているような気がする。
「や」
「や?」
ヤミノ―と最後まで答えようとした刹那。
「居た居た! お前ら! こんなところでなにやってんだ!?」
シンとシェラの二人が姿を現す。
「……もしかして、戦ってました?」
シェラが周囲の状況を確認してから問いかけてくる。
「マジか? お前ら……この後、何があるかわかってんだろ? 無駄に体力を減らすなって」
「わかっている。大事な戦いがあるからこそ、強者と戦って心を燃やしていたんだ」
いつもの調子でそういうカルラを見てシンは頭を掻く。
「はー……やっぱお前って、冷静に見えて、熱い奴だよな」
「ふふ。でも、そういうカルラさんだから皆信頼してるんだと思うよ。お兄ちゃん」
……やっぱり、炎魔武装だけでいいかもな。ミウには悪いけど、ヤミノ―の部分は伝えないようにしよう。
「カルラ。これを使ってくれ」
幼馴染同士で会話をしている中、俺はタイミングを見計らってカルラに予備として持っていた炎魔武装ヤミノ―をカルラに渡す。
「いいのか?」
「もちろんだ。侵略者の武装は鋼鉄の獣イア・アーゴントと同じ素材で作られている。こいつは、簡易魔剣とはいえ、傷をつけることができた」
「マジか?」
「さっき、俺が使っていたからわかると思うけど。カルラだったら使いこなせる」
「……」
じっと俺が突き付けた炎魔武装ヤミノ―を見詰めるカルラ。
「わかった。ありがたく使わせてもらう」
静かに手に取った。
そして、感触を確かめるように柄をぎゅっと握り締める。
「俺にもくれ! って言いたいところだが、カルラみてぇに魔法を使えねぇからなぁ、俺」
「私は魔法はそれなり、だと思うけど。剣術は……」
「気にするな! 足りない部分は互いに補ってゆけば良かろう!!」
突然の声に俺達は目を見開く。
だが、それが誰のものかはすぐにわかった。俺の頭の上に、赤い炎が燃え上がり小人の姿になる。
「フレッカ? もういいのか?」
「当然じゃ! いやぁ、ヤミノ! お前の中は思っていた以上に居心地のいいところじゃった!! おかげで、完全回復じゃ!!」
そのまま俺の頭に上にうつ伏せに寝そべり、元気よく小さな手でばしばしと叩いてくる。
「フレッカぁ!! 主の頭から下りなさい!!」
続いて、リムエスがミニサイズで俺の足元に怒号と共に出現する。
「なんじゃ、リムエス。これぐらいで大声を出しおって……これは夫婦の触れ合いというものじゃ。どうじゃ? お前も。肩辺りに」
「ば、馬鹿なことを言わないでください!! 自分は、常に主の傍に。地面で十分です!!」
「そうかぁ? 肩に居た方が意思疎通も迅速にできると思うのじゃが」
相変わらず、と言ったところか。
「そういえばヴィオレットとエメーラはどうしたんだ?」
「ん? 二人なら、まだ休んでおるぞ」
「エメーラはいつものことですが。ヴィオレットは、ギリギリまで力を回復しておきたいと言っていました」
これから始まる大きな戦いにおいて、彼女達の能力は絶対必要だ。
俺も俺で、彼女達の能力をもっとうまく扱えるようにしたいところだが……さすがに、ここまでの特殊な能力。それも複数となると……難しいものだ。
「そんじゃ、そろそろオアシスに行こうぜ。戦いの前の作戦会議ってやつだ」
と、シンが遠くにあるオアシスを差す。
それに、俺達が頷き移動しようとした刹那。
「この感じは」
「主! なにかが接近してきます!!」
こちらに何かが急速に接近してくる気配を感じとる。まさかもう攻撃を? そう思い身構えるが……。
「あれは……柱?」
接近してきた謎の物体。それは空中で停止する。
カルラの言うように、柱に見える。
だが、ただの柱ではないのは確かだ。あれは、どう見ても……侵略者のもの。
「ほう? 先制攻撃というやつか。面白い!! あんな柱、わしが!!」
フレッカが空中の柱に攻撃を仕掛けようとした時だった。
柱の中心にはめ込まれている青い宝石のようなものが輝きだし、半透明で四角い板状のものを生み出す。そこには……カルラ達が話していた侵略者マギア―らしき人物が映っていた。




