表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【32万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

239/252

第237話 "統覇戦"パーティ、結成!

螺旋モールの上層階──

展望レストラン "スカイ・セレステラ"。


全面ガラス張りの窓からは、ルセリアの夜景が宝石みたいに広がっていて、

シャンデリアの光が反射して、まるで天井ごと星空に変わったみたいだ。


そんな高級レストランを──

ヴァレンの一声で貸し切ってしまっている。


大丈夫なの? マジで。

いくら漫画が売れ始めたからって。


まあ、みんな楽しそうだから、いいか。


俺とヴァレン、そして後ろからべたっと密着してきているリュナちゃんの三人で、

賑やかなテーブル席へ向かう。


ワイワイ騒ぐ声。

肉料理やデザートの香り。

笑い声とシャンパングラスの音。


日常の中に戻ってきたようで、

こんな時間が少し、くすぐったい。


すると──


一番奥のパーティテーブルから、

ひときわ存在感のある長身美女が、にこっと笑って手招きした。


ふわっとした巻き毛。

今日の装いは、深いワインレッドのドレス。

やたらと吸い込まれそうな色気。


──ジュラ姉(人間モード)だ。


改めてみると、本当に美人だ。


リュナちゃんは、俺の肩に腕を回したまま顔をぐいっと近づけてきて、




「しっかしさー、ジュラっちもダイガク受けてたとはねー。マジびっくりなんだけど」




と笑う。




「ほんとだよ。編入試験のとき言ってくれればよかったのに!俺、全然気づかなかったよ!」




そりゃ気づかないよ。


だって俺、ティラノサウルスモードのときの声がやたら野太かったせいで、ジュラ姉の事、トランスジェンダーのティラノサウルスなのかと思ってたくらいなんだから。


自分で言っておいてあれだけど、何だよ『トランスジェンダーのティラノサウルス』って。そんな言葉無ぇよ。


本人に言うのは失礼すぎて死んでも言えないけど。


いつの間にか俺の隣に座っていたブリジットちゃんが、ふわっと微笑んで言った。




「本当だよ!ジュラ姉さん、人間の姿、綺麗でびっくりしちゃった!」




その言葉に、ジュラ姉は頬を染め、指先を胸元でもじもじさせながら──




「だ、だってぇ……アルドきゅんに、こんな貧相な身体を見られるの……はずかしくってッ……!」




と、顔を真っ赤にして目をそらした。


貧相って言うか……普通にモデルみたいなんだけど。

そら、ティラノサウルス形態に比べたら貧相かも知れないけども、別にそういう屈強さは求めてないから。


本人が気にしてるみたいなので何も言わないけど、

俺としては恐竜姿より“今の姿”の方が、刺激が強い。


テーブルの料理を囲みながら談笑していると、

ジュラ姉がストローを弄びながら言った。




「今回ね、召喚高校生のみんなが編入するにあたって……マイネお嬢が、学費とか当面の費用を全部負担してくれてるのよ」



「えっ……マイネさんが?」




思わず聞き返す。


ヴァレンが言っていた“極太のスポンサー”って、

マイネさんのことだったのか……!


でも、なんで?


するとジュラ姉は、ゆっくりワイングラスを揺らしながら続けた。




「前のスレヴェルドでの戦い……覚えてるでしょ?

街の人々を甦らせるためにアルドきゅんが渡した“爪”。あれを使って"金葬輪廻(オーラム・サンサーラ)"を発動した時……

お嬢は、いずれその対価を払わなきゃいけない、って考えていたのよ」




なるほど……だから。

別にいいのに。爪切って渡しただけだし。




「あとベルちゃんに渡したカレーのレシピも、商品化したらお嬢の商会で超話題になったらしくて……

“マージン代わりにスポンサーになってやるわ”ってさ」




商魂逞しいね。っていうか、俺のカレー、商品化されてんの?


でも、なんだかマイネさんらしい律儀さだ。

ジュラ姉は続ける。




「鬼塚きゅん達とも、一度はバチバチに戦ったでしょ?でもあれはベルゼリアの策謀だし……

お嬢は鬼塚きゅんや影山きゅんの頑張りに報いる意味でも、支援を申し出たのよ」




その言葉に──

いつの間にか集まっていた鬼塚くんと影山くんが、

神妙な面持ちでうつむいた。


鬼塚くんは、ぎこちなく拳を握りしめながら言う。




「……強欲の魔王、マイネ・アグリッパ。

あれだけ迷惑かけた俺らを……

そんな気にかけてくれるなんてな……」




影山くんもゆっくり頷いていた。


彼らの顔は、少し照れくさくて、

でも誇らしげだった。


この世界で、

彼らの努力もちゃんと誰かに届いてるんだ。


それを見ているだけで、なんだか胸が熱くなる。




 ◇◆◇




ジュラ姉がワイングラスを傾けているのを眺めながら、ふと思っていた疑問をそのまま口にした。




「そういえばさ、ジュラ姉……。

なんでルセリア中央大学に編入してきたの?

わざわざ人間に返信して受験までして?」




テーブルのキャンドルが揺れて、

その光の中でジュラ姉の長い睫毛が影を作る。


次の瞬間──


彼女は椅子をきゅっと寄せ、

俺の隣へススス……と滑るように移動し、

肩に手を回してきた。


す、近い……!

その距離の詰め方、ティラノサウルス時代より速くない?




「アラァ……アルドきゅんってば……」




甘い声が耳元へ降りてくる。




「そんな野暮なこと、聞くのねッ……。

そんなの──決まってるじゃなァい?」




彼女の指が俺の肩を、

まるで“自分のもの”だと主張するみたいにきゅっと押さえた。




「アナタの力になるために、決まってるじゃないッ♡」




うおおおおお!?

正体知ってても普通にドキドキするんだけど!?

ティラノサウルスが何言ってんのってツッコミたいのに、今は完全に“人間美女”として成立してるのがズルい。


ジュラ姉は立ち上がり、

胸をバァァーンと張った。




「“統覇戦”のメンバーを探してるんでしょッ?

このギャタシが──ッ!

三人目のパーティメンバーとして、アルドきゅんを支えるわッ!!」




店内の空気が彼女の一声で華やぐ。

ブリジットちゃんは、ぱあっと顔を明るくして。




「わぁ!ジュラ姉さんが手伝ってくれるなら、あたしも心強いよ!」




手を叩いて喜んでくれた。


その横でリュナちゃんは、

スパークリングジュースのストローをくわえながら肩をすくめる。




「ま、ジュラっちならアリじゃね?

あーし程じゃないにしろ……なかなかツエーし?」




褒めてるのかディスってるのか分からないけど、

あれはたぶんリュナちゃんの最大級の承認だ。


すると──

足元でハッハッハッと息を弾ませる声が聞こえた。




「ジュラ姉さん!

アルドさんとブリジットさんのこと……よろしくお願いしますねっ!」




ミニチュアダックスモードのフレキくんだ。

小さな体で尻尾を全力で振ってる。


ジュラ姉はきゃああっと声を上げて、

フレキくんをひょいっと抱き上げ、自分の膝に乗せた。




「もちろんよッ、フレキきゅん♡

このギャタシが来たからには──百人力よッ!」




そして、俺に向けてウィンク。


店内の照明が反射して、

そのウィンクが妙に破壊力を持って見える。




「お、おう……頼もしいね……?」




言いかけたその瞬間。


──バリッ。


……え?

何を噛んだの?


俺の視線の先で、ジュラ姉は

スパークリングワインを飲み干したグラスを、


そのまま。


噛み砕いていた。


バリバリバリッッ……!!


そしてそのまま飲み込んだ。


えっ!?

また食器ごといってる!?


ティラノサウルスモードなら分かるよ!?

いや、分かんないけど!!まだ分かるって意味!


でも今その姿、長身巻き髪のお姉さんなんだけど!?

そのビジュアルで“食器を丸呑み”するの、心臓に悪いんだけど!?


俺は恐る恐る聞いた。




「じゅ、ジュラ姉……その……

グラスごと食べるやつ……大丈夫なの……?

ほら、体調とか……?」




ジュラ姉はまるで「何でそんな心配するの?」

みたいな顔で胸を張る。




「ふふっ、アルドきゅんったら、まだまだお子様なのねッ!」




いや、それは『大人になれば分かる行為』とかいうレベルじゃない奇行でしょ。




「こうして固いものを砕いて胃に入れておくことでね?胃の中の消化を促進できるのッ!

食べ物の吸収効率が上がるし──美容にも最高なのよッ!」




満面の笑みで言われても。

それ、恐竜が消化助ける為にやるヤツじゃない?

完全に“胃石”の説明なんですが。


ブリジットちゃんが「へぇー!」と目を輝かせる。




「初めて知ったよ!

ジュラ姉さん、物知りなんだね!」




いや、ブリジットちゃん……

それ本当に信じて良い情報じゃないと思うよ。


続いてリュナちゃんも、グラスをくるくる回しながら首をかしげる。




「ジュラっち、物知りっすねー。

あーしもやってみよっかなー」




やめて!?

絶対やめて!!

内臓破裂するから!!


俺は心の中で全力で叫んだが、

その声が彼女に届くことはなかった。




 ◇◆◇




ジュラ姉がグラスごとワインを飲み込んだ余韻で、

テーブル周りに笑いが波紋みたいに広がっていたころ──


その空気を切り裂くように、

鬼塚くんの声が、不意に俺の後ろから飛んできた。




「──アルドさん。」




振り返ると、鬼塚くんは拳をぎゅっと握ったまま立っていた。

真剣な顔だった。普段の軽口とは違う、本気のときの顔。




「さっき……“統覇戦のメンバー探してる”って言ってたよな?」



「ああ、うん。そうなんだよ。

もうすぐ始まるみたいでさ。ほら……学園内の、でっかいバトル大会の──」



「“統覇戦”って、個人戦じゃねぇんスか?」




鬼塚くんが眉をひそめる。

俺は肩をすくめて答えた。




「俺もそう思ってたんだけどね。

実は“4人パーティ必須”らしくてさぁ。

ジュラ姉が3人目に入ってくれたけど……あと一人探さなきゃなんだよねぇ。」




軽く言ったつもりだったのに──


ガタッ。


鬼塚くんが勢いよく立ち上がった。




「そ、それじゃあ──俺じゃダメっスか!?」




……え?


テーブルの空気が一斉に止まった。

彼の息遣いだけが、荒くテーブルに落ちていく。




「いや、その……俺なんかじゃ、アルドさんの足元にも及ばないっスけど……!」




俺は思わず両手を振った。




「ええっ!?お、鬼塚くん!?

いや、その気持ちはありがたいけどさ……!」




言いながら、胸の奥がざわついた。

鬼塚くんの瞳の奥にある“覚悟”が、あまりにも強すぎて。




「ラグナみたいな危ない相手と戦うことになるかもしれないし…… それに、君たち高校生組は、この世界に呼ばれてから望まない戦いを強いられてたわけで…… また戦いの場に立たせるわけにはいかないよ……!」




本音だった。

守りたいと思っている。


だけど──鬼塚くんは、一切揺れなかった。




「危ないなんて、そんなこと無いっスよ!」




その声は強く、迷いがなかった。




「俺や颯太そうた、天野は冒険者登録して、普段から魔物狩りもしてますし!」




ぐっと自分の胸に手を当て、

少しだけ震える声で、続けた。




「それに……俺、アルドさんやブリジットさんに……

まだ何の恩返しも出来てねぇんス……!」




彼の肩が、小さく震えた。




「俺も……アンタの役に立ちたいんスよ……!」




胸が熱くなる。


鬼塚くん……

そんな風に思ってくれてたなんて……。


彼は勢いよく振り返り、ヴァレンへと向き直った。




「なぁ、ヴァレンさん!

特別編入枠の俺らでも、“統覇戦”のパーティに入れるんスか!?」




ヴァレンは少し眉を上げ、薄く笑って答えた。




「もちろん。

君たちも大学の生徒であることに違いはない。

エントリーに関するルール上の問題は、ないよ。」



「マジっスか……!」




鬼塚くんの顔が、ぱあっと明るく照らされたように輝いた。

それは、本当に救われた子どものような笑顔だった。


そして──彼はくるりと俺たちへ向き直る。


ブリジットちゃん。

リュナちゃん。

そして俺。


鬼塚くんは、テーブルの前で両手をつき──

深々と頭を下げた。




「お願いしますッ!!」




その声は、震えていたけど、強かった。




「足は引っ張らないっス!

俺を……4人目のパーティに入れてくださいッ!!」




テーブルの上のグラスが、小さく震えた。

それくらい、彼の気迫は本物だった。


沈黙を破ったのは、リュナちゃんだった。




「──いーんじゃないっすか?」




ストレートな軽い声。

でも、その瞳は優しかった。




「入れてやっても。玲司(れいじ)、なかなかやるヤツっすよ?」




続いてジュラ姉が、にっこり笑った。




「鬼塚きゅんの実力は、ギャタシも身をもって知ってるわよッ!ギャタシに異存は無くってよッ!」




ブリジットちゃんも小さく笑って、俺を見る。




「アルドくん……鬼塚くんなら信頼できるし……

お願いしてもいいんじゃないかな?」




視線を感じて振り向くと──

少し離れた席で、佐川くんと天野さんがこちらを見ていた。


天野さんは、静かに頷く。


佐川くんは、真剣な顔で言った。




「玲司の気持ち、汲んであげてください。

本当は俺も手伝いたいところですけど……

対人戦なら、俺より玲司の方が強いっすから。」




……そっか。

みんな、彼を信じてるんだ。


俺は長く息を吐き──

ゆっくり、鬼塚くんへと笑顔を向けた。




「分かったよ、鬼塚くん。」




その瞬間、彼の肩がビクリと震えた。




「“統覇戦”4人目のメンバーとして──

俺とブリジットちゃんを手伝ってくれる?」




鬼塚くんは泣きそうな顔で、けど必死に笑って。




「ッス!!」




床に届くほど深く頭を下げた。




「よろしくお願いします!!

鬼塚玲司……命を賭けて頑張らせてもらいます!!」




いや、命は賭けないで。

本当に。君は本当にやりかねないから。

黄龍さんと戦ってる時も、マイネさん庇って石化したままビルから飛び降りてたし。

元々日本の高校生だったとは思えない覚悟の決まり具合!逆に怖い!


肩をすくめながら苦笑していると、

ヴァレンがワインを揺らし、低く笑った。




「ククク……なんにせよ、これで揃ったね。

“統覇戦”の──『ブリジット・パーティ』四名が。」




ジュラ姉がウインクしてくる。

リュナちゃんは腕を組んでニッと笑う。

ブリジットちゃんは柔らかく微笑む。


俺、ブリジットちゃん、ジュラ姉、鬼塚くん──


真祖竜、公爵令嬢、ティラノサウルス、変身ヤンキー。


めちゃくちゃな編成だけど……

きっと、最高の四人だ。


──この四人で、“統覇戦”を勝ち抜いてみせる。


胸の奥で、ぐっと何かが燃え上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ