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【32万PV感謝!】真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます  作者: 難波一
第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

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第235話 銀と金の残響、動き出す策謀

講堂の天井近く──

金と銀が渦巻いて形を変え、やがて“姿”を成す。


ひとつは、銀色に淡く輝く二人の女性。

ブリジットとリュナ──アルドの魔力から生まれた幻影。


もうひとつは、妙に輪郭がギザギザした、

煌めきも立体感もない“平面のドット絵ブリジット”。ラグナの魔力から現れたものだ。


どちらも光の粒子で出来ているのに、

どうしてここまで差が出るのか──

講堂中の人々が、息を呑んで見上げていた。




「え、何だったんだ……今の……?」


「編入生の上……二人出てない?」


「ていうかラグナ殿下の方……なんか……イラスト?」




ざわめきは波のように広がり、やがて爆発する。


召喚高校生の中でもとくに賑やかな“ギャルズ三人組”が、すぐさまおしゃべりを始めた。




「ちょっと見た? アレ!」



「見た見た〜!アルドくん、あの二人にベタ惚れだもんね〜」



「だよね〜。あの三人、本人達が幸せそうだから、もう応援しちゃうよね〜!」



「それに比べてさ〜……あの王子。イケメンかと思ったら、なんかガッカリ〜!」



「うん……メンタル弱すぎじゃない? なんか倒れてたし」



「てか、二次元が理想の彼女ってウケるんだけど〜!西条達と一緒じゃ〜ん!」




笑いながらも辛辣な言葉。

女子の目は甘くない。


ラグナが気絶していなければ、

二度目の気絶をしていたかもしれない。


一方その後ろ、少し距離を置いた席では──

“オタク四天王”が固まっていた。


彼らは、ざわめく周囲とは違い、妙に冷静だった。




「アルドさん……スゲェな……ガチのハーレム系主人公じゃん……」



「ま、まぁ……あの人の場合、それに相応しいどころじゃない力持ってるしな。妬ましいって気持ちより、『まあ、そうなるよね』って感じだな……」



「で、でもよ……あの王子の方のやつ……見たか……?」



「……ああ。あれって……俺ら、どっかで見たことあるよな?」



「ある。絶対ある。あれ……スイ⚪︎チでもなければ、スマホアプリでもない……」



「じゃあ何だよ?」



「……初代プラス・ステーションっぽいんだよな……ドット絵のクセが……」



「ああ、そうかも……!」




真剣に語り合うオタク四天王。

彼らだけは、ドット絵ブリジットの“本当の意味”よりも、ドット絵のグラフィックに全力で意識を持っていかれていた。


最前列付近では──

鬼塚が眉間に皺を寄せて、腕を組んでいた。




「何だぁ?あの王子サマ……?

妙〜なテンパり方しやがって……」




隣の一条は、顎に手を当てながら真剣そのもの。




「しかし……ラグナ殿下の魔力は尋常ではなかった。

だが、ブリジットさんへのあの執着……あれは一体……?」




“嫉妬”と“自己物語への固執”。

鋭い一条の推測は、真相へほんの少し触れつつある。


さらに少し離れた場所──

天野唯が、隣の佐川颯太の袖をつまんだ。




「びっくりしたねぇ……ね、颯太くん」


「…………」




返事がない。

佐川は、宙に浮かぶ“ドット絵ブリジット”を凝視していた。


その眼は驚愕と混乱に揺れている。




「……颯太くん?どうかしたの?」




唯が覗き込むと、佐川は小さく呟いた。




「……あのドット絵……

“ラグナロク・ヒストリア”……?

いや……でも……なんで……?」




初代プラステ時代の古いRPG。

彼が勇者に憧れるきっかけとなった作品。


その“画風”に、ラグナの幻影は──あまりにも似すぎていた。


だが、本人は気絶の最中。

ここで深追いは出来ない。

今の佐川には、ただ“違和感”だけが残っていた。


講堂中が、熱気と混乱と笑いに包まれていく。


銀色の二人の女性を浮かび上がらせたアルドの存在感。逆に、ドット絵を出したラグナへの微妙な空気。


そして、それぞれの生徒が浮かべる、興奮、困惑、嫉妬──

あらゆる感情が渦巻いていた。


その中心で、

講堂の空気はゆっくりと、確実に変わっていく。


アルドは

「ただの編入生」から

「何か特別な人物」へ。


ラグナは

「完璧な王子」から

「よく分からない危険人物」へ。


そして、佐川の胸に生まれた小さな違和感は──

後に、物語を大きく揺さぶっていく事になる。




─────────────────────




壇上で渦を巻く銀と金の奔流は、

すでに講堂全体を震わせるほどの密度を持っていた。


銀──アルドの魔力。

金──ラグナの魔力。


先ほどまで激しくぶつかり合っていた二つの力は、

今や明らかに均衡を失っている。


銀が、金を押し返している。

それも、余裕すら感じさせるほどに。


ザキは群衆の中で一歩だけ後ろに下がり、

その光景を驚愕の目で見つめていた。

普段は半ば眠そうにも見える細い目が、

珍しく大きく見開かれている。




(……嘘やろ。あのラグナ・ゼタ・エルディナスの魔力を……真正面から、押し返しとる……?)




ラグナは〝選ばれた王家の血筋〟。

魔力総量だけなら、人類の中でも頭一つ抜けていた。


だが今──

その“金色”が、押し負けている。


相手は、ただの編入生のはずの少年。

ザキの胸に、冷えた感情が落ちた。




(アルドくん……

君ぃ、ホンマはどこまでの化け物なんや……?)




だが、ザキが本当に驚いたのはその直後だった。


壇上の横、突然現れた色気満載の青年──

“色欲の魔王”ヴァレン・グランツ。


ラグナの魔力暴走を止めた張本人であり、

本来なら人間社会に気軽に姿を見せるような存在ではない。


その魔王が、今は肩をすくめながら

アルドに抗議されているように見えた。


「マジで何してくれてんの……?」


というアルドの口の形は読めるが、声までは届かない。


だが魔王ヴァレンは、

まるで親しい友人にからかわれた程度の軽さで笑っていた。


その光景に、ザキは内心ずぶりと背筋が冷えた。




(ラグナを抑えただけやなく……

色欲の魔王とも旧知の仲みたいやて……?

どないな人生歩んだら、大罪魔王とダチになる様な事になるんや……)




自分でも気づかぬうちに、

ザキの視線はほんの少しだけ柔らかくなる。


興味。警戒。敬意。

そのどれでもない、もっと曖昧で複雑な感情。


そんなザキの横で──

長身の美女がうっとりと両手を胸の前で組んだ。




「流石はアルドきゅん……♡

でもねぇ……ギャタシも、いつかは……

アナタの幻影の三人目として現れるだけの女になってみせるわッッ!!覚悟しなさい……アルドきゅん!!」




叫びながら腰まで揺らす独特のポーズ。


ザキの眉が、ピクリと引きつった。




(なんやこの姉ちゃんも……

結局、アルドくんの知り合いやったんか……!?)




本日だけで、ザキの“理解できない案件”が

すでに三つは積み上がっていた。

もうひとつ増えても、不思議ではない。




(どないなっとるんや、ホンマに……

俺の知らんところで、世界は勝手に進んでいきおる……)




彼はそっと息を吐き、講堂のざわめきから離れるように、静かに後ろを向いて歩き出した。

まるで人混みの中に溶ける影のような足取り。


誰も、ザキが講堂を出たことに気付かない。

それが、彼にとってはむしろ都合が良かった。




外に出ると、夕焼けがキャンパスを赤く染めていた。

講堂の喧騒が嘘のように、ここは静かだ。


風が吹き、ザキの耳のピアスが小さく揺れた。

ザキはその一つに、人差し指と親指を添えた。


そして、低く呟く。




「──俺や。」




ピアスが淡い光を灯し、

ザキにしか聞こえない声が響いた。




『どうした? 今日は編入生向けの入学式だったろう?』




ザキは、少しおどけたように鼻を鳴らす。




「予定変更や。」



『変更……?』



「ラグナに“ぶつけて欲しい”相手がおんねん。」




声の主は露骨に訝しんだ。




『……お前がそんなことを言うとはな。

“ラグナの首は自分が取る。邪魔はさせない”

そう言ってたのは誰だった?』


「勘違いすなや。」




ザキの目が細く、鋭い光を宿した。




「ラグナは俺が殺る。そこは変わらへん。」




静かな声だった。

しかし、その奥に潜む殺意は氷よりも冷たい。


それでも、どこか迷いが混じっているような声音。


少なくとも、

“ラグナの死に様”にだけは強いこだわりがあるようだった。


アルドの力を見た後では、

その計画にも調整が必要──

ザキはそう判断していた。




 ◇◆◇




夕焼けの残光が落ちる石畳の道を、ザキはゆっくりと歩いていた。


さっきまでの喧噪が嘘のように、周囲には風の音しかない。

講堂の中の騒ぎを背に、ザキの顔には奇妙な静けさが漂っていた。


指先で触れたピアスは、まだ微かに温もりを帯びている。


通信の相手は、仕事の依頼主であり、目的を共有する"同志"でもある。


ザキは深く息を吸い、静かに言葉を紡ぐ。




「……ぶつけて欲しい相手いうのは、アレや。この前話した、異常に強い編入生のことや。」




ピアスの向こうで、男はわずかな気配を揺らした。




『……アルド・ラクシズ。あの少年だな。』




ザキは夕空を見上げ、ほんの少し口角を上げた。




「そう。そのアルドくんや。」


「あの子……想定より遥かに強かったわ。」




声には驚愕よりも、興味と愉快が混じっていた。




『どれほどだ?』



「ラグナを……上回るやろな、間違いなく。」




その言葉に、向こうの気配が微妙に揺れ動く。




『上回る……? “魔杖五指(フィンガーファイブ)”を持つラグナをか?』



「せや。実際、魔力のぶつかり合いだけなら……

完全に(アルド)(ラグナ)を押し返しとった。」




沈黙。


驚愕すら超えた沈黙。


ピアスの向こうの男が息を呑むのが分かる。




『……化け物だな。』



「ホンマに、その通りや。」




ザキの声は、どこか誇らしげですらあった。




「まあ、正直に言うとな。」


「アイツと統覇戦で当たるのは……勘弁して欲しいわ。」



『お前がそんな弱気なことを言うとはな。"奥の手"を使えば負けないと豪語していただろう?』




ザキは曇りない声で答えた。




「"奥の手"を使えば、斬れん事はないと思うで。せやけど……」




一拍置いて、




「……仲良うなってもうて、殺りたないねん。」




その声音には、奇妙な寂しさがあった。


敵として出会ったわけでもない。

ただ、彼は“気に入ってしまった”のだ。


誰よりもお人好しで、

誰よりも強い少年。




「せやからな……なるべく避けたいんや、アイツとは。」



『だが、ラグナは殺すつもりだろう?』



「当たり前やろ。」




その部分だけは、迷いの欠片もなかった。

むしろ、ラグナへの殺意は濃く、深く、鋭かった。


だが、ザキは淡々と続ける。




「アルドくんは、お人好しや。先にラグナと当たっても……まず、命は取らへん。」



『……確信があるのか?』



「アイツなら、絶対そうする。」




断言だった。


アルドの人格を、たった数時間の接触だけで

"見抜いている'かのような口ぶり。




「せやから──アルドくんにラグナを倒させて、

弱った所を、俺が貰う。」




その声は氷のように静かだった。

だが、最も現実的で、最も残酷な作戦。




『……利用する気か。』



「ま、そういう事になるな。」



『分かった。お前がそこまで言うのなら……

アルド・ラクシズ──グラディウスのお気に入りだったな。そちらにも注意しつつ、可能な限りで動いてみよう。』




通信はそこで唐突に途切れた。


夕焼けの光が、ザキの頬を照らす。


彼は細い目をさらに細め、

寂しげに、それでいて誇らしげに呟いた。




「……すまんなぁ、アルドくん。」




ザキは薄く笑う。




「君ぃの強さ、利用させてもらうで……。」




だが、すぐに続けた言葉は──

先ほどよりも少し、柔らかかった。




「せやけどな……俺が君ぃを気に入っとるんは、ホンマやねん。」




ほんの微かな本音。

それは、誰にも聞かれるはずのない独白だった。




「俺らが敵として顔合わせんで済むよう……祈っとるわ。」




ぽつり、と本音が落ちた。


そして数秒後──

ザキは気分を切り替えるように、大きく伸びをした。




「……あーあ。腹減ったわ。」


「ほな、学食でも見てから帰ろか。」




ひらひらと手を振るように独りごち、

ザキは学園構内の奥へと歩いていく。


その背中は、人混みの中に溶ける影のように静かだったが──


どこか、人間らしい温もりを残していた。

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