執事さんは破壊王
「ふっふふ~~ん♪」
思わず鼻歌うたっても仕方ないと思う。キラッキラだ。乙女の夢なのだ。
今あたしは、セルジュさんが取り寄せてくれた宝石の欠片入りガラス玉を
ハート型に型どった針金細工の中に入れる作業をしていた。
今作業をしてるガラス玉の中の宝石が、キラッキラ輝くダイヤモンドなのだ。
欠片の大きさはまちまちだ。蛍光灯の灯りに、キラキラと色んな方向に
光を反射させている。
「売れたらいいなぁ~。お店の存続は、君にかかっているんだよ~」
まだ、彼に会いたいもの・・・・。
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「同じショッピングモールに働く、ヨコイ。」
それしか、情報は無い。
それでも、専門家に調べさせた。
が。
今手元には、3名の写真とデータがある。
同じショッピングモールで働く、「ヨコイ」という名の男性は3名いるらしい。
これでも減ったのだ。ショッピングモールは結構規模が大きいらしく、店舗数にして
158店舗あった。その中に、ヨコイ姓は8名。
まず、女性は排除した。それに、40代以上の既婚者も。
そして、残ったのが3名。
そうだ。
たしか旦那さまが、「彼はもてるらしい」とおっしゃっていた。
改めて、3人の写真を眺める。
・・・・・どれももてそうには無いが・・・。
私の方が数倍カッコイイではないか!
コイツなんて、目が細い。こっちは眉を整えすぎてる。
こっちは、日焼けしすぎだろう!こんがり焼けたトーストのようになっていた。
胸に苦いものがこみあげる。
ヨコイ、か。お嬢様の職場復帰は明日から。
もう少し、情報が欲しいな。
それには・・・・・
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コンコン。
控えめなノックの後、これまた控えめに問いかける声が聞こえてきた。
「お嬢様、今よろしいですか?」
セルジュさんだ。
「はいはーい。どうぞー」
カチャリとドアが開いて、セルジュさんが入ってきて・・・・
バキッ
変な音がした。
視線はずっと手元の針金に集中させていたが、音の出処が気になって視線を
そちらに向けると・・・・
「申し訳ありません。お嬢様・・・・」
「のあああああああああ!!!!」
セルジュさんの手には、たった今、息を引き取ったあたしの携帯があった(泣)
携帯は、セルジュさんが新しいものに変えてくると言って聞かなかった。
確かに踏み潰された時はショックだったけど、ドアの近くの床に置いてたあたしも
悪いし、明日仕事帰りに携帯ショップに行くからいいよーと断ったのだが、
その仕事の連絡が携帯にきたらどうします?と言われ、ちょうど今から
買い物に行こうと思っていた。というセルジュさんに、携帯を預けた。
買ってそんなに間もないし、確か何かの保障サービスに加入してたハズ。
2時間ほど経っただろうか、晩御飯のためリビングに降りると、ちょうどセルジュさんが
帰宅した。
手には、新しくなった同じ機種の携帯を持っている。
ついでに、自分の携帯も契約してきたようだった。
あたしの携帯の色違い。セルジュさんはその目と同じ、明るいブルーの携帯だった。
「赤外線で、もうデータは交換してありますからね。」
あたしの携帯まで買わされたにも関わらず、なぜかセルジュさんは上機嫌だった。
「あ、ありがとう?」
なんだろう、なんか・・・胸騒ぎがするんですけど!?
翌日、今日から出勤だ。
はりきって、出かけようとしたところに・・・・・
「お嬢様、送りますよ」
「へ?いいよー。チャリで行くしー。それに車はママが乗って行っちゃったよ?」
「あぁ・・まだ申し上げていませんでしたね。実は、お嬢様の自転車、昨日
壊してしまったんです。どうも私は自転車というものに乗ったことがなくて・・」
!!!こ、この人は朝っぱらから爽やかになんて事を言うんだ!
「こ、壊した??」
「ええ。申し訳ありません」
どうしよう・・歩いて行くには時間がかかるし、電車で行くにもうちの最寄り駅は
モールと正反対の方向に歩いて15分のところにある。
行きたい方向と逆方向に15分も歩くなんて、なんか腑に落ちない。
「それで、昨日私が車を買いましたので、それでお送りします」
「は!?車!?」
「ええ・・だって私が自転車を壊してしまったら、お嬢様がこれから通勤時に
困りますでしょう?」
困りますけど・・・なら、自転車を直すとか、買うとかの方が、断然出費は
少なかったと思うんですが・・・。
セルジュさんは、いつの間にか家の近くの月極駐車場まで契約してたようで、
「車をまわしてまいります」と軽やかな足取りで出て行った。
わからん・・・どうにも、セレブ王子の考えてる事はわからん。
こんな様子だと、運転してくる車だってきっと・・・・・。
ヤッパリ・・・。
ピカピカの車には、予想通り、これまたピカピカのベンツマークが・・・。
セルジュさん・・・やっぱり自転車、直した方が全然安いじゃん・・・。
でも知らなかった。ベンツって、あたしはおっきくて、四角いイメージがあったんだけど、
目の前にスッと静かに止まった車は、流線型が美しく、形もコンパクトで
可愛らしい。それに・・これもセルジュさんの瞳と一緒のライトブルーだ。
あたしは一瞬で、この子が好きになってしまった。
だからって、こんな高価なものに慣れてないあたしは、すぐには近づけない。
ドアを開けようとして、うっかり時計をぶつけてしまったらどーすんだ!
あぁーこれだから貧乏性は・・・。
戸惑ってると、セルジュさんが降りてきてわざわざ助手席のドアを開けてくれる。
そっか。いつもと反対なんだ。
セルジュさんの運転する車は、夢のような乗り心地で、モールまでは
あっという間だった。
入り口でいいと言ったのだが、セルジュさんはそれを無視して地下の駐車場に
入って行く。
車をエレベーター近くに止めると、セルジュさんも降りてきた。
「どうしたんですか?モールはまだ開店してませんよ?
今日からオープンまでは、お店の開店準備だけだから、入れませんよ?」
「ええ。それは奥様から聞いています。でも、準備だからこそ、男手が必要でしょう?」
手伝うのだと言って聞かないセルジュさんに押し切られる形で、結局は
一緒にエレベーターに乗り込んだ。
結構強引。そしてマイペース。




