二十八.ちょっぴりイタイ集合写真
賑やかな夕食も終わり、窓の外の景色はもう真っ暗。すっかり夜の帳が下りていた。
それでも、あおいは自宅に帰る素振りを見せてはいない。むしろ、のんびりくつろいでいるように見えなくもなかった。
そんなあつかましいあおいのことを、彼は煙たく思いながらも、もう面倒くさいのか、追い返すという気持ちすら薄らいでいた。
「ねー、ねー。」
「何だよ?」
あおいからいきなり問いかけられて、気のない返事をする彼。
「ヒマだからさー、押入れ開けていい?」
「どうしてそういう発想になるんだよっ!?」
彼のツッコミなどお構いなしに、あおいは勝手に押入れの扉を開けていた。
あおいは鼻歌交じりで、彼のやめてくれ!という声など無視したまま、押入れの捜索を始めてしまう。
捜索をすること3分あまり。あおいはクルッと振り返って、彼のことを冷めた目つきで睨んでいた。
「エッチな本どこにもないじゃーん?どこに隠してるの?」
「だから、どうしてそういう発想になるんだよ!連続2回目!」
エッチな本などどこにも隠していないと、彼は力強く真っ向から否定した。それもそのはずで、たまたま彼は最近、押入れにしまっていたその類の書籍を整理したばかりだったのだ。
彼が内心安堵していた矢先、あおいはその代わりに・・・と思わせぶりに笑って、押入れからある物を引っ張り出してきた。
「あ、それは・・・!」
「へへへー。学生時代の卒業アルバムはっけーん!」
あおいが持ち出してきたのは、二人の淡い学生時代の思い出が詰まった卒業アルバムであった。
学生時代にあまりいい思い出のない彼であったが、懐かしそうな顔で表紙をめくるあおいを前にして、まぁ実害はないだろうと、アルバムを奪い取るまでのことはしなかった。
アルバムの1ページ目には、学校の校庭をバックにした卒業生全員の集合写真が載っている。屋上から撮影しているためか、一人一人の表情がわずかにわかるぐらいの写真だった。
「あー、あんたのこと見っけ!」
あおいは集合写真に写る卒業生の中から、ズバリと彼のことを見つけ出した。彼女の指が示す箇所には、間違いなく、学生時代の彼の初々しい頃の顔が写っていた。
大勢いる中からよく簡単に見つけたなと、感心の眼差しを送る彼。それを聞いて、あおいは取るに足らないと自信満々に笑っていた。
「簡単だよぉ。あんたみたいな幸薄そうな顔、他にないからね。すぐわかっちゃうよ。」
「そういう理由で、あっさりと見つけるな!」
アルバムの集合写真をまじまじと眺めて、あおいはその当時の思い出に耽っているのだろうか、感慨深そうな表情を浮かべていた。
「みんな元気かなー?今頃どうしてるかなー?」
久しく会っていない、学生時代の友人のことを思い浮かべるあおい。卒業アルバムを紐解く際、誰もが経験するような光景であろう。
「やっぱり一人ぐらいは、刑務所に収監されてる人いるよね?」
「・・・おまえさ、もう少し友人のことを信頼してやれよ」
そんな会話をしながら、集合写真を眺めている二人。それぞれ、その当時を出来事を振り返りながら。
突然、あおいはクスクスと微笑しだした。彼女は写真のある人物を指で示しながら、この子バカだね~と呆れ返っていた。
彼もその人物のことを目で捉える。その人物は、人一倍目立とうとしていたのか、髪の毛を逆立てて、顔にバカという文字を書いて、さらに動物のごとく四つんばいになって、ファインダーに睨みを利かせていた。
「いるんだよねー、こういう子。今思うとさ、これってかなり恥ずかしいよね」
あおいが写真の人物に哀れんでいると、彼も哀れむばかりの表情で、彼女のことを見つめていた。
「あのさ。・・・この写真の子、正真正銘、嘘偽りのない学生時代のおまえだよ」
「・・・あり?」
彼に指摘されるや否や、あおいは絶句したまま呆然としていた。
いつもバカにされっ放しの彼は、今回ばかりは、やり返した気分に内心喜びを隠し切れなかった。




