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二十三.二度となかった誕生日パーティー

 彼とあおいの二人は、まだ誕生日をテーマにした話題を続けていた。

 来たるべき誕生日を、ほんのちょっぴりの期待と、かなり大きな不安で迎えることになった彼。自分のことばかりではどうかと思い、彼はあおいにも誕生日プレゼントについて尋ねてみた。


「おまえだったら、誕生日プレゼント何が欲しいんだ?」

「あたし?今一番欲しいものといったら、それはたった一つだよー」


 あおいは頬を赤らめながら、喉から手が出るほど欲しいプレゼントを打ち明ける。


「白馬にまたがった王子様のような彼氏!」

「・・・あのよ、プレゼントって人じゃなくて、物じゃないかな?」


 彼に真っ向から否定されて、あおいはブーっと頬を膨らませている。彼女は致し方ないとばかりに、百歩譲って、二番目に欲しいプレゼントを告白する。


「それじゃあ、中世のお城みたいなお家で我慢してあげる」

「我慢してそのレベルかよ!どんなお姫さま気分なんだ、おのれは」


 あー言えばこー言う、こー言えばあー言うを、彼に繰り返させるあおいは、正真正銘のわがままなお姫さまなのかも知れない。

 そんな誕生日の話題が盛り上がってきたせいか、あおいはふと、昔懐かしい誕生日の思い出を思い起こしていた。


「ねー、ねー。そういえばさ、結構昔のことだけど、あんたのお誕生日パーティー、お家で一緒にやったよね」


 彼とあおいは同じ学校に通っていた同級生時代、彼の誕生日の際、彼女の家族も交えて誕生日パーティーを開催したことがあった。それは一回きりではあったが、彼はうろ覚えながらも、その時の情景がほのかに頭の中に浮かんでいた。


「ああ、そんなことあったな。もうずいぶん昔のことだから、はっきり覚えてないけどな」


 あおいはその時の思い出を鮮明に覚えているという。彼女が紡ぐ思い出の一つ一つを、彼は耳を澄まして聞いていた。


「お誕生日ケーキのイチゴ、あたしがみーんな食べちゃって、あんた、俺の誕生日なのにぃーって叫んで泣いてたよね」

「そ、そうだっけ・・・?ははは、まあ、ガキの頃だから、仕方がないよな」


 懐かしい昔話に照れ笑いを浮かべている彼。小さい頃の誕生日パーティーらしい、微笑ましいエピソードであった。


「ケーキのロウソクの火を消そうと、あたしが勝手に息を吹きかけたらさ、あんたのところにロウソクが飛んじゃって、あちぃ、あちぃ~って、泣きわめいてたもんねー。どれも、記憶に残るいい思い出ばかりだよぉ」

「・・・まー、俺としては、記憶からすぐに消してほしい思い出ばかりだけどな。ははは・・・」


 あおいが一人思いに馳せる中、彼はバツの悪さに、渇き切った笑いをこぼすのだった。

 そうそう!といきなり手を叩いたあおい。彼女は何かを思い出したような顔つきをしている。


「そういえばさ、お誕生日プレゼントもあげたけど、大事にとってある?」


 彼はこの時、プレゼントをもらった記憶が乏しく首を捻っていた。しかも、大事にとってあるどころか、そのプレゼントそのものも記憶になかったのだ。

 あおいが言うには、彼の母親にプレゼントを渡しておいて、パーティーが終わってから、彼にプレゼントを手渡すというやり方だったという。


「えー、覚えてないのぉ?あたし、ちゃんと、あんたのおばさんに渡したよー」

「いや、少なくとも俺は、おふくろから渡されてないし、聞いた記憶もないぞ」


 たった一回きりの誕生日パーティーだったこともあり、すっかり忘れてしまっているのだろうと、結局二人は、そういう結論で落ち着くのであった。

 ちょっと寂しい結論に至ってしまい、残念そうな顔をしているあおい。それほどまでに、お楽しみなプレゼントだったのだろうか?


「なあ、そのプレゼントってどんなものだったんだ?」

「えーとね。同級生の顔写真を貼ったワラ人形と五寸釘のセットだよ」


 ・・・彼はこの瞬間、頭の片隅からある記憶を呼び覚ましていた。それは彼の母親からの言葉だった。

 ”もう、あおいちゃんと一緒にお誕生日するのはやめましょうね・・・”

 彼に手渡されることのなかったあおいのプレゼント。それが今、どこにいってしまったのか、彼の母親以外知る者はいない。彼にしたら、知らない方が幸せなのかもしれない。


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