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それぞれの場所へ

 視界に飛び込んできたのは、ベンテンの顔だった。

 おもわず、殴りそうになったけど、堪える。

「よかったぁ、間に合ったのね」

 私は、『魔王』の呪いを受けて衰弱死したのではなかったか?

「呪いがあなたを完全に蝕む前に、ビシャが魔王を仕留めたの。それで、解呪されたのよ」

 そうか、また、私は命を拾ったってわけね。本当に勇者の素質があるのかも。死なないし。

 ダイハード喪女とか、新しいわぁ。

「レマ・サバクタニは?」

 ズダボロになった、筋肉ダルマに『再起動リセット』をかけた気がする。

「あんたのおかげで、致命傷も直って、門を潜っていったわよ。行く場所があるんだって。あんたによろしく伝えてくれって」

 あの野郎、さよならも言わないで、行きやがったか。

 私、助けてもらったお礼も言ってないや。

 鼻の奥がツンとする。

 馬鹿! 無神経男! 置いてきぼりとか、酷過ぎる。

「アンちゃんは?」

「大丈夫、時間を止めてあるので、毒の進行は止まっているわ」

 勇者が剣を研ぐ手を休めて、こっちを見る。

 ツンツンに伸びた髪、ぎょろ目、無愛想なへの字口。

 レマ・サバクタニに良く似ている。このタイプの男は、こりごりだ。

「よお、助かったぜ」

 それだけ言って、今度は甲冑の繕いをはじめる。

 妙に勤勉なのも、筋肉ダルマに似ている。

「照れ屋さんなのよ、可愛いでしょ?」

 ベンテンがハート形に変わった眼で、無愛想な勇者を見る。

 彼(彼女?)は、十五年も、ここで勇者を守り続けてきたのだ。

 オカマの深情けってやつだろうか?

「で、あんたはどうするの? 都合のいい過去に戻れば、大金持ちになるわよ、ロト籤とかで」

 私は過去に戻る気は無い。

 未来に飛ぶ気もない。

 だって、その時間軸には、アンちゃんがいない。

 だから、空間だけ飛ぶつもり。

「あら、無欲なのね」

 アンちゃんがいない世界には、意味が無い。


「あ……」


 だからか、だから、レマ・サバクタニは、あの絶望的な時間軸に拘ったんだ。

 思い切り過去に飛べば、『大凶津波』を避けることが出来たかもしれないけど、自分の腕に抱いた息子は存在しなくなるかもしれない。彼が求めたのは、妻子がいる時間。そこに戻るため、ひたすらレマ・サバクタニは『大特異点』を探し続けていたのだ。

 私の回復を待つうちに『大特異点』は変異するかもしれない。それゆえ、レマ・サバクタニはさっさと門を潜ったのだろう。

 執念が実ったのだ。無礼は許してやろう。

 願わくば、彼の妻子が生き延びる時間軸を作らん事を。


「あのさ『一撃必殺!』って、流行っているの?」


 勇者の背に話しかける。

 レマ・サバクタニと同じ決め台詞なので気になっていたのだ。


「このベンテンに見出される前、俺はクマモトの幼年兵だったんだよ。最終防衛線が破られた時、突如現れた男が、魔導生物の群れを押し戻してくれて、俺は命を拾ったのさ。そいつが『一撃必殺!』って言っていたんだぜ。俺にとってのヒーローさ」


 ドキンと心臓が鳴る。

 それって、ひょっとして……


「そ……その人、どうなったの?」


「死んだ。市民を避難誘導する撤退戦の時、最後まで戦線を維持して、死んだ。だから、俺は髪型も台詞も真似して、忘れないようにしているんだぜ。彼こそ、本物のヒーローだよ」




 門の前に、ベンテンとビシャが立っている。

「まだ、魔王がいるかも知れないところに、いくぜ。縁があればまた会おう」

 無駄に爽やかに、ビシャが言って、門を潜る。

「ああん、まってよぅ」

 内股走りで、ビシャを追ったのはベンテンだ。

 門の中の光に包まれる直前、こっちを振り返って、投げキスをしてくる。

 私は、空中でそれを掴むゼスチャーをして、地面に叩きつける。

「ひどい~」

 そう言って、ベンテンは消えた。

 私と時間が止まったアンちゃんだけが、この『入口の無い神殿』に残った。

 時間を解くための呪符は、大事にポケットの中にしまってある。

 アンちゃんを抱きしめて、門を潜る。

 この時間軸の世界、空間だけを捻じ曲げ、地下迷宮の入り口へと……


 こうして、私は地上に戻ったのだった。

 

 

 

 

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