1話 アメリカらの手紙
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愛しい義弟エルンストへ
おはよう。まずは、挨拶もせずに任務に向かったこと、ごめんなさい。
この手紙は先輩にお願いして君に届けてもらっています。なにしろ、いきなり出張が決まったからね。
初任務のお相手は、なんとマクシミリアン王子。
悪名高きマクシミリアン王子とはいったいどんな人物なんだろう。今からどきどきしています。
御年は17歳。ものすごく冷淡で恐ろしい王子だとか。顔も性格と同じく悪いらしいの。いつも髪はぐしゃぐしゃで、顔は泥とか血で汚れている、とも。エルンストと同い年なのに、こんなに違うなんて。
浄化師たちと好き勝手していて、彼らと任務をする課員は疲れ果てて一か月ほど寝込むとか。ああ、想像するだけで恐ろしい! どんな無理難題を言われるんだろう!
おっと、こんなことを書いても君が不安になるだけだね。忘れて頂戴。どんな王子だろうと、うまく付き合っていくつもりです。でも、どうせならアンドレアス王子がよかったなぁ。天使と例えられる第二王子。マクシミリアン王子とは正反対ね。
そうそう。この際だから、書いておきます。
君は今回の異動の件で、私に対して申し訳なく思っているようだけど、そんなことで苦しむ必要はないんだよ。
私たちは家族じゃないの。両親が亡くなった今、たったふたりの姉と弟。
君が心身ともに穏やかに暮らせることがなにより嬉しい。
そして、私のこの嬉しさが、君の喜びにつながると思っています。
私は大丈夫。
それよりも、君が心配です。
朝晩まだ冷えます。気管支に堪えるのだから、温かい格好をしておくように。
薪はケチらずにしっかりと必要分使って。この前、たくさん割って倉庫に入れておいたのを、君も見たでしょう? 大丈夫。筋肉痛はもう治ったよ。
薬については、ローゼンハイム卿にお願いしています。定期的に届けてくださるそうなので、しっかりと飲むように。君はすぐに飲み忘れるからね。ああ、そうだ。この手紙を薬袋の近くに置いておくように。そうすれば、私の小言を君は思い出してくれるでしょう?
エルンスト。
どうか私を心配しないで。
私は平気。
しっかりとお役目をこなし、必ず君のもとに戻って来るから。お土産、期待しておいて。いくつか候補を考えています。
それでは。
心はいつも君の側に。
エルンストの姉アメリより。
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