VS魔導人形軍団戦 その二
今回は主人公以外の視点オンリーです。
「さて、儂の相手はお主らじゃの」
儂は大太刀の切っ先を騎士魔導人形と弓使い魔導人形に向ける。こんな挑発に意味があるかはわからんが、ジゴロウに向かって行った二体と合流させる訳にはいかん。それに、敵意を見せられて無視することはあるまい?
『『排除』』
うむ、上手く行ったようじゃな。生憎と儂はジゴロウのように相手の注意を引き付ける能力を持っておらん。だから効果があるのか不安じゃったが、心配無用だったようじゃ。
む?ひょっとして、合流する前にパパっと儂を倒してしまうつもりなのじゃろうか?もしそうじゃとしたら舐められておるようで少し不快じゃのぅ。
騎士魔導人形は盾を前にかざしながら間合いを詰めてくる。そうすることでもう片方の手に握られている剣を隠しておるな。攻め手を見せず、太刀筋を読ませんためじゃろう。
しかもそれと同時に弓使い魔導人形が矢を放つ。分かりやすく儂の頭などの急所を狙うのではなく、膝の辺りを狙っておるな。以外としっかりした戦術を見せてくれるのぅ!
「ほいっと、ぬん!」
儂は脇差で矢を弾くと、大太刀を振り上げる。そして騎士魔導人形に向かって渾身の力を込めて振り下ろした。可能なら盾ごと魔導人形を両断してやるつもりじゃ。
ギャギャギャギャギャ!
しかし、そう易々と事は運ばん。毒炎亀龍の体毛ごとその強靭な皮を斬り裂いた儂の大太刀は、魔導人形の盾を斬ることは出来なんだ。大太刀に乗った力で魔導人形を吹き飛ばしつつ、表面に浅い傷を付けるだけに終わったわい。
「ジゴロウも殴り砕くには至らん…か!」
横目でジゴロウを見ておったが、奴の拳でも盾を破壊するには至らんようじゃ。儂ですら普通の盾を斬れんのに、それよりも分厚い大盾を割るのは無理じゃろうて。
儂が余所見をしておっても、魔導人形共は待ってはくれん。騎士魔導人形が立ち上がる時間を稼ぐためなのか、矢を連射してくる。それを全て脇差で弾き落としていく。鬱陶しいが、これはこれでミニゲームみたいで楽しいのぅ。
そうこうしている内に騎士魔導人形が立ち上がった。そして今度も盾を前に間合いを詰めて来よる。うーむ、大太刀で迎撃するのは簡単じゃが、それではさっきと同じ事を繰り返すだけじゃのぅ。
それでは余りにも芸が無い。せっかく、若い時分から研いてきた剣やら槍やらの技を存分に振るえるのじゃ。力業も楽しいが、もっと技巧を凝らした方法で仕留めたいのぅ。
「ならば、先手を譲ってみるか」
そう決めた儂は大太刀を大上段に、打刀と脇差を持つ腕は力を抜いてダラリと下げる。さてさて、どう出てくるかの?
『排除』
騎士魔導人形はまず、前に出した盾によって儂を殴り付けてきよった。それに打刀を合わせて受け流すが、その裏に隠していた剣を突いてきよる。ふむふむ、ありきたりな戦術じゃな。
「シャッ!」
儂は剣に向かって大太刀を振り下ろすと、そのまま撃ち落とした。二段構えの攻撃を両方ともいなされた事で、騎士魔導人形はバランスを崩す。この好機の逃すまいと思ったが、後ろの弓使い魔導人形が邪魔するべく矢を放って来る。
「邪魔じゃ!」
儂は返す刀で矢を斬り払う。そのせいで大太刀で騎士魔導人形に反撃する事が出来なくなってしもうた。じゃが、心配は無用じゃよ。
「刀は一本ではないぞ?」
『ハ…排…除……』
儂は大太刀で矢を斬り払いながら、残った打刀と脇差を騎士魔導人形の鎧の隙間に捩じ込んだ。鎧の内側の装甲は薄かったらしく、儂の刀は二本とも深々と突き刺さっている。おお、上手いことどこかがショートしたようじゃな。
「さて、後は処理のようなものじゃが…」
『排除』
儂は片手間で矢を弾きながら他の皆が戦う様子を伺う。些か危なっかしい戦い方をしておる者もおるが、死にはせんじゃろ。助けに入るのも野暮というものよな。
「ジゴロウも遊んでおるようじゃし、儂もそうさせて貰おうかの」
では、弓使い魔導人形君。君には手持ちの矢弾が尽きるまで、儂の遊びに付き合ってもらうとしよう。何、止めを差す時は一瞬じゃよ。ほっほっほ!
◆◇◆◇◆◇
「あぁ、もう!二人とも勝手なんだから!」
ボクは双剣使い魔導人形の連続攻撃を捌きながら思わず叫んだ。ボクとお祖父ちゃん、そしてジゴロウの三人組になると、いつもリーダーはボクの役割を押し付けられる。
理由?そんなのは今の状況を見れば一発でしょ?何も言わずに突撃するジゴロウと、それに便乗して暴れるお祖父ちゃん。普段は二人とも比較的マトモなのに、戦いになると身勝手になるんだから。リーダーなんて任せられないよ。
むしろ、皆で行動している時にあの二人の手綱を握っていられるイザームは素直にすごいと思う。…頭がおかしいんじゃないのか疑ってしまう言動を時々やりだすのは事実だけど。
「って!余計な事を考える余裕なんて無いね!」
もうこうなったら仕方がないよね。二人には好きに暴れてもらって、ボクはとにかく目の前の魔導人形に集中しよう。戦いの申し子みたいな二人と違って、ボクにはそこまでの才能は無い。一体でもいっぱいいっぱいだ!
ボクは魔導人形が繰り出す攻撃をどうにか躱して行く。正直、ボクは防御が下手っぴなんだ。攻撃に回ればお祖父ちゃんを苦戦させられるんだけど、受け身に回っちゃうとすぐに負けちゃう。イザームが短期間で身に付けさせられた受け流しとかをどうしてもマスター出来ないんだ。
だから暗殺者スタイルはボクにピッタリ。奇襲をかけるのは基本で、出来ればそこで即死させて、出来なくても最低でも相手に重傷を負わせる。それで戦いの主導権を奪って、ガンガン攻めて勢いのまま倒しちゃう。このやり方でここまでやって来たのさ。
『排除』
「うぅっ、けどやっぱり正面からの斬り合いは苦手だよ~!」
だから、今みたいなガチンコ勝負は正直苦手だし、全面的に防御に回ってる状況は最悪だ。敵はボクと同じ双剣使い。だから、動きはある程度読めるんだけど、じゃあ対応出来るのかって言われたらそう上手くは行かないんだよね…。
『排除』
「うわっ!危ないなぁっ!」
ボクの種族は暗殺宝石粘体。『暗殺』ってついてるくらいだから、敏捷はクランで一番だ。だから本気で避けるだけに専念すればそう易々と攻撃を受けることは無いんだよ。
それにイベントの報酬で貰ったアイテムを使って進化したおかげで、実は素の防御力はアイリスに匹敵するくらいに高いんだ。『宝石』の名前は伊達じゃないのさ。だから、ちょっと当たっただけならダメージらしいダメージは受けないんだよ。体力はイザームの次に少ないんだけどね。
けど、ボクの粘体の身体が足を引っ張ってる。身体の大きさはプレイを始めた頃から全く大きくなっていないから、双剣使い魔導人形とは大人と子供よりも差があるんだ。
『排除』
「あぁ、もう!剣だけじゃなくて、踏みつけまで使うのはズルくない!?」
魔導人形は剣で斬り付けるだけじゃなくて、足の裏で踏みつけて来る。対するボクはリーチが短すぎて反撃なんてする暇も無い。表面を頑張って伸ばしても、魔導人形の二の腕の長さにも届かないんだから。どうしろってのさ!
他の二人みたいに二対一でも余裕綽々で遊びながら勝てないのは、わかっててもちょっと悔しい。同じような動きは無理なのはわかってるけど、せめてボクなりにカッコいいやり方で倒してみせたい。下らない意地だけど、負けず嫌いな性分だから仕方ないよね?
「あれ?ダメージを受けないなら、防ぐ必要ってある?」
どうやって事態を打開しようか、って考えていると、ふとそんな考えが天啓のように湧いてきた。
そうだよ!あの二人みたいに攻撃を捌きながら反撃、なんて人間離れした化け物にしか無理な事だ。なら普通の才能しかないボクに同じ神業を再現することは出来ない。なら、高い敏捷と防御力を活かして敵の攻撃を無視してガンガン攻めまくればいいんだよ!
『排除』
「効かないよ!」
うん、やっぱりちょっぴりしかダメージを負わないみたい。なら、防御や回避なんて考えずに攻めて攻めて攻めまくる!お祖父ちゃんに褒められた攻めを全面に押し出してやろう!
「せい!やぁ!はあぁっ!」
『排除』
ボクと双剣使い魔導人形は、お互いに足を止めて斬り合いを始めた。それで気付いたけど、ボクにはもう一つ有利な点があったみたい。ボク達粘体には核っていう弱点がある。逆に言えば、核以外の部分に攻撃を当てても、弱点の属性による攻撃じゃないと効果は今一つになっちゃうんだ。
ボクの核に触れたければ、カチカチの防御力を突破して、その奥にある無色透明な核に刃を届かせないと行けないって意味。これ、魔術がマトモに機能しない状況だとボクを物理攻撃で仕留めるのってとっても難しいんじゃないかな?
『排除』
「装甲は硬いけど…隙間を狙えば!」
魔導人形の装甲はかなり頑丈だね。これまでのα型やβ型とは違うみたい。でも、人工物の魔導人形だと、関節部分とかはどうしても隙間が出来ちゃう。そこなら刃が通るみたいだね!
ボクは魔導人形の周囲を跳ね回りながら関節をしつこく狙って短剣を振る。その間、魔導人形も反撃してくるけど、ボクの速さを捉えきれないみたい。たまにまぐれ当たりを食らうけど、ダメージはほとんど無いね。これなら行ける!
『排除』
「ここ…だよっ!鋭突!」
ボクは素早く背後に回り込むと、左右の短剣で武技を使いながら魔導人形の両膝の裏の関節に刃を突き立てる。使った武技、鋭突は刺突攻撃の威力とクリティカル率を上昇させる効果がある。これならどう!?
ビキキッ…!
ボクが短剣を突き刺すと、何かが壊れた嫌な音が聞こえてきた。手応えアリだね!けど、念には念をいれなきゃ!そのまま一度短剣を捩って内部を更に傷付けてから一度距離を取ってみる。
短剣が抜けた瞬間、魔導人形は崩れ落ちるようにその場にへたり込んじゃった。後からアイリスに聞いたんだけど、さっきの一撃で魔導人形の膝を支えてた球体関節を完全に壊してたみたい。そりゃあ立てないよね。
「ここからは畳み掛けるよ!」
ボクは動けなくなった魔導人形の関節に短剣を突き刺して行く。先ずは腕の動きを止めるために肩と肘を壊してみる。防具に隠れて見えにくいし狙いにくいけど、無理ってほどじゃない。ボクの短剣は狙い通りに左右合わせて四ヶ所の関節を破壊出来た。
『排除』
けど、相手はロボットみたいな魔導人形。強引に腰を回した勢いで腕を振って斬ろうとしてきた。どんな姿にされても諦めないなんて…凄い執念だよ、全く!
だからそれも出来ないように防具の合間を縫って腰部分の関節にも短剣を突き入れる。念には念を入れて何度も何度も刺していく。ビキビキっていう嫌な音が何度も聞こえてきて、効果が有るのが音で伝わってくるね!
バチチッ!!!
あ…なんか致命的な音が聞こえた気がする。魔導人形も痙攣し始めたし…
『排…除……ハイハイハイハイハイハイハハハハハハハハハハハハハハハイハハハハハハハ』
「うげぇっ!?キモい!!」
何かバグった!?ただでさえ『排除』しか言わないのに、それがホラー映画の壊れたラジオみたいに同じ部分を繰り返してる!キモい!怖い!そして何より…
「うるさい!」
「ハ………」
ボクは衝動のままに短剣で魔導人形の首を刎ねちゃった。音を出すスピーカーは頭のどこかにあったみたいで、もう音が聞こえる事はなくなってた。
それにしても、ボクの新しい戦闘スタイルが確立出来たし、この魔導人形には感謝するべきなのかもしれない。もう物言わぬガラクタになっちゃったけど、ありがとね。
「二人は…病気が出てるね。アイリスとイザームは…どうにかするでしょ。カルは…うわぁ…」
ボクがみんなの戦う様子を見ると、加勢することも無いかなって思う。戦闘狂は無視。遊んでるだけだもん。アイリスとイザームはせっかく二人で戦ってるんだから、邪魔しちゃ悪いよね。カルは…ボクが割り込めるような戦いじゃないよ、うん。
だから高みの見物をさせて貰っちゃおうかな!他の人の戦いを見るのも勉強になるしね!
もうすぐ100話ですね!ここまで続けられたのは、偏に読者の方々のお陰でございます!
次回は8月26日に投稿予定です。




