VS魔導人形軍団戦 その一
『『『『『『レベル5ノ脅威ヲ確認。排除開始』』』』』』
そう言って動き出したのは、池の石像だった。いや、そうじゃないか。私達が石像だと思い込んでいたモノこそ、警備用魔導人形γ型だったのだ。
人類の五人組と龍の姿を模した魔導人形は、眼に相当する部分を赤く光らせつつ此方に向き直る。するとそれぞれが武器を構えた。殺る気マンマンのようだな。
さらに周囲はα型とβ型に囲まれている。つまり我々に逃亡は許されず、戦闘は避けられないらしい。
「闇球…はぁ~、やはりダメか」
私が【暗黒魔術】の闇球を使ってみると、黒い魔力が球状に集まりかけたものの、途中でシャボン玉のように弾けた。これは間違いなく妨害領域のせいだろう。
どうやら池の底からせり上がった棒は、魔術の妨害と妨害への対抗を行えるらしい。アレを破壊しない限り、この場で魔術を使える者はいないという訳だ。
しかし、α型とβ型を含めて魔導人形達が普通に稼働しているのは何故だろう?魔術妨害は効果範囲へ無差別に働くので、自分や仲間が魔術を使うのも阻害してしまうという最大の欠点がある。ならば魔道具でもある魔導人形も動けなくなるハズなのだが…。判断材料が無い以上、考えても無駄だな。
「どうした、兄弟?」
「ん?ああ、あの棒のせいで魔術が使えないらしい」
「げっ、マジかよ!?」
私がため息をついたことが気になったジゴロウの質問に、私は端的に答える。すると彼は目を大きく見開いて叫んだ。それを聞いて同時に他のメンバーにも動揺が走った。
「えぇっ!?た、大変じゃないですか!」
「まあ、そうだな」
「…なんだか余裕だね?」
アイリスはかなり焦っているのか、触手を小刻みに震えさせている。それに比べて全く慌てていない私を見て、ルビーは訝しげに表面を揺らしていた。
「何か対抗策があるんじゃな?」
「その通りだ。その通りなんだが…ほれ」
源十郎の質問に答えるように、私は一枚の札を投げる。それは空中で黒い球体になると、包囲していたα型に直撃し、その装甲を凹ませた。
「あぁん?今のは闇球じゃねェか!」
「そうだ。正確には闇球の札を使ったのだよ」
破壊には至らなかったものの、明らかな魔術の発動に困惑するジゴロウに私は種明かしをする。【虚無魔術】の魔術妨害は魔術の発動を阻害する呪文だ。しかし、それには抜け道がある。それが【符術】で作成した札の使用なのだ。
魔術妨害は術者の魔力を周囲に撒き散らす事で、魔力が魔術になるプロセスを妨害する呪文だ。先程、私が闇球を使おうとした時、集まりかけた魔力が霧散したのはこういう理由である。
だが、【符術】の札は違う。こちらは札の中に既に形を成した魔術そのものが込められている。なのでその術が使えない者でも使えるし、魔術妨害でも術の発動に介入する事が出来ない。故に普段と変わらず使えるという訳だ。
この事を知っていたからこそ、私は大して慌ててはいなかった。だが、それとは別の問題がある。それは…
「あぁ…これは在庫のほとんどを吐き出すことになるか…。収支は大丈夫だろうか…?」
さっき使ったのは量産した『闇球の札』である。ただでさえ術の威力が劣化する【符術】の札だが、それを【錬金術】で複製した量産品なので威力はガタ落ちしている。なのでこの場で最弱のα型に対して装甲を凹ませる事しか出来なかったのだ。
量産品の札では見るからに特別製であるγ型には効かないだろうし、α型やβ型ですら倒すのに大量の札を使う事になるだろう。そうなると手書きの札も使う事になりそうだ。量産品はともかく、そのオリジナルは作成にそこそこ時間が掛かっている。
そのほとんどを使うとなれば、何らかの価値あるアイテムが手に入らない限り、消費した時間に対する収支は赤字になってしまう。それは避けたい所だ。
「そう言う問題!?」
「…ここは札の事を誇る部分じゃと思うがのぅ」
いやいや、収支を気にするのは重要な事だ。無論、採算など度外視した大盤振る舞いが必要な場面もあるだろうが、今はその時ではない。なので黒字になるかどうかをどうしても気になってしまう。
『…システムチェック完了。妨害領域、動作良好。原因ヲ魔物ガ有スル正体不明ノ能力ト推定。可及的速ヤカニ排除シマス』
無駄口を叩くのはここまでだ。私が魔術を使った事で、魔導人形は動きを止めていた。それは妨害領域を発生させているのに、魔術を使われたので警戒していたようだ。
しかし、それを私の能力だと推測し、ヤバい奴だとしてさっさと始末する方向に決まったらしい。そろそろこっちも戦闘に入らねばならんな。
「はぁ、仕方がない。損得を考えるのはここを切り抜けてからにしよう。ジゴロウと源十郎、ルビーはγ型…人型の五体を抑えてくれ」
「いいぜェ!強そうだからなァ!」
「任せてくれぃ!」
「わかったよ!」
妨害領域がある以上、魔術を中心に戦う私は全力を出す事が出来ない。そして生産職であるアイリスも戦力としては一段下である。なので別格の強さを感じさせるγ型は、いつも通りに戦える三人に任せる事にしたのだ。
「カル、龍型は任せるぞ。本物の力を見せてやれ」
「グルルルル!」
カルには同等の体格を誇る龍型魔導人形と戦ってもらう。最初に見たときから気になっていたようだし、動き出した時からずっとカルは龍型魔導人形を威嚇していた。力強い返事からも戦意の高さが伺える。
「残りの雑魚は私達で片付けようか、アイリス。隙があればあの忌々しい棒を圧し折ってやろう」
「任せて下さい!」
残りの雑魚散らしは余った私とアイリスでやるとしよう。そのくらいは私もやらねばなるまい。
『攻撃開始』
「行くぞ、皆!」
◆◇◆◇◆◇
全身鎧を着たチビ魔導人形が、俺の身長並みにデカイ盾を前に向けて突っ込んで来る。力比べってか?ノってやろうじゃねェか!
「オオッラァ!」
『………!』
凄まじい音を立てて俺の拳と盾がぶつかる。中々のパワーだがよォ…俺よりゃ下だなァ!
「ふんぬっ!っとォ!」
俺は腕を振り抜いて盾を押し戻したが、チビ魔導人形は崩れた体勢のままもう片方の手に持っていた斧で斬りかかって来やがった!ただじゃやられねェってことかよ!
俺は焦らずに身体を退かず、左から迫る斧の刃を左肘と左膝で受け止めた。肘と膝には毒炎亀龍の甲羅で出来たカバーが付いてるから、痛みを気にする必要はねェ。思いっ切り上下から挟み込んでやった。
「チッ!砕けねェか!」
斧頭をぶっ壊すつもりだったが、思ったより良い金属で出来てたっぽい。傷一つ付きやしねェ。ちぃっとばかし悔しいぜ。
『排除』
あ、ヤベッ。遊んでたら双剣使いの魔導人形が踏み込んで来てやがる。まあ、避けられねェって程じゃねェ。適当に対処して…
「ジゴロウ!先走んないで!」
…とか考えてたらルビーが間に入って来やがった。んで、そのまま双剣同士で斬り結んでやがる。動きの無駄は随分と減ってやがる。腕を上げやがったな?
『排除』
そんな事を考えてたら、魔術師魔導人形が杖を掲げやがる。何の真似かと思うと、杖の先から炎が噴き出したじゃねェか!
「ま、魔術だァ!?」
「ううん、違うよ!炎は杖の先に空いてる穴から出てる!きっと、あの杖は火炎放射器なんだよ!」
ほーん、良く見てンな。ってか、魔術じゃねェのかよ。驚かせてくれやがるぜ。けど納得だ。この妨害領域が広がってやがる場所でも、魔術じゃねェ方法なら普通に火をぶっ放したり出来るってワケか。
γ型ってのは端から妨害領域が展開されてる状況で戦う事を前提として設計されてンだろ。そうじゃなきゃわざわざ魔力を使わねェ武器なんざ持たせるわきゃねェからな。
「お祖父ちゃんは剣士と弓使い、ジゴロウは盾戦士と魔術師を相手して!双剣使いはボクがやる!」
「はいよ~」
「うむ!」
おっと、ボスから命令が下されちまったか。この三人だと、戦闘の指揮はいつもルビーが執ってる。何気にウチのクランでイザームの次に指揮能力が高ェからな。暗殺者だが、指揮官にもなれるってことよ。
「んじゃあボチボチ本気でヤるか…掛かって来いやゴラァァァ!」
俺は【咆哮】を使った状態で魔導人形共に向かって吠える。この能力もかなり使い込んだおかげで、効果を与える相手を選べるようになった。その特徴を活かして盾戦士と魔術師の魔導人形だけに【咆哮】をする。
『!』
『!』
あらら、やっぱりスタンしねェか。ま、ロボットだしなァ。利くわきゃねェわな。
『『排除』』
「うっしゃ!釣れたァ!」
むしろ目的は任された二匹の注意を引くことだ。最初、【咆哮】ってのは【威嚇】の効果が強くなっただけだった。けど、レベルが上がると直接的な攻撃力を持つようになってやがる。
これ一つで格下相手だと虐殺出来る能力だ。…人面鳥相手だと風壁で声そのものを防がれちまってほぼ意味が無かったがよ。
けど今回は『攻撃した』って事実が重要だ。ゴミみてェなダメージだが、ダメージであることは変わらねェ。攻撃された二匹、特にさっきまでルビーに狙いを定めてた魔術師魔導人形に俺を狙わせることに成功した。
『排除』
魔術師魔導人形は俺に向けて杖の先を向ける。んで、案の定杖の先から火をぶっ放しやがった。俺を丸焼きにしようってハラか?
「ハッハァ!効かねェなァ!」
けど、無意味だぜ?俺にゃ【火属性耐性】がある。この程度の火じゃあ火傷一つつきやしねェ。
「俺を焼きたけりゃ、こんくらいはやってみやがれ!ゴアアアアアッ!」
俺は炎雷悪鬼になって覚えた【悪鬼舌】って能力を使った。これは俺の口から炎と雷を吐き出す能力だ。
見た目は兄弟やカルが使う【龍息吹】みてェだな。けど、本質が違う。俺の炎と雷は能力の名前通りに俺の舌が変化したモンだ。こいつは魔術じゃねェから使えるんじゃね?と思ったが、ビンゴだぜ!気分はカエルだな。
『…!』
魔術師魔導人形に向かって伸ばした俺の【悪鬼舌】だが、その間にチビ魔導人形が割り込んできやがった。チビの持つ盾は俺の拳を防ぎ切った頑丈さでもって、俺の舌も簡単に防ぎやがる。このままじゃ魔力の無駄使いだとわかった俺は、素直に舌を元に戻した。
「けど、防いだな?ってこたァ、食らったらヤベェってこったろ?」
あの二人の【龍息吹】にゃ敵わねェが、俺の【悪鬼舌】もそれなりの威力がある。それがわかってるからこそ、防いだんだろうよ。なら、当たりゃあ十分なダメージを与えられンだろ。
しっかし、俺の【悪鬼舌】を防ぎやがるたァな。あの盾、思ったより良い金属を使ってやがるのか。アイリスや兄弟が喜びそうだなァ。そいつは兎も角、奴らをどうやって仕留めるにせよ、接近戦で鉄壁の防御を崩してやる必要がありそうだな。
「へへっ、楽しめるかもしれねェなァ!」
一筋縄じゃあ行かねェ相手。戦う相手ってなァそうでなくっちゃなァ!毒炎亀龍以来、久々に楽しめるかもしれねェ。そうであってくれよ?
「シャアアアアア!!」
ガガガガガガガガガッ!
俺は魔術師魔導人形を守るチビ魔導人形に向かって鋭く踏み込むと、一撃の威力よりも手数を重視した連打を繰り出す。俺の籠手と魔導人形の盾がぶつかって、耳障りな金属音が響き渡った。
「ここだァ!」
『…!』
俺とチビ魔導人形の間にゃあ結構な体格差がある。だから、自然と俺の拳は振り下ろす形になるわな。すると、チビ魔導人形はどうしても盾を上に向ける形になっちまう。
そうなると、いくらデカイ盾を持ってても足元を守れねェ。俺はすかさず足払いを掛けると、チビ魔導人形はスッ転んだ。んで、盾の上から足で踏みつけて動けなくする。これでチビ魔導人形は無力化出来たな。
『排除』
「だから効かねェってンだよ!ゴアアアアアッ!」
『ガガ…!』
魔術師魔導人形は懲りもせずに火を出してくるけど、俺にゃ効かん。逆に【悪鬼舌】で貫いて破壊してやった。
「あとはチビの方を壊すだけか。呆気ねェ…機械じゃこれが限界ってことかよ」
それなりに楽しめるかと思ったが、期待外れだったぜ。足払いなんて汚ェ手を使うだけで勝てちまったよ。ここら辺が、プレイヤーやら疑似人格AIやらを相手にするのとは違うってことか。
「他の面子は…大丈夫っぽいな。だったらちっと遊ばせて貰うか」
仲間達は優勢に戦いを運んでる。俺が援護する必要もないだろ。俺は足の下でもがいてやがるチビ魔導人形を解放して改めて戦うのだった。
たまに主人公以外の視点を書くのは楽しいですね!
次回は8月23日に投稿予定です。




