御披露目
不用意に警備用の魔導人形を破壊したせいで、我々は地下街全体の脅威として認識されてしまった。なので警備魔導人形の軍団が向かって来た…ハズなんだが…
「…これだけ?」
それが私の偽らざる感想だった。我々の前に現れたのは、十六体の警備用魔導人形α型。決して少なくない数なのだが、視界を覆い尽くす勢いだった人面鳥の群れに比べれば些か以上に貧相である。
他の皆も同じ感想だったらしく、緊張したり怯んだりしている者は一人もいない。むしろ私と同じく拍子抜けしているようだった。
『『『『『『排除開始』』』』』』
「おっと、魔法陣展開、聖盾」
最初の一体とは違い、やって来た十六体は問答無用で発砲してきた。我々という魔物を排除しに来たのだから当然だろう。私は先程と同様に聖盾を展開する。
魔導人形の向ける銃口が増えたことで弾丸の密度は飛躍的に上昇している。だが悲しいかな、量産型の魔導人形であるが故に武装も全く同じであり、この程度では私の防御魔術を突破することは出来ないのは確認済みなのだ。
六体の警備用魔導人形α型が一斉射撃を開始するも、私の聖盾がその悉くを弾いていく。防いでいる方が言うのもなんだが、相手が哀れに思えてくるな。
「カル、突撃だ!アイリス以外はカルを盾に突っ込め!」
「グルオオオ!」
「行くぜェ!」
「良し来た!」
「オッケー!」
「アイリスは私と盾の後ろから攻撃!」
「はいっ!」
皆は私の指示で即座に動き出した。この辺りはもう慣れたものである。
私の聖盾を飛んで乗り越えたカルの背後に、左右から飛び出したジゴロウと源十郎が隠れて突っ込んで行く。おや?ルビーは何処だ…っていつの間にかちゃっかり源十郎の肩に張り付いているじゃないか。効率的なことで。
アイリスは聖盾の後ろから触手を魔導人形に向かって伸ばす。締め上げてそのまま破壊…は出来ないだろうが動きを止める事は出来るだろう。
「グオオオオッ!」
「ッシャア!」
「フンッ!」
カル、ジゴロウ、源十郎の脳筋三人衆が裂帛の気合いと共に魔導人形を一体ずつ破壊する。カルの爪が、ジゴロウの拳が、源十郎の刃が魔導人形を無慈悲に吹き飛ばした。豪快である。
最初にカルがあっさりと壊した時から思っていたが、この魔導人形は量産型というだけあって貧弱だ。我々にとっては雑魚でしかない。
魔物に換算すると20レベルあるかないか程度の性能だろうか。レベル40超が三人もいる我々を排除するには戦力としては物足りないぞ?
「丸見えだよ!」
対するルビーは音もなく魔導人形の足元に接近して装甲が剥がれた部分へと短剣を突き立てる。内部を抉られた魔導人形は、そのまま沈黙してしまう。二人と一頭に比べればとても地味だが、スマートな戦い方だ。暗殺者らしさに磨きがかかっているな!
「なるべく原型を保って破壊したいからな…巴魔陣起動、砂風」
私は砂風の魔術によって砂を含んだ風を発生させる。新品同様の状態なら装甲を多少傷付けるだけに終わっただろうが、内部が露出しているならば話は別だ。
ガギギ…!
ビギィッ!
精密機械にとって、細かいゴミなどの異物混入が故障や動作不良の原因となるのは有名な話だ。それはこの魔導人形でも同様であったようだな。どこがどうなったのかは不明だが、内部に入り込んだ砂粒によって三体の魔導人形が簡単に動かなくなった。
「よし、上手く行ったな」
私は狙った通りに余計な傷を付ける事無く魔導人形を無力化するのに成功した。ふふふ、いいサンプルが手に入ったぞ。アイリスに分解してもらって分析してみるとしよう。ひょっとしたら我々の手で新たな魔導人形を作り出せるかもしれない。今から楽しみでしかないな!
「っ!後ろ!何か来てる!」
私が一人でほくそ笑んでいると、ルビーが鋭い声を上げる。それと同時に、なんと私の背後の天井にあった通風口のカバーが音を立てて外れ、その奥から円形のドローンのようなものが出てきたではないか!
キュイーーーーン!
ドローンの側面には複数の鋭い刃物が装着されており、高速回転することで空飛ぶ丸鋸と化して此方に飛んでくる。それがひい、ふう、みい…四台か。
「ちぃっ!飛斬!」
「えいっ!ああっ、か、躱されちゃった!」
私とアイリスは慌てて後ろを振り向くと、大鎌や鉈で迎撃する。しかし、如何せん手数が足りなかった。三台までは撃墜出来たものの、最後の一台は二人の攻撃を掻い潜って接近を許してしまった。
懐深くまで近付かれたら、私には抵抗する手段が限られてしまう。あるのは決して守りに向かない大鎌という武器ただ一つであった。受け流しは人型の敵相手ならそこそこ成功するようになったが、こういった類いの敵への成功率は低い。このままでは私は無視できないダメージを負うだろう。…これまでは。
「予定よりも早いが、御披露目と行くか!」
私は法衣をはためかせると、その内側から伸ばしたモノによってドローンを貫いた。よしよし、上手く動いてくれたようで一安心だな!
「…え?し、尻尾?」
愕然としているのか触手を硬直させたアイリスが呟いた通り、私が新たに追加したのは尻尾であった。それも槍の穂先のような物を咥えた頭蓋骨の先端を持つ尻尾である。インスピレーションを受けたのはカルと毒炎亀龍だった。
私の尾骶骨から生やした尻尾の長さは五メートル程で、先端以外は全て骨で作られている。今の今まで誰も尻尾の存在に気が付かなかったのは、伽藍堂の腹部から胸部に延長コードのように丸めて隠していたからだ。前回の進化で骨の数を増やしても肋骨の内側のスペースを埋めたりしなかった過去の自分を誉めてやりたい位だな!
そして先端に付けているのは毒炎亀龍の棘と甲羅を加工したものだ。甲羅と私の骨を【錬金術】によって融合し、さらに私の頭蓋骨と同じ形状に変形。そしてその口に毒炎亀龍の棘を入れれば完成である。
毒炎亀龍の棘はとても大きく、そのままでは非常にバランスが悪くなってしまう。しかし心配は無用だ。実は毒炎亀龍の棘はタマネギのように幾つもの層を成しており、これを全て剥がしてようやく露になる最も硬い部分を使っているのだ。それを【鑑定】した結果がこれだ。
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毒炎亀龍の棘芯 品質:優 レア度:T
毒炎亀龍が生成する棘の核となる部位。非常に硬い上、再生能力も持つ。これがある限り、毒炎亀龍は何度でも棘を生成可能である。
魔力を注ぐことで猛毒と炎を放出する。また、棘の層を生成する事も可能。
非常に優れた槍の穂先として有名だが、流通量は極端に少ない。
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この棘芯は源十郎が既に槍としてアイリスに加工してもらっており、そこから私はこれの存在を知って尻尾に使う決意を固めたのである。棘の層を一枚一枚丁寧に剥がす必要があるのだが、私は【錬金術】で邪魔な部分の大半を処理出来たので以外と作業は楽だった。
とにかく、こうして私は猛毒と炎を持ち、棘そのものを延長可能な尻尾を作り出したのである。これなら全ての腕が塞がっていても動かせるし、今のように隠しておけば不意討ちにも使えるのだ!
え?頭蓋骨の部分は余計じゃないかって?そんなもの、ロマンに決まっているだろう?因みに、眼窩には火属性の魔石を埋め込んでみたところ、赤く光らせる事が出来るようになった。まあ、何の効果もないのだが。
ただ、これは後から知ったのだが、【死と混沌の魔眼】を使っている時の私は眼窩に赤い光が灯るらしい。奇しくもお揃いの色になってくれたようだ。
「ふむ、どう動かせばいいのかがなんとなく解るのは【尾撃】のお陰か。とっておいて正解だったな」
そしてこの尻尾を活かす能力がSPを4消費して取得した【尾撃】である。これのお陰でシステムアシストの恩恵を得られているのだ。そうでなければぶっつけ本番で動く目標に攻撃を当てる事など不可能である。
「兄弟がどんどんイロモノになって行きやがる…」
「尻尾を生やすとは…次は腕を増やすとばかり思っておったわい」
「ぜ、全然可愛くない…尻尾なのに…モフモフしてないし…」
「か、カッコいいです!蠍の尻尾みたいで!」
他の魔導人形の無力化を終わらせた面々が、私の新たなる武器を見て言いたい事を言いたい放題に言ってくれた。いつも通り、褒めてくれるのはアイリスだけである。それにしても蠍の尻尾とは上手いこと言ったな!
「グルルルル♪」
魔導人形を咥えつつ戻ってきたカルは、上機嫌で自分の尻尾を私のそれに絡ませる。彼だけは私の進化に立ち会っていたので、尻尾の存在を知っていたのだ。なので当然のようにじゃれて来るのである。
「む、むおおおお!?折れる!折れるぞ、カル!」
しかし、私とカルの尻尾にはサイズと太さに大きな差がある。さらに尻尾には龍の骨を使っているとは言っても、所詮は骨だけであり、出せる力と耐久力は龍と比較にならない。カルの力強い尻尾がじゃれた結果、私の尻尾がミシミシと音を立て始めた。
「グルルゥゥ…」
カルは残念そうに尻尾の力を弱めた。カルには悪いが折角の新たな器官を早々に壊されてしまうのは悲しいのだよ。
「新しくモノを付けたってこたァ、進化したんだな?兄弟?」
「ああ。『混沌深淵龍骨大賢者』になったぞ」
「混沌って…イザームはどこに向かってるの?」
「さあな、私にもわからんよ。それと職業は神官系の『死と混沌の使者』だ。だから回復系の魔術を使えるようになった。これからは回復も任せてくれ」
私の転職先を聞いた瞬間、皆は驚きに息を飲んだ。うんうん、わかるぞ。かなり衝撃的な名前の職業だからな。
「し、神官系…!?」
「骸骨なのに!?」
「似合わんのぅ…」
そっちかよ!…確かに言われてみれば骸骨姿の神官って似合わないけども!それか『堕ちた』とか『死霊』とかが枕詞になりそうだけども!
「あれ?皆さんご存じないんですか?『死と混沌の女神』イーファ様の聖印は『頭蓋骨と渦』ですから何もおかしくありませんよ?」
「「「「えっ?」」」」
「グル?」
アイリスは当然のこととばかりに言ったが、そんな話は初耳である。他の三人も同じだったのか、私と同じ反応を示した。あ、カルは単に我々が何を言っているのかがわからないだけだな。
「…三人は兎も角、イザームも知らなかったんですか?」
「ああ、寡聞にして知らないな。説明してもらえるかい?」
「いいですよ。それはですね…」
アイリスの説明によると、FSWの十二柱いる女神にはそれぞれ聖印と言うシンボルマークがあるそうな。そして私に加護を与えて下さっている『死と混沌の女神』イーファ様の聖印が『頭蓋骨と渦』なんだとか。なので骸骨そのものの私が神の使者になってもおかしくはないらしい。
「私は結構掲示板を巡回していたつもりなんだが、その情報を見た記憶は無いな」
「公式ホームページの世界観説明にありますよ?」
「も、盲点だった…!」
公式ホームページは初期選択可能な魔物の一覧を読み込んだ以外はほぼ流し読みだったからな…。普段は説明書を隅から隅まで読むくせに、今回に限って見逃すとは不覚である。
「とにかく、これからはポーション以外の回復手段があるから、より安定した冒険が出来るぞ」
「おお、そいつァいいな!」
「しかし良かったのかの?魔術師ではない職業を選ぶのは主義に反したのではないか?」
源十郎の指摘は尤もだ。実際、そのことでほんの一瞬でも迷ったのだから。だが、この選択をした事に後悔は全く無かった。
「回復魔術を使える者が必要だとは前々から思っていたから丁度良かったのさ。それに、どうせ私は遅かれ早かれ回復魔術を求めて神官系の職業に手を出していただろうし、それが早まっただけだよ」
そう。どうせいつかは回復魔術を使うために神官系の職業に手を出していたのは間違いないのだ。それがちょっと早くなっただけに過ぎない。だから気にする必要など本当に無いのだ。
「…本当のようじゃな。なら良いのじゃ」
「それよりさ!回復魔術ってどんな感じなの?気になるよ!」
「ああ、私が取得したのは【魂術】と言ってな…」
こうして私はルビーにせがまれるまま、休憩を兼ねて【魂術】についての説明を皆にするのだった。
増えた部位は尻尾でした。予想していた方々も多かったみたいですね。
余談ですが、この話を執筆している最中に見たとある人体にまつわるアニメで出てきた悪役が尻尾(?)で主要キャラを追い詰めていました。それを見て「あ、これ自分が主人公にさせたかった動きじゃん!」と一人で盛り上がっておりました(笑)。
次回は8月17日に投稿予定です。




