古の廃都
あれから鍛練や生産で夜まで時間を潰した我々は、『古の廃都』へ行く事にした。メンバーは私、アイリス、ジゴロウ、源十郎、ルビー、そしてカルの五人と一頭という初期メンバーである。
シオはまだレベルが足りない上、『蒼月の試練』に向けて鳥人との特訓があるので同行は出来なかった。「一刻も早く追い付いて見せるっす!」とは本人の言である。あの娘なら本当にすぐ追い付きそうだがな。
閑話休題。私たちはバーディパーチから西側の地面に降りた後、ジゴロウ達の案内に従って西へと進んだ。バーディパーチのある岩山周辺は一面の草原なのだが、しばらく西に進むとアスファルトの道路らしきものが見えて来る。
道路は罅だらけで、隙間からは雑草が好き放題に生えている。しかし、明らかな人工物の名残は、私に目的地が近い事を教えてくれた。
「ここだぜ」
「これが、『古の廃都』か…」
道路沿いに歩くこと数十分、時折現れるレベル20にも満たない魔物を適当に狩りながら進んだ先にあったのは、鉄筋コンクリートで造られた外壁に囲まれた円形の都市だった。
外壁は所々崩れて鉄筋が露出しているし、その鉄筋が腐食して変色している箇所も多い。都市の建築物も高層ビルと言えるものは数本を覗いて全て崩壊しており、原型を留めているのは二階建てや三階建ての建物ばかりだ。
それに原型を留めていても、その多くの壁は蔦に覆われているし、地面もここまでの道路と同じくひび割れから雑草が繁茂している。そのせいでかつての栄華の名残りをほとんど感じられなかった。まさに廃墟となった都市、即ち廃都である。
「出てくる敵は厄介なのだろうが…この雰囲気は悪くない。いや、正直かなり好みだ」
道路から少し逸れた丘から『古の廃都』を見下ろした私は、思わずそう呟く。単に寂れただけの廃墟ではなく、その段階を越えて自然が侵食しているのが私の琴線に触れていた。時間的に夜中であり、空に月が浮かんでいるのが神秘的なのも一因だろう。
「気に入ったのはいいけどよォ、早くリベンジに行こうぜ?」
「…ああ、そうだな」
この景色は何時でも見られるのだ。それよりも未知のエリアを探索する方が先決である。個人的には少し後ろ髪を引かれる思いだが、仕方があるまい。では、参るか!
◆◇◆◇◆◇
『古の廃都』の外壁には当然出入りするための門がある。それは金属製で分厚く、弱い魔物では傷付けることすら出来ない強度だったことだろう。しかしそれも過去の話だ。経年劣化によって門は無惨に崩れており、入り口は誰でも通行可能な状態になっていた。
「ここから一歩でも足を踏み入れたら、その瞬間から人面鳥に狙われるよ。注意してね」
私に忠告したのはルビーだった。人面鳥は縄張りへの執着が強く、廃都の外壁を境界線としてその内側へ侵入した者には執拗に攻撃を繰り返す一方、外側へ逃げ出した途端に追跡を止めるのだとか。ある意味几帳面な性格をしているのかもしれない。
「わかった。いつでも戦えるように構えておこう」
私は忠告を心に留め置きつつ門を潜って廃都に踏み込んだ。ジゴロウ達は人面鳥を避けてこの門周辺の建物の内部は探索済みとのことなので、わざわざ中には入らない。そして今回の目的地はもう決まっていた。
「よし、じゃあ予定通りにあの中央に聳える一番高いビルを目指そう」
都市の中央にあるビルは、原型を保っている数少ない高層ビルの一本だ。廃墟と化した巨大建築物、というだけでそそられるものがあるが、それ以上に明らかに高度な文明が栄えていたであろう『古の廃都』の中央に座す建物なのだから何か重要な役割を果たしていたに違いない。
ならば何かしらのお宝が眠っていると考えていいだろう。それが無くともこのエリアのボスがいる可能性もある。行ってみて無駄足になる可能性は低いはずだ。
「うわっ、もう来たよ!」
な、何だと!私達が廃都に侵入してからまだ一分と経っていないのにもう察知したというのか!?
「ゴゲッ!ゴゲッ!」
「ゲェェ~!」
現れたのは緑色の羽の鳥と赤色の羽の鳥であった。ただし、両方とも普通の鳥ではない。その頭部が醜い人間のそれなのである。こいつらが話に聞いた人面鳥なのだろう。早速、【鑑定】だ!
――――――――――
種族:人面鳥 Lv35
職業:暴風魔術師 Lv5
能力:【悪食】
【牙】
【爪】
【暴風魔術】
【飛行】
【捕獲】
【奇襲】
【連携】
【矮躯】
【風属性耐性】
【火属性脆弱】
種族:人面鳥 Lv38
職業:火炎魔術師 Lv8
能力:【悪食】
【牙】
【爪】
【火炎魔術】
【飛行】
【捕獲】
【奇襲】
【連携】
【矮躯】
【火属性耐性】
【水属性脆弱】
――――――――――
ほほう?能力の数は多くないし、レベル的には格下だ。しかし、魔術は進化済みだし、中々厄介な性質を持っているようだな。それは何を隠そう、個体によって弱点が異なるという点である。
恐らくだが、使える魔術と対になる属性が弱点となるのだろう。これを完璧に対処するには、あらゆる属性を使えるパーティーでなければならない。
いや、弱点でなくともダメージは与えられるので無理に揃える必要は無いかもしれない。だが、何らかの属性に偏ったパーティーだとさぞ苦労することだろう。
「魔法陣展開、呪文調整、火槍。続いて魔法陣展開、呪文調整、水槍」
「「ゲギャァァ!?」」
私の放った魔術は、【魔力精密制御】の後押しもあって追尾しながら真っ直ぐに人面鳥達へと向かって行く。よもや先制されるとは思っていなかったのか、人面鳥は二羽とも魔術が直撃し…そのまま死んでしまった。
「えぇ…あっさりし過ぎじゃないか?」
「ああ、言ってなかったか?攻撃があてられりゃ確定で倒せるくらいにゃ貧弱なんだわ、アイツ等。カル坊の攻撃が掠っただけでバラバラになってたしな」
そう言えばさっきステータスを読んだ時に【矮躯】という能力があったっけ。たしかそれは小鬼にもある貧弱になってしまう能力だったと記憶している。そのせいでもあるのだろう。
「ただ、簡単に倒せたのは二羽だったからじゃよ。…ほれ、お出でなすった」
源十郎の視線を追うと、そこには群れを成して空を飛ぶ人面鳥達の姿があった。正確な数は不明だが、最低でも二十羽はいると推測される。
これ程の規模の群れが一斉に魔術を降らせてくるのだから、近接に特化しているジゴロウや源十郎からすれば相性が最悪な相手なのだろう。しかし、私にとってはそうではない。
「そうか。ならばこちらも数で押すとしよう。星魔陣遠隔起動、呪文調整、悪霊召喚」
「「「「キャハハハハハハハハハ!!!」」」」
「「「「!?」」」」
私は人面鳥の群れのど真ん中に【降霊術】での無差別攻撃を行う無数の悪霊を召喚する。何となく前に呼んだ時よりも数が増えた上に一匹一匹が強くなっているように見えるのは気のせいではあるまい。能力レベルの上昇とアイリスの作った首飾りのお陰に違いない。感謝してもし足りないな!
「ゲゲギギャァ!」
悪霊の登場で最初は混乱に陥りかけた人面鳥の群れだったが、一際大きな個体の一喝で正気に戻ってしまった。更に統制の取れた動きで悪霊を次々と仕留めて行く。悪霊は物理攻撃は効かないものの、魔術が弱点なのでかなりのダメージを食らってしまう。なのでどんどんと駆逐されていくではないか!
それを実現出来ているのはあのリーダー格の見事な指揮の手腕が原因だ。時に散会して悪霊の攻撃をいなし、時に一匹に魔術の集中砲火を浴びせて確実に仕留めている。だが、もうこちらの準備は整っていた。
「敵の羽の色から察するに、地水火風の基本的な四属性しかいないようだ。なら、弱点でも何でもない属性でごり押してやろう。魔法陣起動、暗黒界。そして魔石吸収、星魔陣遠隔起動、呪文調整、闇波!」
弱点属性と耐性属性がバラバラなら、両方に当てはまらない魔術をかませば良いじゃない。それになんだかんだ言って私の最大火力は【暗黒魔術】だ。それを活かしてやろう!
「「「ゲギョアァァァ!?」」」
人面鳥は、私の魔術を浴びてボトボトと堕ちてくる。やはり【矮躯】のせいか強化した私の魔術であっさりと倒せてしまうようだ。
「ゲギャッ!ギギャギャッ!」
おっと、指揮官っぽい個体は生き残ったようだな。やはりあれは普通の人面鳥ではないようだ。どれ、【鑑定】してみるか。
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種族:人面鳥長 Lv42
職業:指揮官 Lv2
能力:【悪食】
【牙】
【爪】
【暴風魔術】
【飛行】
【捕獲】
【奇襲】
【指揮】
【連携】
【風属性耐性】
【火属性脆弱】
――――――――――
人面鳥長か。リーダーと言うだけあって【指揮】の能力を持っている。これがあの統率力の正体に違いない。【矮躯】も無くなっているし、単体でもそこそこ強い相手のようだ。
「こんなものか?巴魔陣起動、火槍」
「ゲガァァァ!!」
しかし、他の人面鳥と同じ術をくらって体力が約八割削れていた。なので強い、と言っても多少マシとしか言い様が無い。案の定、私の火槍が三本突き刺さるとそのまま倒れた。
「やっぱああ言う手合いは兄弟がいると雑魚になっちまうなァ」
「逆に言えばイザームが居ないと厳しいんだけどね」
魔術の撃ち合いだけなら、装備のお陰もあってトップ層とも張り合えると思う。これは思い上がりではないはずだ。曲がりなりにもこの濃い面子だらけのクランのリーダーなのだから、このくらいは出来なければならないだろう。
「私と人面鳥の相性が良いだけだ。それよりも手早く剥ぎ取りを済ませよう。次が来るかもしれないだろう?」
「それもそうじゃの」
「パパパッとやってしまいましょう!」
源十郎とアイリスは相槌を打ちながら剥ぎ取り作業に入る。人面鳥の群れは人面鳥長を含めて二十四羽だったのだが、その多くからはぎとれたのは使えた魔術と同じ属性付きの魔石であった。そしてそれ以外にも剥ぎ取れたのだが…
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人面鳥の糞(火) 品質:良 レア度:R
人面鳥の排泄物。火属性を帯びている。
これを堆肥にすると、特殊な効果を持つ農作物が収穫出来る事がある。
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排泄物(直球)。これをインベントリへ入れるのにはかなりの抵抗を禁じ得なかった。しかし、捨てるには余りにもアイテムの説明文が魅力的であり、実利と感情を天秤に掛けた結果…嫌々ながら持ち帰る事としたのである。
我々の中には【農業】や【園芸】の能力を持つ者、ないし取得予定の者はいない。なのでこれはバーディパーチの農家へ持ち込んでみようと思う。今後、食料の生産を好む仲間が出来るかもしれないので、専門家がどう利用するのかを見ておいて損は無いだろう。まあ、一種の皮算用なのだが。
思いもよらないアイテムを得つつ、我々は探索を続行する。『古の廃都』の攻略はまだまだ始まったばかりだ。
筆者は緑に侵食された廃墟が大好物です。なのでニ○アオ○トマタにどっぷりハマってますね~
次回は8月8日に投稿予定です。




