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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第七章 天空の大陸
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二日空けて

 日常(?)回です。掲示板回と同時投稿しています。

――――――――――


従魔の種族(レイス)レベルが上昇しました。

従魔の職業(ジョブ)レベルが上昇しました。


――――――――――


 予想通り、一昨日と昨日は残業でログイン出来なかったよ…。これが社会人の悲しい所である。二日ぶりのログインだ!


 そしてログインした瞬間に流れるカルがレベルアップしたというアナウンス。きっとジゴロウや源十郎が狩りに連れていったのだろう。あの二人にカルが加われば、大概の敵など相手にもならないだろう。


「あ、イザームだ!久しぶり!」

「イザームさん!こんにちはっす!」

「ああ、こんにちは」


 私が部屋からリビングに出ると、そこにはルビーとシオの二人が雑談している所だった。おや?シオは灰色の羽毛の雛鳥ではなくなっているな。進化しているようだ。


「シオは進化したようだな」

「はいっす!自分は鷹の鳥人(バーディアン)になれたっす!狙い通りっすよ!」


 ふむ、確かに『鷹の目』と言えば腕の良い狙撃手のイメージがあるな。実際はどうなのかは寡聞にして知らんがね。


「そうそう!イザームがいない間に、しーちゃんが面白いクエストを発見したんだよ!」

「ほう?どんなクエストだ?」

「その名も『若者達への試練』っす!」


 シオの説明を纏めると、鳥人(バーディアン)の若者で一定以上の実力を認められた者は、月初めの新月の夜にパーティーを組んでボスエリアに行くという風習があるそうだ。そう、新月の夜である。即ち、『蒼月の試練』がある晩だ。


 シオはプレイヤーだが、その試練へ挑戦する事を許されたらしい。今はパーティーを組むNPCの鳥人(バーディアン)と狩りを行い、連携の訓練に励んでいるそうな。


 くぅぅ!そんな面白そうなクエストの発生に立ち会えなかったのは悔しいぞ!こればっかりは仕事の都合なのだから仕方ないわなぁ。


「そうか、頑張れよ。それで、他の皆は?」

「お祖父ちゃんとジゴロウは外で耐性の訓練中。アイリスは鳥人(バーディアン)からの依頼でてんてこ舞いだよ」

「ああ、そう言えば依頼を受けていたんだったな」


 アイリスは弓職人の下で弓を作製する技術を学んだ。その時に彼女が腕の良い職人である事が鳥人(バーディアン)の間に広まったらしく、彼女は様々な物品の作製やバーディパーチには無い鍛冶や魔道具の作製技術の講師などを依頼されている。


 モノ作りが好きなアイリスは嬉しい悲鳴を上げているようだ。一方で冒険が出来ないのは辛いようだが。


「あ、アイリスと言えば新しい装備が出来たんだって。外の工房に居ると思うから、一度顔を見せに行っといて」

「おお、そうか!出来ていたか!」


 長い間更新出来ていなかった新装備が漸く完成したらしい。実は毒炎亀龍(タラスク)と戦った後、私は手に入れたアイテムの一部をアイリスに預けたのだ。その素材がこちら。


――――――――――


毒炎亀龍の厚皮 品質:良 レア度:S(特別級)

 龍の力を得て突然変異した毒炎亀龍の分厚い皮。

 炎と毒に強く、耐水性もある防具の材料となる。

 龍の眷族の素材であり、優れた魔術の触媒にもなる。


幼龍の真鱗 品質:優 レア度:S(特別級)

 幼龍の鱗の中でも、進化する時に剥がれる特殊な逸品。

 未熟な龍の素材にもかかわらず、その硬度は成体の鱗に匹敵する。

 真なる龍の素材であり、魔術の触媒に最適。


――――――――――


 他にも毒炎亀龍(タラスク)の素材はあるが、私の装備に使えそうなのはこの皮くらいなものだった。他は全て重そうだったし、何より他の使い道を考えてある。


 そしてある意味目玉なのがカルが進化した時に落とした鱗である。進化する時にだけ落とす希少なアイテムである真鱗。これがどんな装備使われているのだろうか?


 他にも使ったであろう素材は全てここヴェトゥス浮遊島産なので、間違いなく良い装備が完成しているはずだ。受け取りに行く前から楽しみである。


「じゃあ私は下へ行こう。二人はどうする?」

「私達はもう少しここでお喋りしてから行くよ。しーちゃんの迎えがもうすぐ来るし」

「さっき言っていた共闘する鳥人(バーディアン)達の事か。わかった。シオ、試練までにレベルを上げすぎるなよ?」

「わかってるっす!ちゃんと調整するっすよ!」

「じゃ、後でね」



◆◇◆◇◆◇



 二人と別れた私は、アイリスが居るはずの工房へと足を運んだ。彼女の工房は巨木の根本から少し離れた位置にポツンと佇んでいるのでとても目立っていた…はずなのだが…


「ここで…本当に合っているのか?」


 彼女の工房があったはずの場所には、何故か立派な鍛冶場が出来ていた。分厚い塀に囲まれ、内側からは金属を叩く音とそれを凌ぐ怒鳴り声が聞こえてくる。さらに中央の辺りから高い煙突が伸びており、そこからはもうもうと煙が吹き上がっていた。


「あ!骨の旦那じゃありやせんか!」

「…ん?ああ、君はアイリスに弟子入りした職人鳥人(ワーカーバーディアン)だったな」


 工房の偉容に呆然としていた私に声をかけたのは、一人の若い職人鳥人(ワーカーバーディアン)だった。長老衆の意向で、彼を含めた数人がアシスタント兼弟子としてアイリスに与えられたのである。彼女としては作業を分担出来るし、長老衆からすれば彼女から技術を学べる好機でもあり、互いに利害が一致していたので話が纏まった。


 ちなみに、私が彼を名前で呼ばないのは何も嫌がらせでも名前を知らない訳でもない。それはそもそも彼が名前を持たないからだ。鳥人(バーディアン)の文化では、前に私も出席した会議に参加出来るまでは名前が与えられないそうだ。名前を得ることがある種の社会的ステータスでもあるらしい。面白い話である。


「姐さんは奥で作業中ですぜ。お呼びしますかい?」

「いや、作業中ならそれが一段落してからでいい。私はここで待たせてもらおう」

「わかりやした」


 私は鍛冶場の入り口近くにある待合所で待つことにする。しかし、時間が出来たな。ならば暇潰しも兼ねて【符術】を鍛えるとしよう。


 待合所の机の上に紙とペンを出すと、早速作業を開始する。作業とはもちろん、数が減った札の作製だ。全員の脆弱克服訓練のためにも、また普通に攻撃手段としても札はとても有用である。時間があればすこしでも作っておくべきだろう。


 それに、【符術】はレベルを上げない事には新しい札を作製出来ない。経験値稼ぎのためにも、こまめな札の作製は重要なのだ。


「はぇ~!骨の旦那は変わったモンを作ってやすねぇ~!」


 私がせっせと札を作製していると、先程の職人鳥人(ワーカーバーディアン)が身を乗り出して私の作業を覗き見て来る。自分の知らない何かに興味津々のようだ。


「これは【符術】と言う魔術系の能力(スキル)で作製する札だ。使ってみるといい」


 私はそう言いながら札を一枚差し出す。職人鳥人(ワーカーバーディアン)はそれをワクワクとした表情で受けとると、そのままジッと札を見つめていた。十中八九、【鑑定】しているのだろう。


「こいつは凄ぇや!魔術がからっきしのオイラでも、これさえありゃあ魔術師の真似事が出来るって寸法ですかい!」

「ああ、そうだな」


 札の効果は札の作成者に依存するが、札そのものを使うのは誰にでも可能だ。逆に言えば札を盗まれるとせっかく苦労して習得した魔術を劣化しているとは言え他人に使われてしまう危険性も伴っている。しっかりと管理しておかなければ。


「かーっ!姐さんも旦那もオイラ達をどんだけ驚かせりゃ気が済むんですかい?」

「む?そんなつもりは無いのだが…」


 まあ確かに【符術】を既に習得しているプレイヤーはごく少数だとは思う。掲示板でも話を聞かないし、下手をすれば私だけという可能性だってある。


 だが、NPCにとってはメジャーではないにしろ習得している者は一定数いるはずだ。そもそも私が習得したのも生前はNPCだったと思われる死霊道士(アンデッドメイジ)の持っていた資料を読んだからである。なので彼の故郷へ行けば案外普通に習得出来るのではないだろうか?


「オイラは商売はわかりやせんが、こいつぁ売れますぜ!特に魔術が使えねぇ戦士はこぞって買いに来るでしょうよ!」

「そう…だろうな。便利であるのは確かだ」

「でしょう?なら…」

「お待たせしました!」


 職人鳥人(ワーカーバーディアン)が何か言おうとした時、鍛冶場の奥の方からアイリスがやって来た。無数に伸びる触手には、様々な工具が握られている。生産作業が一段落ついたところで急いで来てくれたのだろう。


「二日、いえ()()では八日ぶりですね、イザーム」

「ああ、久しぶり…と言うべきだろうか?」


 リアルなら二日間会わなかった程度で久しぶりとは言わないだろうが、ゲーム内の時間は四倍に加速されている。なのでゲーム内なら一週間以上顔を合わせなかったことになり、久しぶりと言えなくもない。


「ふふふ、何だか前にも似たような会話をした記憶がありますね」

「そうだったか?」

「それよりも、新しい装備は出来ていますよ!」


 おお!それを待っていたのだ!早く!早く見せてくれ!


「ふふっ、そんなに楽しみだったんですか?子供みたいな所もあるんですね」

「うっ…い、いいじゃないか」

「悪いなんて言ってませんよ?さて、イザームをからかうのはこの辺にしましょうか。お待ちかねの装備はこっちです。ついてきて下さい」


 歩き出したアイリスの後を追い、私は鍛冶場の中へ入っていく。最初は彼女が触手を最大まで伸ばせないくらいの広さしかなかったのに、今では三人以上が横に並んで歩けるほどの幅の廊下がある。本当に大きくなったものだ。


「イザームが来られなかった間、ある鳥人(バーディアン)の偉い人が私に個人的な依頼があったんです。鍛冶場の拡張はその報酬ですよ」


 私が鍛冶場の発展について疑問に感じているのを察したアイリスが原因について教えてくれた。依頼の報酬としては些か以上に破格だと思うのだが?


「その依頼について聞いても?」

「ええ。依頼人は長老衆の息子さんで、内容はバーディパーチでは珍しいデザインの木工細工の作製でした」

「木工細工?いい趣味だな」

「いえ、そうじゃないんです。自分のためのものじゃないですから」

「え?」

「彼には好きな女性がいて、その方にプロポーズするためのプレゼントだったんです」


 なるほどね?そいつは大枚叩いて依頼する価値があるだろうよ。何せ人生がかかっているからな。


「鍛冶場がここまで拡張したと言うことは、上手く行ったんだな?」

「はい!…っと、ここです」


 どうやら雑談している間に私の装備を置いてある部屋に到着したらしい。と言うか、ここは防具専用の加工部屋なのか。扉に取り付けられたネームプレートに『防具』と彫られているし。


「どうぞ」

「ああ」


 私はアイリスに促されるまま部屋の中に入った。そこでは二人の鳥人(バーディアン)が仕事に勤しんでいる。アイリスと私が入室するのに気が付いた二人は、黙って目礼すると作業に戻った。その時、私はあることに気が付いた。


「おや?彼らは職人鳥人(ワーカーバーディアン)ではないのか?」

「はい、そうですよ。職人を目指す若い鳥人(バーディアン)も修行に来るようになったんです」


 凄いでしょ?とアイリスはいたずらっぽく言う。私はそれを素直に称賛するしかなかった。


「それで例の装備ですが…こちらです!」


 アイリスが触手で指差したのは、布が掛けられた何かだった。シルエットから察するにマネキンのようなものなのだろう。くぅぅ!ここに来てまだ勿体ぶるのか!?


「早くみたいですよね?では、オープン!」

「おおおおお!!!」


 布の下に隠されていたのは、黒と紫という落ち着いた色合いの装備品一色だった。胴体はローブ、四本の腕には籠手、腰のベルト、そして脚にはズボンとブーツが用意されている。


 す、素晴らしい!見た目は完全に私の好みだ。これを私が纏えば、どこからどうみても悪役の魔術師に見えるだろう。


 早く装備せねばなるまい!そう思った私は急いでメニュー画面を操作するのだった。

 と言うわけで次の章は装備の更新から。

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