進化と転職(カル編 一回目)
――――――――――
フィールドボス、毒炎亀龍を撃破しました。
フィールドボス、毒炎亀龍の初討伐パーティーです。
全員に特別報酬と6SPが贈られます。
次回からフィールドボスと戦闘するかを任意で選択出来ます。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
従魔の種族レベルが上昇しました。
従魔の職業レベルが上昇しました。
従魔、カルナグトゥールが【角】を獲得しました。
従魔、カルナグトゥールの種族レベルが規定値に達しました。進化が可能です。
従魔、カルナグトゥールの主人、イザームが進化の操作を行って下さい。
従魔、カルナグトゥールの職業レベルが規定値に達しました。転職が可能です。
従魔、カルナグトゥールの主人、イザームが転職の操作を行って下さい。
【神聖魔術】レベルが上昇しました。
新たに聖輪の呪文を習得しました。
――――――――――
毒炎亀龍との戦いは長かったし辛かった。だが、同時にとても楽しかった!全員が全身全霊の力を出し切った戦いだったからな。勝った達成感は半端なものではない。まあ、同じことをもう一度やれと言われても困るのだがね。
得られた報酬や新たな魔術の確認などやることは色々あるが、何よりも優先すべき事がある。それは勿論、カルの進化と転職だ!
「キュキュキュゥ!」
「おお、よしよし。カルよ。お前こそ、この戦いの立役者だ!」
「キューッ!」
翼を一枚失いつつも、元気一杯で私に飛び付いたカルを私は誉めながら頭を撫でる。カルは誉められた上に撫でられたのがとても嬉しいらしく、気持ち良さそうに目を細めながら私に身体を擦り付けて甘えていた。何なのだ、この可愛い生き物は?
「カル。お前は遂にレベル10に…進化と転職出来る段階へと到達した」
「キュ?」
「要はもっと強くなれるという事だ。さあ、進化するぞ?」
「キュー!」
従魔であるカルの進化と転職は、主人である私が操作せねばならないようだ。メニューから私のステータスを開き、そこにある従魔の欄で名前が点滅している『カルナグトゥール』をタッチする。するとカルのステータスが表示されたのだが、以下のようになっていた。
――――――――――
名前:カルナグトゥール
種族:幼龍 Lv10 max!
職業:幼龍 Lv10 max!
能力:【爪】
【牙】
【角】
【尾撃】
【体力強化】
【筋力強化】
【防御力強化】
【知力強化】
【精神強化】
【火魔術】
【闇魔術】
【無魔術】
【飛行】
【龍鱗】
【龍息吹】
【選択可能な能力を追加して下さい】
【選択可能な能力を追加して下さい】
――――――――――
おおっ!来た来た!この『選択可能な能力を追加して下さい』の文字は知っているぞ。こんなこともあろうかと、事前にカルが進化可能になったらどうなるのかについて掲示板で調べておいたのだ。
それによると、従魔が進化する時に主人であるプレイヤーが任意の能力を追加出来るのだと言う。ただし、これは何でも選べる訳ではない。表示にもあるように、『選択可能な』ものだけなのだ。
進化させる時に何が選べて何が選べないのかはまだ検証が終わっていないそうだ。しかし、大まかな予測は立っている。それは従魔の素質と主人の使える能力が関連していると言う説である。
FSWにおける従魔を使う職業は従魔師と言う。この職業の面白い点は選択した時にレベルアップ時に上昇補正が掛かるステータスを戦士系か魔術師系かで選べるそうだ。なので戦士系で前衛の従魔師と魔術師系で後衛の従魔師が両方存在するらしい。
何でも戦士系と魔術師系で同じタイミングで小鬼を【調教】して育て、進化する時に選択可能な能力を比較してみたらしい。それによると共通する能力が大半だったが、そうではない能力が幾つかあったそうな。
それによると、共通している能力としては【筋力強化】などのステータス強化系と【剣術】などの武器系がほとんどであった。そして戦士系従魔師の小鬼だと主人が持っていた【盾術】を選択出来、魔術師系従魔師の小鬼だと同じく主人が持っていた【火魔術】や【光魔術】を選択出来たらしい。
この事実から、従魔が進化する時に選べる能力は元々の素質と主人の能力が参照されるのではないか、という結論が導き出されたのだ。
「だが、選べる能力が二枠あるとは…流石は龍だな」
しかし、掲示板の情報によると報告に上がっていた魔物は全て選べる能力の枠は一つだった。こういう所でも龍は優遇されているのだろう。
枠の数が多いのは有難いが、問題はどの能力を選ぶかである。これが非常に悩ましい。カルは龍なので、種族としての素質に優れている。よってステータス強化系の能力はほぼ全て選択可能だ。更に片っ端から魔術を取得している私が主人なので、魔術に関しても選び放題である。
一つ目の能力は既に決めている。それは【再生】だ。これは【体力回復速度上昇】のように時間経過による体力回復を促進する能力ではなく、魔力を消費して傷や部位欠損を治す能力である。
カルは今回の戦闘で翼を失った。【再生】があればこれを元に戻せるだろう。
だが、問題はもう片方の能力である。いや、本当にどうしようか?うーん…
「キュキュッ。キュウ!」
「ん?どうした、カルよ?」
私が悩みながら撫でていたカルが、私の仮面をペシペシと叩いた。何か気に入らないことでもあったのだろうか?
「キュキュキュ!キュキュー!」
「…もしかして、取得したい能力があるのか?」
「キュー!」
カルは元気よく頷いた。どうやら、カルには取得したい能力があるようだ。ならば本人の意思を尊重しようではないか。ただし、私には一応聞いておきたい事があった。
「カルよ、能力の片方は【再生】を選んでくれないか?」
「キュッ!」
『当然だよ!』というニュアンスでカルは返答してくれた。彼も翼を失った時の不便さが身に染みたのだろうな。賢い子である。では、もう片方を選んでもらおうか。
「何がいいんだ?ステータス強化系か?武術系か?」
「キュキュ」
カルは首を横に振る。あれ?違うのか。
「では、魔術か?」
「キュー!」
おお、どうやらカルは魔術を覚えたいようだ。やはり、私の従魔なだけの事はある。ならば、どれがいいんだろうな?
「複合魔術は…選べるのか。今覚えている三種類を除いて十一種類あるが…」
「キュキュ!」
おや、属性魔術はお呼びで無いらしい。じゃあ少し毛色が違う奴がお好みか?
「ならば【召喚術】に【付与術】、【符術】に【魔法陣】…」
「キュキュ!」
これも違うのか?だったら残りは…
「まさか、深淵系魔術を取得したいのか?」
「キュー!」
な、なんと!カルは人類に邪悪な禁術扱いされている深淵系魔術の使い手になりたいらしい。
それは…いいじゃないか!深淵系魔術のエキスパートとなりたい私の従魔なのだから、使えてもおかしくはない。それどころか相応しいとすら思えるぞ!
「ならどれがいい?【死霊魔術】、【呪術】、【罠魔術】、【降霊術】なんかもあるぞ?」
「キュッ!」
「え?まさか、【邪術】がいいのか?」
「キュー!」
おいおい!よりにもよって【邪術】をご所望かい?飛びきりヤバい術のオンパレード何だが…まあ、本人、もとい本龍が欲しいと言っているのだからこれを選んでしまおう!どうなっても知らんけどな!
――――――――――
従魔、カルナグトゥールが【再生】を獲得しました。
従魔、カルナグトゥールが【邪術】を獲得しました。
従魔、カルナグトゥールが進化を開始します。
――――――――――
「キュオオオオオオ!!!」
私の頭にアナウンスが聞こえると同時に、カルが雄叫びを上げる。そしてパラパラ、メキメキと二種類の音を立てながら一気に身体が大きくなって行く。
「キュオオ…グオオオオオオン!!!」
カルの声がこれまでの可愛らしいものから、雄々しく、腹の底に響くものへと変わった。進化が無事に終わったと言う事か。
――――――――――
従魔、カルナグトゥールが劣龍に進化しました。
――――――――――
カルが進化したのは劣龍らしい。何らかの属性が付くかと思ったが、そんなことは無かったようだ。
見た目の変化は大きくなった事以外には特に無い。まあ、その大きさが私が騎乗出来る位になっているのだがね。これまでの小型犬サイズから、一気に馬程のサイズにまで成長したのだ。大きくなり過ぎだろう!?
まあ、龍王であるアグナスレリム様の巨体を考えると妥当だとも思う。あとレベルを70程上げればあそこまで大きくなれるのだろう。どこまでも強くなってもらいたいものだ。
「グルルルル♪」
「おお、よしよし。甘えん坊なのは変わらんな、カルよ」
体躯は大きくなっても、中身はそうそう直ぐに成長する訳ではないらしい。カルはいつものように私に身体を擦り付けて甘えてくる。一気に私よりも大きくなったのだが、それでも可愛らしいと思うのは私が親バカだからなのだろうか?
「ふむ、では転職もしておくか」
私は続けてカルの職業欄をタッチする。すると、意外にも転職候補はたった一つしか無かった。
「選べる職業が劣龍しかないのか…そう言えばアグナスレリム様の職業も龍王だったな」
確信は持てないが、龍の職業は種族と同じものになるのかもしれないな。何かしらの理由があるのだろうが、考察は後回しだ。兎に角、カルを転職させるとするか!
――――――――――
従魔、カルナグトゥールが劣龍に転職しました。
転職に伴い、カルナグトゥールが【咆哮】を獲得しました。
――――――――――
おお?進化とは別に転職でも新たに能力を得られるようだ。しかも【咆哮】って、ジゴロウが【威嚇】から進化させた能力だぞ?本当に優遇されているなぁ。
「グルルルルゥ♪」
「なっ!?うおぉっ!?」
転職も終えたカルが、突然に頭を私の股下に通して首を持ち上げたではないか!私を乗せられる位に身体が大きくなった事が嬉しいのかもしれない。
急にやられるのは驚いたし止めて欲しいが、嬉しそうにはしゃいでいる無垢な姿を見ると今すぐ叱る気にはなれない。ああ、今の私は間違いなくカルを甘やかしているなぁ…
「おう、兄弟。カルも進化したんだな」
「ああ、そうだな」
カルもという言い方からも解るように、ジゴロウも進化したのだろう。兄弟と私は大体1レベルの差があるので、私が先程の戦闘で39レベルに達した時に察しはついていた。
私はカルの首の付け根に跨がりながら、進化したジゴロウの姿を見る。見た目に大きな変化は無いように見えるが、若干だが角が太くなって肌が黒っぽくなっていると思う。一体、なんという種族になったのだろうか?
「カルは劣龍に進化した。そっちは?」
「俺ァ炎雷悪鬼になったぜ。ちいっとばかし和風な名前だよな」
悪鬼…ね。まあ、あれだけプレイヤーと魔物を殺しまくっていればそう言われても文句は言えないだろうよ。
それにしてもジゴロウの言う通り、何となくだが魔物と言うよりも妖怪チックな名前である。読みも日本語のままであるし、妖怪が跋扈する地域があるのかもしれないな。
もしそうなら、ジゴロウと同じ悪鬼もそこにはいる可能性は高い。そんな場所があるならば、是非とも訪れてみたいものだ。
「むむっ?もうこんな時間か。そろそろ拠点に戻ってログアウトせんか?」
未だ見ぬ地域へと想いを馳せていた私だったが、源十郎の指摘にハッとなる。激闘に夢中で忘れかけていたが、明日は普通に仕事じゃないか!さっさと寝なければならん!
「皆、早く帰るぞ!…拠点転移!」
こうして男達だけでの冒険は終わりを告げた。最後はバタバタしたが、楽しかったぞ!
主人公が80SPを突っ込んで得たスキルをしれっと進化だけで得られる辺り、龍という種族のヤバさがわかるかと思います。
次回でこの章は終わりで、掲示板回と同時投稿します。




