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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第七章 天空の大陸
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毒炎亀龍 その四

「行くぞォォォ!」


 金色の流星と化したジゴロウが、超高速で毒炎亀龍(タラスク)に突撃する。私の動体視力では、目で追うのもやっとの速度であった。


「砕けろォォォォ!!!」


 恐るべき速度で接近したジゴロウは、振り被った右拳を甲羅に叩き込む。狙ったのは右前脚と右中脚の間だ。顔面を狙わなかったのは疑問だが、彼なりの理由があるのだろう。


 残像が見えそうな速度と大鬼(オーガ)の恵まれた肉体が生み出す破壊のエネルギーを余す事なく乗せた戦籠手が、毒炎亀龍(タラスク)の甲羅をまるでクッキーか何かのように易々と破壊した。硬質なものが割れる軽快な音が我々の耳に届く!


「グギャァァァァァ!?」


 こ、これがジゴロウの全力という事か。防御力無視の打撃による甲羅の破壊が狙いだったようだ。それにしても、強力な能力(スキル)を同時使用する機会は中々無いが、ここまでマシマシにすればどちらがボスか解らないな!


 砕けた甲羅と、拳がめり込んだ場所から迸る炎と雷が空を舞う。それは戦いのクライマックスとは思えない、幻想的な光景ですらあった。自慢の甲羅を砕かれた挙げ句、その奥の肉体を炎と雷で焼かれている毒炎亀龍(タラスク)からすればたまったものでは無いのだろうが。


「もう一丁ォ!」

「ギガガァァァァァ!?」


 ジゴロウは左手を手刀の形に変えると、アッパーカットの要領で毒炎亀龍(タラスク)の腹部に貫手が突き刺さる。腹部の甲羅も軽く穴を空けられ、腹の中を掻き回された毒炎亀龍(タラスク)は苦悶の悲鳴を上げながら暴れようとしているが、幾つもの状態異常と流砂に取られた後脚のせいでどうにもならない。うんうん、我ながら良い仕事をしたものだ。


「燃えて痺れろォ!」


 毒炎亀龍(タラスク)の巨体からすれば、ジゴロウの拳は軽傷ではなくとも重傷には届かない。だがジゴロウは傷口に塩を塗るが如く一工夫することにしたらしい。


 しかしそれは塩なんて生易しいものではない。兄弟は接触している部分を全力の炎で焼き、雷を流したのだ。い、痛そう…!


「ギャババババババ!?」


 炎はそうでもないかもしれないが、弱点である雷を体内に直接流し込まれたのだからその苦しみはとんでもないものになるだろう。


「交代だ、爺さん!」

「よし来た!行くぞ!」


 魔力の大部分を使ったジゴロウが源十郎を短く呼ぶ。すると阿吽の呼吸で準備が整った源十郎が、ジゴロウのいた場所へ飛び込んだ。そしてジゴロウが甲羅を砕いた部分に先ずは漆黒に染まった大太刀を振り下ろす。


「セイヤァァァ!」

「ギガァッ!?」


 源十郎の大太刀は()()()()毒炎亀龍(タラスク)を叩き斬った!せ、切断力が上昇すると言ってもこれ程だったのか!?


 源十郎の腕前がありきなのだろうが、凄まじい斬撃である。ジゴロウの作った傷口が、二倍近く広がったぞ?


「カァァァァ!!」


 更に返す刀でこれまで源十郎が斬り付けていた右前脚に刃を向ける。ま、まさか…


バツン!


「ギギャアアァァァァァ!?」


 恐ろしい想像とはかくも当たるものなのだろうか。源十郎の大太刀は、尻尾と同様に右前脚を切断してしまった。ここまで強化されるとは思ってもみなかったぞ?


「むっ、もう終わりか?では…」


 源十郎は闇を凝縮したような漆黒の刀身から元の鋼の輝きに…ではなく、くすんだ色合いへと変化してしまう。源十郎はその大太刀をインベントリに素早く仕舞うと、怨念を漂わせる打刀と脇差しを構えた。


「シャァァッ!」


 源十郎は次に流砂に脚を取られている右中脚へと狙いを定めた。こちらはまだ無傷なのだが、ひょっとして斬り落とすつもりなのか!?いやいやいやいや、無理だろ!


「ぬぅぅぅぅ!」

「ガガァァァ!?」


 源十郎は刀を当てる度にガンガンと体力を減らしている。だが、それと同時に源十郎の刀が徐々に深く斬り裂いて行く。これはひょっとするかもしれんぞ!


「ハァァァァ!」


ブチン!


「ギィィガァァァァ!?」


 や、やりやがった!本当にまだダメージを与えられていなかった右中脚を斬り飛ばしてしまったぞ!同じ部分へと正確に刃を当てられる源十郎の技術があってこその神業であろう。


 前衛二人はその強さをまざまざと見せつけてくれた。ならば私の出せる全力をお見せしようではないか!


「まずは運試しと行くか!獄獣召喚!」


 私は【降霊術】で最も新しく覚えた呪文、獄獣召喚を使う。さぁて、どんな地獄の魔物が来てくれるんだ?


 私が術を使った瞬間、地面に底が見えない穴が空いた。ここから地獄の化け物が現れるということなのだろう。初めて使うから緊張するな!


「キチキチキチ…」


 うおっ!穴の中から這い上がって来たのは…ジゴロウと同じくらいの背丈はある巨大な虫だった。ただし、明らかに普通の虫ではない。外見は丸っこいコガネムシのようなのだが、頭部はカマキリにそっくりだ。外骨格は金属のような光沢があり、脚の先端には鋭く大きな鉤爪が付いている。


 私が言うのもなんだが、流石は地獄の魔物。凶悪な外見をしている。しかし、『獄獣』なのに獣ではなく節足動物が出てくるのか。そ、そういう事もあるさ!


 閑話休題。それよりも問題はこいつがちゃんと毒炎亀龍(タラスク)と戦ってくれるのかだが…?


「キシャアアアア!!!」


 あ!私の指示を待たずに毒炎亀龍(タラスク)へ突撃してしまった!そして鉤爪を源十郎が斬った甲羅の隙間に捩じ込むと、ジゴロウが空けた穴に頭を突っ込んで…食べているのか?


「ガギャァァァァァ!!」


 補食されるのをそのままにするはずもなく、毒炎亀龍(タラスク)は全力で暴れている。だが、脚が動かないので振り払う事が出来ずに食べられ続けていた。しかも六本の節足の内、二本の前足を巧く使って傷口を抉っているらしい。


 デカイ亀がデカイ虫に生きたまま食べる光景は、中々グロい。女性にはキツイだろう。まあ今は男しかいないし、戦ってくれるなら私としては何の問題も無い。むしろ大歓迎である。


「よし、次だ!召喚(サモン)雷幽霊(サンダーゴースト)体力強化(フィジカルブースト)体力強化(フィジカルブースト)体力強化(フィジカルブースト)体力強化(フィジカルブースト)体力強化(フィジカルブースト)不死強化(アンデッドブースト)!」


 私は次に【召喚術】で雷属性を持つ幽霊系の上位種である雷幽霊(サンダーゴースト)を喚び出した。今は昼間なので体力がみるみる減っていくが、関係ない。これらにやってもらう事はただ一つなのだから。


「魔術を撃ちながら突撃。そして内部で自爆せよ」

「「「「「オオオオオ…」」」」」


 私の命令に忠実な雷幽霊(サンダーゴースト)は、その体力が尽きる前に毒炎亀龍(タラスク)へと真っ直ぐに近付くと、そのまま体内に入っていく。物資をすり抜けるのは幽霊(ゴースト)の十八番である。


 そのままでは何の意味も無いのだが、私の命令に従って毒炎亀龍(タラスク)の内部に入った雷幽霊(サンダーゴースト)達はそのまま自爆した。


 鬼火(ウィスプ)から二段階進化した上位種である雷幽霊(サンダーゴースト)は、同じように自爆で属性ダメージを与える事が出来る。ただし、ダメージ量は自爆時の体力ではなく、最大体力を参照される点で鬼火(ウィスプ)とは異なっていた。


 自爆特攻戦法の威力に限れば、物量の差で鬼火(ウィスプ)の方に軍配が上がる。しかし、今は昼間だ。鬼火(ウィスプ)では【光属性脆弱】のせいで毒炎亀龍(タラスク)に接触する前に消滅するだろう。なので進化した個体である雷幽霊(サンダーゴースト)を使った訳だ。それはそうと、自爆攻撃の効果の程は如何に?


「ギャァァァァァ!?」

「キシィィィィィ!?」


 あ、ダメージは中々だが、獄獣の虫君が張り付いているのをすっかり忘れてた。多分だが一緒に感電したっぽいな?ごめんなさい!けど、()()()()我慢してね!


「魔石吸収、星魔陣遠隔起動…」


 私は虎の子の魔石を、それも属性付き且つ品質も度重なる【錬金術】の合成によって『良』にまで引き上げた逸品を杖に食わせる。大盤振る舞いだな!その属性とは、もちろん雷属性だ。


「呪文調整、雷雲(サンダークラウド)!」


 今私が使える無数の魔術でも屈指の攻撃力を持つ【雷撃魔術】の雷雲(サンダークラウド)。私が極限まで威力を上げたそれを行使すると、毒炎亀龍(タラスク)の頭上に黒雲が出来上がる。


 その大きさは先ほど、森獣亀フォレストビーストタートルとの戦いで使ったものとほぼ変わらない。しかし、内包する雲の黒さと落雷する前から聞こえてくるゴロゴロという音の大きさは桁違いだ。


「これで終わりだ!」

「ガガがガガがガガ!?」

「キシイイイイイイ!?」


 黒雲から降り注ぐ雷の豪雨に、毒炎亀龍(タラスク)と獄獣は成す術もなく巻き込まれてしまう。これなら倒せただろう?


 いや、倒れてくれませんか?実はジゴロウの一発目の時点で毒炎亀龍(タラスク)の体力は一割を切っていて、【龍の因子】は発動しているのである。もしもこの怒濤の攻めでも生きていたら、後は消化試合のように蹂躙されるだろう。


 タイミングが悪い事に、私の使っていた風柱(ウインドピラー)の効果が丁度切れてしまった。そのせいで毒炎亀龍(タラスク)の周囲には紫色のガスが立ち込め、視界が通らなくなっている。まだ雷雲(サンダークラウド)の効果は続いているし悲鳴も続いているが、自分の目で倒れる瞬間を見ないと安心出来ないぞ?


「ギィッ!?ギジャァァァァ!!!」


 雷雲(サンダークラウド)の効果が切れる直前、獄獣のものと思われる一際大きな悲鳴が聞こえてきた。もしかして私の魔術で殺してしまったのか?戦闘に十分に貢献したと言うのにこの仕打ち…我ながらかなりの外道の行いで…


「ガオオオオオオオ!!!」

「なっ!?」


 ま、まさか仕留め切れなかったのか?あれだけやったのに?嘘だろう!?


「くっ!星魔陣遠隔起動、風柱(ウインドピラー)!」


 私は急いでもう一度風柱(ウインドピラー)を使ってガスを払う。そして理解した。毒炎亀龍(タラスク)が生きているのは、私の失策が原因なのだと。


「まさか、【補食回復】か!」


 ガスの向こう側では、獄獣が毒炎亀龍(タラスク)に食べられていたのだ。恐らくは毒炎亀龍(タラスク)能力(スキル)の一つ、【補食回復】によって土壇場で回復されてしまったのだろう。


 私は自分から相手にお弁当を差し入れていた訳だ。何て間抜けなのだ!


「ガアアアアア…」


 毒炎亀龍(タラスク)は地面から脚を引き抜く。風柱(ウインドピラー)と同じく流砂(クイックサンド)の効果も切れていたからだ。だが、もう一度唱える時間は無い。何故なら、奴は脚を引き抜きながら口を大きく開けていたからだ。


 それが何の前兆であるのか、解らない愚か者はここにいない。奴の口の奥に見える紫色の炎からも明らかだ。龍息吹(ドラゴンブレス)である。


 口から迸る龍息吹(ドラゴンブレス)を回避するのは困難を極める。ジゴロウと源十郎でも難しいだろう。ならば私に回避など出来る訳がない。


 かと言って防ぎ切れる自信も無い。何とか一度だけなら聖盾(ホーリーシールド)を使える魔力が残っているが、一度だけならどんな攻撃でも必ず防げるという謳い文句など龍息吹(ドラゴンブレス)の前には無意味な気がしてしまう。


 誰かがここで死ぬ。私以外の二人もそう思っただろう。そう、()()()だ。


「キュガアアアアアアアアアア!!!」

「カ、カル!?」


 それは私が死を覚悟した時、即ち毒炎亀龍(タラスク)龍息吹(ドラゴンブレス)を放つ直前の事だった。いつの間にか奴の右側面に移動し、魔狼(ブラックウルフ)から地面に降りていたカルが雄叫びと共に龍息吹(ドラゴンブレス)を一足先に放ったのだ!


 毒炎亀龍(タラスク)龍息吹(ドラゴンブレス)を撃つ直前に、カルの龍息吹(ドラゴンブレス)は着弾する。その場所はジゴロウが甲羅を砕き、源十郎が斬り裂き、私の召喚した獄獣が抉った傷であった。


「ガアアアアァァァッ…」


 毒炎亀龍(タラスク)は断末魔の叫びと共に上空へと龍息吹(ドラゴンブレス)を放ちながら地に臥す。我々は呆然としながら最後の最後で一番美味しいところを持っていったMVPであるカルを見るのだった。

ボス戦、終了!


あと一話か二話を挟んでこの章は終わりです。

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