森の奥には…
――――――――――
森獣亀の甲羅 品質:劣 レア度:C
非常に硬くかつ重い森獣亀の甲羅。
盾や防具の素材として重宝される。
度重なる物理攻撃によって傷が付いており、加工出来る部分が少なくなっている。
――――――――――
うん。劣化してしまっているな。しかし、弱点属性での攻撃が原因ではなさそうだ。むしろジゴロウ達による物理攻撃が原因っぽいぞ?まあ、ヒビが入るまで殴り続けたのだから当然ちゃあ当然だろう。
しかし、これで一つの仮説が生まれた。森獣亀の場合は【雷撃魔術】で一気に倒すと素材が劣化しないのかもしれん。弱点属性で攻撃するべき魔物とそうでない魔物がいるのだろうか。これも、検証が必要だな。
幸い、と言っていいのかはわからないが、この川辺にはちょこちょこ森獣亀が徘徊している。それらを倒しつつ色々と試してみようか。
◆◇◆◇◆◇
――――――――――
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【知力強化】レベルが上昇しました。
【精神強化】レベルが上昇しました。
【体力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魔力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【時空魔術】レベルが上昇しました。
新たに加速の呪文を習得しました。
【邪術】レベルが上昇しました。
新たに餓死の呪文を習得しました。
【鑑定】レベルが上昇しました。
――――――――――
はい、検証しました。レベルアップも順調だ。なのでその過程で得た新たな呪文等を先に見ていこう。
【知力強化】、【精神強化】、【体力回復速度上昇】、そして【魔力回復速度上昇】が15レベルに、【鑑定】が25レベルに達したので通知が来たぞ。この調子でどんどんレベルが上がってくれ。
次は【時空魔術】の加速だ。これは足が速くなる術ではなく、掛けた相手の意識を加速させるものである。要するに、自分の動きや周囲の動きがスローモーションに見えるようになる術なのだ。身体がその速度で動いてくれる訳ではないのが特徴と言えるな。
FSWはただでさえ体感時間を加速しているのだが、それを更に加速させるのは人間の脳の負担にはならないのだろうか?いや、私の現実には無い腕を動かせるようにする補助システムもあるらしいし、その辺りは上手く処理しているのだろう。これに関しては専門的な知識が無いのでさっぱりだが、危険なものであれば製品になっている訳がないので大丈夫…だと思いたい。
あとこの術は魔力の消費が激しい上に、自分にしか掛けられないという欠点がある。しかし、私の【符術】という便利な能力がこれを解決出来るだろう。札に込めてしまえば、誰でも使う事が出来るハズ。
ジゴロウと源十郎がとても欲しがっていた。ここぞと言うときの切り札になるだろうしな。早急にレベルを20まで上げなければ!
そして最後になる【邪術】の餓死だが、これは掛けた相手の満腹度の減少を加速させる術だ。FSWにおいて、私のような食事不要の種族以外は食事を摂る必要があるのだが、物を食べた時に満腹度というゲージが溜まるようになっている。
最大値は100で、これが0になるとステータスに大幅なペナルティが課せられるのだ。そしてこれが-50になった時、プレイヤーは餓死してしまう。
その満腹度を強制的に下げるのがこの術だ。戦闘中に掛けられれば、相手の動揺と焦燥を誘えるのは疑いもない。
だって想像してみて欲しい。唐突に満腹度が勢いよく減り初め、ステータスへのペナルティが近付いてくるのを嫌でも意識させられる状態を。徐々に死を意識させられる状態を。初見なら絶対に慌てふためくだろうよ。
因みに、対策は食べる事だ。減少させられる満腹度は100で固定なので、携帯食なんかを齧りながら戦えば何とかなる。戦いの最中に悠長に食べる時間は無いだろうし、食べる余裕など与えないがな!
では、メインであるドロップの検証結果を見てみよう。取り敢えず、これが森獣亀から剥ぎ取れた甲羅以外のアイテムだ。
――――――――――
森獣亀の肉 品質:可 レア度:C
森獣亀の肉。食用。
ややクセがあるが、人によっては夢中になる事も多い。
滋養強壮作用があり、その方面でも需要がある。
森獣亀の肝 品質:良 レア度:R
森獣亀の肝。食用。
コクがあり、濃厚な味わいで各地の美食家にもファンが多い。
肉よりも強い滋養強壮作用があり、高価な薬の材料にもなる。
――――――――――
「それにしても、雷で肉が劣化するとはな…」
「考えてみれば当然じゃがのぅ」
と言う訳で、森獣亀のレアドロップは肝でした。そして肉は【雷撃魔術】で攻撃した場合は劣化してしまい、さらに肝に至ってはドロップすらしなくなるようだった。
つまり甲羅が欲しいならガンガン【雷撃魔術】を使えば良く、肉や肝が欲しければ物理や【雷撃魔術】以外の方法で倒せと言う訳だ。欲しい素材によって倒し方を変える、というのは洞窟で動く骸骨と戦った時に知っていたが、より強く意識せねばならない事を再認識させられたな。
「この辺りにゃもう手応えのある魔物は居なさそうだな」
「魔力探知…ああ。少なくとも私の探知には引っ掛からないぞ」
「あれだけ倒せばのぅ…」
検証とアイテム集めのために、我々は手当たり次第に森獣亀を狩りまくったからなぁ。その戦いを避けるように水中の魔魚は遠くに逃げたし、水を飲みに来た風魔狼や単眼鬼も倒したので本当に何もいなくなっていた。
「やり過ぎた感は否めないが、当初の目的を果たそう。取り敢えずは南に進むぞ」
「そうじゃな。普通の魔物もおらんのじゃし、後はボスに挑むだけじゃ」
「本日のメインディッシュってか?楽しみだなァおい!」
「キュキューッ!」
二人と一匹はとても楽しそうだ。まあ、かく言う私も楽しみなのだが。未知の強敵に仲間と挑むのはとても楽しいからな。さて、鬼が出るか蛇が出るか…?
◆◇◆◇◆◇
我々はしばらくの間、ひたすらに川に沿って南下を続けた。川は蛇行しているが、確実に南へと向かっている。どうやら、目的地にはこのまま川沿いを歩けば到着しそうだ。
「それにしてもよ、だんだん地面が荒れて来てねェか?」
「お前もそう思うか、兄弟?」
ジゴロウの言うように、南下するに従って徐々にだが確実に植生が変わって来ている。具体的に言うと樹木は疎らになり、下草も生命力の強い雑草以外は全く生えていない。
それに川の水量もかなり減っているし、水そのものも濁っていてとても汚い。魔魚の大きな魚影すら見えないと言えば、その透明度の低さがわかるだろう。いつの間にか、川も魔物すら生きられない状態になっているのだろうか?
「ボスが原因なのじゃろうか?…いや、決めつけてはいかんの」
「ああ、そうだな。だが、ボスが原因である可能性は高いと私も思っている」
あからさまに荒れ果てた大地になっているのに、蓋を開けて見れば何も無かったというのでは味気ない。ボスで無かったとすれば、何らかのクエストのフラグだと思う。まあ、FSWはWSS系の仮想世界とも言えるゲームなのでただ単に土地が痩せているだけという可能性もあるのだが。
「ボスが原因だと仮定して、どんな能力が原因なんだろうな?」
私は周囲の環境が変化し始めてからの疑問を投げ掛けた。環境を荒れさせる能力とは一体なんなのか?ボスについていくら考えを巡らせても、平気でその予想を裏切ってくるので無益な事かもしれない。だが、私は聞かずにはいられなかった。
「土地の栄養でも奪ってンじゃねェか?」
「なら、ボスは植物系の魔物だと?」
「俺はそう思ってるぜ」
なるほど。ジゴロウの予測は筋が通っているように思える。私は農家ではないから解らないが、広範囲から土の養分を集めているなら草木がほとんどないのも頷ける。痩せた土地でも生きられる種だけが残っている、ということか。
「そうじゃな。じゃが、加えて儂は水に関する能力を持つ魔物と見た」
「ほう?その根拠は?」
源十郎はジゴロウに賛同しつつも、異なる意見を出してきた。彼の言い分を聞こう。
「草木が荒れておるのは地面から水を大量に吸い取っておるからではないかの?故に、普通の木々は枯れてしまったのじゃ」
「ふむ…或いはその両方かもしれんな」
広範囲に渡って土地から養分と水分を吸収する、植物系の魔物。そう考えると周囲の環境を見ても辻褄は合っている…気がする。だが、何かを見落としているような気がしてならなかった。
◆◇◆◇◆◇
「遂になんも無くなったな」
「ああ…だが、目的地は見えたぞ」
テクテクと歩いて南に下る事十数分。もう草木は雑草の一本すら生えていない不毛の大地を我々は歩いていた。そして遂に川の末端、即ちヴェトゥス浮遊島の南端へとたどり着いた。
浮遊島、と言うには大陸並みに大きいのでこれまで意識していなかったが、ここは空の上である。その端は、当然のように断崖絶壁となっている。見渡す限りの崖、という光景は高いところが苦手ではない私でも少し恐ろしく感じてしまうな。
我々が沿って歩いた川は下流に行くに従って川幅がどんどん広くなり、最終的には目測で200メートル前後にまで広がっている。そして島の縁から流れ落ちる、という規模の大きな滝となっていた。中々に壮大な光景ではないか。映像で見たナイアガラの滝を彷彿とさせるぞ。
その川についてなのだが、川幅の広さもあいまって堆積した土砂による中洲がいくつも形成している。そしてどうやらそこがボスエリアらしい。どういう事かと言うと、最も広い中洲に巨大な影が見えているのだ。
「…亀だよな?」
「亀だな。デカ過ぎだけどな」
「うむ、亀じゃな」
中洲に見える影の正体。それは巨大な亀であった。だが、ただの亀ではない。相当大きいのだ。
森獣亀は軽自動車から乗用車程の大きさを誇っていたが、こいつは輪を掛けて大きい。どれ程大きいかと言うと、三トントラックと同程度なのだ。
全体的なフォルムも森獣亀よりもかなり攻撃的である。頭部や手足は甲羅の中に入れているので、正確な全体像は解らない。しかし、甲羅の表面にはより鋭く、長い棘がびっしりと生えている。更に棘の根元からは紫色の煙のようなものが絶えず吹き上がっており、何らかの特殊効果があるのは明白だ。
そして脚の本数が明らかに多い。亀は頭と四本の脚、それに尻尾を甲羅に収納する生物だ。なのに脚が一対二本多い。これだけでも尋常な魔物ではないのが良く解る。
「よし、取り敢えず【鑑定】してみる。戦うかはその後で決めないか?」
「おいおい!ここに来てお預けってのは無しだぜ、兄弟!」
「そうじゃぞ!戦いの方針を決める為に【鑑定】するのじゃ!」
うぐぐ…この戦闘狂共め。戦うのが前提になってやがる。敗色濃厚なのに、ヤル気が少しも衰えていないじゃないか!
仕方がない。戦う他に道は無さそうだ。しがし私は死にたくないし、カルも死なせたくない。だから少しでも勝率を上げるべく【鑑定】を行った。
――――――――――
種族:毒炎亀龍 Lv55
職業:猛毒使い Lv5
能力:【毒牙】
【甲羅】
【尾撃】
【水氷魔術】
【体力強化】
【筋力強化】
【防御力強化】
【知力強化】
【精神強化】
【奇襲】
【忍び足】
【水棲】
【火炎】
【猛毒】
【射出】
【補食回復】
【物理耐性】
【毒耐性】
【水属性耐性】
【火属性耐性】
【雷属性脆弱】
【龍の因子】
――――――――――
こ、これは…!?色々と言いたいことはあるが、これだけは最初に言わせて欲しい。こいつ、【龍の因子】を持っているぞ!それだけでも強敵確定だ!
そして毒炎亀龍と来たか。メジャーではないがマイナーとも言えない亀の化け物だ。森獣亀をベースに、名前の通り毒と炎に関する能力が追加されているのか。
「うはっ!【龍の因子】持ちか!こいつァ楽しめるのが確定だなァ!」
「【火炎魔術】を使えると言っても、当たらねばどうということは無かろう。それに少しは弱点を克服しつつあるしの」
【鑑定】の結果を伝えた反応がこれである。警戒するどころかより一層ヤル気が増したようだ。
解りました。解りましたとも!やってやろうじゃないか!三人と一匹で倒してやるよ、毒炎亀龍め!
次回からボス戦が始まります!




