弓矢作成と新たな冒険
夏風邪を患って投稿出来ませんでした…
本当に申し訳ありません!
我々はルビーとシオの道案内に従って、件の弓職人の元へと向かった。空を飛べない者の方が多いのに、向かったと簡単に言えるのには理由がある。それはこのバーディパーチには意外にも階段や梯子の類いがそこかしこに配置されているのからだ。
考えてみれば当然のことで、もし階段や梯子がなければ飛べない雛鳥人が生活に困ってしまう。それに近くにいた鳥人から話を聞いたところ、空を飛ぶのが苦手な鳥人もいるらしく、昇降手段は必須なのだとか。
実際、ジゴロウと似た雰囲気だった派手な色の長老は【飛行】能力すら持っていないのだとか。代わりに【空歩】を持っているので、むしろ空中戦闘の第一人者らしい。
「ここらしいっす」
「…本当か?」
シオが指差した建物は、商店街から離れた住宅街にある一軒家だった。看板も何も出ていないので、私の目にはただの家にしか見えないぞ?道を間違えたのではないか?
「自分も地図の通りに来ただけっすから、なんとも言えないっすね」
「知る人ぞ知る店…なのでしょうか?」
案内したはずのシオですら困惑気味なのですかい。アイリスの予想が正しくあって欲しいが…
「ごめんください!」
「キュー!」
ああっ!ルビーが何の躊躇もなく扉を開けてしまったぞ!?ええい、こうなったら我々も後に続く他あるまい!私は意を決して店(?)の中に足を踏み入れた。
扉の奥は民家の玄関…ではなく、間違いなく店舗の形をとっていた。しかも弓矢専門なのか、様々な形状や大きさの弓と同じく様々な種類の矢が所狭しと並んでいる。どうやら道を間違えたわけではなく、アイリスの予想が正しかったようだ。
「…いらっしゃい。話は聞いてるぞ」
店の奥から出てきたのは、かなり小さな鳥人だった。背丈は私の胸辺りまでしか無く、シオと大して変わらないくらいだ。
しかし、無愛想な態度と鋭い眼光が近付き難い雰囲気を醸し出している。なんと言うか、『頑固な職人』というイメージだ。
「…素材を出しな」
「は、はいっす!」
店主に言われ、シオは慌ててインベントリからアイテムを取り出していく。大毒蜘蛛の縦糸に羽鹿の皮と角…おいおい!ドングリに魔樹の原木に大毒蜘蛛の横糸は要らないだろ!どれだけ慌ててるんだ!?
「…よし、いいだろう。これを全部使ってもいいんだな?」
「はいっ!使って下さいっす!」
おや?怒られないどころか何処と無く満足げですらあるぞ?まさか、我々は要らないのではないかと判断したアイテムも必用だったのか。
「…では、作業に移る。完成は明日になるから、とっとと帰れ」
今すぐに完成する訳が無いし、待つのは一向に構わない。構わないのだが、仮にも客に対して『とっとと帰れ』とは…。無愛想なんてものじゃ無いぞ、この店主。
「待ってください!」
「…何だ?」
「どうか弓作りを見学させて貰えませんか?」
ひ、人を寄せ付けない雰囲気を漂わせるこの御仁に向かってそれを言うのか!アイリスは案外胆が据わっているな…。
「…見てどうする?」
「とりあえず、シオの弓のメンテナンスや修理を出来るようになりたいです。そしてゆくゆくは自分で一から作れるようになりたい。その為にもお願いします!」
強い意思を感じさせる口調で言い切ったアイリスは、触手を頭に見立てて全て地面に着ける。さて、これで許可して貰えるのだろうか?
「………ついてこい。」
「はい!お願いします!」
アイリスの熱意が伝わったのか、店主は彼女を連れて作業場へ入った。それで我々は残された訳だが…
「じゃ、じゃあここで解散とするか。私は家に戻ってから一度ログアウトして休憩を取ろうと思う。二人はどうする?」
「どうしたい、しーちゃん?」
「そうっすね…じゃあもうちょっとだけレベル上げをしたいっす!」
「そうか。なら、今ある矢に属性付与をしておこう。存分に役立ててくれ」
「おおっ!ありがとうっす!」
私はシオの矢に【付与術】によって属性を付与をしていく。ざっと二十本位しか残っていないが、取り敢えず全部に付与してしまおう。そしてその作業を終えた私は休憩のためにログアウトするのだった。
◆◇◆◇◆◇
日曜日の夜になりました。明日と明後日を挟んで連休が待っている。所謂金色な一週間だな!更にその後の土日を加えて五連休だ!
…と言う事は明日と明後日は残業確定かぁ。ログインすら出来ないだろう。あー、仕事行きたくない。
「キュー…キュー…」
ふふふ、カルはぐっすりと寝ているな。今も可愛らしい寝息を立てている。なんでも私がログアウトしている最中は私の側から離れたがらないのだとか。何、この可愛い生き物?
「おう、戻ったかイザーム!」
「待っておったよ」
それはともかく、家のリビングに出た私を出迎えたのは、ジゴロウと源十郎か。この二人が私を待っていた理由は一つしか思い当たらない。
「札が切れたんだな?」
「よくわかったな!」
ははは、君たちが私をわざわざ待つなんて消極的な行動に出る理由は、それくらいしかないだろ?知っているんだぞ!
「なら少し待っていろ。今から書くから」
「わかった。なら、模擬戦でもして時間を潰そうぜ、爺さん」
「良かろう。いっちょ揉んでやるかの」
暇潰しが模擬戦なのか…。戦ってばかりだな、この二人は。その戦闘力には毎回助けられてはいるんだがな。
「あーあ、イザームがもう一人いりゃあ模擬戦に誘うってのによ」
「全力で遠慮させて貰う!」
こうやって事ある毎に私を模擬戦に誘うのは本当にやめろ。勝敗以前に私が死ぬわ!肉体的にも精神的にも!
「…で、何枚ずつ必要なんだ?」
「ん~、取り敢えず百ずつありゃいいんじゃね?」
「そうか。では少しだけ待っていろ」
私は自室に戻り、机に向かう。そして先ずは二枚の紙を取り出すと、それぞれに火槍と水槍の札を作成する。この時、呪文調整を行わないのがポイントだ。
【符術】も育って来ているし私自身も札の作成に慣れ初めているので、ここまでの作業を一分位で終わらせた。気分はもう一端の符術士だな。
「次は…これだ」
そして次に取り出したのは、二人の望んだ数である合わせて二百枚の紙だ。これをどう使うのか、と問われればこうするのだ!
「複製!」
うぐっ…!かなり魔力が削れたが、成功だ。
私が使ったのは【錬金術】の複製である。大量生産するのなら、これが楽だし手っ取り早いのだ。それに、複製すると品質が下がるのだが、脆弱の克服に使うのならむしろちょうどいい。威力が勝手に下がってくれるからな。
一度に複製する数が多かったので魔力の消費は激しかったが、それでも十分な量の札を短い時間で確保出来た。しばらくはこれを使って訓練して貰おう。
「おい、出来たぞ…ってなんだ、もう外に行ったのか?しょうがない奴等だな…」
私が自室に入ってから、まだ三分ほどしか経っていないのだぞ?…いや、逆に私が早すぎたのか。二人は今のやり方を知らないのだから、二百枚の札を一枚一枚手書きで作成していると思っているのかもしれない。
「…キュッ?キュー!」
「む、起こしてしまったか?」
私が立てた音でカルは起きてしまったらしい。彼は私の姿を確認すると、私の胸に飛び込んでくる。おお、よしよし。うん、癒されるな!
「さあ、次は新しい事に挑戦してみるとしよう。上手く行くと思うか?」
「キュ!」
当然!と言わんばかりにカルが元気よく答えてくれる。こう言ってはあれだが、恐らくカルは私の言っている事の意味を良く解っていないと思う。単に追従しているだけに過ぎない。なのに何故かやる気が湧いて来るのは、私がおかしくなったからだろうか?
「先ずは札の作成と複製からだ」
私は新たな紙を取り出すと、そこに文字と幾何学的模様を描いていく。そうして出来た札の効果はこれまでの直接攻撃のものではない。
「よし、火属性付与の札は完成だ。これを複製して…」
複製によって四枚の火属性付与の札を作り出す。複製したので品質は最低まで落ちて『屑』になっている。仕様なので仕方がない。それに、これが下準備の第一段階だ。
次に取り出したるは四種類のアイテム。それは矢羽根、篦、鏃、そしてそれらを合わせた一本の矢だ。全てファースでも手に入るアイテムで作っているのだが、アイリス謹製なので品質は『優』である。流石だ。
「【錬金術】で札と融合させると…出来た。さて、結果は?」
札と融合した四種類のアイテムそれぞれの【鑑定】結果がこれだ。
――――――――――
火属性の矢羽根 品質:可 レア度:C
火属性が付与された矢羽根。触れる同時に発火する。
火属性の篦 品質:可 レア度:C
火属性が付与された篦。触れる同時に発火する。
火属性付与の鏃 品質:可 レア度:C
火属性付与を内包する鏃。当たった物に火属性を付与する。
火矢 品質:可 レア度:C
火属性が付与された矢。当たった物に物理ダメージと火属性ダメージを同時に与える。
――――――――――
ほほう?これはまた面白い実験結果が出たな。まず品質だが、『優』と『屑』の中間である『可』になっている。他にも検証が必要だが、これは偶然ではないだろう。融合によって良い物を作りたければ、良い物同士を使わねばならないのは道理である。
次に融合の結果だが、分解した状態ではなく矢として完成させてから融合させた方が良いのは明らかだ。矢羽根と篦に関しては論外である。加工出来ないし、なにより出来たとしても使い手が火傷するだけではないか。
だが、逆に興味を惹かれるのは鏃だ。『当たった物に火属性を付与する』と書かれている。つまり、これは『融合させた札の効果を当たった対象に与える』と言う意味かもしれない。本当にそうなのか、試してみよう。
ジゴロウと源十郎用に作っていた火槍と水槍の札を一枚ずつ抜き取ると、それらと鏃を融合させてみる。さあ、成功するのかな?
――――――――――
火槍の鏃 品質:可 レア度:C
火槍を内包する鏃。当たった時に火槍を発動する。
発動後、鏃は消滅する。
水槍の鏃 品質:可 レア度:C
水槍を内包する鏃。当たった時に水槍を発動する。
発動後、鏃は消滅する。
――――――――――
ビンゴ!こちらの方が応用が利きそうだ。それこそ、【邪術】の即死魔術の札と融合させれば極々低確率ながらも即死効果を持つ矢が出来るではないか!
だが、矢が完全に使い捨てになってしまうのがネックだな。普通の矢はオブジェクトとして残っていれば回収が可能なのだが、少なくとも鏃は壊れてしまうので回収出来ても矢としては使えなくなっている。大量に持ち歩けばいいのかもしれないが、どちらかと言えば切り札的な使い方を心掛けるべきだろう。
それに使い手であるシオの好みの問題もある。単純な属性が付与されただけの矢がいいのか、それとも使い捨てだが魔術を内包した矢がいいのか、あるいは普通の矢とその両方を使い分けたいのか。量産するのはそれを聞いてからだ。
とは言っても、まだまだ私の【符術】レベルは低い。今はこれをガンガン上げていかなくては!
ゴンゴンゴンゴン!
私が考えを纏めた所で、扉がノックされた。しかし、これはノックにしてはうるさい!力を入れすぎだ!
「そんなに強く叩くなよ…入ってくれ」
「邪魔するぜ」
訪ねてきたのは案の定、ジゴロウだった。用件は…聞かなくても一つしかあるまい。
「ほら、ここに百枚ずつ…あ。一枚ずつ使ったんだったか。待ってろ、新しく書いて…」
「いや、脆弱克服の鍛練の話じゃねぇんだ」
おや?二人は随分と張り切っていたと思うが?
「流石に同じことを繰り返すのは辛くてよォ…。気分転換に強ェ奴と戦いてェんだ」
「気分転換…」
そうかい、君たちにとって戦いとは気分転換になる癒しなんだな。
「んでよ、あの人間…マーガレットだったか?あの娘が言ってた『古の泉』から南に下ったボスを倒しに行かね?男だけでよ」
「ふむ…」
ジゴロウの提案は悪くない。たまには女性陣抜き、男だけで遊ぶというのもいいだろう。
「いいだろう。行こうか」
「流石だ兄弟!下で爺さんが待ってるから急ごうぜ!」
「キュー!」
こうして私、ジゴロウ、源十郎そしてカルという男だけの面子で南へと向かう事になったのであった。




