弓の素材を集めよう その二
投稿前、久々に統計データを見た所、ブックマーク件数が10,000を越えており、さらにポイントも30,000を越えていました!
読者の皆様に支えられていることを実感しつつ、精進して参ります。
「それじゃあ、出発!」
「「おー!」」
「キュー!」
三人と一匹が元気で何よりだな。シオとルビーに加えてアイリスも参加する運びとなったのには、二人が誘ったからだけではないとある理由があった。
話は少しだけ遡る。私がせっせと札を書いている時、ルビーとシオは二人で私に言われた通り、アイリスに事情を話に行った。最初はアイリスも『そんなクエストが発生したのか』位にしか思わなかったらしいが、弓を作る職人の話を聞いて同行する決意を固めたらしい。
アイリス曰く、弓の製作には【木工】と【細工】の能力があれば作れるのだが、両方とも高いプレイヤーでも高品質な作品が作れていないのだと言う。
職人に直接話を聞いてコツを聞き出したい、という狙いがあるのだ。同じことを考えたプレイヤーは沢山いたのだが、現在プレイヤーによって発見されている街の武器屋で売られている弓の職人は非常に頑固者で誰も弟子にしてくれないらしい。
恐らくは何らかのクエストを発生させる必要があるのだろうが、それを発見出来ていないのでプレイヤーメイドの弓は今のところ使い物にならないんだそうだ。一部の生産職プレイヤーが一刻も早く新たな街を発見してほしいと願う理由の一つはこれらしい。
なのでその機会にありつけるなら乗っかっておきたい、と言うのが参加を決意した理由だ。なんだかんだでちゃっかりしているんだなぁ。
「じゃあ、行くか。目的地はここから北の森、だったな?」
「そうっす!大人の鳥人は『オークの森』って呼んでたっす」
「オークか」
それを聞いたアイリスとルビーは若干嫌そうな雰囲気を醸し出している。ゲームなどに疎い私でもオークは聞き覚えがあるから、二人が何を想像したのかは解るぞ。まあ、確かに醜悪な魔物かつ女性の天敵というイメージが強いからなぁ。
「見つけたら、すぐに倒すよ!」
「勿論です!」
「当然っす!」
「キュ?」
オークに敵愾心を燃やし始めた三人の様子に、カルが戸惑うような鳴き声を上げている。触手付きの岩とほぼ透明な粘体と二足歩行の雛鳥を見てオークという魔物がそういう対象として見ることは無いのでは、という喉から出掛かった余計な一言を私は何とか飲み込むことに成功する。そして無言でカルを抱き寄せ、頭を撫でるのであった。
◆◇◆◇◆◇
さて、我々が到着したのは間違いなく『オークの森』であった。マップにもその名前が記載されている。
「確かに、オークの森だったようだな」
そう。繰り返すが、この森は間違いなく『オークの森』であった。ただ、名前の由来が魔物ではなく樹木、即ち和名では楢と呼ばれる木の名前であっただけで。
「な、なんてややこしい…!」
「けど、なんか安心したよね」
「空中の大陸にオークって、似合わないっすからね~」
女性陣は思っていたのと違って拍子抜けしたのと同時に安心しているようだ。まあ、年齢制限が無い時点でそう言う被害に遭う事は無いハズなんだがな。
「しかし、オークか。確か、加工しやすいんだったな?」
「あ、はい。家とかの建材にも使われますし、ウイスキーやワインの樽にも用いられますね」
おお、アイリスは博識だな。確かにオーク樽のウイスキーなどには聞き覚えがある。ゲームの中でも同じ性質なのだろうか?
「木の話は置いといて、どんな魔物がいるのかわからなくなっちゃったね」
「そうっすねぇ。オークって魔物がうようよいるって思い込んでたっすから」
そうなのだ。シオとルビーはここにいる魔物をオークだと思い込んでいたので、どんな魔物が現れるのかを鳥人から聞いていない。なので何が出るかは全く見当もつかないのだ。
「シオのような雛鳥人を向かわせるのだから、そこまで高いレベルの魔物は現れないと思うが…油断はするなよ。ルビー、警戒を頼む」
「任せて!」
「初めての実戦って、どのゲームでもドキドキするっすね!」
「そうだね、シオちゃん!」
そんな暢気な雑談を交わしつつ、我々はオークの森へと足を踏み入れた。
◆◇◆◇◆◇
「イザーム!下がって!」
「っと!危ない!」
森に入って一分と経たない内に、ルビーから警告を受ける。私は反射的に指示に従い、後ろに跳んだ。すると、さっきまで私がいた場所に横から何かが高速で飛んで来たではないか!
「助かった!」
「お礼は後!【鑑定】よろしく!」
「ああ、任せろ!」
私は攻撃が飛んで来た方向を見る。すると、そこには風も無いのに枝葉を揺らす一本の木が生えていた。植物の魔物、という事か!とにかく、【鑑定】だ!
――――――――――
種族:魔樹・楢 Lv8
職業:なし
能力:【射出】
【防御力強化】
【樹木魔術】
【奇襲】
【火属性脆弱】
――――――――――
あー、うん。弱いね。流石は初心者用フィールドだ。なんだかこんなに能力が少なかったり敵のレベルが一桁だったりするのは久々だな。バーディパーチ付近ですら、10レベルは超えていたし。
それにしても、魔樹・楢ね。この大陸に来てすぐに戦った魔魚を彷彿とさせるネーミングだ。楢以外の魔樹も探せばいるのだろうな。この森にいるのかは不明だが。
「また来るよ!」
関係の無い事を考えていた私だったが、ルビーの声で目の前の敵に集中する。奴が身体を揺すったかと思えば、何かを飛ばしてきた。さっき私に放ったものだろうな。
「キュアアッ!」
「させません!」
弾丸めいた速度で飛んで来た小さな何かを、カルはその翼を大きく広げて受け止める。また、アイリスも触手を使って前に躍り出ると、敵の攻撃を受け止める始めた。
私は一瞬慌てたが、その攻撃ではカルの鱗と翼膜やアイリスの細胞壁を砕く力は無いらしい。まるでトタン屋根に雨粒が落ちているかのような小気味良い音を立てるばかりであった。
「これは…ドングリか?」
私はカルの鱗に弾かれてこっちに飛んで来たものをキャッチしてそう呟いた。なるほど、奴はこのドングリを【射出】で飛ばすのが主な攻撃方法なんだな。
しかし、射撃戦ならむしろ大歓迎だ。今日の主目的は素材集めだが、それが可能な新人の強化も兼ねているんだからな!
「今の内だ。シオ!」
「了解、っす!」
シオがはっしと放った矢は、吸い込まれるように魔樹に突き刺さる。しかし、大したダメージは与えられていなかった。敵の体力は誤差の範囲でしか削れていない。
「ううっ、ダメっす。自分の武器じゃ、火力が足らないっす…」
そう言ってシオは肩を落とした。初期装備の弓と矢では、【防御力強化】を持つ格上に対処することは難しいのだろう。
「火属性付与。シオ、これでどうだ?」
なら、強化してやればいいだけだ。私はシオの弓に火属性付与を施す。これなら最低限の火力は出るのではなかろうか?
「ありがとうっす!ていっ!」
シオが次に放った矢は赤い尾を引きながら飛んで行き、魔樹に突き刺さった。さて、これでどうだ?
「ギギギギギィィ!!」
おお、今度はハッキリとわかる位に削れているな!一割は削れたのか?やはり、弓に属性を付与すると放った矢にも属性が乗るらしい。これは面白い発見である。まあ、掲示板には既に載っているとは思うのだが。
「おおっ!効いてるっす!」
「ああ。このまま仕留めて、少しでも経験値を稼いでくれ」
「わかったっす!」
FSWでは正確な数値がわからない事が多く、それは経験値にも当然のように当てはまる。だが、パーティーで戦った時に経験値が分散する事と、その際の割合についてはある程度の検証結果が出ていた。大まかに言うと『敵の体力を削った量』、『敵に攻撃を当てた回数』、『敵の攻撃を受けた回数』、そして『トドメを差したかどうか』で決まるようだ。
正確には私の【付与術】やルビーが敵を発見した事も割合に影響するらしいが、一番大きな影響を及ぼすのは上記の四点であるそうな。ならば、シオに効率良く経験値を稼がせるには可能な限り彼女一人で敵を倒して貰った方がいいのである。
「これで、終わりっす!」
「ギイイィィィ……」
シオが放った矢によってハリネズミのようになった魔樹・楢は、それまで忙しなく枝を動かしていたのが嘘であるかのように動かなくなった。
「よし、倒したな」
「おおっ!レベルが上がったっす!」
「って事は5レベルだね!『下克上』は便利だし、早目に取っとこうよ」
「…5レベル以上離れてる敵って、そう簡単には倒せない筈なんですけどね?」
アイリスの控えめな突っ込みは二人には聞こえていないらしい。さて、では今回は私が剥ぎ取るとするか。何がドロップするかな?
――――――――――
魔樹の実 品質:可 レア度:C
魔樹が実らせる果実。
表皮は硬いが、中身は食用である。また、薬の原料にもなる。
――――――――――
魔樹の実、即ちドングリが十個もドロップした。これは十個がセットという扱いなのか?それとも個数は上下するのだろうか?謎である。検証するには他の魔樹・楢を倒す必要があるだろう。
それにドロップがこれだけだとは思えない。木そのものとか落としそうな気がするぞ?もう暫くはここにいるんだし、調べてみるとするか。
「あ、イザームさん。ちょっと相談があるっす」
「ん?なんだね?」
「さっきの戦闘なんすけど、自分の弓に火属性付与をしてくれたじゃないっすか。あれって、矢にも出来るんすかね?」
むむ?弓ではなく、矢に付与するのか。
「いや、自分はVRS出身なのは知ってると思うんすけど、結構あるんすよ。属性弾、みたいな奴が」
属性弾か。なるほど、矢に属性が付与出来、それを維持できるならば私が不在の場合でも状況に応じて敵の弱点を突きながら戦えるだろう。そうなれば戦術の幅も広がるというものだ。
「そうか。なら、早速試してみよう。矢を出してくれ」
「はいっす」
「火属性付与」
私は差し出された矢に【付与術】を使ってみる。すると、矢は確かに火属性を帯びたようだった。
「おおっ!」
「成功ですね」
それを興味深そうに眺めていたルビーとアイリスが嬉しそうな声を上げる。しかし、まだ安心は出来ない。
「いや、実戦で威力を試す必要がある。それに、【付与術】には制限時間があるからな…」
この状態を何時までも維持出来る訳ではないのだ。なので私が今から大量に属性付きの矢を増産しても、時間が経つと普通の矢に戻ってしまう。それでは余り意味が無いだろう。
しかし、威力が弓に付与するよりも勝っているならば話は変わる。どうにかして付与状態を維持する方法を探す事も考慮せねばならないだろう。
「わかったっす!ルビーちゃん、近くに敵はいるっすか?」
「ちょっと待って…いたよ。前方二時方向にさっきと同じ奴!」
ええと…おお、確かに居るな。不自然に枝を揺らしているから一目瞭然だ。本当に隠れているつもりなんだろうか?
「じゃあ早速、この矢を使ってみるっす!」
そう言ってシオは火属性を付与された矢を放つ。すると明らかに弓に付与した時よりも強い輝きを放ちながら飛んでいくではないか。
「ギギギィィ!?」
うおお!?魔樹・楢の体力が七割は減ったぞ!?シオは【奇襲】を持っているらしいが、それを考慮しても威力は此方の方が高くなっているな。
「ギシィィ!」
「キュキュッ!」
「させませんよ!」
魔樹・楢は先ほど倒した個体と同じく、ドングリを乱射してきた。それをカルとアイリスが防ぎつつ、シオが矢を放つ。もちろん、私が付与した矢を、である。
「ギイィ…!」
ふむ、付与を施された矢なら【奇襲】の一発に加えて二射で倒せるのか。弓に付与した時よりも格段に威力は上がっているな。
「これは、本格的に運用法考えねばならんな…」
弓より矢に付与した方が効果的なのはわかった。しかし、矢はある程度は回収出来るとは言っても所詮は消耗品だ。しかも現状だと私が逐一【付与術】を使わねばならないし、それなら普通に魔術を放った方が威力が出る。
ではシオが【付与術】を覚えればいいのかもしれないが、弓と魔術の両方を鍛えるとなると、かなり時間が掛かるだろう。両立は困難と言わざるを得ない。
さて、どうやって解決しようかね…
さも当然のようにシオが主人公達のいる場所に初期リスポーンしていますが、これはプレイヤーが訪れたことで同種の魔物プレイヤーがその場所を初期地点として利用可能になるという仕様のせいです。
なので蜥蜴人や蛙人を選んだ新規プレイヤーはその集落にリスポーン出来ています。また、攻略そっちのけで爆走している夫婦のお陰で様々な魔物の初期地点が解放されており、初心者の魔物プレイヤーを狙ったPKはあまり上手くいっていません。やったぜ。




