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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第六章 山登りは天への道
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第一島人発見!

「はぁ…はぁ…!」


 私は背後から追い掛けてくる風魔狼(ウインドウルフ)の群れから逃げるため、必死に足を動かす。一瞬でも足を止めれば、私は連中の餌になってしまうだろう。


「うぅっ!失敗した…っ!」


 私の名前はマーガレット。この近くの村に住む、普通の村娘。そんな私が何故この魔物が蔓延る森に入っているのか。それは私のお母さんの病気を治す薬の素材を探すためだ。


 普段は風邪一つ引かないお母さんだけど、特効薬が無いと治せない珍しい病気を患ってしまった。村のお医者様の所には生憎と特効薬の在庫が無く、次の取引の日に注文して、さらに次の取引の日に買えるそうだ。


 幸い、その病気は死病じゃないみたいだけど、咳に苦しむお母さんは本当に辛そうで、私はそれを見ていられなかった。だから薬草を探すために決して入るなと言われていた森の奥地に入ってしまった。


 薬草を見つけた所までは、よかった。けど、採取に夢中になっている間に風魔狼(ウインドウルフ)の群れに見つかってしまったのだ。


「ウォン、ウォン!」

「ワォーン!」

「きゃああああ!」


 風魔狼(ウインドウルフ)の吠える声に、私は思わず悲鳴を上げてしまう。とても怖い。奴らはきっと、私を弄んで楽しんでいるんだ。そうでなければ、私みたいな普通の村娘がここまで生きているはずがない。


 そして飽きたらさっさと殺されて食べられるのだろう。そう考えると怖いと同時にとても悔しいし、情けなくなってくる。


 私達は魔物にも話が通じる相手がいることを知っている。けれど、同時にその強さと恐ろしさも知っている。


 なのに何故、私はこんな迂闊な行動をとったのだろう?お母さんの病気を少しでも早く治せれば、と思ったことが間違いだったの?これが森を、魔物を甘く見ていた罰なのだろうか。


「ひゅっ…ひゅっ…!」


 もう息がもたない。足も鉛の塊になったかのように感じる。頭も上手く働かない。


「あぅっ!?」


 遂に終わりの時が来たみたいだ。私は木の根に躓いて転んでしまったのだ。足を動かすだけでも精一杯だったのに、全身に走る痛みと疲労のせいで立つことすら出来ない。


「あ…あ…!」


 風魔狼(ウインドウルフ)達はゆっくりと近付いてくる。群れの数は七頭で、一際大きな一頭の眼光を浴びただけで私は金縛りにあったように動けなくなった。奴等にとっても、遊びの時間は終わったみたいだ。


 怖い。怖い怖い怖い!死にたくない!死にたくないよ!


「誰かっ、助け…」

「ゴアアアアアアッッ!!!」

「「「!?」」」


 私が掠れる声で奇跡を願った瞬間、風魔狼(ウインドウルフ)が霞む位に恐ろしい咆哮が轟いた。助けが来たのだろうか?


 いや、そんなことはあり得ない。この森に住む中で、あんなに恐ろしげな声を上げる魔物と言えば単眼鬼(サイクロップス)だと思う。群れを作らず、狂暴で、目に入った全ての生き物を殺して食らう鬼の一種。ある意味、風魔狼(ウインドウルフ)よりも余程恐ろしい相手だ。


 風魔狼(ウインドウルフ)はどうするべきか逡巡している。折角ここまで追い詰めた獲物()を諦めて逃げるのか、はたまた数と連携の力で単眼鬼(サイクロップス)を返り討ちにしてもっと多くの肉にありつくべきか。多分、そんなところだろう。


「シッ!」

「ウッシャア!」

「「ギャン!?」」


 だが、そんなことを考えている暇を相手は与えてくれなかった。空中から目にも止まらない速さで飛んで来た黒い影が風魔狼(ウインドウルフ)の首を斬り落とし、咆哮が聞こえて来た方からは赤い影が突っ込んで来てそのまま一頭を吹き飛ばしたからだ。


「危ないから、下がるよ!」

「え?す、粘体(スライム)?」


 いつの間にか私の背後に来ていた澄みきった美しい粘体(スライム)が、私の身体を優しく抱えて風魔狼(ウインドウルフ)達から距離をとる。それに気付いた奴等は慌てて此方に向かおうとした。


「させませんよ!」

「「ガルルッ!」」


 だけど、私達と風魔狼(ウインドウルフ)の間へ女の子の声と共に一つの大きな岩が落ちてきた。私は目を見開く事しか出来ず、風魔狼(ウインドウルフ)は現れた新たな敵を威嚇している。


「大丈夫ですか!?」


 最初は岩に誰かが乗っているのかと思ったのだけれど、そうじゃない。信じられないけど、喋ったのは岩そのものだ。しかも岩の窪みやヒビの隙間から触手のようなものが伸びている。一体、何が起きているのだろうか?


「キュキュー!」

「ガルアアッ!!」


 視界の端では何と龍の子供が風魔狼(ウインドウルフ)の一頭と取っ組み合いをしていた。私は詳しく知らないけれど、あの子供は多分、真なる龍の子供だと思う。そんな数百年後に大物となっているハズの龍が、何故こんな場所にいるのだろう?


緑風魔狼グリーンウインドウルフの相手は源十郎がしろ!ジゴロウと私で取り巻きを処分する!アイリスとルビーはその娘の護衛を継続!カル!無理だけはするなよ!」


 そして黒い魔術を放ちながら最後にやって来たのは、思わず見とれてしまいそうになる神秘的な杖と、闇夜を切り取ったかのような漆黒のローブを纏った銀仮面の魔物だった。


 顔を銀色の骸骨を象った仮面で覆っているのに、何故魔物だとわかったのか。それは彼が骨で出来た四本の腕を持っているからだ。


 杖と浮遊する不思議な本、そして古びてはいるけど見ていると何となく不安になってくる大鎌。骸骨の仮面もあって、私は物語に出てくる魔王かもしれない、と下らない想像してしまう。


「シャアア!弱ェんだよ、犬っコロがァ!」

「ほっほっほ!中々やるのぅ!」

「無駄口を叩くな!魔法陣遠隔起動、地穴(アースホール)からの、星魔陣起動、雷矢(サンダーアロー)!」


 そう。下らないことを考えられるほど、私には余裕が生まれていたのだ。赤い肌に金髪の鬼は不満そうに風魔狼(ウインドウルフ)をボコボコにし、昆虫のような剣士は風魔狼(ウインドウルフ)のボスを相手にしているのに楽しそうだ。


 骸骨仮面の魔術師は真面目に戦っているけど、苦戦している訳ではないと思う。単に油断をしないだけみたいだ。


「これでっ、どうです!?」

「アイリス、ナイスアシスト!」


 私の前にいる岩とさっきまで後ろにいたハズの粘体(スライム)は、私を庇いながら戦っている。こう言うと不利に聞こえるけど、そんなことはない。


 牙も爪もものともしない岩は、むしろ近付かれた瞬間に触手で風魔狼(ウインドウルフ)を捕まえて締め上げる。そして動きが止まったら、粘体(スライム)が目にも止まらぬ速さで急所を抉っている。


 その様子が見えている訳じゃない。二人の会話で何となく察しただけだ。それにしても、どうして彼らは魔物なのにヒトの言葉を話せるんだろうか?もしかして、()()の知り合いなのだろうか?


「堪能した、ぞぃっ!」

「ガフッ…!」


 剣士の振るう少し風変わりな大剣が、風魔狼(ウインドウルフ)のボスにトドメを差した。私を襲っていた恐ろしい群れはあっさりと倒されてしまったみたいである。


 生きてる。でも、助かったかはまだわからない。リーダーらしき骸骨仮面が私の方に近付いてくる。私は思わず身構えた。


「失礼、お嬢さん。怖がらせるつもりは無かったのだ」


 骸骨仮面は本当に申し訳無さそうにそう言った。三つ目の仮面は恐ろしいのだが、中身は案外紳士的なのかもしれない。


「察しているとは思うが、私達は魔物だ。しかし、君を傷付けるつもりはない。そして、一つの頼みさえ聞いてくれるのなら、我々は君を家まで送ろう」


 骸骨仮面の提案は、私には魅力的に聞こえた。風魔狼(ウインドウルフ)から必死で逃げたけれど、森を抜けるにはまだ距離がある。疲れきった私一人では、帰る前に死んでしまうだろう。


 けれど、彼らの頼みとは何なのだろう?内容によっては村へ近付ける訳には行かない。私の馬鹿な行いのせいで、母さんや村の皆を危険に晒す訳にはいかないからだ。


「頼み…とは?」

「私達はプレイヤー…君たちの言う所の風来者でね。安全に帰る拠点を探しているのだ」


 風来者。私はそれを聞いて驚く。三~四ヶ月ほど前から世界に現れるようになった、女神様が招いた者達だったはずだ。


 彼らは別の様々な世界にも身体を持っていて、それらを行き来しながら旅をすると聞く。私は風来者を見るのは初めてだけど、魔物の肉体を持っているのは珍しいのではないだろうか?


「そこで、君には私達に拠点を提供してくれそうな者を教えてほしい」

「それだけ…?」


 命を救った恩と道中の安全を保証することの報酬としては余りにも少ない。だから、私はどうしても疑いの目を向けてしまう。


「はっはっは。この世界の住民である君には分かりにくいだろうがね、我々にとって安全な拠点とは何にも増して優先すべきことなのだよ」


 そう…なんだろうか?風来者が下界の大陸に現れてから、この地に足を踏み入れたことがあるとは聞かない。なので、私も彼らの細かい事情は全くわからない。


 ああ、色々考えすぎて訳がわからなくなってきた。ここは、私の直感と助けてくれたという事実を信じようと思う。


「わかりました…村へ案内します。ですから…」

「ああ、道中の安全は任せてくれたまえ」


 こうして私は奇妙な魔物の一団に助けられたのだった。



◆◇◆◇◆◇



――――――――――


種族(レイス)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

職業(ジョブ)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

従魔の種族(レイス)レベルが上昇しました。

従魔の職業(ジョブ)レベルが上昇しました。

【杖】レベルが上昇しました。

【鎌術】レベルが上昇しました。

【知力強化】レベルが上昇しました。

【精神強化】レベルが上昇しました。

【体力回復速度上昇】レベルが上昇しました。

【魔力回復速度上昇】レベルが上昇しました。

【魔力精密制御】レベルが上昇しました。

【神聖魔術】レベルが上昇しました。

【時空魔術】レベルが上昇しました。


――――――――――


 悲鳴の主はこの近くの村に住むマーガレットという人間(ヒューマン)の娘だった。ヴェトゥス浮遊島に人間(ヒューマン)がいるのには驚いたが、おそらくはここに転移装置を設置した古代人の末裔なのだろうと勝手に納得しておいた。


 それにしても、何故こんな物騒な場所にいるのかと問えば、彼女の母親が患っている病気の特効薬になる薬草を採取しに来たのだと言う。何とも親孝行な話ではないか。まあ、それで死にかけていたのでむしろ親不孝者になる所だったが。


 彼女は我々をかなり警戒していたようだが、背に腹は代えられないとばかりに私の出した条件を飲んだ。いや、拠点の確保は本当に大事なのだ。


 確かに、テントがあればその中で安全にログアウト出来る。しかし、もしその後で死亡した場合、我々なら蜥蜴人(リザードマン)の村まで戻されてしまうのだ。面倒なことこの上ない。


 だから本当ならば彼女の村を使わせてもらいたかったのだが、それは流石に図々しいと思って紹介することだけに要求を抑えることにした。それが逆効果だったのは完全に私のミスだがね。


「ふふふっ!くすぐったい!」

「キュキュー!」


 今、そのマーガレット嬢はカルと遊んでいる。どうやらこの大陸の者にとって、龍とは女神に並ぶ信仰の対象らしいので、最初はカルに触れる事すら畏れ多いと遠慮していた。


 しかし、余りにも無邪気にじゃれてくるカルの愛らしさには勝てず、今ではメロメロになっている。まあ、仕方ないわな。間違いなく可愛いのだから!


 さて、今はマーガレット嬢の護衛中な訳だが、当然のように魔物は襲ってくる。だが、現れるのは単眼鬼(サイクロップス)風魔狼(ウインドウルフ)ばかりなので既に対処方法には慣れつつあった。


 それにしても、アイリスが触手で木の幹などを掴み、思い切り引っ張ることで高速移動したのには驚いた。彼女の話では体重を支えられる位に頑丈でなければならないので使いどころが難しいらしいが、それでも敵の意表を突くには便利だと思う。今後は戦術に加えていこう。


 マーガレット嬢は我々が魔物を安定して倒している姿を見て安堵してくれていた。尤も、ジゴロウが「もっと強ェ奴ァいねェのか?」と聞いて来た時には顔を強張らせていたが。


 因みに、より強い魔物はいるそうだ。今、我々は転移して来た泉から北に向かっているが、逆に南へ下ると浮遊島の南端が見えてくるらしい。そこがこの森の主の縄張りだそうだ。


 近付かなければ何もしてこないらしいので、わざわざ殺されに向かう村人がいるハズもなく、詳細は不明らしい。しかし、その話を聞いたウチの戦闘狂共はニヤついているな。拠点を確保した後の最初の冒険は決まったな。


「おっ!森の端が見えて来たぜ!」


 ジゴロウの言った通り、ようやく暗い森から抜けられたようだな。森を出た辺りには街道も何も無いが、地平線のあたりにうっすらと人工物が見えている。


「あれが、私達のサイル村です」


 目的地が見えて来たな。さて、ゲームを始めてから初めて訪れる人里だ。我々は歓迎されはしないだろうが、少しは見物させてもらいたいものだ。

 昨日は更新出来ずに申し訳ありませんでした!


 予約投稿をしようとした時に職場から電話で休日出勤の連絡が来たせいでバタバタし、そのまま投稿の事が忘却の彼方へと飛んでいってしまったのです…不甲斐ないですね…

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― 新着の感想 ―
悪役なら殺せよと言ってる人いるけど、悪役は殺人鬼じゃないので……(犯罪行為に傾倒する「悪党」ですら殺しを行うかは人次第、ましてヒーローのライバルを気取った悪役なら普通の物語でも気まぐれに弱者を守ろうと…
【誤字報告】  目的地が見えて来たな。 ⇩  目的地が見えてきたな。
[一言] 悪役ロールならしっかりして欲しい 何が悪役だよ悪役ロールならNPCとかでも関係なく殺せよ
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