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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十六章 魔王国防衛戦争
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魔王になった骸骨魔術師

 ログインしました。今日は大型アップデートが行われる日である。告知されたアップデートの時刻が来ると強制的にログアウトされ、次にログインした時には他の星へ続く転移門が世界各地に設置されているはずだった。


 アップデートにどれくらいの時間が必要なのかはわからないが、他のゲームを調べた所、どれだけ長くとも一時間弱で終わるらしい。昔のゲームに比べればとても早くなったようだ。


「さて、どうするかな…」


 私に今日の予定はない。いや、正確に言えばない訳ではない。ただ、それはアップデート後に現れるだろう転移門の調査だった。


 様々な場所に現れるという転移門。当然、ティンブリカ大陸にも現れるだろう。その位置を迅速に把握し、魔王国で独占する。そのためにアップデート直後から動く予定なのだ。


 ただ、逆に言えば今はやることがない。そして遊んで時間を潰そうにも声をかけて付き合ってくれそうな者達がログインしていなかった。


 大型アップデートに合わせての調査は魔王国のプレイヤー全員で行うことになっている。当然、皆はそれに合わせてログインするつもりなのだろう。今ログインしているプレイヤーは私を除けば生産職の者達が数名のみという有様だった。


 私だって本当は今ログインするつもりはなかった。今日は仕事が思いの外早く終わったので早めに帰宅出来て、読んでいた本も読み終えたせいで手持ち無沙汰だったからログインしただけのこと。何か目的があった訳ではないのだ。


「そうだ。久し振りに掃除しておくか」


 強制ログアウトまでの時間は限られていて、何をするにも中途半端な時間しか残っていない。そこで思いついたのが普段は滅多に使わない場所の掃除であった。


 この王宮には仲間達のこだわりが色々と詰め込まれている。例えばルビーの発案によって壁の内側には管が張り巡らされていた。


 王宮に招いた者達が室内で密談していても壁の中で聞き耳を立てたり、有事の際には奇襲に使ったりするために作られている。有事の際云々は設計時にはなかった迷宮(ダンジョン)化させることが可能となったので、より効果的になったと言えよう。


 他にも様々なこだわりがあるのだが、その中の一つとして珍しくミケロが推したモノがある。それは王宮内に隠された祭壇である。祀られているのは当然のようにイーファ様だった。


 ミケロが人類から魔物になった時に世話になったのもイーファ様であり、私と何かにつけて縁があるのもイーファ様だ。それ故にイーファ様だけを祀る祭壇をひっそりと用意していたのである。


 ちなみに一柱の女神様のみを祀る祭壇は様々な場所にある。生産職の工房には『生産と技術の女神』ピーシャ様の祭壇が必ずあるし、闘技場には『戦争と勝利の女神』グルナレ様の巨大な女神像が競技を見守るような姿で建てられている。魔王国の外なら『魔女集会』のクランハウスには『魔術と研究の女神』カミラ様の女神像が置いてあるそうだ。


 要は一柱のみの祭壇は、個人やその場所にとって最も必要な女神様を祀っているということ。少し意味は違うが、推し活というモノに近いのかもしれない。


 そんなことを考えながら、私は隠し祭壇へと向かう。ある部屋と部屋の間の壁を特定のリズムで叩くと金庫のようなダイヤルが現れる。これを回して正しい順番で数字を揃えると、壁が忍者屋敷のように回転してその奥が祭壇になっているのだ。


「ここをこうして…よ…し………は?」


 回転した壁の奥には、こじんまりとした祭壇があるはずだった。そこを掃除するくらいならば十分な時間があるはずだったのだ。


 なのだが…回転した壁の奥は何故か宇宙空間のようになっているではないか!慌てて振り向くと、あったはずの壁がなくなっている。つまり、宇宙空間に放り出された形になるのだ。


 転移罠を踏んだ?いや、あそこには罠なんて仕掛けていない。入るのは難しいが、苦労して入ってもイーファ様を拝む以外にやることがない場所だからだ。それに宇宙空間にまで誰かを飛ばせる罠なんて便利なモノ、あったら防衛戦の時に使っている。つまり、これは私達が起こした現象ではないということだ。


「…体力は減っていない?安全なのか?」


 混乱していたから確認していなかったが、私の体力は少しも減っていない。浮遊感はあるが、頻繁に飛んでいる身としては何も問題はなかった。むしろ自前の魔力いらずで飛べるのは快適とまで言えた。


 現状が安全だと確認すると心に余裕が生まれ、私は改めて冷静に周囲を…それこそ上下左右前後の360°を見回してみる。すると真下に見覚えのある美しいモノがあるではないか。


「地球…じゃないな。ここはまさか…」

「気付かれましたか?」


 私の真下にあったモノ。それは地球のような、しかし大陸の形がまるで異なる青い星だった。そう、私はここを知っている。初めてログインした時にキャラクタークリエイトを行った場所だったのだ。


 そして背後から聞こえてきた声の主のことも知っている。私は一度大きく深呼吸した後、ゆっくりと振り返った。


「イタズラが過ぎますよ、イーファ様」

「まあ。叱られてしまいましたね」


 手を口に当ててクスクスと上品に笑っているのは、『死と混沌の女神』イーファ様だった。初めてあった時と変わらぬ美貌の女神様は、無垢な少女のような表情で楽しげに笑っている。こんな顔を見せられたら怒る気も失せてしまうではないか。


 笑っているイーファ様を見ながら、私は何故ここに連れてこられたのかについて考える。私をここへ強制的に連れてきたのは間違いなくイーファ様だろう。ただの隠し扉を別の場所へ転移させられるなど、女神様でなければまず不可能だからだ。


 しかし、女神の一柱が何の理由もなく一人のプレイヤーを呼び出すことなどあって良いはずがない。迷宮(ダンジョン)イベントの時のように何らかの依頼があるのか、それともやりたい放題する私達に釘を差そうと言うのか。彼女のお達しを私は神妙にして待っていた。


「そう緊張しないで下さいな。何も取って食おうなんて考えていませんから」

「いや、取って食うって…そもそも食事が必要なのですか?」

「いえ?でも、嗜好品としての意味はあります。特に甘い物は好きですよ。他の女神達も甘味には目がないですねぇ」

「なるほど。では、帰ったらお供えしましょう」


 女神様は甘味がご所望らしい。魔王国には鉢植えを育てるイベントで様々な特有の果実が存在する。それらをお供えしておこうか。


 私が帰った後のことを考えていると、イーファ様は再び上品に笑っている。すぐに関連することについて考えを巡らせてしまうのは私の悪い癖だ。バツが悪くなった私は申し訳ないと謝るしかなかった。


「フフフ、緊張はほぐれましたか?」

「ええ、おかげさまで。ところで、私に何かご用があったのでは?」

「いいえ、ありませんよ?」

「え?」


 え?理由がない?理由がないのにこんなことをしたのか?何で?良いのか?私の頭の中は疑問符で満たされ、思考が纏まらない。


 私の反応が面白かったのか、イーファ様が三度笑っている。彼女の笑い声で私が冷静さを取り戻すと、イーファ様は笑うのを止めてしまう。だが、その顔には微笑みが浮かんでいた。


「驚いたでしょう?理由もないのに呼び出すなんて、って」

「ええ。醜態をさらしてしまう程度には驚きました。ですが、良いのですか?理由もなくプレイヤーを呼び出すなど…」

「良くないですよ?他の女神に知られれば小言を貰うのは確定です。知られることはありませんが」


 いや、ダメなんかい。ただ、イーファ様が言うには私と会った時のログを改竄してしまえば良いらしい。普段であればこんな隠蔽工作で他の女神様方の目を誤魔化すのは不可能らしいが、今は大型アップデートが控えている。これを利用すればどうにでもなるようだ。


 つまり、私がアップデートの直前にログインしなければこの時間は取れなかったということ。この偶然に感謝しよう。


「じゃあアップデートまでの時間はここで過ごしても宜しいですか?」

「ええ。そうしましょう」


 それから私はこの宇宙空間でイーファ様と過ごすことにした。ただ、その間ずっと星を眺めているというのも流石に飽きる。ということで私はイーファ様と世間話をすることにした。


 世間話と言っても話題はFSWの内容ばかりだ。女神様を相手にリアルの話題を振るのも、私の個人的な話をするのも憚られたである。


 彼女は女神ということもあって、全てを知っているのかと思った。だが、全てを完全に把握している訳ではなかったようで、私に様々な質問をしてはコロコロと笑っていた。


「フフフ、そんなことがあったんですね。あら、そろそろアップデートの時間が迫って来ましたか」

「もうそんな時間に?時間が経つのは早いですな」


 そうやって話をしていると、もうアップデートの時間になりつつあったらしい。もっと時間的な余裕があると思ったのだが、二人で楽しく過ごしていたからか一瞬で時間が過ぎ去ってしまった。


「では、そろそろお暇することになりますか」

「ええ、今度は私の宮殿にいらっしゃいましね」

「もちろん。必ず参ります。仲間達と共に」


 ある意味、この邂逅は偶然とイーファ様の気まぐれで成立したモノに過ぎない。次は堂々と胸を張って拝謁を願うつもりだった。


「フフフ、頼もしいですね。では、最後に一つだけお尋ねしても?」

「ええ。何でもお聞き下さい」

「イザーム。貴方はこの世界を楽しんでいますか?」


 最後の質問と聞いて少し緊張したのだが…まさかそんなことを聞かれるとは思わなかった。拍子抜けする私とは逆に、これまでずっと微笑んでいたイーファ様の表情は至って真剣な表情に変わっている。きっとこれは彼女にとって何よりも重要な質問なのだ。


 だからこそ、私は真摯に向き合う義務がある。私もまた、その質問を真剣に考慮した上で私の正直な答えを述べた。


「ええ、もちろんです。これ以上ないほどに。そしてこれからも楽しませていただきますよ」

「…フフフ、そうですか。では、精々飽きられないようにこれからも頑張りますね」


 私の答えにイーファ様はこれまで見たことのない輝くような笑顔を浮かべる。その直後、私の視界は柔らかな光に包まれていくのだった。

 本編はこれにて完結です。楽しんでいただけたのなら、これ以上の喜びはありません。これまでのご愛読、本当にありがとうございました。


 本編は完結したものの、気が向いたらショートストーリーや掲示板回を投稿すると思います。なので完結設定には致しません。更新された際、また拙作を楽しんでいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
執筆お疲れ様です 良い物語を読ませていただきました、ありがとうございます まだ活躍するイザーム達を見たい気持ちもありますが、ここまでの展開、本当に楽しませていただきました ショートストーリーも楽しみに…
寂しいですが、ほんとにお疲れ様でございます なろうで自分が読んできた、異形系変異ものでは1番大好きです! ありがとうございました!
(機械翻訳を使用しました。読みづらかったら申し訳ありません。) 数年前、仕事中の退屈しのぎにあなたの小説を見つけ、それ以来、その物語に魅了されました。 明らかにビデオゲームの中の出来事であるにもかか…
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