表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十六章 魔王国防衛戦争
678/688

ビグダレイオの進軍

 イザーム達が深淵と地獄を訪れている頃、ルクスレシア大陸のリヒテスブルク王国領へ進軍する軍団があった。その軍団は高い統率を保っており、乱れぬ隊列を維持しつつ進軍していた。


 その数は二百前後と頭数だけならば大軍とは言い難い。しかし軍団のほとんどは豚頭鬼(オーク)の上位種である猪頭鬼(ボアオーク)だ。さらに統一感のある装備は全て強力な装備であり、ただの街程度であれば一晩で陥落してもおかしくない戦力であった。


 彼らは都市国家ビグダレイオの軍団である。棘殻(ソーンシェル)(スコーピオン)大王(ハイロード)との戦い以降、彼らは研鑽を積み重ねている。その平均レベルはゆうに80を超えており、()()()棘殻(ソーンシェル)(スコーピオン)大王(ハイロード)とならば一人一人が互角に戦えるようになっていた。


「いやぁ、ジャハル殿下はご立派になられましたね」

「そうだろう、そうだろう!」


 その軍団の中央部では、ビグダレイオの王子であるジャハルが楽しげに談笑していた。彼が話しているのは魔王国のエイジと兎路である。特にエイジは猪頭鬼(ボアオーク)の一種ということもあって、全く違和感はなかった。


 ただし、彼らの周囲は異様と言える。何故なら、王子の周囲を固めているのは半数は特に屈強な猪頭鬼(ボアオーク)であるが、もう半数はごく少数の猪頭鬼(ボアオーク)ではない魔物だったからだ。


 彼らは魔王国から派遣された戦力である。ビグダレイオの精鋭と共に王国領を荒らし回るのが今回の目的だった。


「でも、まだまだだ!大王に勝ったことは一度もないのだからな!」


 ジャハル王子は勝てていないと言いながらもどこか嬉しげであった。そう、棘殻(ソーンシェル)(スコーピオン)大王(ハイロード)もまた自己研鑽に励んでいたのだ。


 傀儡魔蟲(マリオネットワーム)に操られたという苦い経験から、棘殻(ソーンシェル)(スコーピオン)大王(ハイロード)は二度と不覚を取らないように積極的にレベルを上げた。今ではレベル100の大台に乗っており、元から強力な魔物であったこともあって龍王(ドラゴンロード)に匹敵するほどの怪物と化していた。


 ジャハル王子はそのことが何よりも嬉しかった。自らが一目惚れし、相棒にしたいと望んだ棘殻(ソーンシェル)(スコーピオン)大王(ハイロード)。ジャハル本人も強くなったものの、その差は埋まるどころか広がる一方だ。


 しかし、目標が目標のままずっと先にいることがジャハル王子のモチベーションに繋がっている。父親であるサルマーン王もジャハル王子の成長を喜び、この派兵での戦果をもって譲位するつもりであった。


「謙虚なのね」

「挑戦者でいることを楽しんでいるだけさ!当然、いつも勝つつもりで挑んでいるがな!」

「伝令!伝令!」


 そうしてゆっくりと進軍しながら談笑していたビグダレイオ軍団だったが、大きな声を張り上げて駆ける者がいた。他よりも細身な猪頭鬼(ボアオーク)であり、装備も軽装になっている。


 彼はビグダレイオの斥候兵であった。大柄で強靭な肉体を持つ重戦士が多いビグダレイオだが、斥候兵の重要性は十分に理解している。常に十分な数の斥候兵を放ち、安全な進軍に貢献していた。


 ただし、通常の斥候であればここまで大声は出さない。大声を出しているという時点で報告するべき事態が起きているのだ。適度な緊張を保っていたビグダレイオ軍団は、一瞬で臨戦態勢に移った。


「報告!前方の都市にて暴動が起きている模様!」

「暴動?」

「あちゃ〜…よりにもよってここなのね」


 ジャハル王子はピンと来ていないようだったが、魔王国のプレイヤー達は何とも言えない表情になっていた。彼らはリヒテスブルク王国が荒れることは知っている。そして王国の大きな勢力についても知っていた。


 だが、おおまかな括りはわかっていても、その末端についての知識までは流石に把握していなかった。コンラートが情報を絞った訳ではない。彼は自分の商売優先であり、大きな金が動く場所を重視しているからだ。


 そして魔王国の諜報を担う『ノンフィクション』もまたこの暴動を予期出来なかった。人数が限られている彼らも同じく大きな動きを重要視しており、ずっとそちらを追っている。ビグダレイオの進軍する先にある王国の辺境までは手が回らなかったのだ。


 どちらも辺境で小競り合いは起こっても、ビグダレイオによる略奪以上の事件は起きないと予想している。誰もが限られたリソースを割り振れなかった場所だったのだ。


「また、進軍する先に非戦闘員の避難民が集まっております」

「避難民か…」


 避難民と聞いてジャハル王子は露骨に難しい表情になった。ジャハル王子は人類のことがあまり好きではない。人類は魔物と見れば有無を言わさず討ち取ろうとする者達に好感を持てと強いるのは不可能だ。


 また、街や村から略奪することにも躊躇はない。国が弱くなったのは為政者の責任であり、弱った敵を食らって国の力を増強するのも為政者の決断だ。ジャハル王子は快活でおおらかだが、博愛主義ではないのである。


 だが、ジャハル王子はビグダレイオという文明的な都市国家で育った。いくら敵対されている種族(レイス)だからと言って、戦うどころか抗う力すらない者達を蹂躙するような残虐性はないのだ。


「どうなさいますか?」

「進軍する。避難民は捨て置け。ただし、手出しして来るようならば蹴散らす」

「はっ!」

「あと、我らを街へ戻ろうとする者がいたなら排除せよ。我らの接近を教えてやる必要もあるまい」

「はっ!直ちに!」


 ジャハル王子の逡巡は一瞬であった。彼は進軍を止めない。だが、避難民へ積極的に手は出さない。身の程をわきまえずに攻撃してくるのならば容赦はしないが、わざわざ時間を割く必要を感じなかったのだ。


 ただし、避難民に異物が紛れ込んでいる場合のことも忘れてはいない。見逃さないように斥候兵にはしっかりと監視させるように命じていた。


 再び進軍を開始したビグダレイオ軍団だったが、すぐに進軍を止めることになる。何故なら彼らの行く手を阻むように五人の女性が立ちはだかったからだ。


「あれは…?」

「どう見てもプレイヤーでしょ」


 エイジに素早く突っ込んだのは兎路だった。彼女が言うように彼らの行く手を阻んだのはプレイヤーである。彼らの実力は不明だが、彼らが戦うことに意味はない。仮にレベル100だったとしても、たった五人では数人を道連れにするのが関の山であるからだ。


 それにいざとなれば兎路率いる魔王国プレイヤーが戦えば良い。彼らの方が人数も多い上に連携もバッチリだからだ。


 また、兎路の見立てでは道連れを狙うことすら難しいのではないかと考えている。何故なら…立ちはだかった女性達は全員が三角帽子を被って黒ローブを纏い、杖を持つ魔女風の魔術師だったからだ。


「とっ、止まって下さい!」

「ほう、この戦力差で止めようとして来るのか。全軍、停止!」


 だからこそ、止まるようにと声を張り上げたことにジャハル王子は興味を持った。彼は全軍に停止するように命じる。よく通る声による命令は一瞬で全軍に行き渡った。


 ジャハル王子の大声か、一斉に停止した瞬間の地響きに驚いたのか、それともその両方か。五人の魔女達はビクリと肩を震わせた。軍隊を止めようとする度胸を見せたかと思えば、大きな音に怯える。不思議な五人組であった。


「エイジ、兎路。話を聞いてきてくれるか?」

「良いですけど、戦闘になったらすぐに援護を向かわせて下さいよ」

「全員斬るから関係ないわ」


 興味を持ったジャハル王子はエイジと兎路を交渉役として向かわせる。二人は戦闘になることを前提として話を受けた。ジャハル王子も分かっているのか無言で頷き、いつでも援護出来るように小声で兵士に命じるのだった。

 次回は11月24日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>>「あと、我らを街へ戻ろうとする者がいたなら排除せよ。我らの接近を教えてやる必要もあるまい」 たぶん脱字だと思うんですけど、 「我らを(見付けて)街へ戻ろうとする」 とかですかね?
王国中で暴動が起きてる感じか。散り散りになってくれればくれるだけ魔王国として楽になるよなぁ。 >ジャハル王子はビグダレイオという文明的な都市国家で育った。いくら敵対されている種族レイスだからと言って…
王国崩壊待ったなしかな? 勇者くんどうするのー?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ