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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十六章 魔王国防衛戦争
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第一回魔王国公式生放送 放送後

 第一回魔王国公式生放送は概ね成功だと言って差し支えない。放送中に集まった人数は全配信中最高記録だったらしいし、チャンネル登録者数も一度しか配信していないのに随分と多いと七甲が言っていた。


 私はそちらの方面が疎いので、いまいちその凄さがわかっていない。だが、魔王国の広報窓口としての手応えは感じている。飽きられないように工夫する必要はあるだろうが、しばらくは第一回と同じスタイル、すなわちミケロと私とゲストの三人が出演する形で良いだろう。


 ただし、概ねと言うように全ての面において成功した訳ではない。いや、この言い方は間違っている。失敗というよりも予想外の反応が現れたのだ。


 魔王国を非難や嫌悪する者達が陰口を叩く、いわゆるアンチが現れるのは想定内。私やジゴロウ個人に対するアンチが現れるのもまた想定内だ。まあジゴロウは挑発的な態度を取ったことから予想以上にアンチが多いようだが…同時にファンも増えたらしい。人の心とはわからんものだ。


 では何が想定外だったかと言うと、配信者から無数の問い合わせがあったのである。彼らからすれば魔王国は撮れ高の塊だからだとか。気持ちはわからんでもない。私達にとっては日常であっても、他の大陸の者達からすれば見るべき場所は幾らでもあるからだ。


 ただ、送り付けられて来たメッセージの文言は丁寧なモノから失礼極まりないモノまでピンキリであった。生放送に感銘を受けたから配信させてもらいたいという者達は良い。だが、自分が配信してやるからさっさと招待しろなどと宣う輩には呆れしかなかった。


 特に招待しろとはどういうつもりだ。アクアリア諸島から船が出ると生放送で言ったのだから、それに乗って来れば良いだけのはず。つまり、私達に迎えに来いと言っているらしい…何様のつもりだ?


 あまりにもナメた態度の連中には、既にビジネスの際に使うような文章でお断りの返信をしている。断固として拒否しつつも、言葉だけは丁寧にしておいて損はないからだ。


 ただし、断りのメッセージを送ったとしても連中はきっと魔王国に来るだろう。船に乗れば来ることは可能なのだから。


 その時に備えて何かされないように対策しておかなければなるまい。ここは【国家運営】の能力(スキル)の使い所かもしれん。街中において配信可能なのは許可された者達だけという設定にすることもあり得るかもしれない…もしやれば炎上するかもしれないが。


 魔王国にも配信者に詳しい者達がおり、彼らには連絡してきた者達について確かめてもらっている。有名だろうが何だろうが、他人に迷惑を掛けるような連中はお断りだ。魔王国では私達がルールなのだから。


「それで…釣れたか?」

「うん。王国の外に拠点があるはずのクランのメンバーが何人も現地入りしてる…よっ!」


 『ノックス』にある『コントラ商会』の商館にて、私とコンラートは二人でダーツに興じながら悪巧みの結果について話し合っていた。悪巧みとはもちろん、王国の分断計画のことだった。


 王国を再び魔王国へ攻め込めるような国力のない、小国に分裂させる。そのための最後のピースがプレイヤーだった。彼らを王国で起こるであろう大規模な内乱に積極的に加わらせるのだ。


 プレイヤーの間で私達のように一国一城の主になりたいと望む者はそれなりにいると知っていた。だからこそ、彼らの野心の炎に薪をくべたのだ。


「ふっ!ぬぅ…それぞれの動きは分かるか?」

「もちろんさ。経済活動あるところ、我が商会の情報網ありってね」


 流石にまだ移動している最中であり、実際に行動を起こした者はいないらしい。内乱のドサクサに紛れて行動を起こそうというのは動いている者達全員が一致しているようだ。


 ただし、それぞれの戦略は個性があるらしい。あるクランはクエストで縁があった貴族家に擦り寄っている。これが戦後に褒美として領地を任されるつもりなのか、はたまた貴族家を乗っ取るつもりかは彼らのみぞ知るだな。


 あるクランは王国の辺境に位置する小さな村に腰をすえたらしい。村を完全に掌握しつつ、徐々に版図を拡げていくつもりか。誰かの庇護下にない分リスクは大きいが、上手く行けば小国の王になるのも夢ではない。彼らの手腕をお手並み拝見と行こうじゃないか。


「一応聞いとくけど、連中には支援しないんだよね?」

「当然だ。後ろ盾になるつもりはない。旗が折れた時にこちらの責任にされても困るからな」


 プレイヤーを焚き付けておいてなんだが、私は彼らに一切の支援を行わない。これは決定事項である。生放送でも支援するなどとは一言も発しないように注意していたくらいだ。


 私達からすればプレイヤーの国家が成立しようがすまいがどちらでも良い。王国だった領域を疲弊させることが目的なのだから。仮に成功した者達がいれば、改めて国交を結ぶなり何なりすれば良いのだ。


 それに実際問題、今は我々も疲弊している。他勢力への支援はすると言っても、武器を売り付けて儲けるかビグダレイオと共に略奪して出稼ぎするかだ。他プレイヤーに投資をする余裕などないのである。


「そりゃそうか。ああ、ウチが彼らと商売するのは構わないよね?」

「おいおい、『コントラ商会』は魔王国からは独立しているじゃないか。阿漕に稼いで来ればいいさ」

「そうさせてもらうよ…おっし!」


 『コントラ商会』と魔王国はもはや一蓮托生だが、表向きには彼らは我々とようやく接触し始めたところだ。だからこそ、彼らは好き放題に儲けても良い。是非とも王国で暴れようとしているプレイヤー達から搾り取ってもらいたいものだ。


 そうだな、コンラートにもいつか生放送に出てもらうか。魔王国に接近すれば生放送に出られるのだと外向きにアピール出来るからだ。


「イザームはどう見てる?プレイヤーの国が出来ると思ってるの?」

「九割九分、無理だろう。王として認められるのはそんなに簡単なことじゃない」


 自分で焚きつけておいてなんだが、プレイヤーが国家を樹立させるのは非常に困難だと思っている。それをやった自分達を高く見積もり過ぎているように思われるが、それは違う。そもそも状況が全く異なるからだ。


 我々の場合、ティンブリカ大陸には国を持たない民が大勢いた。彼らは友好的に接していた私達によって安住の地を得たことに多大な恩を感じている。また、危機に対して共に血を流して戦ったことによる連帯感も相まって、強い結束で結ばれていた。


 だが、これから一旗揚げるとなると話は別だ。現地の住民の目には、彼らは簒奪者と映るに違いない。信頼関係を築いたとしても、彼らはプレイヤー…住民の言い方ならば風来者だ。定期的にログアウトして世界から去ってしまうのである。


 今から起こるのは内乱だ。状況は流動的になることだろう。周辺の勢力から攻められた時、誰もログインしていなかったらどうなるか?少なくとも、私が住民の立場であればこう思うだろう。頼りにならない、と。


 乱世において頼りにならないと住民に思われるのは致命的だ。見限られれば全員がログアウトしている間に他勢力へと売り渡される可能性すらある。


 この内乱でプレイヤーが王国を築くには、その地域の支配者を排除し、住民と信頼関係を構築し、周辺の勢力と同盟するか戦争で勝利する。これを支配者として認められるまで続けなければならないのだ。私達に比べて難易度は跳ね上がっているのである。


「でも一パーセントくらいはあると思ってるんだ?」

「ああ。上手く立ち回った上で運が良ければ、だがね」


 しかしながら、絶対に無理だとは思わない。王国入りした者達だって何も考えていないはずがない。彼らには彼らなりの勝算があるはず。私には見えていないモノが見えている可能性もある。それも含めてお手並拝見と洒落込んでいるのだ。


「そっか…あ、そうだ。例の打ち上げはどうなの?」

「それなんだが、少しスケジュールを合わせるのに苦労している。もう準備自体は出来ているんだがな」


 コンラートが尋ねたのは戦勝を祝っての宴会を開くという話だ。ただ、どうしても全員に参加してもらうとなるとスケジュールの調整が難しい。防衛戦の時に無理してスケジュールを合わせた結果である。


 コンラートは宴会が好きなので、早く打ち上げを行いたくてウズウズしているらしい。かくいう私も似たようなモノ。私はダーツを投げながら、なるべく早く開催出来れば良いなぁと望むのだった。

 次回は11月12日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
失礼配信者はお断りでいいわな。アレだ迷惑系て奴になるだろうし。 >私は彼らに一切の支援を行わない。これは決定事項である。生放送でも支援するなどとは一言も発しないように注意していたくらいだ。 前話で多…
成功失敗は別として、システム上可能であると不特定多数に判明されたの時点で乱世が約束されてるんだよなぁ まぁ、九割九分は無理と言い切るのは笑えるけどなww 詰まる所コイツ的にそれくらいのプレイヤーは未…
最悪な環境の中の安住の地を修復して大金稼ぐのと、乱世の中で侵略して全部しばき倒して従えて信頼されて統治して大金稼ぐのも、確かに後者が難しそうだけどどちらにせよ王と呼ぶにふさわしい難易度
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