ノックスの戦い 魔王VS勇者 その七
「ああ、そうか。普段の癖で【付与術】を掛け直したが…君達の方も効果がそろそろ切れるのではないかね?」
普段から仲間達の【付与術】の効果が切れないように気を配っていた癖でカルの強化を優先した私だったが、私はふと気付くことがあった。こちらの【付与術】の効果が切れるということは、あちらの【付与術】の効果も切れるということに。
カルは再び強化されたものの、ルーク達はそうはいかない。【付与術】を使っていたのは神官の蓮華であったはず。彼女が消滅した今、ルーク達が再び強化されることはないのだ。
私よりも【付与術】の能力レベルが高ければ、効果時間が多少長いのかもしれない。だが、仮にそうだとしても十分や二十分も長くなるのは流石にあり得ない。直にルークを除いて生き残っている二人は弱体化することだろう。
横目で見ればローズと藍菜からはカルの強さに苦しんでいるというよりも、どこか焦りが窺える。あれが演技であれば大したモノだが…今のカルは油断も慢心もなく、ただ自分の邪魔をする二人を排除することしか考えていないだろう。騙す効果が全くと言って良い程になかった。
ただ、ルークの強化状態に関しては効果が切れるかどうかは微妙なラインだろう。レベル100のプレイヤーがその生命を燃やして発動させた『秘技』である。少し私が長期戦に持ち込もうと粘った程度では効果が切れるとは思えなかった。
現にルークはローズと藍菜を横目に見て眉を顰めているものの、そこまで焦る素振りは見せていない。二人のことは心配しているが、自分のことは心配していないように感じられた。
「なら、その前にお前を倒す!」
「出来ると思っているのか?」
ルークの出した結論は、二人のためにも私を素早く倒すというモノ。それをされるのが一番嫌だったのだが、仕方がない。私も腹をくくるとするか。
真っ先に突っ込んで来るかと思ったが、ルークが最初に行ったのは光鎧の発動であった。【深淵のオーラ】には何の意味もないのだが、少しでも効果があるならと発動してみたようだ。
「おいおい、随分と悠長じゃないか」
「くっ!」
ただ、一度私から距離を取った上で魔術を使ったということは、私にも魔術を発動する余裕が生まれるということ。私は連発可能な魔術、それも爆発によって発生する爆風でルークを押し返す魔術を選んで放ち続けた。
直撃を避けても爆風によって押し返されることもあり、ルークはとてもやり辛そうだ。それに私は空中での戦闘に慣れていることもあり、不規則に飛びながら魔術をバラ撒き続けていた。
この時、ルークにとれる選択肢は二つある。一つは私の魔術による弾幕が途切れる、または魔力切れになるまで待ち続けること。逃げの一手によって私に消耗を強いるのだ。
この選択の利点はルークがダメージを抑えられることだ。爆風のダメージを完全に防ぐことは出来ないが、直撃したことで大ダメージを受けることもない。無難な選択と言えよう。
だが、この選択では私の魔力と引き換えに時間がかかってしまう。その間にローズと藍菜は【付与術】の効果が切れてカルに倒されるだろう。仮に藍菜が私と同じく【付与術】を使えたとしても、とてもではないが掛け直す隙などない。つまり、これは自分の安全と引き換えに仲間二人を切り捨てる選択肢なのだ。
「おおおおおっ!」
ルークが取ったのはもう一つの選択肢。すなわち、多少の被弾は覚悟の上で突撃することである。蓮華による強化蘇生とでも呼ぶべき状態の彼は防御力も上がっているのだろう。その防御力に物を言わせて真っ直ぐに突っ込むのだ。
多少のダメージはあれど、そうやってサクッと私を倒してしまえば二人の仲間は救える。返す刀でカルを倒そうという魂胆だろうか。その時にはもうボス戦は終わっているのだが。
「君ならそう来ると思ったよ」
「なっ!?」
ただ、ルークの性格的に私を速攻で倒しに掛かるのは目に見えていた。さらに私は嫌な奴を演じた上でネチネチと言葉でも責め、さらに尻を叩くという屈辱をも味わわせている。自然と私への敵意は強くなり、仲間を救えるというメリットまであれば、突撃してくるのは当然の流れであろう。
そして読んでいるということは、事前に準備を行えるということ。私は魔術を連発しながらも、空中に【罠魔術】を仕掛けていた。爆風によって舞う粉塵によって仕込みがバレなくなるのも織り込み済みだ。
仕掛けてからは常にルークとの間に罠があるように飛び続け、いつルークが突撃することを決意しても良いように立ち回っていた。その時が今だった、というだけのことである。
私が仕掛けていたのは【樹木魔術】をベースとした捕縛用のオリジナル魔術である。藍菜の似たような魔術でカルが捕らえられていたが、やはり考えることは似てしまうようだ。
ただ、私が【樹木魔術】ベースのオリジナル魔術を使ったのには理由がある。それは今のルークには【暗黒魔術】のダメージが大幅に軽減されているように見えたからだ。
私は爆発するオリジナル魔術を連発していた訳だが、その際にわざとバラバラの属性にしていた。すると、ルークは明らかに【暗黒魔術】を含んだオリジナル魔術への反応が鈍かった。まるで受けたところで問題ないかのように。
もちろん、あれが演技である可能性もある。だが、本当に効かなかった場合、せっかくの【罠魔術】が無意味になる可能性があった。そこで私は【暗黒魔術】の要素がない拘束系のオリジナル魔術を仕込んでいたのである。
「こんなもの…ごほっ!」
「何っ!?ならば!雷炎刃嵐」
強化されていることもあって、ルークは力尽くで拘束している茨を引き千切ろうとしている。その前に接近した私は、武技を発動させた大鎌によって首を刎ねようとした。
無防備なルークの首を大鎌の刃が完全に捉えた…はずだ。だが、大鎌の刃は硬質な音と共に弾かれてしまう。その直後、ルークの胸の辺りからガラスが割れたかのような音が響き渡った。
おそらくは即死を防ぐ、それも使い捨てタイプの装飾品が発動したらしい。私は驚いたものの、何とか動揺を押さえ付けてルークの背中にオリジナル魔術を放った。
電撃と真空の刃を内包する炎の嵐がルークを包み込むが、拘束を引き千切った彼はすぐに飛び出したので大したダメージは与えられなかったらしい。マントや髪の毛からプスプスと煙が上がっているので全くの無傷という訳でもないようだが、致命傷からは程遠いのは確実だ。
「即死対策とはな。渋いチョイスじゃないか」
「ちょうど今みたいなボス戦で、油断したところをやられた経験があるんでね!」
「…………なるほど?」
これ、以前の私のせいということではないか。イベントでボスとして君臨していた時、ルーク達がボスを倒したと油断したところを本物のボスである私が不意打ちで首を刈ったはず。あの反省から、即死対策は万全だったということか。いやはや、過去の自分の行いが巡り巡って千載一遇の好機を潰すことになるとはな。
私は自分のせいだ、ということは言葉にすることなく魔術を放つ。再び爆風によってルークを押し返そうとするものの、彼は再びダメージ覚悟で突っ込んできた。
「今度こそ、喰らえ!」
「ぬうぅぅぅ!ぐふっ!?」
光り輝く剣を振り上げたルークによる渾身の一撃。武技も併用しているらしいそれを私は受け流すことが出来ないと本能的に察した。
かと言って防御系の魔術を使う時間もない。私に出来ることと言えば大鎌と杖を交差させて剣の直撃を防ぐことだけだった。
ただし、大鎌も杖も盾のように防ぐための道具ではない。直撃を免れたというだけで、私は大ダメージを負ってしまった。
そして空中に浮いているので踏ん張ることも出来ない。上昇するように突っ込んできたルークに押し込まれた私は、天井に背中を強かに打ち据えられた。
ルークの攻勢はこれで終わりではなかった。天井へ私を押し付けるように胸元を思い切り踏み付けたのだ。天地は逆転していることで、ルークは私を見下ろす姿勢で見上げながら剣を大上段に振り上げて動きを止めた。まるで何かを溜めるかのように。
「奥義、破邪神光刃!」
「秘術、聖者を憎む腐焔!」
逆転出来るとすればこのタイミングしかない。私はレベル100になった際に習得した『秘術』を発動する。私の全身を毒々しい色の炎が勢い良く噴き上がった。
その炎は私に触れているルークへと纏わりつき、瞬く間にその全身を包み込んだ。これで怯むかと思ったが、ルークは全く動じない。それどころか掲げた剣が直視するのが難しいほどに輝き始めたではないか!
「これで、終わりだっ!」
「まずっ…!」
ルークは光り輝く剣を横一文字に振り抜く。これを食らうのはヤバい。ヤバいのは分かっているが、状況から見て回避は不可能だった。
だが、私は諦めない。勝つためにやるべきことは全て行うのだ。右手に握る杖で横腹を打ち据え、大鎌の切っ先を彼の肩口に突き刺す。さらに懐に忍ばせた左手を大きく振ったその時、ルークが振りかざした刃は正確に私の頭部に接触し…そのまま頭部を消し飛ばした。
次回は9月21日に投稿予定です。




