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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十六章 魔王国防衛戦争
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ノックスの戦い 魔王VS勇者 その六

 ようやく仕留めたルークが復活した。私に舌があれば盛大に舌打ちしていたことだろう。前衛がローズ一人になればゴリ押しするだけで倒せたのだろうが、二人ならばこれまで通り慎重に立ち回る必要があるからだ。まだまだ集中し続けなければならないようだな。


 ルーク達の会話の内容から蓮華が蘇生の手段を有しているのは察していた。それが死亡した場所の近くで、死亡してから短い時間の間に行わなければならないということも。


 いつでも手軽に蘇生可能なのであれば、メグとキクノをすぐに蘇生していたはず。それをしなかったのは、出来なかったからと考えるのが自然な流れであった。


「雰囲気が明らかに変わったな。強化して蘇生する能力(スキル)…いや、秘術か?」

「ああ、その通りだ」


 そして蓮華が消滅したことも素直に喜べない事態だった。蘇生の代償に彼女が消滅したようで、唯一の回復役がいなくなったことは普通なら勝利に近くなったと言えるだろう。


 だが、明らかにルークが強化されていたのだ。彼の全身は光り輝いており、破壊されたはずの装備の破損部分は光の膜が張って補強されている。さらにユラユラと白いオーラが立ち昇っており、これで強くなっていなかったら詐欺というレベルだった。


 回復役の神官が消え、代わりに最強の勇者が強化されつつ復活した。どちらの方が私達にとって有利なのか一概には言えないのだが…直感では復活したルークの方が厄介なのではないかと感じていた。


「教えてくれるとは親切じゃないか」

「どうせすぐにバレるから…な!」

「グオォッ!?」


 次の瞬間、ルークは私の動体視力では捉えるのがやっとの速度で突っ込んできた。完全に虚を突かれた形になったカルの首が深々と斬り裂かれる…前に私の大鎌を間へ滑り込ませることに成功した。


 ただし、ルークの膂力は想像を絶するモノだったらしい。私はともかく、カルの巨体が吹き飛ばされてしまったのだから。


「よく反応出来たな」

「…親切に教えてくれたからだ。余裕の表れか、隠せる範囲ではなく強化されるかだと思ったのだよ。どうやら、その両方だったようだが」


 同じ様に吹き飛ばされたものの、カルと私では重量が異なる。私はカルの背中から叩き落され、この戦闘で初めて分断されてしまった。


 そして私の前にはルークが剣を構えて立っている。きっと私を速攻で倒してしまおうと言うのだろう。そしてその判断は正しい。私はボス化しているとは言え、カルよりも体力も防御力も圧倒的に劣っている。


 私とカルの両方がボスと化しているものの、主たるボスは私だ。カルはあくまでも護衛であり、彼を倒してもボス戦は終わらない。逆に言えば私だけを倒せばボス戦は終わるのだ…教えてやるつもりは一切ないがね。


「グルッ!?ガオオオオオオオッ!」

「絶対に行かせないわよ!」


 カルは合流しようとしたようだが、背後ではローズと藍菜によって阻止されていた。ローズの魔術によって動きを制限された上でローズに急所を狙われているので、無視出来ないようだ。


 こちらをチラチラと見ているので、一刻も早く合流したがっているらしい。全く、優しい子である。しかし、しかしなぁ…


「ルーク君、ひょっとして私一人ならどうとでもなると思っていないかい?」

「…」

「沈黙は肯定と言うことだろうな。まあ、魔術師と戦士がこの距離で一騎打ちをするなど、どちらが圧倒的に不利なのかは語るべくもない。私はボスになっていると言っても、所詮は普通のプレイヤーに過ぎない。きょ…ジゴロウのような化け物染みた技量などあるはずもな…」

「時間稼ぎに付き合う気はな、いぃ!?」


 私が肩を竦めながら話している最中に、ルークは剣を振り上げて斬りかかる。その速度は先程カルに斬りかかった時よりも速く、剣の輝きもまた先程よりも増していた。


 きっとルークは私を仕留めるか、最低でも大ダメージを与えたと思ったに違いない。だが、私は大鎌を使って彼の剣を受け流し、杖によって尻を思い切り殴り飛ばした。


「その上で、あえてこう言わせてもらおう…舐めるのも大概にしろ」


 正直、一対一なら余裕で勝てると思われているのは癪だった。本来ならギリギリで防いでいるように演じることで油断を誘った方が都合が良いのは間違いない。つまり、これは単純に私の苛立ちをぶつけただけだったのだ。


 確かにルークの動きは速い。速いが、あまりにも真っ直ぐ過ぎた。速いだけならば、源十郎によって身体に染み込むまで反復練習させられた動きで十分に対処可能なのだ。


「このっ!」

「何だ、怒ったのか?私はもっと怒っているぞ」


 流石に尻を叩かれるというのはルークにとっても屈辱的だったらしい。だが、私は言葉通りの意味で怒っていた。何ならこの戦いが始まるずっと前から、私の中では強い怒りの炎が燃えていたのだ。


「私達が作った国を土足で踏み荒らした者が、己こそが正義とでも言わんばかりのに私を倒しに来る。まるで味方を救う勇者であるかのように。苛立つのも当然じゃないか?」

「同じことばっかり繰り返して………いい加減、しつこいな」

「私は根に持つタイプだからね。それだけ腹が立っているのだよ」


 尻を叩かれてご立腹なのか、ここに来てルークは初めて強い苛立ちを露わにした。良い傾向だ。冷静さを失わせれば動きが雑になる。ただでさえ私が感情のままに受け流しくらいなら自前で出来ることを見せてしまったのだ。このくらいのハンデは貰いたいものだ。


 ルークは再び凄まじい速度で私に接近すると、今度は足を止めて滅多切りにしてくる。防御に専念することでどうにか剣を受け流す、と見せかけて空中へと飛行して逃げ出した。


「待て!」

「待ったら斬るんだろう?」


 ルークはマントを強く輝かせると、私を追いかけるべく飛行する。飛行速度も上昇しており、速度だけならばリンにも勝っているかもしれない。


 ただ、彼の戦い方は随分と拙いように思えた。接近するために飛ぶ度に天井や壁まで突っ込み、そこを足場にしてようやく方向転換しているのだ。


 ルークは空中での戦いに慣れていない。いや、速すぎる速度に振り回されている言うべきか。そう思わせておいて実は…という可能性もある。空中での戦闘に慣れている私は、彼が急旋回してくることも考慮しつつヒラヒラとルークの突撃を回避し続けていた。


「魔術を放つ余裕はない、か。ならばこうしよう…呪纏杖」


 回避することは出来ていたものの、では魔術を使って反撃に回れるかと問われれば難しい。ルークの剣は【神聖魔術】を常に発動していると思わせるほどの光属性をまとっている。その剣を受けることを私が絶対に避けようとしている…と思わせたいからだ。


 だが反撃しなければ勝つことは出来ない。そこで私は【杖術】のオリジナル武技を発動する。その効果は【呪術】と【邪術】を杖にまとわせるというモノ。なるべく杖で受け流すようにすれば、確率でルークが状態異常にかかるハズだ。


「ハッ!ヤッ!」

「むっ…ぐうぅ!」


 …そう思ったのだが、何度切り結んでも彼が状態異常にかかる様子はない。アバターのアイコンに状態異常のマークが一つも出ないのだから明らかだ。


 ひょっとして強化されて蘇生された際、状態異常が無効になる効果も付与されているのではあるまいか?もしそうなら私の武技は完全に無駄骨ということになってしまう。見誤ってしまったようだ。


「これでっ!どうだ!」

「ぐおぉっ!?」


 どうやらルークは自分の速度に振り回されていた、というのが正しかったらしい。ただ、そろそろ順応してきたようで天井や壁を使った方向転換がどんどん素早くなっていた。


 それだけではない。彼はシャンデリアを足場にして私に襲い掛かる。天井に吊られている分、シャンデリアは私に距離が近い。私は流しきれずに肋骨の辺りを深く斬られてしまった。


 ルークの空中機動はここからキレを増していくばかりだろう。すでに防ぎ切れなくなっているということは、ここからはどんどん厳しくなるということ。よし、次の手札を切るところだな。


「はあぁぁぁっ!」

「うっ!?」


 私が発動したのは【深淵のオーラ】だった。私からは輝くルークとは正反対のドス黒いオーラが迸っていることだろう。味方であるカルを巻き込まないようにこれまで発動していなかったが、分断されたからこそ使えるのだ。


 実はこのオーラ、状態異常を無効化しているルークにはあまり意味があるとは言えない。だが、警戒させて仕切り直す時間を捻出することは出来たらしい。これでようやく一息つける。私はルークが覚悟を決めてこちらへ再び突撃するまでの短い時間に、カルへ効果が切れかけていた【付与術】を再び掛けるのだった。

 次回は9月17日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「同じことばっかり繰り返して………いい加減、しつこいな」 図星突かれて苛立ってる様にしか見えんな。こんな似非勇者なら、まだ乗っ取りを画策していた奴等の方がいいな。
[一言] イザーム戦までは勇者パーティだったけど、 イザーム戦での言動は魔王暗殺者パーティに成り果ててしまった
[良い点] 勇者()のヘイト稼ぐのが上手い、心起きなくズタボロにして尊厳破壊しても何も心が痛まないどころか常に読者に足りないと思わせるとか、煽りのためのスキル構成に偏ってるとしか思えない才能 [一言]…
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