ノックスの戦い 魔王VS勇者 その四
カルの龍息吹と重戦士の大盾が激突したことで発生した大爆発。爆発によって発生した粉塵が部屋全体に吹き荒れたものの、ちょうど良いことに魔術師が使った風柱はまだ継続中だ。粉塵はそちらへ吸い込まれ、視界はすぐに確保された。
床の上は中々の惨状である。爆発の余波によって、ルークとローズ、そして魔術師はそれぞれ壁まで吹き飛ばされていた。魔術師はともかく、前衛二人も吹き飛んでいることからも爆風の威力がわかるというものだ。
「ほう?凄いな」
「グルルルル…!」
ただ、カルの龍息吹を受けた重戦士はまだ生きていた。装備していた大盾は粉砕され、防具も大部分が破損している。だが、それでも生きていたのだ。
龍息吹は文字通りの意味で必殺技である。これまで龍息吹を使って倒せなかった相手は存在しない。それほどの威力があったのに、真正面から受けて虫の息とは言え生きているのは驚愕であった。
カルも悔しげに呻いている。自慢の一撃が通じなかったのが悔しいのだろう。ただ、私は何が起きたのか察しがついている。エイジ曰く、武装を犠牲に即死を回避する武技があると聞いていたからだ。
「さっさとトドメを…おっと」
「させるか!」
「蓮華!キクノの回復を!」
私が重戦士にトドメを差そうとする素振りを見せたからか、神官の蓮華以外の全員が猛然と攻撃を仕掛けてきた。
回復の時間を確保するためなのだろうが…甘いんだよなぁ。私の最大の強味は手札の多さである。そんな私には瀕死の敵をこの状況でも倒す方法があった。
「えっ…?」
「キクノ!?」
「ど、どこか…ら…ひっ!?」
蓮華が治療を開始する前に、重戦士のキクノの胸を背後から一本の闇槍が貫く。私とカルを除いた、その場にいた全員の視線が集中したのは、キクノと蓮華の背後の中空に浮かぶ三眼の黒い髑髏であった。
【浮遊する双頭骨】という能力によって、私はスペアの頭蓋骨を遠隔操作し、別の場所から魔術を放てるのだ。防御力に特化しているとは言え、カルの龍息吹を真正面から受けたせいで、即死を免れるために大盾と防具を犠牲にしていて防御力は大幅に低下している。その上で瀕死の状態なのだ。そこへ迷宮のボスとなって大幅に強化された私の魔術が放たれれば、その体力を削り切ることも可能だった。
「さて、カルよ。焼き払え」
「グオッ!」
頼もしく応えたカルと共に私は広範囲の魔術を連発していく。私は床全体を満遍なく覆うように多種多様な魔術を連発し、カルは口から吐いた炎で薙ぎ払う。せっかくパーティーが分断されているのだ、合流される前に少しでもダメージを稼いでおこうという作戦だった。
私は最初から合流させないというのは無理だと諦めている。まだ四人も残っているのだ。誰か一人に集中していては背後から狙われかねない。再び結集するまでに、全員の体力をジワジワと削ってやろうという作戦である。
「キクノは!?」
「もう無理です…ごめんなさい」
魔術に炙られながら四人が集まった時の第一声がそれであった。何と言うか、違和感がある会話ではないか?無理とは?互いの無事や体力と魔力の残量の確認など、交わすべき言葉はあるはずなのだが…?
ただ、私は一つの可能性に気付いてしまった。もしこの推測が正しいとすれば、今の会話に大きな意味があることになる。まだ確定ではないものの、あり得ると頭の隅に入れながら戦術を組み上げて行かなければなるまい。
「盾を持たない君達だけで捌ききれるかな?」
「くぅっ!」
合流してくれたのなら、今度はパーティー全体を巻き込む程度の範囲の魔術に切り替える。カルも火球や闇球を連発して着実にダメージを稼いでいた。
やはり防御の専門家が真っ先に死亡したというのは大きな影響がある。私も探索へ向かう際、エイジがいると安定感が一気に増すことを経験として知っているのだ。
ルークとローズは二人で剣や槍でどうにか魔術を防いでいるが、やはり防ぎ切るには至っていない。少しずつ削れていく体力を蓮華が回復させようと必死であった。
「グルル!」
「くっ!あの大きさですばしっこい!」
残った魔術師が魔術によってこちらを攻撃してくるが、カルは決して隙をみせずに防御するか回避するかしている。特に先ほど痛い目を見た拘束する魔術は多少無理をしてでもシャンデリアの裏に隠れていた。
これはカルが臆病になったということを意味しない。彼は背中に乗った私のことを優先してくれているのだ。カルは身内にとても優しいのである。
魔術師はどうにか自分達の土俵、すなわち地面に私達を引きずり降ろしたいらしい。飛んでいることで私達は圧倒的な優位に立っている。その優位をなくそうとするのは正しい判断だった。
「狙いが分かりやすくて助かるが…いや、待て。本当にそれだけか?」
優位な状況で余裕があるからこそ、私は油断しつつあった。そして自分であれば圧倒的な優位に立つ相手の油断を突くことを考えるはず。
そして自分が考えること程度は他人も思い付くというのが私の持論だ。きっとルーク達は反撃の一手を狙っているのではないか?少なくとも私をカルの背中から叩き落とす隙を窺っているのではないか?そんな考えが頭に浮かんでいた。
「今っ!」
「…何っ!?」
この予測は全く正しかった。私が魔術を放った瞬間、ローズが大きく跳躍したのである。それだけではない。彼女はまるで虚空に足場があるかのように二段ジャンプをして見せたではないか!
そうやって天井にまでたどり着いたローズは、天井を蹴ってこちらへ迫る。カルの反応は間に合わず、私は彼女が上段から振り下ろす槍に殴られる…はずだと思っているのだろうな。
「ぬん!」
「はぁっ!?」
ここで私は隠していた二本の腕でしっかりと握る大鎌によって槍による殴打を受け止めたのである。反撃してくると想定していたからこそ反応が間に合った。余裕を持っているかのように見せているが、内心で心臓はバクバクである…このアバターに内臓は一つもないのだが。
受け止められることも想定外だったのだろうが、まさかもう一対腕を持っているとは思っていなかったらしい。ローズは驚きから硬直し、追撃しようという考えが頭から飛んでいるようだ。
その隙を私は見逃さない。ジゴロウと源十郎に叩き込まれた動きでローズの槍を滑らせ、右手の杖で思い切り叩き落とした。魔術師とは言え、今の私はレベル100のボスだ。その筋力は戦士ほどではないにしろ、一般的な魔術師からは大幅に強化されている。足場に立っている訳でもないローズは床へと落下していった。
「ガアアアアアアッ!」
「うぐっ!?」
私が狙われたことで激怒したカルは、その場で宙返りして尻尾をローズに叩き付ける。咄嗟に槍を間に挟んだようだが、カルの尻尾は大盾で受け止めたエイジが押し込まれるほどの威力。攻撃重視の軽戦士であるローズが受け止められるはずがない。彼女は弾丸のような速度で軽液に突っ込み、大きな水飛沫が上がった。
私は追撃として【鎌術】の武技、飛斬を落下地点に連続して放つ。ボスになっていることもあり、本職ではないのに飛斬の威力が明らかに増していた。ルークがカバーに入って飛斬を弾いていく。流石は前衛職と言うべきか、カバーに入って以降の飛斬はほぼ全て弾かれていた。
追撃に寄ってローズを仕留められなかったのは遺憾ではあれど、彼女は瀕死の重傷を負っているらしい。彼らの回復リソースは大半がローズに割かれることになるはず。奇襲を防いだだけでなく、手痛い反撃を食らわせたことに満足するべきだろう。
「何ですか、その腕!?」
「腕を増やしただけだ。おっと、方法は自分で調べるんだ…な!」
私は抗議する魔術師に取り合わず再び上空から攻撃を再開する。ただし、今回は全てローズ狙いだ。一人ずつ、確実に倒して戦況を有利に運ぶ。私は勝つために堅実な戦術を選択していた。
隠していた腕と大鎌を見せた以上、ここからは攻撃に加えるのは当然のこと。攻撃の手段が増えたことで、実質的に一人で残り全員を庇う形になったルークの負担は明らかに増している。増しているのだが…何だか動きが速くなっているではないか。
「逆境でステータスが上昇する能力、だったか?実に勇者らしい能力を持っているじゃないか」
「褒められても、あまり嬉しくないよ」
闘技大会でジゴロウと戦った時にも見たルークの能力。名称は知らないが、味方が死亡するとステータスが向上するということは知っている。つまり、彼は味方が減れば減るほど強くなるのだ。
それで動きが雑になってくれれば良いのだが、集中して攻撃を捌き続けている。この状況にあって冷静さを保っているようだ。最も警戒するべきはルークである。私はそのことを再認識するのだった。
次回は9月9日に投稿予定です。




