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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十六章 魔王国防衛戦争
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ノックスの戦い 問答

 外では『傲慢』の墜落によって一気に形勢が傾いているが、ルーク達はそんなことになっているとは知らずに宮殿内を探索していた。探索と言っても隅から隅までアイテムなどを探して回った訳ではない。むしろ急いでボスと戦うべく、ボスのいる部屋を見つけ出そうと躍起になっていたのだ。


「…ここじゃないか」

「二択を外しちゃったわね」


 ただ、彼らは探索によってたどり着いたのは宮殿の最奥にある宝物庫である。その扉は仕様によって決して開かない状態になっており、ここを暴くにはボスの討伐が必要であった。


 より奥を目指して進んだ結果、ボスを倒してからでなければ意味がない場所にたどり着いてしまったらしい。最速で攻略しようという焦りがあったのは事実だが、これを彼らのミスだと指摘するのは言いがかりと言えよう。


 思わぬ遠回りをすることになったものの、彼らは急いで引き返す。そして別のルートから、彼らは精緻なレリーフによって装飾された巨大な扉の前にたどり着いた。


 扉の右側は魔物の集団同士の戦いを、左側は巨大な異形との戦いを表現している。そして扉の上部には三つの眼窩を持つ王冠を被った骸骨が杖を携えていた。


「凄い迫力だねぇ…作るのにいくらかかったんだろ?」

「気になるのってそっち?」

「…うん。こっちは鍵がかかってない」


 ただ、彼らはここを攻略するために来ているのであって、観光に来た訳ではない。ましてや一刻も早く攻略することを求められている状態だ。扉のレリーフに感心している場合ではなかった。


 重そうな扉に皆で手を当て、力を入れて扉を開ける。見た目とは裏腹に扉は簡単に開くものの、その音には重厚感があった。


 扉の先に広がっていたのは、高い天井の広い部屋であった。床には金縁で彩られた真紅の絨毯が真っ直ぐに敷かれており、天井からは黄金と水晶で作られた豪奢だが決して下品ではないシャンデリアが吊るされている。入った瞬間に、ルーク達は王国の玉座の間を彷彿とさせられた。


 彼らの直感は正しかった。絨毯の先、部屋の最上座には玉座が鎮座されていたからだ。黒を基調とし、黄金や宝石によって装飾された玉座は遠目で一見するとただ豪華なだけにも見える。しかし注意深く観察すると、それは絡み合う無数の骸骨という悍ましいデザインであった。


「ひっ!?」

「まっ、マジ?」


 ただし、ルーク達の視線は玉座ではなく、その隣に伏せている黒い(ドラゴン)に向けられていた。扉を開けて入ってきた彼らを忌々しげに睨みながら、首をもたげて唸っている。(ドラゴン)の凶相も相まって思わず威圧されてしまったのだ。


 しかしながら、威圧されていたのはごく短い時間であった。何故なら、ルーク達にはその黒い(ドラゴン)に見覚えがあったからだ。


「あれは『寛容』の時の!?」

「なんであの(ドラゴン)が…」


 ルーク達は古代兵器『寛容』を巡る戦いにおいて、同じ(ドラゴン)と遭遇しているからだ。あの時も同じように威圧されたことは記憶に新しい。『寛容』と戦う前に殺されるのではないかと覚悟させられたのだから。


「理由は一つだけ」

「ああ、そうだな」


 黒い(ドラゴン)ことカルナグトゥールがいるということは、その主人もいるということ。ルークとメグはカルナグトゥールではなく、その隣の玉座に深々と座る魔物に視線を向けていた。


 玉座に座る魔物の装備の一部は変更されている。だが、特徴的な銀仮面と黄金の杖、そして三つの眼窩を持つ頭部を見間違えるはずもなかった。


「イザーム、だったな。どうしてお前がここに…」

「いかにも私はイザームだ。久し振りだな、ルーク…いや、勇者殿」


 玉座に座る魔物、イザームは背もたれに身体を預けたままという不遜極まる態度でルーク達を出迎えた。不遜な態度と同じく、彼の声はとても冷たい印象を受ける。歓迎されていないのは明白であった。


「ああ、歓迎はしないぞ。君達は招かれざる客どころか、この国にとっては侵略者であり略奪者でしかない。出来ることなら回れ右をして帰って欲しいくらいだ」


 イザームは肘掛けを指先で叩いてコツコツと音を鳴らしながら、侵略者とルーク達を詰った。それは彼だけでなく魔王国全体にとっての総意でもある。楽しく平和に暮らせる居場所を破壊し、その財を奪おうとしているのだから当然と言えよう。


 ただ、ルーク達はイザームによる唐突で痛烈な批判を受け入れられなかった。その立場を望む奇特な人物ならばともかく、普通は自分が悪であるとレッテルを貼られることを嫌うからだ。


「侵略者って、そんな言い方ないじゃない!」

「事実だろう。実際、『エビタイ』は君達に侵略されて奪われた。あの港町を作るのは苦労したんだぞ?広範囲で街が破損しているとも聞く。よくもまあやってくれたものだ」

「それは反撃してきたからでしょ!」

「己の街を守るために戦って何が悪い。それとも黙って頭を垂れれば良かったとでも?最初から武力で制圧するつもりだったクセによく言ったものだ」


 イザームは『エビタイ』を侵略されたという事実を引き合いに出した。魔王国の港町である『エビタイ』は『コントラ商会』のコンラートが実質的な支配者ではあるが、その建設には魔王国の多くの者達が参加した。その中にはもちろんイザームも含まれている。当時の苦労を思い出し、彼は深いため息を吐いた。


 『エビタイ』の破損は魔王国にも責任があると反論するも、イザームの返答は冷笑であった。自衛のために戦うことは当然の権利である。それを否定することは誰にも出来なかった。


 ただ、それ以上にルーク達が言葉を詰まらせたのは最初から武力で制圧するつもりだったとイザームが断言したことだ。状況からの推測ではなく、まるで王国の考えを知っていたかのような言い草だったのである。


「不思議か?そうだろうな。我々には内通者がいる。君達の情報は筒抜けだったよ」


 内通者。つまりは裏切り者がいる。イザームが何のことはないかのように言い放った一言だが、ルーク達にとっては聞き捨てならない一言であった。


 ルーク達は内通者の存在については半信半疑、どちらかと言えば嘘ではないかと疑っている。イザームが自分達を揺さぶるためにデタラメを言っている可能性が高いからだ。


「疑っているのか?何を言えば信じるのか…『傲慢』の内部の衛生環境が悪いことか、はたまた『エビタイ』へ最初に降下した強襲揚陸浮遊艇に乗り込んだ者達の名簿か。ああ、別行動した挙げ句、クーデターを起こして『傲慢』を乗っ取ろうと画策しているクランと、クーデターに同調する王国兵の名簿を出せば流石に信じるかな」

「なっ…!」


 ルーク達は今度こそ絶句した。『傲慢』の内部がネズミやハエだらけであることは事実だ。これだけならば掲示板などから情報を集めただけだと言えただろう。だが、ルーク達ですら正確なことは知らない強襲揚陸浮遊艇に乗り込んだ者達についてイザームは詳細な情報を握っているらしい。


 それ以上に衝撃的だったのはクーデターの計画についてである。コソコソと動いている者達がいることは把握していたが、まさかそこまで大きな計画が動いているなど初耳だった。


「…知らない情報を出しても信じてはもらえないか。まあ、信じるかどうかはどうでも良い。私達は君達が考えている以上に君達のことを知っているぞ」

「内通者のことは後にしましょう。侵略者だと私達を責めますけど、貴方だってこの国を奪ったんじゃないですか?」

「そうだな。元の主から街を奪った。それは事実だ」

「なら……」

「だが、その時の街は国などではなく、ただのボロボロの街でしかなかった。私達はこの地を手に入れた後、現地の先住民達と触れ合い、国民として受け入れ、協力してこの国を一から作り上げたのだ。私達は建国者であって、簒奪者ではない。破壊して全てを奪おうとしているお前達と一緒にするな」


 別の観点からイザームを責めようとしたものの、彼は淡々とその糾弾を否定する。イザームは魔王国を内から蚕食したのではなく、多くの時間と資源を使って建国したのだ。この糾弾は的外れも甚だしかった。


「信じたくないのかも知れんが、住民達も全力で戦いに加わっているのが全てを物語っていると思うがね」

「くっ…」

「ネチネチと好き放題言ってるけどね、こっちはここに国があるなんて知らなかったんだよ!それに暴力でどうこうしようって言い出したのはアタシ達じゃないだろ!」

「そうだな。上の命令に従っただけ…何とも便利で、陳腐で、使い古された責任逃れの文言だ」

「なんっ!?」

「だが、暴力で全てを奪うという方針に従って攻め込んだ時点で私達から見れば同じ穴のムジナだ。実行犯である分、なおたちが悪い」


 存在すら知らなかった『ノックス』を発見し、これを暴力によって支配する。その方針を定めたのは彼らではなく、王国の上層部であるのは事実だ。自分達に責任などないと言いたくなるのはイザームも理解していた。


 ただし、それは加害者側の理屈でしかない。指示されたからと言って、実際に被害をもたらしているのは彼女ら自身なのだから。被害者から見れば違いなどないのである。


「自分達に大義名分などないことがわかったか?どれだけ言葉で飾ろうとも、君達は私達から奪い取るためにここに来た。それに抗うべく私達は戦っている。この構図が変わることなどない」

「…そうかもしれない。でも、僕達が勝たないと外の味方が大勢死ぬんだ!」

「私が負けても大勢の住民が死ぬ。そんな言葉では私に響かんよ」


 ルークは絞り出すかのように王国の兵士の生死を引き合いに出したが、それは魔王国の民についても同じことでしかない。イザームの心を動かすには足りなかった。


「さて、問答はこの辺で十分だろう。私も手早く終わらせたいのでね」

「焦ってるんですか?」

「明日は平日だぞ?ただでさえ今日のために有休を取ったんだ。寝不足で出社するのは御免被る」

「「「「「「…………」」」」」」


 イザームが焦りを見せたかに思われたが、その理由はあまりにも現実的過ぎた。ルーク達は一様に何とも言い難い表情になるのだった。

 次回は8月24日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
最後の言葉はイザームの本音だろうね つまり、そのくらい勇者君たちと戦うことに意義を見出していないという事なんだよなぁ 彼らが素直に謝罪して帰ることを選択したなら、多分素直に帰したんじゃないかねぇ
[良い点] 魔王様レスバ無双!その調子で戦闘も無双してくれ! [一言] いやはや勇者パーティーの言動は眼に余るな。まぁ、おそらく学生でただのゲームだって思ってるからなんだろうが。 それにしても一連の流…
[一言] イザーム待ってた!!!!ダンジョンボスブースト楽しみ! あとオチ笑ったw 勇者くんたちはなぁ… たぶん従来のゲームにでてくるNPC相手にしてるノリでやってて裏目ったんだろうな…と。 普通破…
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