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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十六章 魔王国防衛戦争
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ノックスの戦い 墜落

 先行して潜入していたルビーと共に『傲慢』の内部を駆ける『Amazonas』のプレイヤー達。彼女らは順調に爆薬を仕掛けることに成功していた。


 その大きな理由は二つ。一つは浮遊戦艦との砲撃戦のために内部の警備どころではなくなっており、ほぼ全員が差し向けられているから。そしてもう一つは派手に暴れている『仮面戦団(ペルソナ)』が復活したプレイヤーと警備の兵士を引き付けているからだ。


「次はここ。また誰もいないよ」

「はいはい、っと」

「ザル警備に感謝ね」


 今、彼女らがいるのは船底付近にある食糧庫であった。本来の『傲慢』であれば電子ロックが掛けられるのだが、電装周りはその大半が発見時から故障していて修理もされていない。扉を動かせる筋力さえあれば開けられた。


 建付けも悪くなっているらしく、筋力のステータスが高いプレイヤーが引き戸をこじ開けるとギシギシと軋む音が響く。そうして開かれた引き戸の先には、王国軍の糧食がこれでもかと積み上げられていた。


 食糧庫は重要な設備なのだが、やはり警備は全くいない。警備を割く余裕を失わせているのは魔王国の手腕ではあるが、その程度で警備がいなくなる人数しか残していないのは『傲慢』の司令部の責任である。やはり強大過ぎる兵器である『傲慢』は、使い手をあらゆる意味で傲慢にしてしまうようだった。


 警備の存在しない食糧庫にも爆薬を仕掛けたルビー達は、また別の部屋に爆薬を仕掛けるべく移動を続ける。そうして複数の部屋に爆薬を仕掛けていく。その中にはもう動いていない生産プラントや、積み上がる壊れた武器の陰にまだ生きた火薬が残っている武器庫なども含まれていた。


 既に仕掛けた爆薬を起爆すれば、誘爆によって『傲慢』に甚大な被害を出せることは間違いない。だが、彼女らは最大の目標でもある『傲慢』の墜落のために目指す最後の場所があった。


「この先が動力室なんだけど…」

「流石にここはガチガチに固めてあるってことね」


 それこそが『傲慢』に限らず、大型兵器の心臓部である動力室だった。ただし、動力室は最重要の場所ということもあり、ここまでの倉庫とは異なり動力室の警備は万全であった。


 他の部屋と同様に警備の兵士は配置されていないので、一見すると警備は薄いようにも感じられるだろう。だが、兵士がいない理由は兵士が必要ないからであった。


「スパイ映画みたいな感じじゃない?何だかワクワクするわ!」

「ママったら…」


 楽しそうに笑っているアルテミスに他のメンバーが呆れているのも無理はない。何せ動力室に続く廊下は兵士など不要と断じられるほど徹底的に古代の技術で守られていたからだ。


 廊下には侵入者に反応するセンサーがこれでもかと設置されている。アルテミスの言うように、様々なスパイ映画で使い古された赤い光のセンサーだ。この光に触れて遮断すれば、即座に廊下の出入り口が封鎖される仕組みになっているのだろう、と『Amazonas』のメンバーは考えていた。


「ママ。ボクが調べた結果なんだけど、この光は序の口だよ」

「序の口ですって?」

「うん。この光にセンサーとしての機能はあるよ。でも他にもセンサーはあるんだ。床と壁と天井の圧力センサーと、廊下内の温度センサー、それに魔力センサーだね」


 とても『それっぽい』光センサーであるが、動力室を守る警備システムはこれだけではない。廊下のあらゆる部分に何かが触れると反応する圧力センサー。生物が放つ体温に反応する温度センサー。そして廊下内を通る魔力に反応する魔力センサーまであるのだ。


 この四種類のセンサーを突破するには、光に触れることなく、体温と魔力を持たない何かを、廊下内のいかなる場所にも触れずに向こう側へ運ぶしかない。無理難題としか言えない難易度であった。


 さらに廊下を越えた先には金属製の扉が待っている。この廊下を越えられない今、扉にもあるだろう仕掛けについて調べることは出来なかった。


「裏道とかは?」

「ないよ。あったら教えてる。ちなみに、ボクの身体でも通り抜けられる管すら一本もないよ。動力室だからね。潜入対策は万全ってことだと思う」


 心臓部とでも言うべき動力室が破壊されれば、どんなに強力な兵器であっても機能が停止する。それ故にどんな兵器であっても動力室は侵入者対策を徹底的に行っているのだ。


 そして動力室に最も近い設備であるからこそ、動力室周辺は壊れてはいないと最初から予想されていた。それ故にひと足早く潜入していたルビーに驚きはなく、冷静に警備システムの仕組みを斥候職としての能力(スキル)で見破っていたのだ。


 調べれば調べるほど、この警備システムの突破の難しさが浮き彫りになっていく。では、動力室を破壊することは諦めるのか?そんなはずはない。そして彼女らには勝算があった。


「ここはアタシの出番ね」

「うん。あ、武技は使っちゃダメだからね?」

「わかってるわよん」


 その勝算とはアルテミスであった。彼女の得物は大弓。ここから放たれる大矢は生物ではなく、武技さえ使わなければ魔力も帯びない。つまり光センサーの隙間を縫うように武技を使わずに放った矢は、警備システムに引っ掛からないのである。


 ただし、言うは易し行うは難し。武技が使えない上に、魔力センサーの範囲が不明なので身体能力を強化することも出来ない。純粋なアルテミスのステータスと技量のみで挑まなければならないということなのだ。


 しかも一度失敗すれば動力室に続く廊下そのものが封鎖され、『傲慢』全体に警報が鳴るというオマケ付き。成功させるためには正確無比な射撃を一発で決める必要があるのだ。


 そのことを理解しているアルテミスだったが、その表情に緊張の色はない。それどころか楽しげですらあるではないか。


「外したら今度はここの中枢を急いで落せば良いだけじゃない。緊張なんてするだけ損よ」

「その通りではあるんだけど…」

「ポジティブなのはママの良いところよね」


 実のところ、動力室の破壊に成功しようが失敗しようが彼女らがやることは変わらない。真っ先に行うのは仕掛けた爆薬の起爆である。遠隔操作によって同時に起爆出来るようになっているので、仮に動力室の破壊に失敗しても『傲慢』の各所が爆発するのは確実だった。


 その後は『傲慢』の中枢へと攻め込み、これを制圧する。可能であればいるだろう王太子を捕縛したいが、余裕がなければ討ち取るつもりであった。動力室の破壊の成否は、中枢の掌握が『傲慢』の墜落前か後かが変わるだけなのだ。


 ただし、早くに『傲慢』が墜落した方が地上や空中で戦う魔王国軍の士気が大きく上がるのも事実である。動力室の破壊に成功した方がより良いのは間違いなかった。


「じゃあ、早速始めようかしら。出し惜しみはなしで行くわよ」


 そう言ってアルテミスは身の丈ほどもある大弓を床に固定しつつ、二本の大矢を取り出す。二本の大矢はその鏃にそれぞれ特徴があった。


 片方は先端が細く、鏃の付け根だけが太くなっていた。この大矢は狭い隙間に先端を滑り込ませ、付け根に仕込まれた爆薬を炸裂させる。その名は『破城大矢』。閉じた扉などを強引に破壊する時に使われる大矢であった。


 もう片方は普通の大矢よりも細く、鏃と矢羽根も小さい。だがその実、アルテミスが持っているどの大矢よりも重かった。その理由は明白で、矢羽根以外の全てが金属製であるからだ。


 これの名は『徹甲榴大矢』、いわゆる徹甲榴弾である。硬い金属の鏃で金属をも貫き、空洞になっている()の中に詰め込まれた爆薬が内部を破壊するのだ。


 形状も目的も異なる二本の矢だが、共通しているのは破壊力は抜群だが魔力に一切頼らない工夫がされている点である。アルテミスはあらゆる状況に対応するべく、大枚はたいて多種多様な大矢を用意していた。その準備が日の目を見ようとしていた。


「さぁて、こんなこともあろうかと用意してた矢だけれど…一発目を外したら意味ないのよね。キッチリ仕留めるわよん………フゥー…………」


 アルテミスは『徹甲榴大矢』を口に咥えながら、『破城大矢』を大弓に番える。そしてゆっくりと息を吐きながら弦を引き絞った。さらに息を止めた状態でタイミングを計る。数秒後、アルテミスは矢を放った。


 彼女は着弾を確認する間もなく加えていた大矢を素早く番える。それと同時に光センサーの隙間を縫うようにして扉の隙間に先端を滑り込ませた『破城大矢』が爆発した。


 大爆発と共にけたたましい警報が鳴り始めた。動力室に繋がる廊下にこれだけのセンサーを用意して守っているのだ。扉が破壊された時に何も起こらないはずがない。素早く廊下の出入り口を封鎖するべくシャッターが降りようとしていた。


「ハッ!」


 しかし、その前にアルテミスは『徹甲榴大矢』を放っていた。放たれた大矢はシャッターが降りる前に廊下へと吸い込まれていき、『破城大矢』によって大きく歪んだ扉の隙間に滑り込んだ。


 その直後、『傲慢』にこれまでで最も大きな揺れが発生する。プレイヤー達が立っているのも難しいほどの振動だった。


「ママ、どう!?」

「多分だけど成功したと思うわ」

「凄い!じゃ、起爆するね。ポチッとな」


 アルテミスの神業に沸く『Amazonas』のメンバーだったが、比較的冷静だったルビーは他の爆薬を起爆させるリモコンのスイッチを押す。すると『傲慢』を先程と遜色ないほどの衝撃が駆け抜けた。


 『傲慢』の各地に仕込まれた爆薬が同時に起爆し、様々な要因で誘爆を引き起こしている。王国軍の中枢がいる『傲慢』の艦橋は、オペレーターの手に負えない大量のアラートで機能不全に陥っていた。


「きゃっ!?」

「んもう!転んじゃったじゃない!」

「あ…この感じは…!」


 起爆してから数秒後、『傲慢』を最大の衝撃が襲った。衝撃の震源地は彼女らに近く、先程の振動に耐えたアルテミスですら尻もちをついている。


 すると彼女らはエレベーターで降下している時のような、独特の浮遊感を感じ始める。通常であれば不安に感じるかもしれないが、今の『Amazonas』のメンバーにとっては待ちに待った感覚であった。

 次回は8月8日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大型戦艦は沈没する時が一番の華
[良い点] 傲慢墜落来たー! 案内したルビー、Amazonasの皆、そして何よりママ!良くやった!
[一言] 弓に詳しくないんですが和弓でも人の大きさあるんで大弓ってもっと大きいイメージがありました。それはさておき、バリスタ的弩でなく手引き大弓なのはわかってるんですが縦型の弓だと顔の角度が正面より…
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