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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十六章 魔王国防衛戦争
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ノックスの戦い 地獄の刑罰

 迷宮(ダンジョン)と化した魔王国の都、『ノックス』。この迷宮(ダンジョン)のコンセプトは『侵入者をあらゆる手段をもってして排除する』こと。絶対に攻略させないため、これでもかと罠を仕掛けていた。


 その罠の中で最も多いのが転移罠である。他にも様々な罠があったが、どれも最終的に転移罠に誘導するための布石である。通路の曲がり角や落とし穴の底、変わり種では爆発した先に転移罠が仕掛けられていた。


「ぐはっ!?な、何だここ…?」

「真っ暗じゃん…よっと」


 とある落とし穴に落ちた者達は、気が付けば真っ暗な場所に転移させられた。暗闇であるせいで周囲が全く見えず、手持ちの光源となるアイテムを取り出した。


 そうやって明るくすると自分達がどんな場所にいるのかがわかってくる。床と壁は塗装もされていない剥き出しの金属で、天井は見えないほどに高かった。


「これ、飛べないと脱出出来ないんじゃね?」

「最悪…っと。誰か来るぞ」


 彼らが最初に転移させられたのだが、次々と他のプレイヤー達が金属の部屋に飛ばされて来る。天井は見えないほどに高いものの、部屋そのものは決して広くない。十人ほどが集められると一気に狭く感じるようになった。


「…追加はもういなさそうだ」

「何処だよ、ここ?」

「誰か登れる奴か飛べる奴いな…何だ?」


 転移して来る者がパタリといなくなったところで、彼らは脱出する方法について模索しようとしたちょうどその時。部屋の全ての壁、その天井付近にあったらしい隠し窓が音を立てて開いた。


 全員が音の出所である上を向く。隠し窓から流れてきたモノを見て、全員が絶望せずにはいられなかった。


「よっ、溶岩!?」

「逃げ場がないんだぞ!?」


 隠し窓から流れて来たのは溶岩だったのだ。狭い閉鎖空間ということもあり、逃げ場は一切ない。降り注いだ溶岩が床に溜まっていくのは確実であった。


 溶岩が直撃すればダメージは避けられない。そして仮に避けたとしても、床に溜まる溶岩からは逃げられない。溶岩に沈むことになるのだ。


「俺に任せろ!天岩戸(アマノイワト)!」

「た、助かった!」


 ただし、ここに閉じ込められているのは熟練のプレイヤーである。その中には魔術師もいて、彼らは強力なオリジナル魔術を開発していた。その内の一人が魔術を発動すると、溶岩を受け止める半球状のドームが形成されたのである。


 ボタボタという重たい水音が天井越しに聞こえるものの、溶岩を掛けられるという恐ろしい死に方をすることはなくなった。守られたプレイヤー達は胸を撫で下ろし、守ってくれたプレイヤーに感謝した。


「礼を言ってくれるのは嬉しいけど、まだ早い。根本的な解決になってないんだから」

「あ、確かにそうか」


 一息つけたのは事実であるが、脱出からはまだまだ遠いこともまた事実である。守った本人からの指摘は至極当然であり、それ故に皆も素直に受け入れていた。


「とりあえず、一番火耐性を高められる装備に変えとこうぜ。重さで壊れることはないと思うが、脱出の時に被ることになるかもしれんし」

「え?転移で逃げればいいんじゃないの?」

「お前、最後の方に来たんだっけ。それ、試したけど無理だったよ」


 何があっても良いように備えることを提案するプレイヤーに疑問を呈するプレイヤーがいたが、すぐに別のプレイヤーがそれは無理だったと説明する。先に転移してきた者達が脱出について考えていないはずもなく、既存のあらゆる方法でも脱出不能なことは調べがついていた。


「転移先からは転移で逃がす気はないってことかも」

「逃げられない部屋ってのは、明確な脱出方法が必ず用意してあるってのが定番だよな」

『その通りだ!』


 脱出方法について考察しようとした時、彼らを守っていた魔術の壁に強い衝撃が加わった。それと同時に壁の外から覇気のある女性の声が聞こえて来たではないか。


 直後、最初の一撃に匹敵する衝撃が豪雨のように降り注ぐ。どれだけ強力な魔術だったとしても耐えられない連続攻撃によって、皆を守っていた壁は粉砕された。


「間に合った、けど…」

「何だよ、あいつら!?」


 破壊されるまでは短い時間しかなかったものの、逆に言えば破壊されるまで多少の時間は残っていた。その時間を利用してプレイヤー達は急いで防具や装飾品に切り替えていたのである。


 そのお陰で溶岩には耐えられたし、溶岩に腰の辺りまで浸かっても継続して受けるダメージを抑えられていた。だが、彼らの頭上には新たな脅威が現れていた。


 開いた天井から下を見下ろしているのは、真紅の軍服に身を包んだ赤銅色の肌と金色の瞳を持つ人型魔物であった。彼らの中に彼女の…獄吏(ゴクリ)の長たる閻魔、シンキのことを知識として知っている者は一人もいない。わかることは人語を解することから【言語学】能力(スキル)を持っていることだけだろう。


「君達が魔王国を襲撃した者達か。ここに来た諸君は運が良い。必要以上に痛めつけられることも恐怖することもないのだからな」

「何を言って…!?」


 シンキが片手を挙げると、彼女の左右に十数人の獄吏(ゴクリ)が姿を現した。彼らもまた一様に軍服を着ているのだが、シンキとは異なり彼らは武装していた。


 武装は二つ。背負っている刺股と、両手で抱えている鎖であった。刺股は現代のそれではなく、時代劇で登場する棘だらけの代物。そして鎖もまた、構成する金属の輪に太くて鋭い棘が伸びている。まるで拷問器具であるかのような禍々しさであった。


「では、始めるとしよう」

「来るぞ!」

「天井が開いたなら!」


 シンキが何かを命じる前にプレイヤー達は動き出した。溶岩によって体力を削られ続けている焦燥と、明確な出口が現れたという希望。この二つが重なったことで様子見などせずに強行突破しようとする者達がいたのである。


 彼らも無策という訳ではない。空中での機動力に関する能力(スキル)や魔道具を有する者達が一気に天井を目指して駆け上る。それに合わせて遠距離攻撃手段を持つ者達が援護をする。即興ではあるが、最低限の連係が出来ることからも彼らの実力の程はうかがえるだろう。


「ほう。こうまで予想通りだと逆に恐ろしくなるな」

「なぁっ!?」

「あ、網だとぉぉぉ!?」


 開いた天井から強行突破してくることなど予測済みであったらしい。シンキは素早く腰に手を回すと、黒いカプセルを下へ投擲する。空中でカプセルが爆ぜると、そこから現れたのは部屋の天井とほぼ同じ大きさの網であった。


 網は頑丈な金属製であり、ご丁寧にも粘着性の薬品が塗られている。飛んでいた者達はまとめて捕まり、魔術で網が壊されることもなかった。


「次だ」

「また網かよ!?」

「撃ち落とせ…って粉?」


 シンキは畳み掛けるようにして次の手を打つ。それは獄吏(ゴクリ)達が持っている鎖…ではなく、ポケットに隠し持っていたカプセルを投擲したのだ。


 また網が開くのかとカプセルを迎撃したプレイヤー達だったが、彼らの予想に反してカプセルの中身は網ではなくキラキラと輝く白い粉であった。溶岩から放たれる赤い光を反射して輝く光景は幻想的である。


「え…?おい、嘘だろ!?」

「固まってる!?」


 その粉は溶岩を急速冷却し、岩石と化す薬品だった。『錬金術研究所』謹製の薬品であり、この時のために提供されていたのだ。


 この状況で溶岩が固まればどうなるか?全員が腰の辺りまで浸かっている溶岩が固まるのだ。誰一人動けなくなってしまうのは言うまでもない。


 最悪の状況になることを察した者達は対策するべく動き出す。だが、状況はもう詰みであった。シンキ以外の獄吏(ゴクリ)達は手に持っていた鎖を投擲しており、網の上から大量の鎖が彼らに絡まったのである。


「これ、麻痺毒…!?」

「う、動けねぇ…」

「火耐性を優先させられたのは、これも狙いか!」


 鎖が絡まっても魔術など抵抗の手段はある。だが、それを許さない仕掛けがあった。それは棘の部分に仕込まれた麻痺毒である。彼らは巻き付いた鎖によって麻痺毒を注入されたのだ。


 無論、この麻痺毒そのものも非常に強力と言える。しかし、これほど簡単に麻痺毒が回ったのは溶岩のせいだ。溶岩に対応するべくプレイヤー達は装備を火耐性の高さを優先するモノに変えるしかなかった。それ故に状態異常対策は疎かにならざるを得なかったのである。


 棘だらけの鎖の先端は溶岩に沈み、その後溶岩は鎖の先端を巻き込んで完全に冷え切ってしまった。プレイヤー達は網と鎖によって完全に動きを止められてしまったのである。


「後は定期的に薬を投げ入れろ。生かさず殺さず、というのが魔王国からの注文だからな」

「ふっ、ざけんな!」

「解放、しろ!」


 生かさず殺さず。つまりはリスポーンさせないということだ。身動き一つとれない状態のプレイヤー達は拘束から逃れられる者はいない。拘束から抜け出す縄抜け系の能力(スキル)の持ち主もいるが、麻痺していては無力であった。


 今からはこの状態を維持されるのだろう。プレイヤー達にとっては普通に倒されることよりも屈辱的ですらある末路だ。自分への不甲斐なさや一方的に振り回された悔しさからか、彼らは麻痺のせいで時折声を詰まらせながらも口々に文句を垂れ流す。そのくらいしかやれることがなかったのだ。


「ふむ…魔王国の武具や薬品も面白いな。戦争が終わったら技術者を派遣するという話を受けるとするか。そのためにも勝ってもらわねば、な」


 ただ、プレイヤー達による負け犬の遠吠えはシンキ達に届かない。彼女は戦後のことを見据えつつ、イザーム達の勝利を願うのだった。

 次回は7月11日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲーム内時間で一ヶ月くらい拘束しとけばクソゲー認定して現実にログアウトしてくれるかな
[良い点] 溶岩で装備変更させてからの麻痺毒。流れるようにハマって草。リスポーンをさせない賢い方法。 [一言] プレイヤー達は中々出来ない経験(拷問?)を味わえて良かったなw
[良い点] 続きが 気になる [気になる点] 捕まった状態でログアウトして再ログインしたら、捕まったままなんだろうか
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