鳥の山の主 後編
私はゆっくりと無防備に近付いてくる空襲鷲をむんずと掴む。そしてジゴロウのように握力によって力ずくで握り潰した。
能力、【龍の因子】。劣小蛇龍の骨を取り込んだ時に得た、土壇場でべらぼうにパワーアップする能力だ。死に掛けるのは月ヘノ妄執戦以来なので、存在すら忘れていたよ。
普段の私ならこんな握力は無いのだが、今は【龍の因子】で全能力値が格段に上昇している。この位は楽々だ。棒状のスナック菓子程度の抵抗しか感じないな。
「キ…!」
「ケケッ…!」
おや?鳥共が殺虫剤を撒いた時の羽虫のように墜落していく。ひょっとして、【龍の因子】は【深淵のオーラ】の効果も強化するのか?それも効果だけでなく範囲まで。それは凄いじゃないか。
「キィッ!」
「キキッ!」
運良く【深淵のオーラ】の効果を受けなかった二羽の鳥が私に突っ込んでくる。組み合わせは空襲鷲と鉄啄木鳥だ。先程の私に通用したので、同様に対処しようと言う訳か。しかし…
「遅すぎる」
「「!?」」
今の私にとって、二羽の動きはあまりにも遅い。私は受け流す必要すら感じないぞ?
なので私は余裕を持って奴らの飛ぶ軌道上に鎌の刃を置くようにして振り抜く。鎌を振る速さもとんでもなく上昇しており、空襲鷲と鉄啄木鳥は回避する事すら出来ずに両断出来た。
斬った時、ほとんど抵抗を感じなかった。あらゆるステータスが向上しているので、この程度の魔物に対してはオーバーキル気味の威力が出るらしい。彼らにとって、今の私の鎌はまさに死神のそれであろう。
「後はボスだけ、か」
そうこうしている内に、ジゴロウとルビーは双頭風鷲と連携していた空襲鷲を倒し終わったようだし、アイリスと源十郎も私のオーラで死ななかった鳥を仕止め終わっている。
生き残りはボスである双頭風鷲ただ一羽だ。ここまで追い詰めたのは皆が己の仕事をしっかりとこなしたからであり、本来なら、全員で決着を付けるべきだろう。
「しかしな、これでは死にかけた私の溜飲が下がらんのだよ。少しだけ、我が儘に振る舞わせて貰うぞ、皆…」
私はそう呟くと双頭風鷲に向かって杖の先を向ける。
「闇槍」
魔力の回復速度も上がっているので、一発なら闇槍を撃てるまで魔力が戻っていた。なので私は心の底からの憎悪を込めて闇槍を放った。
「「キッ!?」」
私が放ったのは魔法陣や呪文調整など一切行っていない、本当に普通の闇槍だった。しかし、実際に顕現したのは全長10メートルはあろうかという巨大な円錐形の槍である。
信じられない大きさだ。多少動揺しつつも、私は即座にこれを撃った。すると巨大な闇槍は黒い尾を引きながら敵に向かって猛然と迫っていく。我ながら壮観であるな!
「「キキィ!?」」
双頭風鷲は当たれば確実に死ぬであろう槍に驚きの籠った鳴き声を上げる。どことなく悲鳴に聞こえたのは気のせいではあるまい。だって私が奴だったら顔面蒼白になっているに違いないのだから。蒼白になる顔が無いんだけど。
それはともかく、双頭風鷲は全力で空へと舞い上がった。そして複雑な軌道で飛ぶことでこれを回避しようとしている。私も【魔力精密制御】を活かして追尾させよう。
しかし、双頭風鷲は空中での機動力が高い上に、私の闇槍が巨大過ぎて小回りが利かない事が致命的だった。私の闇槍は威力を見せる事なく掻き消えてしまう。ドッグファイトでは奴に分があるようだ。鳥なのだから当たり前か。
「なるほど。なら、最後の奥の手だ」
「「キィェァァ!!」」
明らかな脅威をやり過ごす事に成功した双頭風鷲は、私の方へと向かって来る。これ以上、私に何かをさせたくないのだろう。
気持ちは解る。想像してみて欲しい。死にかけだったハズの敵が突如としてパワーアップしたかと思えば、一瞬で取り巻きを殲滅した光景を。そりゃあ少しでも早く倒してしまいたいよな。
これではどちらがボスかわからんぞ。まあ、非公式の悪役を目指しているのだからこのくらいでちょうど良いのかもしれない。
だが、向こうから近付いてくれるのならむしろ好都合だ。何故かって?私も奥の手の射程距離を知らないからだ。
「さぁて、どれ程の物か試すためにも君には被験者になってもらおうか。…龍息吹、ガアアアアア!!!」
私は口を目一杯に大きく開けると、【龍の因子】発動中に一回しか使えない大技、龍息吹を放つ。すると、銀色の仮面の口部分から極太の黒い炎が凄まじい勢いで迸った!
「「ギッ…」」
双頭風鷲は急いで四枚の翼を使って回避軌道を取るものの、私の龍息吹に巻き込まれてしまう。天をも焼き尽くさんばかりの黒い龍息吹によって、奴は断末魔を上げる事すら叶わずに消滅した。
あ、アイテムの剥ぎ取り出来ないじゃん!
――――――――――
戦闘に勝利しました。
フィールドボス、双頭風鷲を撃破しました。
フィールドボス、双頭風鷲の初討伐パーティーです。
全員に特別報酬と6SPが贈られます。
次回からフィールドボスと戦闘するかを任意で選択出来ます。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【杖】レベルが上昇しました。
【鎌術】レベルが上昇しました。
【知力強化】レベルが上昇しました。
【精神強化】レベルが上昇しました。
【体力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魔力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魔力精密制御】レベルが上昇しました。
【神聖魔術】レベルが上昇しました。
【暗黒魔術】レベルが上昇しました。
【召喚術】レベルが上昇しました。
【付与術】レベルが上昇しました。
【魔法陣】レベルが上昇しました。
【死霊魔術】レベルが上昇しました。
【降霊術】レベルが上昇しました。
【邪術】レベルが上昇しました。
【鑑定】レベルが上昇しました。
――――――――――
私の龍息吹はどこまでも高く伸びていき、雲を貫いて散らしてしまう程の威力だった。射程が馬鹿みたいに長いぞ?戦略兵器のような性能だな!
山の頂上からはファースの街が見えているので、龍息吹を誰かに見られた可能性は高い。だが、真実に辿り着く事は出来ないだろう。推理するにしたって元になる情報が全く無いのだから。
様々な憶測が飛び交った後、『私﹦イベントモンスター説』のような間違った結論に至るのが関の山だ。ふふふ!人類プレイヤー達よ、精々慌てふためくがいい!
それにしても、本当に凄まじい威力だったな。山に撃てば穴が開くだろうし、ファースに撃ったら街が一撃の元に消えて無くなりそうだ。NPCを虐殺する事になるし、墓守という知り合いもいるから絶対にやらないけども。
「おっと…!」
体力が常時回復する効果もあり、遂に私の体力は一割まで戻った。しかしそれによって【龍の因子】の効果も切れてしまう。それによって向上していたステータスが元の値に戻ったことで、一気に力が抜けてふらついてしまった。
今更だが、ステータスも身体の感覚がブレる程にまで超強化されていたらしい。【龍の因子】は発動条件が厳しい上にすぐに効果が切れ、更に一度発動すればリアルタイムで丸一日、ゲーム内では四日間も再発動出来ない能力だが、それに見合うどころか予想を遥かに超える力を見せ付けてくれた。
しかしなぁ。使うには死にかける必要があるから、また使いたいかと問われると微妙なんだよなぁ。いや、龍息吹を撃つのは爽快感があったし、やっぱり使いたい。体力を1だけ必ず残す能力か装備品かがあればいいんだが…
「イザーム!?大丈夫なんですか!?」
叫ぶように言いながら近付いて来たのはアイリスだった。彼女は駆け寄る時間も勿体ないと言わんばかりに触手を伸ばして私の身体とチェックしていく。
あの、私が心配を掛けたのが原因なのは解るが、ゲームとは言え女の子が男の身体を無闇に触るのはどうかと思うぞ?触手と骨だけれども!何だか絵面が酷い事になっていそうだ。
「スゲェな、今の!アレが龍の力って訳か!」
「ははは!美味しいところを盗られたのに、全く悔しくないね!もっと凄い物が見れたし!」
「うむ!あれは良いの!」
私の正真正銘、最後の切り札に三人は大興奮している。瞳を輝かせて(眼球があるのはジゴロウだけだが…)捲し立てている。私の心配など一切していないらしい。
むしろ、龍息吹よりも私の心配をしてくれるアイリスはとても心が優しいのだろう。癒される。見た目はアレだが。
「ごめんなさい!私の不注意でイザームが死に掛ける事になってしまって…」
あー、それを気にしていたのか。ならばフォローしなくてはなるまい。
「失敗は誰にでもあるさ。今度からは背後にも注意を払うのを意識すればいい」
「…はいっ!わかりました!」
うん、立ち直ってくれて何よりだ。それにしても、最初は戦うのが苦手だと言っていたアイリスだが、随分と私達の影響を受けてしまったな。悪いとは思っていないがね。
さてと!ボス戦も終わったことだし、回復してから地図の祝詞を試してみるとす…
――――――――――
魔物の卵が孵化します。インベントリから出して下さい。
――――――――――
えええ!?このタイミングですかぁ!?
【龍の因子】は死にかけた時にブチギレた龍と同じ力を得られる能力です。つまり、龍がマジギレすると…?
魔物の卵がようやく孵化します。実はこのタイミングに合わせた訳ではなく、筆者の中で決めていた条件が上手いこと一致してくれた結果です。やったぜ。
その条件は何なのか、そして卵からは何が孵るのか?お楽しみに!




