郊外の城の戦い 人型兵器と不死兵の奮戦
完全武装した不死の兵士が突如として突撃してきたせいで、プレイヤー達は対価として受け取っていた銃火器を使う間もなく乱戦に持ち込まれてしまった。プレイヤー達は先手を取られた形になる。
「無駄に硬ぇが、それだけだ!」
「レベル80超えたくらいか?舐めるな!」
ただし、プレイヤーの多くはレベルが100に到達しており、ここにいるプレイヤーも当然のごとくレベル100だ。地力の時点でプレイヤーの方が圧倒的に有利だった。
また不死の兵士の装備はそれなりに優れているが、一点物を揃えているプレイヤーには見劣りする。武具もそれを扱う者の実力も劣っているのだ。それでいて数は不死の方が若干多い程度。プレイヤーの方が有利なのは無理もなかった。
『簡単に倒されちゃ困るんだよなぁ!』
『オラオラオラァ!穴だらけにしてやんぜぇ!』
『回復ヨシ、と。ってかトリガーハッピーになってるじゃん。こんなヤツだったっけ?』
一気に蹴散らせるだけの実力差があるにもかかわらず、戦況が膠着しているのは人型兵器による援護があったからだ。筋力に特化したプレイヤーでも振り回すのが難しいであろう重火器を片手で軽々と持つ彼らは、不死の兵士が倒されないように後方から射撃を繰り返していたのだ。
驚くべきことに、彼らは不死を回復する手段を有していた。プレイヤー達が重火器によって退くことを余儀なくされる間に、前衛を務める不死は回復してしまうのだ。プレイヤー達にはあと一押しが足りていなかったのである。
「調子に乗りやがって!」
「食らえ!」
『無駄なんだよなぁ!』
ならば先に人型兵器を潰そうと魔術や弓矢が放たれる。だが、人型兵器の防御力はレベル100のプレイヤーによる攻撃にも耐えられる設計となっていた。
流石に大型の近接武器による武技を叩き込まれれば無事ではすまないものの、弓矢や魔術では衝撃で多少は揺らいでも転んだり倒れたりすることすらもない。プレイヤー達は人型兵器を容易には壊せないと理解した。
ならば別の方法を取れば良い。壊せないとしても兵器を止める方法はある。その一つが内部の操縦者を倒すという手段だった。
「これなら…え!?ぐはっ!?」
素早く近寄った斥候職のプレイヤーは、防御を無視してダメージを与える短剣の武技を使用した。使用している武器が壊れるというデメリットがあるものの、鎧の上からでも内部の生物にダメージを与えられることから彼はここぞという時に重宝していた。
だが、武技を使って短剣を突き刺した時の挙動に彼は驚いた。武技を使ったというのに武器が壊れなかったのだ。そのことに驚愕して硬直している所を、人型兵器は鋼鉄の腕で彼を殴り飛ばした。
「こいつら、人形だ!中に人が入ってねぇ!」
『チッ、バレたか』
武技が不発に終わったということは、その性質を考えれば中身に生物がいないということ。つまり、中に操縦者はいないのだ。
彼が気付きは正解であった。『マキシマ重工』が鉱人と協力して作り出した、魂の器となる正二十面体。人型兵器に積まれているのは、魂核と名付けられたコレだったのだ。
そして魂を乗り移らせて操縦しているのは『マキシマ重工』の社員、もといクランメンバー達。これこそ本来は戦いを苦手とする者達が魔王国のために戦うための姿であった。
『バレちまったのなら仕方ないな』
『使うか』
「札?何を…ってマジかよ!?」
中に誰もいないことを隠しておけば、不意を打つ機会があるかもしれない。そう考えていた『マキシマ重工』のメンバーだったが、バレてしまったのならバレた後にやろうとしていたことを行うだけだ。人型兵器の腕装甲の隙間から数枚の札が射出された。
魔術を込められた札自体はポピュラーなアイテムだ。紙の品質と作成者の技量に左右されるものの、その魔術を習得していなかったり、そもそも魔術が苦手だったりするプレイヤーでも魔術が使えるというのは非常に便利であるからだ。
それ故に札を装備していたことに感心はしても、使われたことに驚きはない。彼らが驚いたのは札によって発動した魔術だったのだ。
「【煙霧魔術】だとぉ!?」
「色々混ぜてやがる!何だ、この状態異常!?」
この札を作ったのは節操なく魔術を習得したイザームだった。彼は様々な魔術を使える分、何かに特化した魔術師に魔術の火力は劣る。札の威力も特化させたプレイヤーに劣るのは当然のことだった。
だが、様々な魔術を使えるということは様々なオリジナル魔術も作り出せるということ。イザームはこのことに着目し、状況に応じた様々なオリジナル魔術を作成して札に込められるモノは札にしていたのだ。
彼らに与えられた札に込められていたのは、呪霧という状態異常を引き起こす呪いの霧を発生させる魔術である。【煙霧魔術】をベースにしているので、霧に包まれている間は常に状態異常になる可能性があるという非常に鬱陶しい効果だった。
ただ、【煙霧魔術】には人々が使いたがらないデメリットがある。それは視界を遮ってしまうことと味方を巻き込みやすいことだ。継続してダメージを与えたり状態異常にしたりするとしても、味方を傷付けては本末転倒であろう。
『俺達には効かねぇからなぁ!』
『不死兵の便利なトコだよ』
しかし、今はこのデメリットを考慮する必要がない。何故なら人型兵器も不死の兵士も状態異常にならないからだ。味方を巻き込まず、敵にのみ効果がある範囲攻撃という強力な魔術と化していた。
状態異常に苦しみながら戦うことを強要されるプレイヤー達と、今まで通りのパフォーマンスを見せる人型兵器と不死の兵士達。多少の不利が覆されるかも知れない状況になっていた。
「こんなモン、風で払えば良いだけだ!」
「甘いんだよ!」
この予想はあまりにも甘い想定でしかなかった。ティンブリカ大陸にやって来たのは歴戦のプレイヤー達である。【煙霧魔術】への対応策は身に付けていた。
魔術師が強い風を起こして霧を吹き散らすことで、一瞬だけ逆側に傾きつつあった天秤が再びプレイヤー側に戻ってしまう。それどころか、よりプレイヤー側に傾くことが起こった。
「準備完了!」
「待たせた!」
野望のためにもクランの全員が出張っていたこともあり、クランの生産職が後方に控えていた。彼らはここまで何もしていなかった訳ではない。むしろ勝利のために急いで組み立てていたのだ…古代兵器を。
交渉の末に彼らが勝ち取った古代の兵器。人型兵器が持つ重火器よりも一回り小さいのだが、生産職にとっては持ち上げるのも難しい重さである。それを支えるための台座を組み立てており、ようやく設置が終わったのだ。
「これでどうだっ!」
『ああっ!?』
プレイヤー達の持つ銃では人型兵器の装甲は抜けないだろう。そう予想した生産職プレイヤー達が狙ったのは不死兵士達だった。
量産された不死の兵士程度では銃火器に薙ぎ払われて無事でいられるはずもない。次々と致命傷を負っていき、前衛のプレイヤー達によってトドメを差されていった。
そうはさせまいと人型兵器は銃火器の射手である生産職プレイヤーを狙ったものの、それを庇うように大盾を持つ重戦士が間に入る。みるみる内に不死の兵士達は数を減らしていった。
『回復が間に合わない!』
『ウオオオオオオッ!撃ちまくれぇぇぇっ!』
『馬鹿野郎!右だ!』
「ここだ!」
ここで人型兵器を操っているのが戦闘に慣れていない部分が如実に現れた。視野が狭くなって銃を乱射し始めた者は、不死の兵士という壁を崩した前衛のプレイヤーが接近していることに気付けなかったのだ。
銃口を向ける前に振り下ろされたバトルアックスが人型兵器を大きく陥没させる。刃は深々と胴体に突き刺さり、傷口からは激しく漏電し始めた。どこかに致命的なダメージを負ったのは確実だ。
『悪い!やっちまった!先に行くぜ!』
「なんっ!?離せ!」
致命的なダメージを負ってはいてもまだ動く人型兵器は、両手に持っていた銃を放り投げると自分を斬ったプレイヤーがバトルアックスを抜く前にその腕をむんずと掴む。彼がその手を振り解く前に、人型兵器の背面が展開されると炎を上げて急加速し始めたではないか。
これまでほとんど動かずに銃弾をばら撒いていただけだった人型兵器のいきなりの突撃。その意図を理解する前に人型兵器は、不死の兵士が倒されたことで空いた穴に突っ込むと大爆発を起こした。
「っあー!ウゼェ!」
『自爆でもダメか』
中身が入っていないからこそ可能な自爆攻撃だったのだが、プレイヤーを討ち取ることは出来なかった。ギリギリで防御系の能力を発動させたのである。
不死の兵士は一体、また一体と倒されていく。そうして守る壁を失えば、銃しか持っていない人型兵器は無防備な状態になってしまう。そうなれば後は消化試合でしかなかった。
『ぐっ!道連れにして…』
「させるかよ!」
二体目の人型兵器が連続して近接攻撃を受けたことで行動不能となり、プレイヤーを巻き込んで自爆しようとした。だが、自爆する姿は一度見ているのだ。再び同じ手を食らうはずもなく、自爆しようとした人型兵器は魔術によって吹き飛ばされた。
三体の内二体が倒されたものの、最後まで残った人型兵器は諦めなかった。後方に後退しながら銃撃を続け、一人でも仕留めようと撃ち続ける。しかしながら、その抵抗も無意味であった。
「これで、終わりだぜ!」
『ぐっ!』
プレイヤーのリーダーが得物の大剣を振り抜き、人型兵器は深い傷を負いながら城の壊れた扉の中に飛んでいく。城の内部で爆発するかと思いきや、バチバチと漏電した後にそのまま動かなくなった。
予想外の反撃を受けたものの、守りについていた者達は排除した。プレイヤー達は疲れたように溜め息を吐くと、城を占領するために壊れた扉から中に入るのだった。
次回は6月21日に投稿予定です。




