悪用されても仕様は仕様
執拗なまでに放たれた副砲が停止したのは、四門の内の一門が煙を上げ始めたのが原因である。恐らくは酷使し過ぎたのだろう。修理は出来ないこともあり、慌てて射撃停止を命じたようだ。
ただ、レーザービームの威力は本物だ。一発が着弾しただけで真っ赤な炎と共に大きな爆発が起きていたのである。それを数十発撃ち込まれたのだから、廃墟になるどころかドロドロに溶けた残骸しか残らない。見ていた兵士とプレイヤーは誰もが同じことを考えたことだろう。
「…え?」
「…何で?」
「む、無傷!?」
爆破によって巻き上げられた粉塵が晴れた後、霧の海に沈んでいた街が姿を表す。まず目に入るのは堅牢そうな城壁だ。要塞を思わせる城壁にはいくつもの防衛兵器が設置されており、接近するだけでも危険を伴うのは明らかだった。
城壁に守られているのは広い城下町、そして美しくも何処か禍々しい雰囲気を放つ宮殿である。文明のレベルは王国に決して劣っていないことをまざまざと見せつけていた。
ただ、何よりも兵士とプレイヤーを驚かせたのは、あれだけ副砲を撃たれたというのに無傷であるという点だ。周囲の地面は荒れ果てていることから、副砲の威力が虚仮威しでなかったのは間違いない。
だからこそ、街が無傷であることの異常さが際立つ。いくら頑丈な城壁だったとしても、古代の技術によて作られているようには思えず、耐えられるとは思えないのだ。
「ど、どうすんだよ、アレ…」
「俺が知るかよ!わけわかんねぇ…」
カラクリはわからないが、『傲慢』の副砲が一切通用しなかった。そんな敵を相手にしなければならないと知った兵士は恐怖する。ひょっとして自分達は得体の知れない怪物の懐に飛び込んでしまったのではないか。そう思わずにいられなかったのだ。
パニック寸前の動揺ぶりを見せる兵士達に対し、プレイヤー達はそこまで慌ててはいなかった。無論、副砲の連射を受けても破壊されない理解不能な頑丈さに動揺はしている。あれで驚くなという方が無理があった。
ただ、彼らは自分の力量が及ぶか及ばないかわからない敵と向き合うことに慣れていた。プレイヤーは死んだとしてもリスポーンする。この前提が彼らを死地へ飛び込むことへの恐怖を大きく軽減していた。
「どうする?」
「いや、どう考えても割りに合わないって」
恐怖しないからと言って、異様な防御力を見せた都市に突撃する者はいない。元々、彼らは王国が入植する際に周辺の調査や入植拠点の護衛のために雇われたのだ。既にある都市を侵略するために集められたのではないのである。
ただでさえ堅牢そうな都市であるのに、不可思議な力によって『傲慢』の副砲を余裕で耐えた。他にも様々な危険が待ち構えているのは明白であり、調査して情報を集める必要がある。
情報を集める過程で何人かが死亡し、リスポーンすることになるだろう。プレイヤーは死亡時に所有するアイテムの一部をドロップする都合上、死亡にもリスクは存在していた。
調査の最中に死亡し、アイテムを回収出来ずに失うことになるかもしれない。自分達の意思で調査するのはともかく、依頼として調査をする場合は喪失するアイテムの補填も兼ねている依頼額でなければ引き受ける者は滅多にいないのだ。
そして王国が現在プレイヤー達に支払っている依頼額は、とてもではないがリスクに見合う金額ではない。王国が『エビタイ』に引きこもるのなら、契約期間まではその護衛に付く。だが、今すぐに遠くに見える都市を攻めろと命じられてもほとんどのプレイヤーが拒否するのは明白であった。
遠征の失敗という恥を忍んで一度撤退して万全の態勢を整えて再遠征するか、『傲慢』の性能とプレイヤー達の兵力に物を言わせてあの都市と外れにある城を制圧するか。『傲慢』の上層部は選択を迫られた。
どちらを選択するのかは明白である。『傲慢』が健在である以上、『傲慢』さが抜け切ることはない。上層部は報酬の増額と略奪したアイテムの所有権を提示することで、都市へ攻め上ることをプレイヤーに依頼するのだった。
◆◇◆◇◆◇
「いやぁ、ヒヤヒヤしやしたねぇ」
「ああ。とんでもねぇ威力だったぜ…」
王国軍の襲来以降、王国は快進撃を続けている。アンや海巨人達による海底からの攻撃はあしらわれ、それなりに金とモノと労力を掛けた『エビタイ』も防衛設備ごと粉砕されている。結果だけ聞けば私達は敗北続きであった。
しかしながら、この流れは概ね私達の予定通り。海上に浮かぶ船団は壊滅させたし、『エビタイ』を占領させる過程で激しく抵抗して街そのものを無傷では渡さなかった。また、街に仕掛けた罠も多少は被害を出すことに成功していた。
「ギッリギリだったね、イザーム君?」
「ああ。間に合って良かった。『ノンフィクション』の者達は大手柄だな」
私は玉座に座りながら安堵していた。まさかいきなり王国が副砲を撃つとは思わなかったからだ。こちらを攻撃して来るとすればプレイヤーと兵士を再編し、準備を整えてからだと思っていたから慌てたよ。
だが、何とか間に合った。それは『ノンフィクション』のプレイヤー達による潜入調査の賜物である。彼らは小さな虫やネズミの姿で『傲慢』に潜入し、兵士やプレイヤー、運が良ければ王太子とその周辺からも情報を得ているのだ。
「連中、絶対にアホ面になってると思うぜ」
「壊れるどころか無傷でござんすからねぇ」
「うんうん。驚いている顔が目に浮かぶようだよ」
私達が一体何をしたのか?それは『錬金術研究所』が作り出した例の迷宮核を起動させたのである。迷宮の範囲はここ『ノックス』全域。そう、今の『ノックス』は全体が巨大な迷宮と化したのである。
迷宮は破壊することが出来ない。襲い掛かる敵を倒し、謎を解き、時に迷い、時に撤退しながら最奥を目指す。そして待ち構えるボスを倒して初めてクリア出来るのが迷宮のお約束だ。これを無視することは出来ないのである。
隠し通路を塞ぐギミックとしての壊せる壁や罠である崩れる床などもあるが、これは最初からそう作られたモノ。迷宮のお約束を無視し、迷宮そのものを破壊してショートカットするような無粋な行為は許されないのだ。
『傲慢』と戦うにあたって、私が用意していた切り札が『ノックス』を迷宮にすること。こうすれば『傲慢』から何をされたとしても絶対に破壊されない。ゲームの仕様を悪用…もとい、利用させてもらったのだ。
「でもよ、イザーム。何で最初から迷宮にしてなかったんだ?オンオフは自由なんだろ?」
「必要な時に増改築が出来ないから、じゃないかな?」
「いやいや、身動きが取れなくなるからでござんしょう?」
マックの質問にウロコスキーとトロロンが答えを予想する。二人の答えも間違ってはいない。迷宮は壊せないという特性上、常に迷宮化させていると増改築が面倒なのだ。
また、迷宮化させるとある事情から私を含めた数名が街の外に出られなくなるのも問題点の一つである。他にも各種設備が迷宮のオブジェクトと化して使えなくなるというのも原因に挙げられた。
だが、それらよりももっと切実な理由がある。彼らが疑問を持っているせいで戦闘のパフォーマンスが下がっても困る。情けない理由でもあるので、恥を忍んで私は最大の理由を述べた。
「二人の答えも間違ってはいない。だが、最大の理由は…」
「「「理由は?」」」
「…金だ」
「「「…え?」」」
「維持費が馬鹿にならんのだ」
そう、『ノックス』全体を迷宮にし続けるには莫大な維持費がかかるのである。具体的に言えば、リアルタイムの一ヶ月で得られるプレイヤークランと住人からの税金がゲーム内時間の一時間弱で溶けてなくなるのだ。
これを税金だけで維持しようとすれば、概算ではあるが税金を千倍以上に設定しなければならない。これはコンラートですら十日と維持出来ない金額だ。仕様を利用しているのだが、仕様によって苦しめられてもいるのだ。
「おっ、ミツヒ子から連絡だ。どうやら王国はすぐに攻めてくるようだぞ」
「チッ、一息つく暇もありゃしねぇ」
「むしろありがてぇってなモンじゃねぇんですかい、イザームの旦那?」
マックは舌打ちしているが、私としてはウロコスキーに同意する。今も私のメニュー画面では恐ろしい勢いで金が目減りしていく。この戦いを長引かせる訳にはいかない。さっさと終わらせたいのは私達も同じなのだ。
「まあな。では、三人も配置についてくれ。存分に暴れて来るといい」
「おうよ!」
「ヒヒヒッ!」
「任せてくれたまえ!」
三人は威勢の良い返事をしてから玉座の間を去っていく。さて、ここから私はしばらくやることがない。玉座に深く身体を沈めながら、私は複数のモニターを展開させるのだった。
次回は6月13日に投稿予定です。




