エビタイの戦い 決死の不意打ち
ティンブリカ大陸唯一の港町である『エビタイ』。その住民は全員が退避しており、残っているのは迎撃のために残っているごく少数の者達だけだった。
「さて、と。気張って行きましょう!戦えない我々はこれくらいでしか貢献出来ませんので!」
「胸を張って言うことじゃないですよ、座長!」
「でも事実だよね〜」
その者達はプレイヤーのクランである『モノマネ一座』だった。非戦闘員である彼らは王国との戦闘では基本的に活躍が見込めない。むしろ足を引っ張りかねないと自覚していた。
だからこそ、最初から捨てることを前提としている『エビタイ』の防衛の指揮を買って出たのだ。温存など考えず、ひたすらに撃てば良いとわかっているので気楽なモノだった。
「そろそろ配置につきましょう。後のことは事前の決定通りに進める、ということで」
「はい!」
「任せて下さい」
彼らは分散して配置に付く。今回の彼らは全員がイザームが用意した不死の兵士を指揮する指揮官なのだから。
実は『モノマネ一座』のメンバーは全員が【指揮】の能力を保有している。彼らに戦う力はないし、磨くつもりもない。だが、新たな能力を得たり職業に就いたりするには経験値を稼ぐ必要がある。そして経験値を稼ぐには戦闘が最も手っ取り早い方法だった。
そこで目を付けたのがイザームから不死の兵士をレンタルする方法だ。自分達は戦わず、レンタルした兵士を鍛えながら経験値を得ることでレベルを上げたのだ。
それ故に彼らは戦闘に関する能力は全くと言って良いほど育っていないが、唯一育ったのがこの【指揮】だったのである。
配置についた『モノマネ一座』はジッと好機を待つ。彼らは自分達だけで勝てるなどと甘い考えは持っていない。彼らの目的は少しでも王国に出血を強いること。そのためには少しでも攻撃を防がれたり外れたりする可能性を低くしたかった。
『傲慢』が徐々に近付いて来てどんどんその威容が迫って来ても、決して逸らず、リーダーであるパントマイムから連絡が来るまでひたすらに待ち続ける。やがて海上を航行する戦艦や『傲慢』が射程圏内に入ったが、それでも彼らはまだ待っていた。
やがて『傲慢』の底部にあるハッチが開かれる。そこから現れたのは円錐形の特徴的な形状の浮遊船で、ゆっくりと、しかし真っ直ぐに『エビタイ』へと降下して来た。プレイヤーの乗せた強襲揚陸浮遊艇が発進したのである。
「…情報通りですね。さあさあ、皆様お立会い!我ら『モノマネ一座』、一世一代のショーの開幕でございます!」
「「「ショータイム!」」」
パントマイム達はこの瞬間を待っていた。彼らは強襲揚陸浮遊艇の高度が下がった辺りで即座に自分達が担当している防衛兵器を起動させる。すると『エビタイ』を囲むように地下から頑丈そうなトーチカが姿を表した。
それと同時に『エビタイ』を囲む城壁にも変化が起きる。城壁の裏に一部が崩れたかと思えば、そこからもまたトーチカが現れたのだ。
このトーチカに内蔵される砲台は、アルマーデルクスから与えられた古代の兵器である。最初はただ設置するだけの予定だったが、より効果的に不意打ちを成功させるべく『マキシマ重工』主導でトーチカで守りつつ隠蔽する仕掛けが考案された。
拠点防衛用の量産兵器ではあるが、流石は古代の技術と言うべきか。防御系の能力などで強化しなければレベル100のプレイヤーだろうと問答無用で即死させられる砲弾を連射可能である。不意打ちに使われた側はたまったものではないだろう。
「はいはい、ケチらずにガンガン撃ちましょう。下手に残して王国に利用されるのも癪ですからね」
トーチカから放たれた砲弾は強襲揚陸浮遊艇を貫き、あっという間に空中で分解せしめた。使われている砲弾は直撃したプレイヤーだけでなく、爆風に巻き込まれたプレイヤーも容赦なく吹き飛ばしていく。
人間の頭ほどもある砲弾が降り注ぐ状況に、即座に対応出来る者などそうはいない。生きて海に着水出来た者は両手の指で数えられる程度であった。
「おお、これは何とも酷いことになっておりますね…まあ、指示したのは我々ですが」
ただし、空中で死ななかったことは必ずしも幸運とは言えない。トーチカの目標は空中の『傲慢』と強襲揚陸浮遊艇だけではなく、海上の戦艦も含まれているからだ。
戦艦に対して使われたのは小型の焼夷弾をバラ撒くクラスター弾だった。焼夷弾に使われているのは『錬金術研究所』が作り出した薬品だ。一度火が付くと海の上だろうが高温で長時間に渡って燃え続け、消火するのは非常に困難。さらに悪辣なことに、発生する煙は猛毒なのだ。
一瞬にして『エビタイ』沿岸は火の海と化した。多くの戦艦が炎上し、まだ火の手が回っていない戦艦も巻き込まれないように距離を取る他に手がなかった。
炎に巻かれて焼死する者もいれば、発生した猛毒の煙を吸い込んで中毒死する者もいる。海上は正しく地獄絵図と化していた。
「脆い場所があるとの情報ですが、射線を動して炙り出しましょう」
強襲揚陸浮遊艇を一瞬で破壊したトーチカは、続けて『傲慢』へも対空砲撃を開始する。『傲慢』はその図体の大きさ故に回避することは出来ない。代わりに内部の動力を用いて装甲の強度を上昇させることが可能だった。
地上から撃たれたことで、装甲の強化は一律に当然行われている。しかしながら、砲弾を弾いている部分と砲弾が装甲を貫通している部分があった。
地上にある古代兵器は、当然ながら同じ時代の兵器を破壊するために作られている。『傲慢』に対しても装甲が強化されていなければ有効打を与えられる威力だった。
逆に言えば装甲を強化すれば防ぎ切ることは十分に可能なのだ。現に地上からの砲撃は弾かれている部分もある。ただ、撃っている側が困惑するほど容易く貫ける装甲が存在していた。それも一見すると新品に見える部分の方が脆いのだ。彼らが困惑するのは無理もないことだろう。
新品の装甲は剥げていた部分を王国が応急処置した部分だ。その部分に使われているのは何の変哲もない鉄であった。元々の『傲慢』に使われていた合金とは強度の面で天と地ほども差があった。
『傲慢』は装甲を強化出来る上に、地上から古代兵器による迎撃が行われるなど想定外だ。見栄えが良くなる最低限の装甲しか張り付けていなかったので、いくら強化出来ると言っても限度がある。その結果、古代兵器の砲弾から守りきるには足りない強度しか得られなかったのだ。
「おお、あの辺りですか。集中して狙って下さい。他の皆も同じような部分を狙ってくれていますね」
魔王国側は『傲慢』が万全の状態ではないと知っている。むしろ探るように射線を動かし、見事装甲が薄い場所を探り当てた。そして脆い部分を徹底的に狙って攻撃し続けたのだ。
地上から放たれた砲弾は装甲を貫いて内部に突き刺さると、大小様々な爆発が生じていた。内部にある何らかの機関が破損しているのだろう。『モノマネ一座』のメンバーは確かな手応えを感じていた。
「おっと、アンさんから聞いていたレーザービームですか。ですが、そのくらいで壊れるほどヤワではありませんよ」
『傲慢』もやられっぱなしである訳がない。反撃として『蒼鱗海賊団』の船を炎上させたレーザービームを撃ってきたのだ。
しかしながら、反撃の対策をとっていないはずもない。ただでさえ頑丈な鉄筋コンクリート造のトーチカは様々な薬品でコーティングされているのだ。帆船を焼くことは出来ても、ただでさえ頑丈なのに補強までされているトーチカを破壊するには威力が足りなかった。
「このまま勝てるかもしれない…何て都合の良い話はありませんよね」
自分達だけで『傲慢』を叩き落とせるかもしれない。そんな淡い期待を抱く者が出始めたタイミングで『傲慢』に変化が起きる。角度的にトーチカから狙えない場所が開いたかと思えば、そこからミサイルが発射されたのだ。
王国の街を焼き払ったミサイルよりは遥かに小さいものの、『傲慢』に残された数少ない消耗品の兵器であることは間違いない。それらは誘導されているのか、複雑な軌道を描きながらも正確にトーチカに激突した。
「揺れますね…!長くは保ちませんか!壊れる前に撃ち尽くしましょう!」
ミサイルが直撃したトーチカは壊れなかった。だが、無傷という訳ではない。内部は極大の地震が起きたかのように揺れ、パントマイム達は立っていられないほどだった。
トーチカの内部には亀裂が入り、パラパラとコンクリートの破片が降ってくる。耐えられるとしても良くて二発、悪ければ一発で完全に破壊されそうだ。それが分かっている彼らは急いで射撃を再開した。
しかしながら、一度亀裂が入れば防御力は下がってしまうもの。レーザービームでもトーチカは徐々にダメージを負っていく。普通であれば、この時点で脱出しているだろう。
「残念ながら脱出する気は最初からないのですよ。さてさて、幕引きの一撃と行きましょうか!」
『モノマネ一座』のメンバーは脱出などする気はさらさらない。砲台を操る不死の兵士と共に最期の瞬間まで戦い抜く覚悟は決まっていたのだ。
これ以上は無理だと各自が判断したのはほぼ同時であった。彼らのいるトーチカには一発だけ、特殊な砲弾が用意されている。これは威力は他と比べ物にならないが、発射すると砲台が壊れるというデメリットがある最終兵器だ。それ故に使うのなら崩れる直前と決まっていた。
「ふ、ふふふ。非力な我々にしては良くやった方でしょう。魔王国の同志の皆様、ご武運を。これにて第一幕は終了にござい…」
各トーチカから特殊な砲弾が発射されるのと、『傲慢』から二度目のミサイルが発射されたのも、ほぼ同時であった。砲弾を撃つと同時に砲台の砲身は内側から砕け散り、内部の機関が暴走して漏電する電流がトーチカ内を駆け巡る。その上でミサイルが直撃したこともあり、全てのトーチカは完全に破壊されて沈黙した。
砲台を犠牲にして放たれた砲弾だが、発射と同時に砲身が砕けたせいで狙った場所に飛んでいかなかった。ある砲弾は明後日の方向に飛んでいき、またある砲弾は強固な装甲に当たって防がれる。狙い通りの場所に当たったのはたった一発だけ。それも『傲慢』を破壊するには全く足りていなかった。
かなりの被害が出たものの、王国は『エビタイ』を確保することに成功した。この戦いもまた、王国の勝利と言える。だが想定外の損耗を強いられた王国に対し、魔王国の損害は想定の範囲内でしかない。戦いの趨勢は未だ決まってはいなかった。
次回は6月5日に投稿予定です。




