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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十六章 魔王国防衛戦争
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エビタイの戦い 先手を取ったのは…

 ティンブリカ大陸に近付くに連れ、『傲慢』から大陸に築かれた街の外観が詳細にわかるようになってきた。上空から見下ろした彼らが目視出来たのは一つの港町と、外れにポツンと立つ城、水路の奥に続く大きな街…と思われる影だった。


 港町はかなり新しいものの、作りはしっかりとしている。大型の船舶を複数停泊させることも可能だろう。いくつもの建物が理路整然と並ぶ様子からは、しっかりと都市計画を立てた上で建造されたのが一目瞭然であった。


 その港町からは水路が伸びていて、続く先には間違いなく大きな街があるのだろう。だが、その全容はわからない。何故なら水路の先は不自然なほどに濃い霧に覆われているからだ。


 濃霧を発生させる装置があるのかと思ってしまうほど濃い霧の中に、薄っすらと大きな建造物の影が見えるだけ。それだけにどこか不気味さすら感じていた。


 そして水路で繋がる二つの街から離れた場所には立派な城が立っている。『傲慢』の位置からは入口は見えないものの、城下町があった形跡すらなく細緻な装飾が施された城だけが立っているというのはある意味で何よりも不気味と言えた。


「それで、どうするって?」

「港町は占領するってよ。ブッ壊すよりもぶん取った方が便利ってことだろ」


 これが『傲慢』の上層部の決定であった。港を作ったのがティンブリカ大陸へ入植している者なのか、存在しないとされていた先住民なのかは不明だ。だが、あるモノは利用すれば良い。港町は接収することになった。


 激しく抵抗されるかもしれないが、その前に『傲慢』にいるプレイヤーを派遣して制圧させることになっている。彼らの大多数はレベル100に到達していて、王国の精鋭兵にも匹敵する強さだ。それでいて死亡しても『傲慢』の内部でリスポーンする。何があるかわからない場所に放り込むにはうってつけの人材であった。


「他の二つはどうすんだ?」

「調査してから使えそうならブン取る。抵抗するくらいなら消し飛ばす…だってよ」


 施設を一から作るのは時間、労力、材料、そしてそれらを揃えるための資金が必要になる。だが、仮に強力な戦士団を抱えていたり堅固な城壁に守られていたりした場合、港町の奪還のために攻めてきたり入植する者達に危害を加えたりする可能性があった。


 よって上層部は港町は必ず再利用するが、その他の施設は厄介なら消し炭にすることに決めた。略奪する旨味よりも、確実に入植を成功させることを選んだのである。


 この話をしていたのは二人共兵士なのだが、『消し飛ばす』という言葉を述べた方は皮肉げに片方の口角を上げ、もう片方は苛立たしげに舌打ちする。彼らは消し飛ばすという言葉で王国の都市を思い出さずにはいられなかったのだ。


 あの虐殺や先ほどの味方ごと敵を撃った被害者に二人の親類縁者は巻き込まれてはいない。だが、王国の民は自分の同胞であり、深く傷付いている仲間の兵士を目の当たりにしている。これで平然としていられる者がいるとすれば、人の心を持たない冷血な者だけだろう。


「ヒデェ話だ。もし降伏の使者なんかが来たらどうするんだ?」

「問答無用だとさ。潰して、奪う。認めるのは無条件降伏だけだとよ」

「…もっとヒデェ話だった」


 仮に降伏すると言ってきたとしても、王国はそれを受け入れる気はさらさらなかった。無条件降伏をして頭を垂れる以外に認めるつもりはない。とても『傲慢』極まりない外交姿勢であった。


 これは兵士達も感じていることだが、王国の上層部は非常に傍若無人になっている。『傲慢』という現在の文明では太刀打ち出来ない究極の兵器を手にしたことで気が大きくなっているのだ。


 王国が圧倒的な性能を誇る古代兵器を手にした時、王国の誰もが『傲慢』になった。これは兵士達も身に覚えがあることである。世界最強の軍事力を得た王国の未来は明るい。他の国など何するものぞ、と。


 だが、その兵器が身内に対して使われたことで一気に醒めた。『傲慢』は王家の持ち物だが、同時に大部分の国民も同じ、いやそれよりも遥かに下回る価値しかないと思い知らされたからだ。


「…なぁ、俺達も使い潰されるのか?」

「…そう、なるだろうな。否定する材料がない」


 兵士であるからと言って、『傲慢』の上層部にとって価値はほとんどないらしい。それはつい先ほど、味方の戦艦ごと敵を撃ったことからも明らかだ。


 王国は必要とあらば、いやその方が少しでも楽だと判断すれば自分達を平然と切り捨てる。仮に上官がそんなことはないと熱弁を振るったとしても、自分を含めた全員が信じられないだろう。


 港町をプレイヤーに任せるという発表を聞いて最も安心したのは兵士達だ。港町はなるべく無傷で手に入れたいと言ってはいるが、いつ翻意するかわかったものではない。上から撃たれるかもしれないとビクビクしながら制圧するのは勘弁してもらいたかった。


 しかしながら、いつか使い潰されるかもしれない。その不安を常に抱え続けることになる状況に、全ての兵士が強いストレスと怒りを抱いていた。


「あの話、受けるか」

「ああ。俺はそうするつもりだ」


 兵士達の間で祖国、というよりも『傲慢』を運用している王太子達上層部への信頼は地の底へ落ちた。それに反比例するように、王太子達への謀反の計画を持ち掛けてきたプレイヤーの話に乗る兵士が増加している。


 その人数はプレイヤークランは自分達の計画が成功することを確信するほどだった。自分達の足元が揺らいでいることに『傲慢』の上層部は気付いていない。ティンブリカ大陸への遠征はどう転んでも王太子の思い描く未来図通りには行かないだろう。


 『傲慢』の至る所で兵士達が謀反の計画に加わろうとしている中で、一部のプレイヤー達は慌ただしく準備に奔走していた。港町は広いが、全てのプレイヤーを動員するほどではない。そこでプレイヤーの一部のみを派遣することになったのである。


 未知の大陸に築かれた謎の港町の調査は正式なクエストとして発布されており、多くのプレイヤーが参加を希望した。だが人数制限があったことで、依頼主側によって誰が行くのかを選ばれることになったのだ。


「こーんな大きい空飛ぶ要塞を使ってるのに、報酬を値切るなんてケチよねぇ」

「調査の時に得られたアイテムは懐に入れていい、っていうのが条件だから仕方ないだろ」

「それにしたって額が低いわ。アイテムがなかったら割に合わないもの!」


 調査クエストに選ばれた者達だったが、彼らは彼らで不満を抱えている。というのもクエストの報酬を相場より安く設定されたからだ。


 その代わりに港町で得たアイテムは自分のモノにしても良いという条件だったものの、仮に港町に何もなかったら安い賃金で働かされただけになってしまう。不満を持たずにいられる訳がなかった。


 最初からそう説明されていれば、引き受けなかった者もいるだろう。だがクエストを受注する土壇場になって一方的にそう告げられたのである。断ればこれからの新大陸での活動がし辛くなることを臭わされて渋々受けるしかなかったのだ。


 言葉を選ばずに言うなら、彼らは貧乏くじを引かされたことになる。彼らは港町に多くのアイテムがあることを祈るばかりであった。


「そう怒るなって。ハメられた感はあるけど、役得もあるじゃん」

「そうそう。何たって強襲揚陸浮遊艇に乗れるんだからさ」

「何よりも、誰よりも早くネズミやらハエやらがいる場所から出られるし」

「あー、言えてる」


 『傲慢』に搭載されていた兵器には使えるモノと使えないモノがある。そのほとんどは修理不可能だったのだが、新品のパーツが残っている場合があった。それらを組み立てれば、新品の古代兵器を作ることが出来るのだ。


 生産ラインが修復不可能な損傷を受けていることもあり、今あるパーツを組み合わせることしか出来なかったものの、いくつかの兵器に関しては動かすことが出来るようになっていた。その一つが彼らの言う強襲揚陸浮遊艇である。


 強襲揚陸浮遊艇は『傲慢』から兵士を乗せて一気に地上まで降下し、地上を制圧するための円錐型の高速艇だ。地面に突き刺さるように射出し、一気に多数の兵士を展開するというのが本来の使い方であった。


 しかしながら、残ったパーツで動かせるようにしただけなので当時よりも速度は遅く、浮遊機関の出力も低いので自力で浮遊して帰投することは出来ない。強度も低いので地面に突き刺すように発射すれば事故車両のように潰れてしまうだろう。


 その結果、ゆっくりと降下して慎重に着陸することを求められるようになってしまった。これでは奇妙な形状の浮遊船でしかないではないか。


 プレイヤー達は本来の性能を発揮出来ない代物だと知らされておらず、無邪気に初めて古代の技術で作られた船艇に乗れることを喜んでいる。真実を知るのは彼らが投下された時であろう。


 強襲揚陸浮遊艇は速度を出すために無駄を削ぎ落とした設計になっていて、搭乗員を乗せる場所はとても狭く座席も小さい。プレイヤー達はギチギチに詰め込まれ、大柄な者は非常に窮屈な思いをすることになった。


『全員、搭乗したな?十秒後に投下するぞ。十、九…』


 強襲揚陸浮遊艇にプレイヤー達が全員乗り込んだところで、館内放送で投下のカウントダウンが始まった。プレイヤー達は座っている座席の固定バーを握り締める。カウントが零になった所で、強襲揚陸浮遊艇は降下された。


 ここから一気に加速する、とプレイヤー達は思っていたのだが、フワフワとゆっくり降下していく。ジェットコースターのような圧迫感に備えていたのに、実際はエレベーターの浮遊感しかない。プレイヤー達は困惑や落胆の表情を浮かべていた。


「どわぁっ!?」

「ゆ、揺れて!?」


 ゆっくりと降下するだけの強襲揚陸浮遊艇にガッカリしていたプレイヤー達だが、そんなことを言ってられない状況になる。いきなり強襲揚陸浮遊艇が大きく揺れたかと思えば、自分達の真下が爆発してしまったのである。


 強襲揚陸浮遊艇はバラバラに砕け散り、空中に放り出されたプレイヤー達は見た。それまでは地上の港町を囲むように出現した頑丈そうなトーチカと、そこから覗く砲口が自分達の方を向いていることを。

 次回は6月1日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 閉所恐怖症量産機の七面鳥撃ちだぜ
[良い点] 強襲揚陸浮遊艇。強襲なのにそんなゆっくり落ちてたらただの的よw RPGからいきなりのFPSへジャンル変更w。 さぁ、戦争の始まりだ! [一言] 上層部はホント傲慢を得て傲慢な思想の暴走が止…
[一言] ファンタジーRPGをやりに来たのにFPSに巻き込まれた感じになってるからなーw
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