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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十五章 迎撃準備
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王の死の背景

 ログインしました。ミツヒ子達が徹底的に調査した結果、リヒテスブルク王の崩御が確認された。どうやらかなりの無茶を行ったらしい。『ノンフィクション』のメンバーが数人死亡してしまうほど強引な手を使ったようだ。


 だが、確認が取れたのはかなり大きい。暴走する王太子を止められる者がいないことが判明したからだ。王太子の側近には様々な人物がいるが、イエスマンかあることないこと吹き込む佞臣ばかりであるというのである。


 どうやら国王、いや先王は健康に不安などはなかったらしい。それ故に馬鹿息子はこれから厳しく教育し、取り巻きの連中は徐々に遠ざける。そんな予定だったのかもしれない。


「しかし、健康に不安がなかったのに急死とは。こっちにも裏があったりしてな」

「…」

「おい、何だその間は。まさか疑わしい部分があるのか?」

「実は、王宮の侍女と使用人が一人ずつ王の死と前後して行方不明になっています。足取りを追ったのですが、恐らくは既に国外に逃亡していることしかわかりませんでした」

「王宮は逃亡に気付かなかったのか?」

「双方ともに十年以上勤勉に仕えていたらしく、外での仕事を任されることも多かったようです。使用人が外の仕事で逃走の手筈を整え、侍女が毒を盛った…それがことの真相だとか」


 おいおいおいおい、私達の知らないところで暗殺事件まで起きていたのか!?暗殺者は何時でもことを起こせるように準備しつつ、本来の主人からの指令を待っていたのだろう。


 どうしてこのタイミングで命令したのか。反乱の機運が高まっていることを王宮よりも素早く察知していたのは間違いない。王宮よりも王国の民草について敏感な集団…恐らくは国家が裏にいるのだ。


「目的は何だ?王国を混乱させるため、というのは間違いないのだろうが…」

「追いきれず、申し訳ありません」

「謝ることじゃない。むしろ、王の死を確定させてくれたことに礼を言いたい。ありがとう」


 犯人のバックボーンを調べ切れなかったことをミツヒ子は悔やんでいるが、彼女らに無理ならば誰にも追えない。文句を言うどころか感謝してもしきれなかった。


「本来は今頃動き出していたんだろう。ただ、王太子の突拍子もない行動で出鼻を挫かれた…そんなところか」

「恐らくはそうだと思われます」


 王は暗殺され、国内は反乱が勃発している。そんな状態であれば強国と言えども隙だらけ。そこを攻撃しようとしたのだが、王太子は古代兵器を躊躇なく発射してみせた。きっと何かしようとしていた国家は慌てて攻撃を中止したことだろう。古代兵器の矛先を向けられては溜まったものではないからだ。


 ただ、そこまで準備を整えていた国家がこのまま引き下がるかどうかは半々だろう。これほどまで入念な仕込みを行っておいて何もしないとは思えないのが半分、ここまで我慢したのだから再び耐えることも苦ではないと思うのが半分だ。


「古代兵器を動かした時、真っ先にアクションを起こした者が犯人だ、というのは安直か?それか何かがあると知っていたかのように動いた森人(エルフ)の国家か」

「慎重な相手ですから予測はつきません。イザームさんが暗殺を指示した立場ならどうしますか?」


 ミツヒ子は唐突に私に尋ねた。いきなり言われてもパッと答えが出てくる類の質問ではないぞ。じっくりと考えてみるか。


「私か?そうだな…順序立てて考えてみよう。まず、後手に回るのは悪手でしかない」

「暗殺という先手を取ったのが無駄になるから、ですね」

「ああ。やったからには、自分達が国王を暗殺をしたとバレる前に行動を起こしたい。ミツヒ子達とは違って王国は人目をはばからず根掘り葉掘り調べられる。下手人の正体が判明する可能性は時間が経つほどに高まっていく」

「なるほど。それはその通りです」


 ミツヒ子達の調査能力は疑うべくもない。しかしながら、何にもとらわれず自由に調べられる王国の調査機関の方が有利なのは事実である。ミツヒ子達では不可能な部分を調べられるからだ。


 そして暗殺者のバックボーンが判明した場合、王国は報復攻撃を行うのは間違いない。何と言っても国王を殺されているのだ。王国の威信にかけて必ず叩き潰す。何もしなければ腰抜けと侮られるだろう。


「王国は宣戦布告と同時に例のミサイルらしき兵器で先制攻撃、という流れになると最悪だ。そうなる前に行動を起こすのだろうが…古代兵器という切り札を持つ王国に勝つのは難しい」

「おっしゃる通りです」

「単独で挑むのが無謀であるなら、多方面から包囲出来る状況を作りたいと考えるのが自然な流れだろう」

「信長包囲網のような?」

「そうだ。私なら周辺諸国に王国の危険性を説く。王国の目は包囲している国々全てに向けられる。暗殺云々は有耶無耶になるかもしれんぞ」


 単独で敵わないのなら、複数で戦うまで。王国のやったことは『ノンフィクション』によって世界中に広まっている。今や王国を脅威だと危険視しない国など存在しないだろう。対王国の同盟を結ぶことは難しくない。ある意味、私達の行動は暗殺を指示した国にとって援護になったのかもしれないな。


 何にせよ、『傲慢』が動くことはしばらくなさそうだ。少なくとも、今すぐに動かすのは王国にとってあり得ない。『傲慢』という重石がなくなったら何が起きるのかわからないからだ。


「その流れは…失礼。メンバーから連絡が…はぁ!?」

「…何があった?」

「お、王国からプレイヤーに向けて正式な布告があったようです。その内容は『新大陸の開拓』…つまり、ここに来るつもりのようです!」

「…………何の冗談だ?」


 こっちに来る?今の状況で?正気か?プレイヤーを大量に雇って海路から人海戦術で向かうつもりか?いくら何でもそれは無謀だ。その条件で受けるプレイヤーはほとんどいないぞ。


「開拓には古代兵器も同行させる、とのことです」

「王国は何を考えている?『傲慢』を動かすなど、攻めて下さいと言っているようなモノだぞ。王太子は残るのだろうが…」

「それが…総指揮官は王太子とのこと。『傲慢』と共にここに乗り込むつもりのようです」


 いやいやいや、何でそうなる?ここに来る?何で?国の防衛を最優先する時ではないのか?『傲慢』を動かせば隙をさらすだけだと…まさか、そう言うことなのか?


「…王太子はどうして攻める気になったんだ?」

「側近からの助言だそうです。古代兵器さえあれば新大陸に入植することは容易い。それを己の手柄にするには王太子自ら総指揮官という立場に立つ他にない、と」

「暗殺者とその側近に繋がりがあるとしたら、どうだ?」

「それは…」

「国王亡き今、王太子が王国の頂点だ。『傲慢』と共に王国から遠ざければ、王国の動きはどうしても鈍くなる。新大陸に夢中になっている間に王国に攻め込むのかもしれん」


 王太子は女好きというイメージはあったが、父親同様に自己顕示欲も強いらしい。そこを刺激して『傲慢』と本人を王国から遠ざける。最大の脅威が消えれば暗殺させた国は動き出すはずだ。


 私達の存在を知らない以上、王国は海賊さえどうにか出来ればティンブリカ大陸の開拓は容易だと考えているのも『傲慢』を出撃させることに繋がっているのかもしれない。ただ、そう考えると開拓させる者達を残して『傲慢』はとんぼ返りするのでは…ああ、そうか。


「側近が暗殺者と繋がっていたという私の推測が妄想でなければ、王太子はこの遠征で謀殺される可能性がある。そうすれば王国はさらに混乱するぞ」

「王国から離れた場所であれば調査も難しい。敵に通じている側近がいるので証拠も消し易い、と。あり得ることではありますね」

「何にせよ、私達は貧乏くじを引かされたらしい。『傲慢』と大勢のプレイヤーが攻め寄せてくるんだからな。フフフ、ハハハハハ!」


 十年も前から暗殺者を忍び込ませ、協力者を側近に入り込ませている。王国への敵意は本物だ。私の推測が正しければ、ドサクサに紛れて王太子も消されるだろう。


 その陰謀の舞台としてティンブリカ大陸が選ばれたらしい。見ず知らずの者による策謀によって、ティンブリカ大陸と魔王国が戦火に見舞われることになったのは事実だ。


 結局、私達は『傲慢』との戦いを強いられることになった。策謀を巡らせる者達は王国を混乱させることが目的なのだろうから、入植が上手くいくかどうかはどうでも良い。失敗した方が都合が良いくらいに考えているのではなかろうか。


 だが、連中を迎え撃つ私達からたまったものではない。勝利しても得るものが少なく、敗北すれば全てを失うのだから。ここまで来るともう笑うしかない状況であった。


「フゥー…さて、『傲慢』が飛んでくるとなれば私達も忙しくなる。各地にいる協力者に連絡をとらなければ」

「魔王国の各クランのリーダーに現状について連絡しました。皆様からは承知したという返答が届いております」


 ミツヒ子はまるで秘書のように全員へ連絡してくれていたようだ。プレイヤーに掛けた募集の期間はリアルタイムで十日間。その翌日に出発するとのことだった。


 ゲーム内時間だと四十日なので準備期間としては十分なのだろう。その間に迎撃体制を整えておかなければならない。忙しくなるが…十日後かぁ。


「十日後って何曜日だ?」

「木曜日かと」

「ド平日じゃないか…」


 その日だけは必ずログインしておかなければならないのに、どうして平日なんだ。有給を取らなければならないのかもしれない。私と同じことを考えたらしいミツヒ子は全く同時に重苦しい溜め息を吐くのだった。

 次回は5月12日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
リアル事情が絡むのがゲームの困るところですよね 有給取れると良いのですけど
[気になる点] 最悪は傲慢を奪われることだよなぁ
[一言] ここにきてジゴロウがもらってたタイトルが気になるな。ステゴロで竜神に勝った者(判定勝ち)とかなら近接バフついて傲慢に乗り込めば有利?
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