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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十五章 迎撃準備
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王国の暴挙

 ログインしました。今日は緊急で魔王国の主だった者達が集まっている。いや、アンだけは海上を警戒するべく船の上にいたか。


 ともかく、緊急で収集した原因は王国における反乱に対して王国が取った行動によるものだ。集まっている者達も最低限の情報は知っているのだが、その顔は誰も彼も険しい。いつも明るいタマですら機嫌が悪そうな顔になっていた。


「悪い、遅れた」

「集まったか。では早速始めよう。皆ももう知っているかも知れないが、詳しい話を共有しておきたい。ミツヒ子、頼む」

「承りました。反乱に乗じてプレイヤークランに乗っ取られた街ですが、ご存知の通り地図上から消えました」


 ミツヒ子が淡々と事実を述べただけなのだが、王宮の会議室はシンと静まり返っていた。そう、プレイヤーが領主として名乗りを上げたあの街のことだ。そこが丸ごと消滅してしまったのである。


 街は占拠され、森人(エルフ)の国からやってきた軍船が入港したという。軍船には確実に兵士が乗っており、彼らが支配を強固なものにする…はずだったのだろう。


 しかしながら、王国は思いも寄らぬ方法で解決してみせた。それが占拠された街そのものを消し飛ばすという力技だったのだ。


 残ったのは街の倍ほどの広さのクレーターだけ。海沿いにあったこともあり、今はそのクレーターに海水が入って新たな入江と化している。事件直後らしき湯気が立ち込める海水に満たされた人工入江のスクリーンショットは掲示板によって瞬く間に広まっていた。


「やっぱり古代兵器を使ったの?」

「そのようです。こちらをどうぞ。要塞の近くに張り込んでいるメンバーが撮影したモノです」


 そう言ってミツヒ子が私達に一斉送信したメッセージに添付されていたのは、要塞がある辺りから何かが飛び出しているスクリーンショットだった。高速ということもあって細長い何か、ということしかわからなかったが。


 決めつけるのは問題だが、恐らくはミサイルかそれに準じる兵器を発射したのだろう。抵抗すら許されず、空から飛来した兵器によって街ごと全て灰燼に帰せしめる。私達の想像の埒外を行く、最速最短の解決方法だった。それは素直に認めよう。


「一つ、大前提を聞かせていただきてぇんですがね。街は民間人が残ってたんでござんすね?」

「はい。反乱勢力は駆逐されたようですが、その代わりにプレイヤークランと森人(エルフ)の兵士達が入っただけ。一般の住民はほとんど全員が残っておりました。街があっても人がいなければ意味はありませんから」


 問題は吹き飛ばされた街には王国の国民がまだまだ大勢残っていたことだ。街を焼き払う兵器を受けて住人が生き残ると思う方が間違っている。レベル100のプレイヤーすら全員漏れなく消し飛んだのだから、住民に生き残りがいるはずもなかった。


 つまり、王国は自ら街ごと自国民を虐殺したことになる。私であれば追い詰められたとしてもこんな手を使えるかどうかはわからない。必要とあらば街を捨てるが、住民に犠牲を強いるとなれば抵抗感が一気に増すからだ。


 ただ、この状況になったとしたら真っ先に敵による攻撃だと声高に叫んだことだろう。そうして自国民を虐殺したという悪名を被ることなく、自分達は被害者だと主張も出来る。そして国内の不満を全て外に向けるのだ。逆に言えばこれ意外の方法では人民の信用を失ってしまうのである。


「で、それをやった張本人は堂々と功績を誇っているのね?」

「はい。王国内、全ての貴族家に王太子の名で通達があったそうです」


 その内容を要約すると『王太子が新たな領主を僭称する風来者とそれに与する外国の兵を一掃した』というモノ。自分の犯行だと自供して……いや、ママの言う通り自分の功績だと自慢しているのだろう。


 この声明を受けた貴族家の反応はそれぞれ異なっている。恐怖に慄く者もいれば、フェイクニュースなのではないかと裏取りを命じる者もいる。一部の貴族家には何を考えているのかと王家に詰問する気骨のある者達もいた。


 ただ、王太子は平然と言い返したという。逆らうのならお前達の領地にも同じものを落としても良いのだぞ、と。信じがたいことに抗議した貴族家を逆に脅したのである。


 これが平時であれば貴族達が手を結んで反乱を起こしていたかもしれない。だが、今は違う。ただでさえティンブリカ大陸を開拓しようとして失敗し、多くの貴族家が力を落としているのだ。


 しかも国内で反乱が起きていて、そこの領主は自領の対応に追われている。起きていない街も起きないように目を光らせる必要があった。自分達も反逆する、という余裕はないのである。


 加えて王太子は『傲慢』の力を見せ付けた。自国の民を焼き払うことを躊躇しない、という残虐性を隠そうともせずに。今の状況でその脅しに屈することなく抗議し続けられる者などいるはずもなく、彼らは沈黙する他になかった。


「反乱勢力を反乱軍にしようとしていた商人共はあてが外れちまったな」

「アレを知って反乱し続けようと言える者はおるまいよ」


 この残虐行為にも良い面があった。それは反乱勢力の意気を完全に挫くことに成功したことである。生活の改善のために立ち上がったのに、故郷や家族ごと消し飛ばされては元も子もない。全ての街で反乱勢力が降伏することを決めた。


 ただし王国は、と言うより王太子は反乱勢力を許すつもりはないという。各地の反乱勢力の主だった者達は全員処刑し、関わった者達にも厳罰を下すと言い出したのだ。


「罰則にプレイヤーとNPCの区別はないそうです。逃げられる者達は一斉に逃げ出したようですね」

「商人連中は高い勉強代を支払うことになったな」


 反乱に関わった、という言葉の範囲には武器やポーション類の売買も含まれている。つまり商人プレイヤーにも累が及ぶのだ。罰の内容は資産の没収などであり、それを根こそぎ奪われたら再起は難しいだろう。


 ということもあって商人達は一目散に逃げ出そうとしたのだが、これに便乗したのが同じく厳罰を恐れる反乱勢力だった。お前達だけで逃げるのは許さないと詰め寄られたことで、彼らもつれて逃げる他に選択肢がなくなったのだ。


 関わったプレイヤーの大半が陸運を中心に行っていたこともあり、ルクスレシア大陸にある他国へ逃げるしかない。そうしたら王国の拠点は失う他にないだろう。結果的に彼らは大損することになったようだ。


 商人を捕まえられなかった者達の行く末は三通りに分かれた。一つは大人しく出頭する者達。これを選んだ者達はほとんどいない。そもそも王国のせいで蜂起した者達だ。心を折られたとしても死ぬと分かっていて出頭しようという気にはならなかったのだろう。


 二つ目は逃げ出して捕まった者達。彼らは運が悪かったとしか言いようがない。逃げたということもあって刑罰はより厳しいものになるだろう。


 そして三つ目が逃げ切った者達だ。王国にはプレイヤーが探索へ行くフィールドが複数あり、そこの奥深くへと潜られれば捜索は厄介なことになるだろう。そんな危険地帯で生き延びられるのかはわからないが…残党がいるかもしれないというだけで胃が痛い思いをすることになりそうだ。


「うーん、あのさ。一つ質問いい?」

「どうした、タマ?」

「その王太子ってやりたい放題してんじゃん?凄いオモチャが手に入ったから使いたくなるのはわかるし、きっと大はしゃぎしてるんだって思うんだ」

「まさにその通りでござんしょう」

「だな」


 新しいオモチャを手に入れて浮かれている子供。王太子の振る舞いはそう言う他にない。私を含めたこの場の全員が異論はなかった。タマがわからないのはその先なのだろう。私は黙って続きを促した。


「子供が新しいオモチャで遊ぶのはわかるじゃん?でも、そういう時って親がやりすぎないように止めるもんじゃないの?」

「あ…?」

「やったのって王様じゃなくて王太子なんでしょ?じゃあ王様は何してんのさ」


 机の上に顎を乗せて首を傾げるタマに対して確実な答えを持っている者は一人もいなかった。我ながら間抜けな話だが、王太子がやらかしたことのインパクトがあまりにも大き過ぎたせいで王のことが頭から飛んでしまっていたのだ。


 私達の視線はコンラートとミツヒ子に集中する。コンラートは珍しく焦った表情で首を振り、ミツヒ子は仮想ディスプレイを素早く操作して『ノンフィクション』の仲間達に連絡を取っているようだ。


 二人にとっても盲点だったらしい。次から次へと新情報がやって来る上に、調べれば調べるほど嘘だろうと言いたくなることを本当に王太子が行っているのだ。そちらに気を取られたということか。


「…仲間達から連絡が来ました。反乱が起こる数日前から王国内で王の動向についての情報が一切ないそうです。それこそ、不自然な程に」

「そもそも、ここまで大規模な反乱が起こせたこと自体が変だね。王国も無能じゃない。予兆を掴めないはずがないんだ」

「情報網が守勢に回っていた、ということか。そこまでして王国が隠蔽したいこと、そして王太子の暴走を誰も止められなかったこと。これらを繋げられるとするなら…」

「王が崩御した、かな」


 コンラートの言葉に会議室は沈黙に包まれた。もしも私達の推測が正しかったとするなら、王国にとっては最悪のタイミングで王が急死したことになる。王の急死を隠蔽するために王宮が必死になっている間に反乱が勃発した。それでは防げるものも防げないだろうさ。


 そして王が急死したのなら、暴走する王太子を誰も静止出来ないことにも説明がつく。王に頭を押さえ付けられていたボンクラ息子から重石が急になくなったのだ。そりゃ好き放題しようと言うものだろう。


「ミツヒ子、『ノンフィクション』のメンバーには王がどうなったのかについて正確な情報を掴んで欲しい」

「やってみましょう」

「他の皆はいつでも戦えるように準備を整えてくれ。流れは一気に変わった。いつこちらに来てもおかしくないぞ」


 会議室に集まった者達は一様に頷いた。もう少し猶予があると思ったのだが…全く、思い通りには行かないな。

 次回は5月8日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
敵の頭が無能に変わったと思えば、勝ち目が増えたと言えるのでなかろうか
[良い点] >「他の皆はいつでも戦えるように準備を整えてくれ。流れは一気に変わった。いつこちらに来てもおかしくないぞ」 ま、反乱が収まったなら直ぐにでも来るでしょうね。また玩具(傲慢)を使いたいもんな…
[一言] 自分達が傲慢を王国に引き渡したのが切欠で反乱は起きるは街一つ丸ごと国に住民虐殺されるはと、こんな事になってるけど、勇者君NDK?NDK?
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