マキシマ達の夢
ログインしました。今日もまたアルマーデルクス様の下へは行っていない。何故なら別にやることが出来てしまったからだ。
「で、どうしてこうなっているのかはわかっているな?」
私の前で項垂れているのは『マキシマ重工』の面々であった。彼らが何をしたのかと言うと、敷地外での新兵器の実験ということだった。
敷地内で出来ない規模の実験であれば外で行うのも無理からぬことだろう。そこに口を挟むつもりはない。ただ、行ったのは『エビタイ』付近の河川上であり、そこで実験中のモノが大爆発したということだ。
「爆発の余波で魔導ソナーがいくつか故障した。共食い整備でどうにかなるが、これで予備はほぼなくなったそうだな」
「うう…」
「爆発の音に驚いた河の魔物が『エビタイ』に押し寄せた。もう鎮圧したが…モノが結構壊れたらしい」
「うううっ!」
実験なのだからアクシデントは仕方がない。今の情勢から洋上で実験を行うのが難しいというのも理解は出来る。だが、海上防衛網に穴を空けかける事態に発展したのは流石に看過出来ない。反省はしてもらわなければなるまいよ。
「実験するなとは言わん。マキシマ達が魔王国に多大な貢献をしてくれているのも知っている。今回の実験もそれ絡みなんじゃないか?」
「…おう。その通りだ」
「だから小言はここまでにする。次からは気を付けてくれ」
「…面目ねぇ」
「魔導ソナーの修理は最優先してくれよ?それが筋だろう」
「…わかった。悪かったな」
どうやらマキシマ達は深く反省しているようで、雁首揃えて落ち込んでいる。私に怒られたから、という雰囲気ではないな。色々と壊してしまったことを悔やんでいるのだろう。
元々、彼らは好き勝手に実験して周囲に迷惑を掛けた結果、魔王国に逃れてきたという経緯を持つ。そんな彼らが街を破壊したことを謝罪したのだ。魔王国への愛着が強くなっているに違いない。これは良い傾向であった。
「ところで何の実験をしていたんだ?」
「うん?ああ、浮遊船に付ける追加ブースターの実験だ。あれを取り付けりゃ、ブッ飛んだ速度を出せるようになるんだぜ!まあ、ブースター自体がブッ飛んじまったんだが…」
「…それでは最早ブースターではなくミサイルだろうが」
「違いねぇや!ガッハッハ!」
街を壊したことでは落ち込んでいるのに、実験に失敗したことは大して気にしないらしい。一々気にしていてはやってられないだけかもしれないが、技術者はこのくらいのメンタルが必要なのかもな。
「強度を上げりゃ壊れねぇんだが、そうすると重くなって加速度と最高速度が落ちちまう。理想の性能にゃまだ遠いぜ」
「安全性に配慮が足りないパーツはシラツキに付けさせんぞ」
「ハハッ!アイリスの嬢ちゃんにも同じことを言われちまったぜ!」
いくら速度が上がるとしても、飛んでいる最中に爆発するブースターなどお断りである。アイリスだけでなく、誰だろうと同じ結論に至るだろう。
この浮遊船だが、天巨人からは三隻が贈られている。どうやら私達との関係を強化する方向に舵を切った天巨人王ステルギオス殿が天巨人の戦士達に探させたらしいのだ。
当然対価は支払ったのだが、空中を彷徨っていたというだけあってボロボロだ。そして全ての船の形状が異なっている。例えるなら海に浮かぶ捨てられたペットボトルだろう。あれもペットボトルという括りでは同じだが、ラベルや形状が同じだとは限らない。場合によっては国すらも違うだろう。
実際、贈られた浮遊船の内、一隻は規格が違うようだ。『傲慢』などの兵器を使っていたことからもわかるが、古代は浮遊船を製造可能な二つ以上の異なる勢力が争っていたのは間違いない。完全にSFの世界である。
「そうだ、思い出した。実験と言えば鉱人のことは聞いたか?」
「メ、鉱人?連中がどうしたって?」
ふと思い出したから昨日の話について聞いてみようと思っただけなんだが…おい、なんだその反応は。マキシマだけじゃない。『マキシマ重工』の全員が目を逸らしたり顔を強張らせたりしているじゃないか。
こいつら、何か知ってるんじゃないか?十中八九知っていると思いながらも、私は気付いていない体を装って揺さぶりをかけてみることにした。
「何でも、この状況下ではしゃいでいるらしくてな。その態度に疑問を持つ者が出ている。どうしてはしゃげるんだ、とな」
「へ、へぇ〜。そうなのか」
「ああ。鉱人は全体的に少し幼い性格の者が多いだろう?だから気にする必要はないと私は言ったんだが…一部の者が邪推していてな」
「邪推?どういう意味だ?」
「この状況を利用して魔王国に仇なす行動を…」
「んな訳ねぇだろ!」
…はい、確定。邪推以降は真っ赤な嘘だが、こんなに簡単に釣れると逆に心配になってくる。他のメンバーには私にカマをかけられたとわかっていた者が何人もいたようで、彼らは一様に頭を抱えていた。
「知っているんだな?」
「な、何のことだか」
「今更誤魔化せる訳ないっしょ…」
「わかりやす過ぎですよ、社長…」
ことここに至っても誤魔化せると思っているのはマキシマだけだった。『マキシマ重工』のメンバーも呆れたように諦めろと告げていた。
私が黙って見ていると、マキシマはついに観念したのか重いため息を吐く。そして私にだけ聞こえる小声で「後で工場に来い」と告げた。
私は頷きをもって返答とすると、『エビタイ』を壊した件についての説教はもう終わりにする。私はここまでだが、ここからはコンラートとのお話が待っているのだ。憂鬱そうなマキシマを尻目に私は一旦『ノックス』へと帰還した。
今はコンラートが修理の費用などについてマキシマに笑顔で詰め寄っているはずなので、すぐに工場に行っても意味がないだろう。もののついでとばかりに、私は『錬金術研究所』へと足を伸ばした。
「ありゃ?イザームじゃん。どったの?」
「ポーション類を買いに来ただけだ。在庫が心許なくなっていてな」
私も自分用のポーションは常備している。それは仲間達のためでもあるが、同時に自分用でもある。『ノックス』には不死用の回復アイテムも存在しているからだ。
その在庫が少なくなってきたからついでに寄ったのだが、入口付近でボーッとしていたしいたけに出くわした。短い手足が生えた大きなキノコは非常に目立つ。見逃すはずはなかった。
「フッフッフッフッフ!そういうことなら、あれを使うのだ!」
「あれって…自販機か?」
事情を話すと得意げに笑ったしいたけが指差した先にあったのは、毒々しい紫色に金の文字で『錬金術研究所』と書かれた自動販売機だった。商品の名前とボタン、そして下の部分には取り出し口がある。街中でよく見る自動販売機そのものだった。
どうしてそんなモノがあるんだ。私の言いたいことを先回りするようにして、しいたけはしたり顔で語り始めた。
「いやぁ、我々も暇じゃあないんでね。自販機を導入して売買の手間を省こうと思うのだよ」
「…ああ、そうなのか。じゃあ『ノックス』の全域に置くつもりなのか?」
「当然!ま、壊されるのはシャクだから全部終わった後に置くつもりだけど」
「それが良いだろう」
せっかく作ったのに壊されるのは腹が立つ。だから王国の侵略を退けてから設置したい。しいたけ達の考えは合理的だが、勝つことを前提に話している。プレッシャーを感じるというよりも勇気がもらえるスタンスだった。
自販機は無駄に高性能で、ボタンを押すと所有している金を自動的に使用する形になっている。私は必要なアイテムを買い込むと、そろそろ解放されているだろうと踏んで『マキシマ重工』へ足を運んだ。
「よぉ、イザーム…」
「お疲れ様」
私の予想通り、マキシマ達は工場に戻っていた。ただし、彼は随分とぐったりしている。コンラートにこってり絞られたようだ。
日を改めようか、と私が提案する前にマキシマはノロノロと立ち上がる。そして奥の方から金属製のアタッシュケースを持って来た。
「これが鉱人が興奮していた原因か」
「おう。これだ」
アタッシュケースにはボタン式のロックがされていて、マキシマはそれを解除して中身を見せる。そこにあったのは金属製と思われる正二十面体だった。
正二十面体の頂点には金色の小さな球体がついていて、其々の面には複雑な幾何学的模様が刻まれている。確かに精巧な装置だと思われるものの、鉱人を興奮させるほどの品なのか?
「こいつぁ、俺達が作り上げた成果の一つだ」
「というと?」
「対になる椅子に座るとな、魂がこいつに乗り移る。そんでもって、こいつを戦車なんかに放り込めば意思を持つ戦車の出来上がりって寸法よ」
「それはまるで…」
「そうさ。鉱人の戦術殻のシステムに似てんだろ?自分達みてぇのが現れたから喜んでたってこった」
「なるほど…?」
鉱人は魔王国にいる種族の中でも特に特殊と言える。それ故に自分達にそっくりな方法をとる者達が現れたのは確かに嬉しいだろう。喜んでいるのも理解出来るというものだ。
ただ、私は見逃さなかった。納得したように頷いた時、マキシマが安堵するように胸を撫で下ろしたところを。どうやら理由はこの装置だけではないらしい。本当に隠したいことを隠すべく、知られても良いことを教える。良くある手段であった。
まあ、あの時の怒り様からして魔王国にとってマイナスになる行為ではなさそうだ。彼らが何を作ったのか、お披露目の時を楽しみにさせてもらおうか。
次回は4月26日に投稿予定です。




