『エビタイ』の使い方
ログインしました。今日もアルマーデルクス様に鍛錬をつけてもらうつもりだったのだが、そうもいかない事情が生じた。というのも魔導ソナーにステルス船が引っかかったという知らせを受けたのである。
ただし、私が到着した時には全て終わっていた。ステルス船の接近はある意味で『エビタイ』の防衛兵器の試運転となったらしい。流石は古代の兵器と言うべきか、命中精度は非常に高い。遠距離から一方的に弾を当てることでステルス船は容易く撃破した。
「ステルス船がまた手に入ったのは僥倖だな」
ステルス船は帆船だったのだが、途中でマストがへし折れたので航行不能になった。そこで『エビタイ』の守備隊は攻撃を中止し、ステルス船を鹵獲しつつ半龍人達を送り出して生き残りを捕縛したのだ。
アグナスレリム様の遺した力で半龍人となった彼らに海中で勝てるはずもない。激しく暴れる者はやむなく討ち取ったようだが、最も偉そうな者と降伏した者達は生きて捕らえたのだ。
ただ、その中には他の全員を囮にして陸地を目指して泳ぐ者が一人だけいたという。それも隠形系の能力を使っていたらしい。まあ、こちらには魔導ソナーがあるので密かに上陸する目論見は事前に防いだのだが。
「生き残りから何か聞き出せたか?」
「はい、王様。秘薬を用いて洗いざらい話させましてございます」
生き残りは何も話さないと息巻いていたようだが、本人の意思など関係なかった。闇森人の使う秘薬には自白剤的なモノもあるらしく、知っていることは全て聞き出せたからだ。
ステルス船は王国の某貴族が所有していたモノだそうだ。どうやら私達に利用されて壊滅した裏稼業の者達を王国に隠れて雇った貴族がいたらしく、その人物が残党とその所有物を回収したそうだ。
そして他の全員を囮にした者は王家に仕える暗部だった。スパイとして潜り込んでおり、ティンブリカ大陸の情報を得るつもりだったそうな。王国は御庭番衆的な者達を抱えていること、それらは中々に優秀なことがわかったな。
これが王国とは異なる第三勢力であったなら非常に面倒くさいことになるところだった。聞き出せる情報は全て抜きとったし、相手は犯罪者にして魔王国を侵略しようとする者の尖兵である。私は大鎌でその首を刎ねて始末した。
「ステルス船一隻程度なら何もさせずに破壊出来るのがわかったのも収穫だ。余裕もあったのだろう?」
「はい。流石は王の作った兵士ですね」
防衛の指揮を執ったのは住民の疵人だったが、実際に兵器を使ったのは私が作った不死傀儡である。不死であれば不眠不休でずっと防衛兵器に張り付けるし、指示に従って狙いを定めて撃つだけの単純作業なら行えるのだ。防衛に用いるのにこれ以上ないほど向いていると言えた。
それに万が一『エビタイ』に攻撃が届く距離にまで接近されたとしても、真っ先に狙われるだろう防衛兵器を使っているのがいくらでも補充が利く使い捨ての不死であれば被害は少ない。少しずつ増えつつあるとは言え、大切な国民が死ぬリスクを極力減らすのは我々の義務なのだ。
「お世辞はいらんよ。前にも言ったが、『エビタイ』は死守する必要のない場所だ。無理だと思ったら後は不死の兵に任せて『ノックス』まで撤退する。徹底しておいてくれ」
「はっ!」
ただし、これほどまでに防備を固めた『エビタイ』だが、必要であれば捨てることも決まっている。ここを守るために全力を尽くすことに戦略的な意味がないからだ。
仮に敵が『エビタイ』を無傷で占拠したとしても、海路は『蒼鱗海賊団』と海巨人達によって封鎖されている。空から攻め込んだとしても、持ち込んだ資源が尽きれば補給が必要となるのは道理。そしてその物資は海からはやって来ないのだ。
私達も海に出られないのだから妨害も息切れすると思うかしれない。だが『蒼鱗海賊団』には生きる海上拠点の回遊海獣がいるし、海巨人に至っては本拠地が海底だ。彼女らが息切れすることはまずないだろう。
海上輸送が出来ないのなら空輸が必要になる。そのために浮遊要塞が去ったなら孤立した者達を叩いて奪い返せば良い。そのためにも『エビタイ』のために必要以上のリソースを割きたくはないのだ
『エビタイ』を失いたくはないが、魔王国の防衛という観点では難攻不落の要塞に出来ない現状では無理をして守っても意味がない。ならば少しでも敵を消耗させるために使う。実質的な『エビタイ』の太守であるコンラートの決断であった。
コンラートにとっては大損になるのだが、彼は魔王国全体のために決断してくれた。一方で大損をさせるであろう王国への報復のために動き出している。経済面で打撃を与えるつもりなのだろうが…仮に私達に勝利したとしても王国は大変なことになりそうだ。
「それと『ノックス』への財産の移動はどうなっている?」
「順調に進んでおります」
『エビタイ』から撤退することを前提として動いているので、ここの財産を一時的に別の場所へ移す必要があった。この作業も順調に進んでおり、『エビタイ』で最も価値があるのは防衛兵器かもしれなかった。
ヒヤリとさせられたが、密かに接近しようという目論見も崩すことが出来た。アン達にも事の顛末についてメッセージを送っておこう。そして必要とあらば魔導ソナーを提供するのもいい。彼女らなら上手く使いこなすだろう。
「送信、と。おっ、モッさんからか。ふむふむ…随分と楽しんでいるようだ」
コンラートに頼んでリヒテスブルク王国に潜入しやモッさん達だが、精力的に行動しているようだ。彼ら半年夜な夜な街の人々に王国への不信感と敵意を植え付けているのである。
日中は『ノンフィクション』が各地で取材をする時に使う隠れ家に潜み、夜になると街の近くに接近して工作を行う。夢に干渉する範囲は街全体を覆い尽くすほどなのだが、バレる気配すらないらしい。どうも侵入もせず、物理的に何かを傷付けることもないと気付かれないようだ。
それにやっていることは好感度の操作に過ぎない。洗脳と言うほど拘束力もない。別にモッさん達の意のままに操られる人形にされる訳ではない。ただ、可能な限り多くの人々が王国へ敵意が向けるように仕組んでいるだけなのだ。
彼らの行動は地味ながら確実に効果が出ている。コンラートやミツヒ子からの情報によれば、王国内で一般市民と官吏の衝突が増えているらしい。衝突と言っても武力衝突ではない。口喧嘩が主であり、暴力沙汰になったのはごく僅かだとか。だが、そんな事例が王国中で増えているのは確かなようだった。
興味深いことに、衝突が増えている街はモッさん達がまだ手を出していないところも含まれているらしい。むしろ暴力沙汰にまで発展したのはモッさん達が手を出していない街だけだとか。普通なら逆ではないか。
この逆転現象は元から王国への不満が相当に溜まっていたことの現れであろう。モッさん達の行為がなかったとしても起きたことなのだ。放っておいても大規模な反乱が発生した可能性は大いにあった。
ならモッさん達は無駄な労力を浪費しているのか、と言えばそんなことはない。彼らは背中を押しているのだ。誰かに勧められるのと自分一人だけの考えで踏み出すのとではハードルが異なる。起きたかもしれない反乱が、近い内にほぼ間違いなく起きることには大きな隔たりがあるのだ。
「積極的に武器を売りさばくか?いや、危険過ぎるし目をつけられても面倒か」
私の中の邪悪な部分が反乱勢力へ積極的に介入しようとささやくが、冷静な部分がそれは危険だとキツく忠告する。王国での商売となるとコンラートに頼らざるを得ず、彼に危ない橋を渡ることを強要してはならない。彼は部下ではなく、友人であり協力者だ。それを忘れて無理難題を押し付けて見放されるのは
内部の情勢を不安定にさせる。今はそれで満足するべきだ。欲張ってはろくなことにならん。肝に銘じておかなければ。
「他に何か気になることはあるか?」
「そう言えば最近鉱人達が妙に機嫌が良いんです。他の者達がどうしても殺気立っていることもあって、皆不思議がっていますね」
「鉱人が?そうか…」
本拠地である『メペの街』が戦場になることはまずないとは言え、現状が決して楽観視出来ないことは彼らもわかっている。完全敗北を喫した最悪の場合、地下通路で『ノックス』と直通しているのだから。
ただ、同時に鉱人は子供のような幼い言動が多い種族でもある。何か良いことがあった、というだけの可能性も十分にあった。
「あまり深刻に捉える必要はないが、不審な行動をとっていたら報告してくれ」
「はっ!」
とりあえず、ステルス船に関する処置はこれで良いだろう。それにしても『ノックス』の近海にまで敵対勢力が来るほど近付かれるとは…やはり侵略に来る日は近い。それを嫌でも感じるのだった。
次回は4月22日に投稿予定です。




